8.いざ政府へ
こんのすけにより伝えられた政府での話し合いの日。護衛は二振りまで、と言われたため、短刀一振り、打刀一振りを選ぶことにした。この護衛を決めるのがこれまた大変だったのだが。
「ここは初期刀の俺でしょ!」
「いいや、手入れをしてもらったオレだろ」
「主の護衛はこの俺だ!」
盛り上がる打刀たちを尻目に、短刀たちは冷静に話し合いをしている。
「護衛ならば、練度が高い刀がいいでしょう」
「じゃあぼくかさよですね」
「僕もそれがいいと思う」
(……見た目と話し合いの様子が逆だ……)
言葉にはしないが、正直心の中で思ってしまったのは許して欲しい。三日月に抱えられながら、その様子を眺めていると、上から声がかけられた。
「なに、主に選んでもらえばよいではないか。なあ、主?」
「わたしが?」
「ああ」
男士はぐるんと首を回して、一気に私に視線が集中する。(特に打刀たちの視線が熱い。)え、えー、どうしよう。誰でも嬉しいんだけど……。
「うーん……」
わくわくそわそわとしたみんなの視線が突き刺さる。でも、そうだな。
「かしゅうと、いまつるちゃんにする」
初期刀の加州、それからこの世界で初めて私を見つけてくれた今剣。私の審神者人生をかけた政府への護衛は、この二振りにする。
「任せて!」
「わーい!」
加州も今剣も嬉しそうに返事をする。悔しそうにする男士もいたけれど、受け入れてくれたようで良かった。よし、と改めて気合を入れる。
「ぜったい、みとめてもらわないと!」
ふんすと力こぶを作って(ぽよぽよの腕で作れていないが)、刻一刻と迫る約束の時間を迎えるのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
政府に向かうには、このゲートを通っていくらしい。
目の前にある薄暗いゲートを、まじまじと見つめる。薙刀や槍のみんなでも屈まないで通れそうなくらいに大きなゲートだ。これぞファンタジー、という思いと、得体のしれないものに対する不安が同時に押し寄せる。右手に今剣、左手に加州の手を掴んで、そっと二振りを見上げた。
「一緒に行くからね」
「だいじょうぶですよ!」
二振りの言葉にこくりと頷いて、そっと一歩を踏み出した。大丈夫、みんながいる。
本丸のみんなが見守るなか、ゲートは私たちをゆっくりと飲み込んだ。
視界が一瞬歪んだと思ったら、気が付いた時には本丸の外だった。目の前に大きな建物が見える。あれが政府の建物なのだろう。きゅっと目に力を入れて、背筋を伸ばす。私たちに付いてきていたこんのすけが先頭を行くのに従って、政府へと進んでいった。
私の足では時間がかかってしまうが、二振りとも気にせずに歩調を合わせてくれる。トコトコと歩いた先には、なんとなく役所を連想させる様な入り口が見えてきた。ここが受付なのであろう場所で、加州に抱き上げてもらって受付のお姉さんと話す。
「せいふのひととやくそくしてきました」
「本丸名とID言えますか?」
「ええと……」
「主、俺が言うね」
加州に助けてもらって受付を済ませ、整理番号の紙をもらって待機所でしばし待つ。子供が来ることは少ないのか少し注目を集めているような気もする。男士から構いたそうな視線をもらいつつ、呼ばれるまで大人しくイスに座っていた。
「あ、ぼくたちのばんごうですね」
「よし、いこう!」
思いのほかすぐに呼ばれ、奥の部屋に通される。こういうときの政府は真っ黒で腹黒いと相場が決まってるんだ……覚悟を決めなきゃ……。緊張しながら、部屋の扉の前で一つ深呼吸。
「しつれいします」
中に入れば、机を挟んで向こう側に二人の男性が座っている。私の姿を見て、ぎょっとしたように目を丸くした。
「本当に幼い……」
聞こえてますよ。とりあえず置かれていた椅子に座らせてもらって、いざ、話し合いの場である。
