17話 あたたかい冬を、あなたに

 あなたの幸せを、この手で生み出したいのです。


 2XXX年、十月。審神者が寝静まった秋の夜。男士たちは広間に集まっていた。皆真剣な表情で、大きなホワイトボードを正面に見据えている。

「では、始める」

 誰かがごくりと唾を飲んだ音がした。ホワイトボードに、長谷部の手で達筆な文字が描かれる。

『主への贈り物作戦会議』

「いいか、これは遊びではない……!!」

 音を立てないように、静かに叫ぶ長谷部。誰も揶揄うものはいない。ここの男士全員が本気でこの会議に参加していた。


▽▽▽▽▽▽▽▽


 瑞葉の手ずから本丸の男士全員に手紙が渡されてから、数週間が経った。毎日のように手紙に目を通す者、厳重に箱に入れて保管している者、内容を思い返しては涙腺が緩む者と様々だ。手紙を思い出しては、ふと花弁が舞うものだから、まるで春のようだと誰かが笑った。

 温かな本丸の外には、秋の気配が訪れている。空気はほんのりと甘く香り、遠くに金木犀を感じさせた。湿度がどこかへ流れ、乾いた風が代わりに入り込んでくる。その冷たい空気は瑞葉の遠い記憶を刺激した。

「……」

「主、どうしたの?」

 なにやらぼうっと遠くを見つめる瑞葉を、加州が心配そうに抱きしめた。瑞葉にはいつも笑顔でいてもらいたい。何かあればすぐに気が付くのはやはり加州だった。

「うんとね、ふゆがくるなあっておもったの」

「そうだね、そろそろかも。冬は嫌い?」

「うーん……」

 瑞葉の脳裏に浮かぶのは、空いたベッド、人が入れ替わる病室。瑞葉にとって、冬は別れの季節だった。それを思い出すと少し心が冷える。しかし皆に話しては心配をさせるかもしれない。瑞葉は咄嗟に視線を泳がせた。

「ふゆは……さむいから」

「……そうだね。一緒に温かくしてようね」

 加州は何かを察するも、優しく微笑んだ。そうしてさりげなく話題を変える。

「今日の夕飯は歌仙だから、きっと和食だね」

「かせんのごはんたのしみ!」

 ふくふくと笑う瑞葉を見て加州は安心したように微笑んだ後、こっそりと端末を起動した。


 その日の夜。男士全員が広間に集められた。加州によって集合をかけられた男士たちは、怪訝そうな顔で加州に問う。

「一体どうしたんだ? 主に何かあったのか?」

「うーん、あるといえばある。主のことで間違いはないよ」

 そこで一つ呼吸を整えた加州は、口を開いた。

「主に、皆から贈り物を贈りたい」

「それは問題ないが、急にどうした?」

 急な加州の提案に、長谷部が戸惑っていると、加州は話を続ける。

「今日見て思った。主はたぶん、冬にいい記憶がない。その記憶を、俺たちで上書きしたい」

 それから加州は瑞葉の様子がいつもと違ったこと、はぐらかされて本心は聞けなかったことを告げた。悲しそうに遠くを見つめる瑞葉を思い出して、きゅっと眉を顰める。

「主のすべてを、楽しい記憶にしてやりたいんだ」

 そう締めくくった加州に、反対する男士は一振りとしていなかった。
 思い出すのは、貰ったばかりの心のこもった瑞葉の手紙。
 これほどまでに愛を貰っているのだから、返すのが道理だ。

 そうして長谷部がどこからともなくホワイトボードを持ってきてペンを持つ。

「では、始める」

……

「やはりぬいぐるみなんてどうだ」

「いや服も捨てがたい」

「流行りの遊具も喜ばれるかも」

「流行りの遊具ってなんだ?」

「蹴鞠とか」

「素直に分からんって言え」

 ……

 一向に案がまとまらない会議。ホワイトボードには所狭しと贈りたいものが羅列されている。いっそすべてあげてはどうかという案に傾きかけたとき、ずっと沈黙を守っていた大倶利伽羅が口を開いた。

「……手紙はどうだ」

「手紙か! それもいいな」

 鶴丸がそれに賛同し、大倶利伽羅の肩に手を回す。むっすりとした表情で大倶利伽羅は鶴丸の手を払っている。

「そうよの。物の量よりも、いかに心がこもっているかが大事よ」

 父の顔で小烏丸がほほっと笑い、歌仙を始めとした男士たちも満足そうに頷いている。
 会議の内容は決まった。
 瑞葉に、各々の言葉を届けよう。


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 本格的に空気が冬を運んできた11月。短くなった昼を感じながら、瑞葉が遠くを見つめていると男士がわらわらと周りに集まってきた。ハッと気が付いた瑞葉は慌てて笑顔を作る。

「どうしたの? みんな」

「えへへ、主に贈り物があるんだ」

「えっ」

 そう言って加州が瑞葉に手紙を渡す。瑞葉の小さな手に載った便箋は、赤を基調とした花柄模様。表には「主へ」、裏を見れば「加州清光より」と可愛らしい文字で描かれている。

「えっ? えっ?」

 瑞葉が顔を上げると、優しく微笑む加州と目が合う。次に横からすっと顔を出したのは三日月だ。

「次は俺が」

 また手に便箋が乗せられる。白い便箋には墨で「主へ」と書かれていた。大きさも厚みも違う手紙が次々と瑞葉の手に渡される。

「次は私が」

「次は僕が」

……

 混乱している瑞葉に、一振りずつ手紙が渡された。どんどんと増えていく手紙は、一振り一振りの想いが込められている。

 両手で持ちきれないくらいの手紙を抱えた瑞葉は、ぽかんと口を開けて自分が持つ手紙を見る。どれもが美しい便箋で、汚れ一つない。ぎゅうとそれらを腕に抱えた瑞葉は、胸が温かくなるのを感じた。熱いものがこみあげてくるのをこらえながら、心からの笑顔を見せる。

「ありがとう……!!!! たいせつによむね……!!!!」


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 瑞葉は部屋まで運ぶのを手伝ってもらい、机の上にすべての手紙を丁寧に広げていく。
 読みやすいように文字を大きく書いてくれた者、何枚もの便箋に想いを書いてくれた者。挟まれた花の栞に、四つ葉のクローバー。描かれた未来の約束と、感謝の言葉。
 一枚一枚目を通すたびに、男士との思い出が溢れて止まらない。

「うぅ……」

 頬に熱いものが流れていく。手紙を汚さないように拭って、また別の手紙を開いてはハンカチを濡らす。

 寒くて暗い冬だった。それを照らしてくれたのが、みんなだった。
 上書きされた冬は、こんなにも温かい。

「またたくさんもらっちゃったなあ……」

 瑞葉はそう言って、笑いながら涙を流した。


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