2.勘違いは加速する
今剣を手を繋いで、トコトコと草原を歩く。草原を抜けて、ちょっとした丘を越えたあたりで、大きな建物が見えてみた。和風な建造物を見て、これが本丸かと頷いた。
中心に本丸があり、周りを塀で囲んである。手を引かれたまま門をくぐって中に入ると、畑や井戸、馬小屋なんかもあることが分かる。
わー、すごい。私が呆けた顔で見上げていると、今剣が大きな声で呼びかけた。
「かえりましたー! きょうはひとのこもいっしょですよー!」
そう今剣が声をかけると、中からわらわらと男士たちが出てくる。
すごい! みんないる!
私が目を輝かせていると、岩融がずんずんと近づいてきた。
「これはこれは小さな童よ! どこで拾ってきたのだ?」
「ほんまるのそとでねていたんです、おやもおうちもわからないというのでつれてきました!」
「なんと……! それは大層心細かろう」
岩融はしゃがんで頭をぽんと撫でてくれた。大きな手が、とても温かい。誰かに頭を撫でられるなんて、いつぶりだろう。
「えへへ、うれしい。なでてもらうなんて、ひさしぶり」
思わずにへにへと笑いながらそう言えば、岩融はぴしりと固まって、今剣を視線を合わせた後、私を軽々と抱き上げた。
「何度だって撫でてやろう! はっはっは!」
きゃー! と笑えばそのまま高い高いをしてくれて、あまりの楽しさに頬が痛くなるくらい笑った。顔が筋肉痛になるかもしれない。いや夢なんだけど。寝ながら現実でも笑ってたらどうしよう。
すとん、と地面に下ろされて、その間になにやら話していたらしい今剣と他の男士たちが近寄ってくる。
「本当に小さな子だ。二歳くらい?」
「まだ親元を離れるような歳じゃないだろうに」
「この時期って何なら食べてもいいんだろう、こんのすけに聞いたら分かるかな」
どんどん話しかけられて、何から答えていいか分からない。でも刀剣男士たちに会えたのが嬉しくて、にっこりと笑った。
「へへ、まだもどりたくないなあ……」
このまま、夢の中にずっといたい。そう思って視線を下げると、燭台切が膝をついて目の前に来た。柔らかな優しい声が上から降ってくる。
「戻りたくないっていうのは、どうしてか聞いてもいい?」
「……くるしくて、つらい、から」
こんなに軽い体で走り回るのは昔からの夢だった。夢から覚めれば、またあの重い体になると思うと憂うつである。呼吸だってままならない。ずっとベッドの上だなんて、つらい。
「そ、っか……」
「うん」
燭台切は少し口を噤んだ後、にっこりと笑う。
「……何か、好きなご飯はある? 腕によりをかけて作るよ」
「ごはん……」
咄嗟に出てこなくて、ついさっき食べた不思議なりんごを思い出す。
「りんご! あまくておいしかった」
しまった、作るって言ってくれてるのにりんごはおかしいな。ちょっと考えて、ぽつりと零す。食べたいもの、というよりも。
「みんなでたべるごはんがいい……」
ベッドの上で、一人網しく食べるご飯は味気ない。もう一度、誰かと温かいご飯が食べたかった。
そう考えていると、なんだか燭台切が目頭を押さえて顔をそむけてしまった。交代するかのように陸奥守がずいと出てくる。
「わしもりんごは好きじゃ、お揃いじゃのう!」
「うん!」
にこにこと笑う私を、刀剣男士たちが慈愛の目で見つめていたなんて。会えて嬉しいばかりで、私はそんなことにはまったく気が付かなかった。
(岩融目線)
急に今剣が連れてきた、幼い童。
今剣が言うには、親もいない、家も分からない。そのうえ家から走って逃げてきたと言うではないか。こんな小さな子が可哀想に。
つい撫でてやれば、撫でられたことが久しぶりとも言う。なんと。
家に戻りたくないと言うのであれば、ここにいたら良かろう。どうせここには我らしかいないのだ。
しっかし、我ら刀剣男士が見える人の子か。
幼い時期だけ我らが見えるという子も少なくはないが、さて……。
******
ああ、本当に、このまま夢が覚めないで欲しい。現実に戻ったらもう、きっと彼らには出会えない。
「う……」
そんなことを考えたらジワリと涙が滲んできた。それを見た男士たちが飛び上がるほど驚いて、私をあやそうとしてくれる。
「ほ、ほら、鵺さんだぞー!」
「逆効果にならねえか!?」
「虎、虎のほうが!」
「と、虎くんですよ……!」
「何か甘いものでも用意するよ!」
もう右に左に大わらわ。たった今会ったばかりの私に、どうしてここまで優しくしてくれるんだろう。本当に、良い夢だ。
滲んだ涙はとうとう丸い頬を伝って。私は泣きながら、でも幸せでたまらなかった。
中心に本丸があり、周りを塀で囲んである。手を引かれたまま門をくぐって中に入ると、畑や井戸、馬小屋なんかもあることが分かる。
わー、すごい。私が呆けた顔で見上げていると、今剣が大きな声で呼びかけた。
「かえりましたー! きょうはひとのこもいっしょですよー!」
そう今剣が声をかけると、中からわらわらと男士たちが出てくる。
すごい! みんないる!