「えー、こんのすけより聞いたところによると、そちらの本丸の審神者の生まれ変わりという幼女が発見された、ということですが」
「はい、こんのすけにもかくにんしてもらいました」
そう答えるとスーツを着た男性は何やら話し込んでしまう。
「これって審神者法的にどうなの」
「審神者法自体は大丈夫ですが、そもそもの労働法がですね」
た、確かに-! 審神者が公務員のような職なら法律関係も絡んでくるか……。思ったよりもまともに考えてくれてる感じがする! なんかちょっとごめんなさい。書類とにらめっこしながら頭を抱えていた男性が顔を上げて、加州と今剣を見る。
「刀剣男士様のご意見はどうですか?」
「俺らは主と一緒がいい、これは本丸の総意」
「あるじさまはあるじさまです!」
そう答えたのを聞くと、一人の男性が書類片手に部屋を後にした。加州と今剣と顔を見合わせる。ど、どうなるんだろう。しばらくして男性が戻ってくると、難しい顔をしながら席に座った。
「えー、条件付きで可、といったところでしょうか」
「じょうけん?」
「はい」
男性は眉間に皺を寄せながら説明を続ける。
「正直、あなたのような子供が本丸を運営することは前例がありません。しかし精神が大人であり、運営に必要な手入れ等も可能であると報告を受けています」
こんのすけがしっかり仕事をしてくれていて良かった。話を頷きながら聞いていく。
「ですので、刀剣男士様のご意向もあり、特例として本丸就任を認めます」
「!」
その言葉を聞いて、加州と今剣と、パアアと目を輝かせる。みんなと一緒にいられる! いや待て、条件は? 条件って何?
「それで条件ですが」
ごくりと喉を鳴らす。一体何を言われるのか。
「あなたの元の体、とでも言いましょうか。『竜胆』様の死亡はこちらでも確認しました。そのため、『竜胆』様として本丸を運営することは手続き上できません」
「……」
本当に自分は一度死んでしまったんだ、という思いを飲み込んで、続きを促す。今は感傷に浸っている場合ではないのだ。
「ですので新たに審神者名を決め、引継ぎという形式で本丸を運営していただきます」
「そ、それだけでいいんですか!?」
思ったよりも政府が優しい! あれかな、加州と今剣が言ったことが大きいのかな? 様付けしてるし、ちゃんと神様として敬ってるのかも。
嬉しくて両隣の二人の手を握る。これでみんなと一緒だ! 二人が私の顔を覗き込んでにっこりと笑う。
「あるじさまはおなまえがかわってもあるじさまです!」
「そうそう、一緒にいられるならそれでいいよね」
本当に、本当に良かった。あまりにも都合よくことが運んだので拍子抜けしながら、二振りと一緒に笑い合うのであった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「さっきの審神者さん、帰りました?」
「ああ」
椅子に深く腰掛けて、書類の束を掴む。前例のない、審神者の生まれ変わりという報告をこんのすけから受けたときはどうしたものかと頭を抱えたものだった。
「よく申請通りましたね」
役所仕事だと前例のないことは嫌がられる。しかし今回の決定は優しさというよりも……。
「あれだ、神様の怒りを買いたくないってことだな」
そこそこ戦力の揃っている本丸を、ほかの審神者に継がせて戦力としたい案も出た。しかし神たる刀剣男士の怒りは買いたくない。ならば何かあったらその時に他の者に継がせればいい、それまではその子供に本丸をやらせよう。と、そういうことである。
「それにな、」
転生するということは簡単なことではない。それこそ神の力が必要なくらいに。現に、霊力に詳しい職員からは「その子供にはナニカの加護がついている」と聞いていた。転生したのも、そのナニカが気まぐれを起こしたのかもしれない。こんのすけからも要望の通りにしたほうがいいと意見が出ていた。
