5.期待と不安
この本丸が、私の知っている、私の本丸かもしれない。
期待で胸がいっぱいになる。
「あ、あの……!」
「ん? どうしたの?」
「あ……」
でも、証拠なんて、何もない。私が名乗ったところで、信じてもらえないかもしれない。
そう思ったら、言葉が出なかった。
「や、やっぱり、なんでも、ない」
「そう? あ、おねむかな?」
こくりと頷いて、私用にあてがわれた部屋に連れて行ってもらう。布団まで敷いてくれた加州にお礼を言って、ひとり、ぽふんと布団に寝ころんだ。
みんなに会えた。私の愛したみんながここにいる。思わず涙が浮かんで、視界がにじんだ。何が起こってるのかなんて、難しいことはまったく分からない。ただ、会えた喜びを噛みしめた。
でも。
「でも、いえない……」
せっかく会えたのに。こんなに嬉しいのに。信じてもらえなかった時のことを考えると、怖い。もし名乗って、それでも信じてもらえなかったら。そしたら、もうこの温かい居場所からも弾かれてしまうかもしれない。あんなに会いたかったのに、また一人ぼっちになるのは……怖かった。
だけど、まだみんなは私を待ってくれている。どうしたらいいのだろう。
考えたいことはまだ山ほどあるのに、布団に横になったとたん、眠気が襲ってくる。重い瞼は眠気に逆らえず、意識はゆっくりと沈んでいった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
次の朝。
ぱっちりと目が覚めて、まだ見慣れぬ景色にぎょっとする。十数年、ずっと病院の天井だったから、まだまだ新しい天井は見慣れない。
もちもちの小さなおててで布団を畳もうとして、むんずと掴んだものの、持ち上げられなくて諦めた。そういうこともある。
ぽす、と布団に腰かけて、ぼんやりと部屋を見つめた。ほんとうに、どうしよう。
考えをまとめるように、ここまでの出来事を整理する。病院で苦しくなったと思ったら、小屋の中にいて。姿は幼い子供になっていた。それを今剣に保護されて、本丸に移動。そこで霊力もあるからだと思うけど、ここにいてほしいと言われた。
そうしたら、この本丸が、私がプレイしていた本丸かもしれないと分かって。そして今に至る。
「はあ~~~~」
どうしよう、言いたい。言いたいけど、言えない。今も私のことを待ってくれている皆に。私の大好きなみんなに。でも信じてもらえるか、分からない。何か証拠になるようなものがあればいいのに。例えば、審神者証とか。もしくはIDを覚えていれば……。はあと一つため息をついた。無いものを言っても仕方がない。
「どうしたら、いいのかなあ」
何かないのだろうか。例えば、霊力判定機みたいなの。それで私が「竜胆」であると示せればいいのに。
「でもれいりょくなんてわかんないや」
私にもあるみたいなことを石切丸さんが言っていた気がする。霊力って何? なんかこう……手から出てくるのかな……。ひとりでエア団子を作ってみたり、手をかめは〇波の形にしてみたり、こねこねと手遊びをしていた時である。
どたどたどたどた
何やら部屋の外から音がして、どんどんその音は大きくなる。
ガラッ
勢いよく部屋の扉が開けられて、そこにいたのは涙目の加州。
「主!? 主なの!?」
え!? なに!?
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
男士たちは部屋に集まって顔を突き合わせていた。
「石切丸さんが姫に霊力あるって確認してくれたんだよね?」
「うん。まだ使いこなせてはいないようで、隠れていたけれど。それと……」
「それと?」
石切丸は少し考えるように言葉を区切り、しっかりと頷いた。
「あの子の霊力は主にそっくりだ」
「主に……?」
「偶然?」
「に、しては……」
ざわざわとそれぞれが思いを巡らせる。霊力がそっくりということは……。
「主君の血縁、ということでしょうか?」
「その可能性もあるな」
「それなら姫の家族を探せば、主を探せるかもしれない」
審神者の思わぬ手掛かりに、皆が期待に満ちた目をした。数年、姿を消した審神者の貴重な手がかりだ。
「主が姿を見せなくなった時期は、ちょうどあの子が生まれたくらいじゃないか?」
「そうか、主のお子である可能性も……」
加州は周囲から聞こえてくる話を聞きながら、嬉しいような悲しいような複雑な心地だった。自分は主の初期刀だ。ずっとずっと主のことを考えてきた。けれど、どうだ。自分は主のことを何一つ知らないし、知る手段すらない。男なのか、女なのか。結婚しているのか、していないのか。何一つ、知らない。知っているのは、どこからか来る通知と、霊力のみ。ただ、それだけ。
「主……」
主に、会えるかもしれない。その可能性を握る姫。姫はもしかしたら自分よりも主のことを知っているのかもしれない。そう考えて、心の奥底にほの暗い嫉妬が渦巻いた。あんな小さな子に嫉妬だなんて、可愛くない。加州はかぶりを振った。
その時である。
ぶわり、と霊力を感じた。温かくて、染み渡るような、それでいて透き通ったこの霊力。
自分が間違えるはずもない。だって俺は主の初期刀なんだから。
加州は思わず走り出していた。周りの声も聞こえず、まっすぐに昨日姫に案内した部屋に駆け出した。扉をノックすることも忘れて、がらりと扉を開ける。そこには腕を突き出した姿の姫。いや。
「主!? 主なの!?」
そっくりなんかじゃない。俺はこの霊力を知っている。
期待に心がはずむ。
でも、不安に足がすくむ。
