6.答え合わせ
こんなに都合がいいことがあっていいんだろうか。
加州が私を主と呼んでいる。
どうして急に、なんで分かったの。聞きたいことはたくさんあった。それでも震える口からこぼれたのは。
「かしゅう」
ただ、愛しい初期刀の名前を呼んだ。ぽろぽろと頬に熱い涙が伝っている。しかし加州には伝わった。整った顔を歪めて私の手を掴む。
「あ、主」
「かしゅう……わたしの、かしゅう」
「あ、主……!!」
加州はがばりと私に抱き着いた。大きい。この体ではすっぽりと完全に包まれてしまう。加州の腕の中でぐす、と鼻を鳴らせば上からぽたりと水が降ってくる。
「ないてるの?」
「だって、主……! 主に会えた……! もう、会えないのかもって、捨てられたのかもって、 思って……! でも、信じてて、良かった……!」
どれだけ不安にさせていたのだろう。加州の頬に流れる涙をそっと拭った。ああ、こんなにも。
「きれい」
泣きながら笑う加州を、とても美しいと思った。
そうして二人で抱き合っていると、外からバタバタと音が聞こえてくる。空いた扉から、他の刀剣たちが顔を出している。加州の後を追ってきたようだ。
「ちょ、加州ってば」
「急にどうしたんだ?」
泣きながら抱きしめ合う私たちを見て困惑した表情の大和守に長曽祢。その二人に向かって加州は迷いなく告げた。
「主だよ。この姫が、主なんだよ」
「え? 何言ってるの?」
「血縁ってわけじゃなくてか?」
みんなの言葉に加州は首を振る。私のことをぎゅうと抱きしめたまま、もう離さないと体で伝えながら。
「この霊力は間違いなく主だよ。俺には分かる」
「こんなに小さい子が主なのはちょっと無理がない……? だって何年も僕らの主だったじゃない」
「……ふむ」
奥からトコトコと石切丸さんがやってきて、状況を把握するように周りを見ている。考え込むように隣にいる青江と何かを話し込んでいた。
「そうだねえ、あり得ると思うよ」
「じゃあそういうことか」
「ん? 何か分かったのか?」
長曽祢さんが問いかければ、二人はこくりと頷いた。
「初期刀である加州が、主の霊力というのであればそうなんだろう。その子は、主の生まれ変わりなのかもしれない」
「え!? でも、それだと……」
一斉にみんなの視線が私に集中する。加州も私のことをじっと見つめていた。私は何から説明したらいいのか分からなくて口ごもる。
「主が急に姿を現さなくなった。……もしそれが、命を落としてしまったのだとしたら。そしてこの子の体に生まれ変わったのであれば、同じ霊力というのはあり得ると思うよ」
「そんな、そんなこと……」
「まあただの予想だよ。もし、その子に記憶があるのなら分かったかもしれないけれどね」
男士たちの会話を聞いて、打ち明けるのなら今しかないと思った。私があなたたちの主なのだと。しかし一瞬躊躇してしまう。私が一度死んでいることを告げて、ショックを与えないだろうか。なんて説明をすればよいのだろう。ぐるぐると混乱した頭がパンクしそうだ。
開きかけた口をぐっと硬く噤んだ時、ぽんと背中を叩かれた。加州と目が合う。ああ。
ああ、そうだ。みんななら、私の愛したみんななら、受け止めてくれる。相変わらず回らない舌を動かして、ゆっくりと私は語りだした。
「……わたしは、わたしが、『りんどう』です」
体が弱く、ずっと入院しながら審神者をしていたこと。ある日苦しくなって記憶が途切れた後、この体になっていたこと。夢だと思っていたこと。たどたどしく告げて、最後に一番大切なこと。
「みんなにあえて、うれしい。わたしの、だいじなかぞく」
この世界に、一人きりだと思っていた。私の刀たちに出会えて、どれほど嬉しかったのか。これだけはどうしても伝えたかった。
この話を、信じてくれるのか。恐る恐るみんなのことを見上げる。不安は一瞬。視界に映った皆のその顔は、驚きと喜びに満ちていた。
「主、主なんだね……!」
「ほ、ほんとうなのか……!?」
「体が弱い、って今は大丈夫なのかい?」
「みんなにも伝えないと!」
バタバタと慌ただしく動き出すみんなを見て、ほっと胸をなでおろす。信じて、くれた。でも、どうして? その疑問が顔に出ていたのだろう。加州が私の頬を撫でてくれる。
「主、俺らのことを前からずっと家族って言ってくれてたでしょ? さっきの聞いて、やっぱり主なんだって思ったよ」
「かしゅう……」
「おかえり、主」
視界がにじんでくるのを見なかったことにして、飛び切りの笑顔で。
「ただいま! みんな!」
これは幼女になった私が、本丸のみんなと家族になる物語。
その一ページが、ここから始まる。