男は書類を横目に、ふうと大きなため息をついた。
「触らぬ神に祟りなし、ってな」
「ここは初期刀の俺でしょ!」
「いいや、手入れをしてもらったオレだろ」
「主の護衛はこの俺だ!」
盛り上がる打刀たちを尻目に、短刀たちは冷静に話し合いをしている。
「護衛ならば、練度が高い刀がいいでしょう」
「じゃあぼくかさよですね」
「僕もそれがいいと思う」
(……見た目と話し合いの様子が逆だ……)
言葉にはしないが、正直心の中で思ってしまったのは許して欲しい。三日月に抱えられながら、その様子を眺めていると、上から声がかけられた。
「なに、主に選んでもらえばよいではないか。なあ、主?」
「わたしが?」
「ああ」
男士はぐるんと首を回して、一気に私に視線が集中する。(特に打刀たちの視線が熱い。)え、えー、どうしよう。誰でも嬉しいんだけど……。
「うーん……」
わくわくそわそわとしたみんなの視線が突き刺さる。でも、そうだな。
「かしゅうと、いまつるちゃんにする」
初期刀の加州、それからこの世界で初めて私を見つけてくれた今剣。私の審神者人生をかけた政府への護衛は、この二振りにする。
「任せて!」
「わーい!」
加州も今剣も嬉しそうに返事をする。悔しそうにする男士もいたけれど、受け入れてくれたようで良かった。よし、と改めて気合を入れる。
「ぜったい、みとめてもらわないと!」
ふんすと力こぶを作って(ぽよぽよの腕で作れていないが)、刻一刻と迫る約束の時間を迎えるのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
政府に向かうには、このゲートを通っていくらしい。
目の前にある薄暗いゲートを、まじまじと見つめる。薙刀や槍のみんなでも屈まないで通れそうなくらいに大きなゲートだ。これぞファンタジー、という思いと、得体のしれないものに対する不安が同時に押し寄せる。右手に今剣、左手に加州の手を掴んで、そっと二振りを見上げた。
「一緒に行くからね」
「だいじょうぶですよ!」
二振りの言葉にこくりと頷いて、そっと一歩を踏み出した。大丈夫、みんながいる。
本丸のみんなが見守るなか、ゲートは私たちをゆっくりと飲み込んだ。
視界が一瞬歪んだと思ったら、気が付いた時には本丸の外だった。目の前に大きな建物が見える。あれが政府の建物なのだろう。きゅっと目に力を入れて、背筋を伸ばす。私たちに付いてきていたこんのすけが先頭を行くのに従って、政府へと進んでいった。
私の足では時間がかかってしまうが、二振りとも気にせずに歩調を合わせてくれる。トコトコと歩いた先には、なんとなく役所を連想させる様な入り口が見えてきた。ここが受付なのであろう場所で、加州に抱き上げてもらって受付のお姉さんと話す。
「せいふのひととやくそくしてきました」
「本丸名とID言えますか?」
「ええと……」
「主、俺が言うね」
加州に助けてもらって受付を済ませ、整理番号の紙をもらって待機所でしばし待つ。子供が来ることは少ないのか少し注目を集めているような気もする。男士から構いたそうな視線をもらいつつ、呼ばれるまで大人しくイスに座っていた。
「あ、ぼくたちのばんごうですね」
「よし、いこう!」
思いのほかすぐに呼ばれ、奥の部屋に通される。こういうときの政府は真っ黒で腹黒いと相場が決まってるんだ……覚悟を決めなきゃ……。緊張しながら、部屋の扉の前で一つ深呼吸。
「しつれいします」
中に入れば、机を挟んで向こう側に二人の男性が座っている。私の姿を見て、ぎょっとしたように目を丸くした。
「本当に幼い……」
聞こえてますよ。とりあえず置かれていた椅子に座らせてもらって、いざ、話し合いの場である。
「えー、こんのすけより聞いたところによると、そちらの本丸の審神者の生まれ変わりという幼女が発見された、ということですが」
