4.偶然か、それとも
温かい腕の中で目が覚めた。さんざん泣いて、また寝落ちしてしまったようだった。こんどは毛利の腕の中で眠っていたらしい。見上げると、毛利はそれはそれは優しい表情で微笑んだ。
「起きました? ご飯食べられそうですか?」
お腹は空いている。こくこくと頷くと、私を軽々と抱えたまま歩き出す。隣の部屋に移動すると、男士たちがご飯の用意をして待ってくれていた。
「お、起きたね。ご飯ができてるよ」
席に移動すると、そこには和食の美味しそうなご飯が並べられている。きっと幼い子供用に工夫してくれたのだろう、飾り切りのにんじんや小さく切られたピーマンなどが見える。
スプーンが置いてあって、少しずつ色んな料理が並んだ光景にまた涙ぐみそうになる。あったかい。この刀たちみんなあったかくて、離れられないかもしれない。
「いただきます」
ぷにぷにのおててを合わせて、まずはいただきますの挨拶。横で歌仙さんが満足そうに頷いている。スプーンを持って、柔らかそうなお団子から掬ってみる。落とさないようにそろりそろりと運んで、口いっぱいに頬張った。
「んー!」
おいしい! こんなにおいしいもの、いつぶりに食べたんだろう。ほっぺたを押さえてもぐもぐと味わう。薄味だけど出汁がしっかり効いてて、これはなんだろう? お豆腐? 柔らかくってとってもおいしい!
次はどれを食べよう、どれも美味しそうで迷ってしまう。合間にお米とお味噌汁を口にしながら、夢中になってご飯を食べた。
ほっぺをぱんぱんにして目を輝かせる姿に、何振りかの男士が庇護欲に駆られて藻掻いていたが幼女にはあずかり知らぬことである。
(歌仙)
あのくらいの小さな子どもは、何を食べるんだろう。四苦八苦しながら幼子用に作った食事を、例の子はとても嬉しそうに食べてくれた。いただきますの挨拶も、道具の使い方もきちんとしている。しっかりと教育を受けている印象だが……。
まあ、今は。
難しいことは置いておいて、頬を膨らませて幸せそうに頬張る幼子を見守るとしよう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
お盆の上を綺麗に空にして、ふくふくとお腹をぽっこりさせた幼女を男士が優しく見守る。食後のお茶を飲んでいるときに、すすす、と三日月が近づいてきた。
「うむ、子はよいなあ。ところで姫よ」
「ひめ?」
「そう、おぬしよ。我らと共に暮さないか?」
え、いいの? だって主さんとか……。あ、主さんが大丈夫って言ってくれたのかな。
私がきょとんとしていると、三日月は言葉を続ける。
「この本丸には審神者……人の子がおらぬでなあ。じじいはそれはそれは寂しくしていたんだ」
審神者がいない? なんで、って聞いていいのかな……。でも一緒にいていいって言ってくれたことは素直に嬉しい。
「主……人の子がなあ、毎日顔を出してくれていたのに、急に来なくなってしまった。何があったのか、霊力もどんどん減るばかり。これでは顕現も危うい、というところに姫が来てくれたというわけだ」
「それ、この子に伝わりますかね」
「そうか、まあいい。どうだ、一緒にいてはくれまいか」
主さん、急に来なくなっちゃったって……どうしたんだろう。でも、代わりでもなんでも、一緒にいてくれるのなら。少し考えたけれど、どうしてもこの温かさを手放そうとは思えなかった。
「うん、わたしもいっしょにいたい」
こくりと頷いて、三日月を見上げる。三日月はその美しい顔でふふ、と微笑んだ。
「いい子だ、ありがとう」
私はきっと、その主さんの代わりで、霊力目当てなのかもしれない。それでも、優しくしてくれたことに違いはないから。
ほんの少しの寂しさを飲み込んで、にっこりと微笑んだ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
お腹いっぱい食べた後は、丁寧に歯磨きをして、お風呂に入れてもらって。今は加州に髪を乾かしてもらっているところだ。
この本丸にはけっこうな数の刀剣男士がいる。実装している刀は全振りいるんじゃないだろうか。それだけ長い本丸ということでもあるだろうし、主さんはどこに行ってしまったんだろう。
少しだけ、聞いてみてもいいだろうか。ドライヤーの手を止めた加州に、こっそりと聞いてみる。
「その……あるじさんって……」
「ああ、主ね……」
加州は寂しそうな顔をして、教えてくれた。
実は、審神者の顔を誰も見たことがない。いつも霊力と、指示があるから主がいると信じていた。そして今回、毎日欠かさず来ていた通知がぱたりと来なくなったのだと。
「元気に、してくれてたらいいんだけど」
それは、本当に来なくなっただけなのか。それともその身に何かあったのか。……私みたいに、倒れたりしてないといいんだけど。
私がしょんぼりと肩を落としていると、加州がぽんと頭を撫でてくれる。
「もしかしたら帰ってきてくれるかもしれないし、姫もそんなに落ち込まないで」
「うん……」
心配だろうに、私のことも温かく迎えてくれて、心配してくれて。なんて優しい神さまなんだろう。
「他の審神者にも『竜胆』って名前に聞き覚えがないかとか、色々探してはいるし。いつか会えるよ」
え。いまなんて。
思わず加州を凝視した。
その審神者名は、だって。
「いい名前でしょ、竜胆。花言葉は『勝利』だったかな」
そう、病気に勝てるように。みんなで勝てるように、その名前にしたの。
じゃあ、この本丸は。
あなたは。
「会いたいな、主」
私も、会いたかったよ。加州。
「起きました? ご飯食べられそうですか?」
お腹は空いている。こくこくと頷くと、私を軽々と抱えたまま歩き出す。隣の部屋に移動すると、男士たちがご飯の用意をして待ってくれていた。
「お、起きたね。ご飯ができてるよ」
席に移動すると、そこには和食の美味しそうなご飯が並べられている。きっと幼い子供用に工夫してくれたのだろう、飾り切りのにんじんや小さく切られたピーマンなどが見える。
スプーンが置いてあって、少しずつ色んな料理が並んだ光景にまた涙ぐみそうになる。あったかい。この刀たちみんなあったかくて、離れられないかもしれない。
「いただきます」
ぷにぷにのおててを合わせて、まずはいただきますの挨拶。横で歌仙さんが満足そうに頷いている。スプーンを持って、柔らかそうなお団子から掬ってみる。落とさないようにそろりそろりと運んで、口いっぱいに頬張った。
「んー!」
おいしい! こんなにおいしいもの、いつぶりに食べたんだろう。ほっぺたを押さえてもぐもぐと味わう。薄味だけど出汁がしっかり効いてて、これはなんだろう? お豆腐? 柔らかくってとってもおいしい!