答えは、きっとすぐそこに。
期待で胸がいっぱいになる。
「あ、あの……!」
「ん? どうしたの?」
「あ……」
でも、証拠なんて、何もない。私が名乗ったところで、信じてもらえないかもしれない。
そう思ったら、言葉が出なかった。
「や、やっぱり、なんでも、ない」
「そう? あ、おねむかな?」
こくりと頷いて、私用にあてがわれた部屋に連れて行ってもらう。布団まで敷いてくれた加州にお礼を言って、ひとり、ぽふんと布団に寝ころんだ。
みんなに会えた。私の愛したみんながここにいる。思わず涙が浮かんで、視界がにじんだ。何が起こってるのかなんて、難しいことはまったく分からない。ただ、会えた喜びを噛みしめた。
でも。
「でも、いえない……」
せっかく会えたのに。こんなに嬉しいのに。信じてもらえなかった時のことを考えると、怖い。もし名乗って、それでも信じてもらえなかったら。そしたら、もうこの温かい居場所からも弾かれてしまうかもしれない。あんなに会いたかったのに、また一人ぼっちになるのは……怖かった。
だけど、まだみんなは私を待ってくれている。どうしたらいいのだろう。
考えたいことはまだ山ほどあるのに、布団に横になったとたん、眠気が襲ってくる。重い瞼は眠気に逆らえず、意識はゆっくりと沈んでいった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
次の朝。
ぱっちりと目が覚めて、まだ見慣れぬ景色にぎょっとする。十数年、ずっと病院の天井だったから、まだまだ新しい天井は見慣れない。
もちもちの小さなおててで布団を畳もうとして、むんずと掴んだものの、持ち上げられなくて諦めた。そういうこともある。
ぽす、と布団に腰かけて、ぼんやりと部屋を見つめた。ほんとうに、どうしよう。
考えをまとめるように、ここまでの出来事を整理する。病院で苦しくなったと思ったら、小屋の中にいて。姿は幼い子供になっていた。それを今剣に保護されて、本丸に移動。そこで霊力もあるからだと思うけど、ここにいてほしいと言われた。
そうしたら、この本丸が、私がプレイしていた本丸かもしれないと分かって。そして今に至る。
「はあ~~~~」
どうしよう、言いたい。言いたいけど、言えない。今も私のことを待ってくれている皆に。私の大好きなみんなに。でも信じてもらえるか、分からない。何か証拠になるようなものがあればいいのに。例えば、審神者証とか。もしくはIDを覚えていれば……。はあと一つため息をついた。無いものを言っても仕方がない。
「どうしたら、いいのかなあ」
何かないのだろうか。例えば、霊力判定機みたいなの。それで私が「竜胆」であると示せればいいのに。
「でもれいりょくなんてわかんないや」
私にもあるみたいなことを石切丸さんが言っていた気がする。霊力って何? なんかこう……手から出てくるのかな……。ひとりでエア団子を作ってみたり、手をかめは〇波の形にしてみたり、こねこねと手遊びをしていた時である。
どたどたどたどた
何やら部屋の外から音がして、どんどんその音は大きくなる。
ガラッ
勢いよく部屋の扉が開けられて、そこにいたのは涙目の加州。
「主!? 主なの!?」
え!? なに!?
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男士たちは部屋に集まって顔を突き合わせていた。
「石切丸さんが姫に霊力あるって確認してくれたんだよね?」
「うん。まだ使いこなせてはいないようで、隠れていたけれど。それと……」
「それと?」
石切丸は少し考えるように言葉を区切り、しっかりと頷いた。
「あの子の霊力は主にそっくりだ」
「主に……?」
「偶然?」
「に、しては……」
ざわざわとそれぞれが思いを巡らせる。霊力がそっくりということは……。
「主君の血縁、ということでしょうか?」
「その可能性もあるな」
「それなら姫の家族を探せば、主を探せるかもしれない」
審神者の思わぬ手掛かりに、皆が期待に満ちた目をした。数年、姿を消した審神者の貴重な手がかりだ。
「主が姿を見せなくなった時期は、ちょうどあの子が生まれたくらいじゃないか?」
「そうか、主のお子である可能性も……」
加州は周囲から聞こえてくる話を聞きながら、嬉しいような悲しいような複雑な心地だった。自分は主の初期刀だ。ずっとずっと主のことを考えてきた。けれど、どうだ。自分は主のことを何一つ知らないし、知る手段すらない。男なのか、女なのか。結婚しているのか、していないのか。何一つ、知らない。知っているのは、どこからか来る通知と、霊力のみ。ただ、それだけ。
「主……」
主に、会えるかもしれない。その可能性を握る姫。姫はもしかしたら自分よりも主のことを知っているのかもしれない。そう考えて、心の奥底にほの暗い嫉妬が渦巻いた。あんな小さな子に嫉妬だなんて、可愛くない。加州はかぶりを振った。
その時である。
ぶわり、と霊力を感じた。温かくて、染み渡るような、それでいて透き通ったこの霊力。
自分が間違えるはずもない。だって俺は主の初期刀なんだから。
加州は思わず走り出していた。周りの声も聞こえず、まっすぐに昨日姫に案内した部屋に駆け出した。扉をノックすることも忘れて、がらりと扉を開ける。そこには腕を突き出した姿の姫。いや。
「主!? 主なの!?」
そっくりなんかじゃない。俺はこの霊力を知っている。
期待に心がはずむ。
でも、不安に足がすくむ。
答えは、きっとすぐそこに。