16話 ありがとうのかたち

 幸せでも、いつも悩みは尽きないものです。

 瑞葉は頬杖をついて端末をたぷたぷと操作していた。きっとその画面を見たら男士は瑞葉に何事かと詰め寄ったことだろう。しかし不運にもこの場には瑞葉ひとりしかいなかった。

『お金 稼ぎ方 内緒』

 瑞葉は短い指で端末をスワイプスワイプ。腕を組んでゆらゆらと揺れた。

「いいほうほうないかな~」

 本丸に激震が走るのは数日後のことである。


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 本丸の運営にも慣れてきたこの頃、瑞葉にはどうしてもやりたいことがあった。

(みんなにプレゼントとか、あげたいな。)

 こっそりとプレゼントを準備して、皆を喜ばせたい。日頃の感謝を伝えたい。そう思ったはいいものの。

(私が内緒で使えるお金がないんだよね……。)

 うーん、と口をへの字に曲げて思案顔。普段欲しいものがあれば頼めば本丸の予算内で買ってくれる。しかし今回は内緒で買ってあげたい。どうしたものか。
 周りの男士はその愛らしい様子に見惚れている。おやつでも悩んでいるのかな?

「主、どうしましたか?」

「はせべ~」

 でれでれと表情を崩しながら長谷部が近づけば、瑞葉はよじよじと膝に乗ってくる。最近はこうして甘えてくれることも増えてきた瑞葉に、長谷部は内心踊って飛び跳ねる。

「ちょっとかんがえごとしててね」

「良ければ話を」

「うーん、もうすこしじぶんでかんがえる……」

 長谷部は自分の膝の上でぽよぽよと動く瑞葉を落とさないようにしっかりと抱え、仏のような笑みを浮かべていた。

(ネットで調べてみるかあ。)

 そんな瑞葉が何をしようとしているかも知らないまま──。

 瑞葉は部屋に戻り、ころんとクッションに寝そべる。自分の体ほどの大きさのありそうなこのクッションも、本丸のみんなからプレゼントされたものだ。自分ばかりもらってしまって嬉しいような、申し訳がないような。

「ほんまるでいっしょなだけでしあわせなのに、もらいすぎだよ……」

 そう呟いて、目を細めた。そう、幸せなのだ。この幸せな気持ちを伝えたい。
 端末で調べを進めると、幼い自分では難しそうな求人がずらり。小さい子は働かないか……と諦めようとしたその時、とある文字を見て視線を止めた。

「これなら、いける……?」

 詳しく見てみようと体を起こし、正座する。必要な道具は端末一台、履歴書も必要ないし、自室で出来る。

「これだ……!」

 瑞葉は目を輝かせて端末を高く持ち上げ、抱きしめる。そうしてとあるアプリをインストールした。


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 ピロン。

「今日はどの配信を見ようかな~」

 麦茶片手に、加州が端末片手にアプリを開く。審神者や男士がおしゃべりをするアプリ、『刀トーク』。最新の流行りを追いかけたり情報収集にうってつけだ。いつも見ている配信者がお休みなので、適当に話題の配信を流し見しているところに、とある配信は流れてきた。

『はじめまして、さにわです……!』

ッブーーーーーーーー!!!!

 飲んでいた麦茶を思いっきり噴き出した加州の目の前には、どこからどうみても見覚えのある姿。

『えと、これはどうしたらいいんだろう……』

「主ーーーーーーーーっ!?!?!?」

 配信者瑞葉、爆誕である。


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「えと、これでできてるのかな……?」

 慣れない手つきで配信アプリを起動して、早速登録した。これは配信回数やお布施によってお小遣いがもらえるアプリらしい! なんとすごい!
 人が来たらおしゃべりをすればいいのだろうが、何を話そうかと考えていると早速人が集まってきた。

