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[Theme 02]2年生編

34

「帰りのホームルームで体育祭の種目決めるから、考えといてくださいねー」

担任の声を聴きながら、手元のプリントに視線を落とす。

「今年ははるかちゃんと勝負できないね」

いつの間にか隣に座っていた千景が囁いた。

「そう言われると、リベンジできないことが悔やまれるね…“いつでも顔出して”って言われたの、発動させてもらおうかな?」
「ええ、ここで?はるかちゃんって意外と負けず嫌いだよね」
「部活対抗がなくても、今年もその…はるかは、走り専門か?」

後ろの席の拓真も加わった。
3年生になってからは、すっかりこの面子で話すことが日常になった。

「ふふ。拓真、まだ照れてんの?」
「別に無理して呼ばなくても…」
「いや…無理はしていない。機会があるなら有難く、という思いではある」
「ふーん?」

次の授業は少人数で席も自由なので、千景はこのまま授業開始を待つようだ。
よく見るとちゃっかり教科書やペンケースも持ってきている。

そんな千景と、拓真の顔を改めて眺めて、はるかはおもむろに拳を握った。

「体育祭の頃にはもう、二人ともより一層大きくなって、帰ってきてるんだね」

まだそこにはないはずの事実を、噛み締めるように口にするはるかに二人は目を見合わせた。
そしてすぐに、笑顔を返す。

「僕らの一番の応援隊長がそう言ってくれるなら、そうなんだろうね?」
「期待に応えられるよう、全力を尽くすつもりだ」

しっかりと頷いた二人に、はるかは胸を震わせた。

「こんにゃろ…こうなりゃテメーらを踏み台にして、全国放送で大暴れしてやる!」

振り返ると、隣のクラスの杏里が、教科書を片手に仁王立ちしていた。

「日本で一番美しい“仕事人”を轟かせてやるわ!渚ちゃんが!」
「杏里ちゃんも頑張って!」
「あはは。長い夏にする予定だから、よろしくね」
「おいそこ、何おはるの隣陣取ってんの?はいはい一個下がる!」

ハエでも追い払うかのように手を振る杏里に肩をすくめ、千景が席を立つ。
はるかはそれを眺めて、こっそり笑っていた。

「まったく、どういつもこいつも好き勝手言うんだから!」
「“どいつもこいつも”?」
「そうだよ!おたくの日坂少年、今年から応援歌変えろとか言ってきたんですけど!?」
「え?そうなの?」

こうも騒いでいると暑いのか、杏里はパタパタと教科書で顔を扇ぎながら続けた。

「しかも全然レパートリーにないやつでさ。渚ちゃんまで、“僕が応援歌っぽくアレンジして譜面起します!”って言うからしぶしぶオーケーしたけど!」
「そっか。それはなんか、ごめん…?」
「…まあ、あんなマジな顔で言われたら断れないよ。何か特別な意味があるんだろうし。応援なんていりません、みたいな顔してたヤツがうちらにそこまで求めてくるんなら、やってやろうじゃんって思うしね!」
「…ふふ。そっかあ」
「そういうことは、本来であれば俺から話を通すところだ。悪い、秋山。よろしく頼む」
「あ、そうなの?まあそのへんはよくわからんけど、結果出さねーと許さねーぞ!連帯責任な!」

びし、と音が付きそうなほどに指を突き立てて叫ぶ杏里の表情は、なんだかんだ楽しそうに見えて、はるかはまた笑った。



“アレンジ、一応できたけどこんなかんじで大丈夫?”

放課後、瑛のスマホに表示されたメッセージ。
そのすぐあとに、音声ファイルが連なった。

メッセージの主は同じ教室にいるが、声をかけてこないのはこれから練習に向かう瑛への配慮だろう。

「…文谷」
「おわっ!日坂君!」
「わざわざありがと。後で一応聴くけど、ケチつけることはないと思うわ」
「いやいや!大事な場面で聴いてもらうものだから、イメージぴったりにしなきゃ!気になることはなんでも言ってね!」
「…わかった。吹部も忙しいのに、悪い」

そう言うと渚は、なぜだか嬉しそうに微笑んだ。

「日坂君、変わったよね」
「え?」
「ああいや、いきなり知ったような口きいてごめん…でも、こんなふうに頼ってくれることも、今こうして声かけてくれてることも、嬉しくてさ」
「…自分の都合で無理言ってるだけなのに、か?」
「バーカ、社交的になったって言ってんだよ!」

正也までもがそう言って、瑛の足を蹴り上げた。

「いってーな…」
「お前、マジで鎖国にも程があるからな。月城先輩も心配してただろーが」
「え。何それ、あれってそんな話だったの?」
「あーでも、後輩には絶賛鎖国継続中だな…まったくお前は甘えん坊将軍だからなあ」
「あはは、ずいぶんかわいい将軍だね」
「うるせーな…じゃあもう練習行くから。聴いたら連絡する」

爽やかに手を振る渚に見送られ、日直の正也は置き去りにし、瑛は教室を出た。
ポケットからイヤホンを取り出し、スマートフォンに繋ぐ。
窓から差す西日に目を細めながら、画面に浮かぶ再生ボタンに触れた。


打ち込みのブラスバンドの音が耳に流れ込んでくる。
特徴的なリフと、疾走感のある展開。
一音一音に溢れる、エネルギーと高揚感。


「ねえ杏里ちゃん。ちなみに瑛くんがお願いしてきた曲って、なに?」
「ああなんか、もともとジャズの曲で…」


──その…つい耳に入っちゃって


「え、うそ…」


──ジャズポリス。かっこいいですよね


「…いや、やっぱケチつけるとこねーわ」

小さく呟きながら頷いて、瑛はグラウンドに辿り着くまでその音源をリピートしていた。
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