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[Theme 01]1年生編

20

詰めの甘さ。
それは最後の最後で勝負を決めるポイントだったりする。
凡事徹底、当たり前のことを当たり前にやれる人間だけが高みに昇るという話のは、スポーツマンなら誰もが一度は指導されることだ。

「あれ?瑛くん。杏里ちゃんが1年生のとこに行くって言ってたけど…」

教室でのほほんと教科書を広げていたはるかの腕をとり、有無を言わさず連れ出した。
体育祭の日、熱中症になりかけていたはるかを連れて訪れた旧館の理科室。
今日は空調は入っていないが、夏ではないので問題ないだろう。

瑛が手近な椅子に腰を下ろすと、はるかも続いた。
手に持ったままだったらしい教科書が机の上に置かれる。

しかしよく見るとそこには教科名ではなく“月刊ハリアーズ”の文字が踊り、その下でははるかの推し選手がガッツポーズでこちらを向いていた。

「お前テスト前に何やってんだよ」
「えっ、今年のキャンプの様子はいかがかなと…」
「いいご身分だなおい…」

やれやれと首を振り、はるかを見遣る。
はるかが瑛に続いて腰を下ろしたのはすぐ隣の椅子で、膝がつきそうなほどに近い。
自然にこの距離を選んでくれたことに照れる半面、無知とは怖いものだとも思う。

「…あのさ。こないだ、いろいろ話したじゃん。その…お互いの気持ちとか」
「えっ、うん」
「その結果、俺たちは今付き合ってると思ってたんだけど…もしかして違う?」
「え…っ!」
「マジか」

初耳とばかりに真っ赤に茹で上がった顔に、眩暈がした。

「…てっきり、それはまた別の話かと…」
「彼女って言っていいって話だったじゃん」
「それは、あえて説明が必要になった時の対外的な呼称かと…」
「…」

凡事、徹底。
その言葉を胸に刻み、瑛は息を吸った。

「確かにあの話をしたのは付き合うためってわけじゃない。自分の腹の内も語らず、はるかの気持ちも考えず…勝手なことばっかしてたから。ちゃんと伝えようとしたらああなった」
「…うん」
「でも、結果としてお互い同じ気持ちってことなら、俺ははるかと付き合いたい」
「…つ、つきあう…」
「そう」

ぐっと腰を屈めて、唇が触れそうな距離で目と目を合わせる。

「誰よりも近くにいて、キスとか、それ以上のこととか、したい」

ぴくり、と肩が揺れた。

ひたすら恥ずかしそうだったはるかの表情に、躊躇が混じった。

「あの…」

言いにくそうに紡がれるはるかの次の言葉に、不安が募る。


「それはいいんだけど、どこで…?」


一体何が飛び込んでくるんだろうと思ったら、とんでもない暴れ球だった。

「“どこで”って…?」
「だって、ダメだよ!?学校とか、寮とか、絶対…!うちもおじいちゃんおばあちゃんのお家だし…」
「…」
「つ、付き合ってるのに、そういうことができないのって、その…男の子は、つらいものじゃ、ないのかなって…」

真っ赤な顔で一体何を言っているんだこの子は。

「…あのなあ。別に今すぐって話じゃねえし、その辺は考えるから!」
「かんがえる…!?」
「とりあえず、その権利だけまずはくださいってこと」
「けんり…」

瑛の言葉を繰り返すはるかの声は、もはやうわ言のようだ。

「それに、キスだのなんだの以前に、こういうこととか」
「わ、」

はるかの意識を繋ぎ留めるように、指と指を絡ませる。

「そもそもこんな近くにいていいのも、俺だけ。はるかだけ。そういう約束がしたいわけ」
「な、るほど…!」

はるかの頭上に電球が見えた、気がした。

「…で、返事は?」
「あ、えと…よろしくお願いします…?」
「ん。よろしく」

どっと安堵がなだれ込んできて、はるかを抱き寄せた。
ところが何やらとんとんと胸を叩かれてしまう。

「なんだよ」
「ここ、学校…!」
「誰も見てねえし、これくらいなら今までもあったろ」
「だ、だって…」

一体今度は何なんだ、と相変わらず真っ赤な顔を見た。

「い、意識しちゃうよ…いろいろと…」

これには瑛も返り討ちを喰らった。

「はー…なるべく早く考えよ」
「!?」

赤い顔がうつってしまったのに気付かれないよう、もう一度ぎゅっと腕に力を入れた。
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