「はい、こんのすけにもかくにんしてもらいました」
そう答えるとスーツを着た男性は何やら話し込んでしまう。
「これって審神者法的にどうなの」
「審神者法自体は大丈夫ですが、そもそもの労働法がですね」
た、確かに-! 審神者が公務員のような職なら法律関係も絡んでくるか……。思ったよりもまともに考えてくれてる感じがする! なんかちょっとごめんなさい。書類とにらめっこしながら頭を抱えていた男性が顔を上げて、加州と今剣を見る。
「刀剣男士様のご意見はどうですか?」
「俺らは主と一緒がいい、これは本丸の総意」
「あるじさまはあるじさまです!」
そう答えたのを聞くと、一人の男性が書類片手に部屋を後にした。加州と今剣と顔を見合わせる。ど、どうなるんだろう。しばらくして男性が戻ってくると、難しい顔をしながら席に座った。
「えー、条件付きで可、といったところでしょうか」
「じょうけん?」
「はい」
男性は眉間に皺を寄せながら説明を続ける。
「正直、あなたのような子供が本丸を運営することは前例がありません。しかし精神が大人であり、運営に必要な手入れ等も可能であると報告を受けています」
こんのすけがしっかり仕事をしてくれていて良かった。話を頷きながら聞いていく。
「ですので、刀剣男士様のご意向もあり、特例として本丸就任を認めます」
「!」
その言葉を聞いて、加州と今剣と、パアアと目を輝かせる。みんなと一緒にいられる! いや待て、条件は? 条件って何?
「それで条件ですが」
ごくりと喉を鳴らす。一体何を言われるのか。
「あなたの元の体、とでも言いましょうか。『竜胆』様の死亡はこちらでも確認しました。そのため、『竜胆』様として本丸を運営することは手続き上できません」
「……」
本当に自分は一度死んでしまったんだ、という思いを飲み込んで、続きを促す。今は感傷に浸っている場合ではないのだ。
「ですので新たに審神者名を決め、引継ぎという形式で本丸を運営していただきます」
「そ、それだけでいいんですか!?」
思ったよりも政府が優しい! あれかな、加州と今剣が言ったことが大きいのかな? 様付けしてるし、ちゃんと神様として敬ってるのかも。
嬉しくて両隣の二人の手を握る。これでみんなと一緒だ! 二人が私の顔を覗き込んでにっこりと笑う。
「あるじさまはおなまえがかわってもあるじさまです!」
「そうそう、一緒にいられるならそれでいいよね」
本当に、本当に良かった。あまりにも都合よくことが運んだので拍子抜けしながら、二振りと一緒に笑い合うのであった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「さっきの審神者さん、帰りました?」
「ああ」
椅子に深く腰掛けて、書類の束を掴む。前例のない、審神者の生まれ変わりという報告をこんのすけから受けたときはどうしたものかと頭を抱えたものだった。
「よく申請通りましたね」
役所仕事だと前例のないことは嫌がられる。しかし今回の決定は優しさというよりも……。
「あれだ、神様の怒りを買いたくないってことだな」
そこそこ戦力の揃っている本丸を、ほかの審神者に継がせて戦力としたい案も出た。しかし神たる刀剣男士の怒りは買いたくない。ならば何かあったらその時に他の者に継がせればいい、それまではその子供に本丸をやらせよう。と、そういうことである。
「それにな、」
転生するということは簡単なことではない。それこそ神の力が必要なくらいに。現に、霊力に詳しい職員からは「その子供にはナニカの加護がついている」と聞いていた。転生したのも、そのナニカが気まぐれを起こしたのかもしれない。こんのすけからも要望の通りにしたほうがいいと意見が出ていた。
男は書類を横目に、ふうと大きなため息をついた。
「触らぬ神に祟りなし、ってな」