蝉の声がどこかで響いていた。夏が、始まったばかりの朝だった。
加州が私を主と呼んでいる。
どうして急に、なんで分かったの。聞きたいことはたくさんあった。それでも震える口からこぼれたのは。
「かしゅう」
ただ、愛しい初期刀の名前を呼んだ。ぽろぽろと頬に熱い涙が伝っている。しかし加州には伝わった。整った顔を歪めて私の手を掴む。
「あ、主」
「かしゅう……わたしの、かしゅう」
「あ、主……!!」
加州はがばりと私に抱き着いた。大きい。この体ではすっぽりと完全に包まれてしまう。加州の腕の中でぐす、と鼻を鳴らせば上からぽたりと水が降ってくる。
「ないてるの?」
「だって、主……! 主に会えた……! もう、会えないのかもって、捨てられたのかもって、 思って……! でも、信じてて、良かった……!」
どれだけ不安にさせていたのだろう。加州の頬に流れる涙をそっと拭った。ああ、こんなにも。
「きれい」
泣きながら笑う加州を、とても美しいと思った。
そうして二人で抱き合っていると、外からバタバタと音が聞こえてくる。空いた扉から、他の刀剣たちが顔を出している。加州の後を追ってきたようだ。
「ちょ、加州ってば」
「急にどうしたんだ?」
泣きながら抱きしめ合う私たちを見て困惑した表情の大和守に長曽祢。その二人に向かって加州は迷いなく告げた。
「主だよ。この姫が、主なんだよ」
「え? 何言ってるの?」
「血縁ってわけじゃなくてか?」
みんなの言葉に加州は首を振る。私のことをぎゅうと抱きしめたまま、もう離さないと体で伝えながら。
「この霊力は間違いなく主だよ。俺には分かる」
「こんなに小さい子が主なのはちょっと無理がない……? だって何年も僕らの主だったじゃない」
「……ふむ」
奥からトコトコと石切丸さんがやってきて、状況を把握するように周りを見ている。考え込むように隣にいる青江と何かを話し込んでいた。
「そうだねえ、あり得ると思うよ」
「じゃあそういうことか」
「ん? 何か分かったのか?」
長曽祢さんが問いかければ、二人はこくりと頷いた。
「初期刀である加州が、主の霊力というのであればそうなんだろう。その子は、主の生まれ変わりなのかもしれない」
「え!? でも、それだと……」
一斉にみんなの視線が私に集中する。加州も私のことをじっと見つめていた。私は何から説明したらいいのか分からなくて口ごもる。
「主が急に姿を現さなくなった。……もしそれが、命を落としてしまったのだとしたら。そしてこの子の体に生まれ変わったのであれば、同じ霊力というのはあり得ると思うよ」
「そんな、そんなこと……」
「まあただの予想だよ。もし、その子に記憶があるのなら分かったかもしれないけれどね」
男士たちの会話を聞いて、打ち明けるのなら今しかないと思った。私があなたたちの主なのだと。しかし一瞬躊躇してしまう。私が一度死んでいることを告げて、ショックを与えないだろうか。なんて説明をすればよいのだろう。ぐるぐると混乱した頭がパンクしそうだ。
開きかけた口をぐっと硬く噤んだ時、ぽんと背中を叩かれた。加州と目が合う。ああ。
ああ、そうだ。みんななら、私の愛したみんななら、受け止めてくれる。相変わらず回らない舌を動かして、ゆっくりと私は語りだした。
「……わたしは、わたしが、『りんどう』です」
体が弱く、ずっと入院しながら審神者をしていたこと。ある日苦しくなって記憶が途切れた後、この体になっていたこと。夢だと思っていたこと。たどたどしく告げて、最後に一番大切なこと。
「みんなにあえて、うれしい。わたしの、だいじなかぞく」
この世界に、一人きりだと思っていた。私の刀たちに出会えて、どれほど嬉しかったのか。これだけはどうしても伝えたかった。
この話を、信じてくれるのか。恐る恐るみんなのことを見上げる。不安は一瞬。視界に映った皆のその顔は、驚きと喜びに満ちていた。
「主、主なんだね……!」
「ほ、ほんとうなのか……!?」
「体が弱い、って今は大丈夫なのかい?」
「みんなにも伝えないと!」
バタバタと慌ただしく動き出すみんなを見て、ほっと胸をなでおろす。信じて、くれた。でも、どうして? その疑問が顔に出ていたのだろう。加州が私の頬を撫でてくれる。
「主、俺らのことを前からずっと家族って言ってくれてたでしょ? さっきの聞いて、やっぱり主なんだって思ったよ」
「かしゅう……」
「おかえり、主」
視界がにじんでくるのを見なかったことにして、飛び切りの笑顔で。
「ただいま! みんな!」
これは幼女になった私が、本丸のみんなと家族になる物語。
その一ページが、ここから始まる。
蝉の声がどこかで響いていた。夏が、始まったばかりの朝だった。