次はどれを食べよう、どれも美味しそうで迷ってしまう。合間にお米とお味噌汁を口にしながら、夢中になってご飯を食べた。
ほっぺをぱんぱんにして目を輝かせる姿に、何振りかの男士が庇護欲に駆られて藻掻いていたが幼女にはあずかり知らぬことである。
(歌仙)
あのくらいの小さな子どもは、何を食べるんだろう。四苦八苦しながら幼子用に作った食事を、例の子はとても嬉しそうに食べてくれた。いただきますの挨拶も、道具の使い方もきちんとしている。しっかりと教育を受けている印象だが……。
まあ、今は。
難しいことは置いておいて、頬を膨らませて幸せそうに頬張る幼子を見守るとしよう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
お盆の上を綺麗に空にして、ふくふくとお腹をぽっこりさせた幼女を男士が優しく見守る。食後のお茶を飲んでいるときに、すすす、と三日月が近づいてきた。
「うむ、子はよいなあ。ところで姫よ」
「ひめ?」
「そう、おぬしよ。我らと共に暮さないか?」
え、いいの? だって主さんとか……。あ、主さんが大丈夫って言ってくれたのかな。
私がきょとんとしていると、三日月は言葉を続ける。
「この本丸には審神者……人の子がおらぬでなあ。じじいはそれはそれは寂しくしていたんだ」
審神者がいない? なんで、って聞いていいのかな……。でも一緒にいていいって言ってくれたことは素直に嬉しい。
「主……人の子がなあ、毎日顔を出してくれていたのに、急に来なくなってしまった。何があったのか、霊力もどんどん減るばかり。これでは顕現も危うい、というところに姫が来てくれたというわけだ」
「それ、この子に伝わりますかね」
「そうか、まあいい。どうだ、一緒にいてはくれまいか」
主さん、急に来なくなっちゃったって……どうしたんだろう。でも、代わりでもなんでも、一緒にいてくれるのなら。少し考えたけれど、どうしてもこの温かさを手放そうとは思えなかった。
「うん、わたしもいっしょにいたい」
こくりと頷いて、三日月を見上げる。三日月はその美しい顔でふふ、と微笑んだ。
「いい子だ、ありがとう」
私はきっと、その主さんの代わりで、霊力目当てなのかもしれない。それでも、優しくしてくれたことに違いはないから。
ほんの少しの寂しさを飲み込んで、にっこりと微笑んだ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
お腹いっぱい食べた後は、丁寧に歯磨きをして、お風呂に入れてもらって。今は加州に髪を乾かしてもらっているところだ。
この本丸にはけっこうな数の刀剣男士がいる。実装している刀は全振りいるんじゃないだろうか。それだけ長い本丸ということでもあるだろうし、主さんはどこに行ってしまったんだろう。
少しだけ、聞いてみてもいいだろうか。ドライヤーの手を止めた加州に、こっそりと聞いてみる。
「その……あるじさんって……」
「ああ、主ね……」
加州は寂しそうな顔をして、教えてくれた。
実は、審神者の顔を誰も見たことがない。いつも霊力と、指示があるから主がいると信じていた。そして今回、毎日欠かさず来ていた通知がぱたりと来なくなったのだと。
「元気に、してくれてたらいいんだけど」
それは、本当に来なくなっただけなのか。それともその身に何かあったのか。……私みたいに、倒れたりしてないといいんだけど。
私がしょんぼりと肩を落としていると、加州がぽんと頭を撫でてくれる。
「もしかしたら帰ってきてくれるかもしれないし、姫もそんなに落ち込まないで」
「うん……」
心配だろうに、私のことも温かく迎えてくれて、心配してくれて。なんて優しい神さまなんだろう。
「他の審神者にも『竜胆』って名前に聞き覚えがないかとか、色々探してはいるし。いつか会えるよ」
え。いまなんて。
思わず加州を凝視した。
その審神者名は、だって。
「いい名前でしょ、竜胆。花言葉は『勝利』だったかな」
そう、病気に勝てるように。みんなで勝てるように、その名前にしたの。
じゃあ、この本丸は。
あなたは。
「会いたいな、主」
私も、会いたかったよ。加州。