私が目を輝かせていると、岩融がずんずんと近づいてきた。
「これはこれは小さな童よ! どこで拾ってきたのだ?」
「ほんまるのそとでねていたんです、おやもおうちもわからないというのでつれてきました!」
「なんと……! それは大層心細かろう」
岩融はしゃがんで頭をぽんと撫でてくれた。大きな手が、とても温かい。誰かに頭を撫でられるなんて、いつぶりだろう。
「えへへ、うれしい。なでてもらうなんて、ひさしぶり」
思わずにへにへと笑いながらそう言えば、岩融はぴしりと固まって、今剣を視線を合わせた後、私を軽々と抱き上げた。
「何度だって撫でてやろう! はっはっは!」
きゃー! と笑えばそのまま高い高いをしてくれて、あまりの楽しさに頬が痛くなるくらい笑った。顔が筋肉痛になるかもしれない。いや夢なんだけど。寝ながら現実でも笑ってたらどうしよう。
すとん、と地面に下ろされて、その間になにやら話していたらしい今剣と他の男士たちが近寄ってくる。
「本当に小さな子だ。二歳くらい?」
「まだ親元を離れるような歳じゃないだろうに」
「この時期って何なら食べてもいいんだろう、こんのすけに聞いたら分かるかな」
どんどん話しかけられて、何から答えていいか分からない。でも刀剣男士たちに会えたのが嬉しくて、にっこりと笑った。
「へへ、まだもどりたくないなあ……」
このまま、夢の中にずっといたい。そう思って視線を下げると、燭台切が膝をついて目の前に来た。柔らかな優しい声が上から降ってくる。
「戻りたくないっていうのは、どうしてか聞いてもいい?」
「……くるしくて、つらい、から」
こんなに軽い体で走り回るのは昔からの夢だった。夢から覚めれば、またあの重い体になると思うと憂うつである。呼吸だってままならない。ずっとベッドの上だなんて、つらい。
「そ、っか……」
「うん」
燭台切は少し口を噤んだ後、にっこりと笑う。
「……何か、好きなご飯はある? 腕によりをかけて作るよ」
「ごはん……」
咄嗟に出てこなくて、ついさっき食べた不思議なりんごを思い出す。
「りんご! あまくておいしかった」
しまった、作るって言ってくれてるのにりんごはおかしいな。ちょっと考えて、ぽつりと零す。食べたいもの、というよりも。
「みんなでたべるごはんがいい……」
ベッドの上で、一人網しく食べるご飯は味気ない。もう一度、誰かと温かいご飯が食べたかった。
そう考えていると、なんだか燭台切が目頭を押さえて顔をそむけてしまった。交代するかのように陸奥守がずいと出てくる。
「わしもりんごは好きじゃ、お揃いじゃのう!」
「うん!」
にこにこと笑う私を、刀剣男士たちが慈愛の目で見つめていたなんて。会えて嬉しいばかりで、私はそんなことにはまったく気が付かなかった。
(岩融目線)
急に今剣が連れてきた、幼い童。
今剣が言うには、親もいない、家も分からない。そのうえ家から走って逃げてきたと言うではないか。こんな小さな子が可哀想に。
つい撫でてやれば、撫でられたことが久しぶりとも言う。なんと。
家に戻りたくないと言うのであれば、ここにいたら良かろう。どうせここには我らしかいないのだ。
しっかし、我ら刀剣男士が見える人の子か。
幼い時期だけ我らが見えるという子も少なくはないが、さて……。
******
ああ、本当に、このまま夢が覚めないで欲しい。現実に戻ったらもう、きっと彼らには出会えない。
「う……」
そんなことを考えたらジワリと涙が滲んできた。それを見た男士たちが飛び上がるほど驚いて、私をあやそうとしてくれる。
「ほ、ほら、鵺さんだぞー!」
「逆効果にならねえか!?」
「虎、虎のほうが!」
「と、虎くんですよ……!」
「何か甘いものでも用意するよ!」
もう右に左に大わらわ。たった今会ったばかりの私に、どうしてここまで優しくしてくれるんだろう。本当に、良い夢だ。
滲んだ涙はとうとう丸い頬を伝って。私は泣きながら、でも幸せでたまらなかった。