『ちっちゃい!』

『審神者のお子さんかな?』

『かわい~』

「わ、わ、わ」

 流れてくるコメントに慌てふためいているだけではいけない、きりっと気合を入れて、口を開く。

「はじめまして、さにわです!」

『かわい~!』

『親御さんの真似かな?』

『今日はどうしたの?』

 そのコメントを見ながら、どうして配信をしようと思ったのかを説明していく。

「えと、ほんまるのみんなにぷれぜんとがかいたくて、それでおこづかいがほしくて……」

ピロン ピロン ピロン

「わ、わ、わ!?」

『分かった』

『任せろ』

『いくらほしい?』

 瑞葉がそう言ったのをきっかけにどんどんとお布施が流れていく。予想外の展開に瑞葉がはわはわと慌てていると、閉じていた襖がガラッと開けられた。

「主!? 何してるの!?」

「かしゅう! もうばれた!」

「もー! こういうのは危ない人もいるんだから!」

 そう言ってバタバタと音がして、配信は加州のアップになる。

「ごめーん、配信切るね」

『無許可やったんか』

『ん? 今主って言った?』

『抱っこされてるの可愛いね可愛いね~』

 ぷつん。
 配信は切れて、部屋に静寂が戻る。加州は瑞葉の正面に座り、正座した。瑞葉も大人しく一緒に正座する。

「主」

「はい……」

 怒られるのだろうな、ときゅっとしわしわの顔をする瑞葉に、加州は優しく手をのせた。

「気持ちは嬉しいけど、危ない人だっているんだからね」

「うん……うん?」

 しょぼ、と返事をしたところで、はた、と止まる。今気持ちは嬉しいって言った? と顔を上げると、加州はとろけるように笑って頬を押さえた。

「俺たちにプレゼントが買いたいだなんて、嬉しいなあ……!」

 そういえば配信で言った──!! バレてる!! なんかもう全部バレてる!!
 内緒にしたかったのに、と項垂れる瑞葉に、加州は優しく声をかけた。

「内緒かどうかなんて重要じゃないよ。主の気持ちが嬉しいんだから」

「うん……ありがとう……」

 ちょっと色々と筒抜けで恥ずかしい気持ちを押さえて、こくりと頷く。もうこうなったら協力してもらおうかな。開き直った瑞葉は加州を見上げる。

「ね、いっしょにおかいものにいってほしいんだけど、いい?」

「もちろん!」

 そう言って加州は嬉しそうに微笑んだ。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「……えと、みんなにわたしたいものがあって……」

 もじもじと照れくさそうに本丸のみんなの前で言う瑞葉に、男士はそわそわと浮足立った。一体なんだろう。

「あのね、みんなにおてがみかいたの」

 わっ! と男士から歓声が上がる。瑞葉の手には綺麗なレターセットが握られていた。その後ろで加州が箱を持っている。

「んと、いまからわたすね!」

 加州の持つ大きな箱から一枚一枚手紙を出して、男士の名前を呼んでいく。呼ばれた男士は飛ぶように瑞葉のもとに駆けていって、一部男士は涙ながらに受け取った。

「これ全部主の手書きだからね、大事にしてよ」

「当たり前だ! 家宝にする!」

「長谷部は涙で汚さないでよね」

 なんとか本丸全員に渡ったか、といったところで、瑞葉がくるりと加州の方を見る。

「かしゅうにも! ありがとう!」

「……嬉しいよ主~~!!」

 加州は瑞葉に抱き着いて、目を輝かせながら手紙を受け取った。手紙の封筒には自分の名前がひらがなで書いてある。読むのがもったいないな、と懐にしっかりと仕舞った。



『かしゅうへ

 いつもありがとう。わたしのだいすきなかしゅう。
 このおてがみもかしゅうがいてくれたから、みんなにわたせたよ。
 わたしのこと、いちばんにきづいてくれたかしゅう。
 わたしのさいしょのかたな。
 だからね、かしゅうがいてくれるとなんだかほっとするんだ。
 かわいくて、やさしくて、きくばりができるがんばりやさん。
 たいへんなときはいつでもいってね。
 わたしもかしゅうのちからになりたいよ。
 これからもずっとよろしくね。
 かしゅうがいてくれてよかった。
 
 みずはより』

 加州は手紙が濡れないように、そっと仕舞いこんだ。
 その日、本丸はとても温かかった。


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