14話 わたしたちだけの物語
演練も無事に終わり、ほっと一息ついたころ。
心落ち着かない男士が一振り、主を想って頭を抱えた。
瑞葉が朝目覚めて男士たちに会いに来ると、様子のおかしい刀が目についた。いつも明るいその男子は、端末片手に難しい顔をしている。
「おはようかしゅう、どうしたの?」
「あ、主」
ビクッと肩を震わせた加州は急いで端末を隠す。ぎこちなく笑顔を作ると「おはよう」と瑞葉に返した。
それを見た瑞葉はピンと来た。ぎこちない笑顔、隠された端末──。過去に病院のテレビで流し見していたドラマが頭を駆け巡る。
「う、うわきだ……!」
「なんだと加州!! 主!! 俺は主一筋です!!」
「違うから!! 長谷部も飛んでくんな!!」
どこからともなく飛んできた長谷部に頭を抱えた加州が、しぶしぶ端末を操作してとある画面を見せる。
「サニッター?」
「そう、この前主に許可取ったやつね」
その画面には加州のアカウントが映っている。ほうほう、と覗き込めばみんなで一緒に撮った写真が投稿されていた。
「これがどうかしたの?」
「ここ見て」
すい、とスクロールされた画面を見ると、つい先日の初陣勝利祝いの時の写真だ。加州の整った爪の先には今なお増えるハートの数。
「ハートがいっぱい!」
「めっちゃバズってさあ」
「主のお写真ならばそうもなるだろう」
得意げな長谷部と目を丸くする瑞葉に、加州は苦笑いして頬をかく。
「そうしたら変なコメントまで来て……主のためにも消したほうがいいのかとか考えてた」
「へん?」
「なんでも突っかかってくる奴はいるからさあ」
「見せてみろ」
長谷部が加州の端末を受け取ると、じっくり見てその眉を釣り上げた。
「こいつらのアカウントを教えろ!」
「だめだめだめ! 何する気だって」
「主、ご安心ください。俺が対処しておきます」
二振りとも瑞葉には見せなかったが、投稿した画像に来たコメントには攻撃的なものが混じっていた。
“幼女を働かせるな”
“本丸は保育園じゃない”
”こんな幼い主だなんて男士が可哀想”
こんな具合である。最初のは正論かもしれないが。
しかし瑞葉とて中身は幼児ではない。なんとなく変なコメントが来たの意を察してため息をついた。
「へんなひとにからまれちゃった? こまったねえ」
顔の見えない匿名でのやり取りなんてそんなものである。ふうとため息をついた瑞葉に、加州はうーんと悩んで眉を寄せた。
「主のことを説明するのもさあ」
「そうだな」
「あ~、たしかに」
加州と長谷部がうんうんと頷くのを見て、瑞葉も同意する。こんな、気が付いたら幼女の体になって本丸と再会しました、なんて到底信じてもらえないだろう。
「もったいないよね」
「ああ」
「え?」
もったいない、の言葉が予想外で瑞葉は首をひねった。しかし二振りは当然のような顔で続ける。
「こんな感動的で奇跡的なことを軽々しく教えたくないっていうか」
「俺たちだけが知っていればいいだろう、そんな奴らに言う必要ない」
「……ふふ」
瑞葉は目を細めて微笑む。二振りとも、そう思ってくれてたんだ。そうだね、私たちは感動的で奇跡的な再会をしたの。
「うん、みんなだけがしっていればいいよね」
「ね」
「わたしはそんなこめんと、きにしないから。かしゅうのすきにしたらいいよ」
「そう? 分かった」
「俺にお任せください」
「今何も任されてなかったからね」
なんだか今の本丸が、主になった自分が誇らしくて。瑞葉は体の奥底から力が湧いてくるようだった。無敵の気分でぐっと背伸びをする。
「きょうもいちにち、がんばろー!」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
穏やかな空気が流れる午後三時。おやつの蒸しパンとお茶を楽しんでいる瑞葉のもとに、源氏兄弟がやってきた。
「主」
「美味しそうなものを食べているねえ」
「ひざまる、ひげきり」
二振りは瑞葉の近くに腰を下ろす。瑞葉は山になっている蒸しパンを一つずつ渡した。
「いっしょにたべよ」
「いいのかい?」
「たくさんあるから」
「気持ちだけ、有り難く」
髭切は瑞葉と一緒に蒸しパンをもぐもぐと頬張っている。手を付けていない膝丸は、何か言いたげに瑞葉を見つめていた。そうして瑞葉がお茶を飲んでいるタイミングでゆっくりと口を開く。
「君に、聞きたいことがある」
「うん?」
「君の中身は何歳なんだ?」
確かに言っていなかったかもしれない。瑞葉は『竜胆』だった時のことを思い返す。
「せいじんするかしないかってぐらいかな」
「それだと中身と体に乖離があるだろう、周りの扱いに思うことはないか?」
「えっと……?」
膝丸が聞きたいことがすぐにピンと来ずに宙を見つめた。周りの扱いに思うこと? きょとんとした瑞葉を見て蒸しパンを食べ終えた髭切がフォローを入れる。
「幼子扱いは嫌じゃないのかい?」
「あ、なるほど」
ようやっと意図を汲み取った瑞葉が少し考える。確かに幼子扱いされていることはあるけど……。
「じ、じつはね」
「うん」
「うれしいの……」
瑞葉は気恥しそうにちょっと俯いて頬を染める。もじもじと手をいじりながら言葉を選んだ。
「『まえ』はこんなにあまえることもしたことなかったし、なんか……じんせいをやりなおしてるみたいでうれしくて」
「……ああ」
「あまえすぎかな……」
「そんなことないよ」
優しい瞳で頷く膝丸と、柔らかく微笑む髭切に見つめられて、瑞葉は照れくさそうに笑う。
「えへへ、でもきっとすぐおおきくなるよ」
「人の子の成長は早いからな」
「ちょっと寂しいなあ」
瑞葉は小さなその手をぎゅっと握る。もちもちの手に丸い頬。そして──長さの変わらぬ、黒い艶やかな髪がさらりと揺れた。
「おおきくなるの、楽しみ!」
心落ち着かない男士が一振り、主を想って頭を抱えた。
瑞葉が朝目覚めて男士たちに会いに来ると、様子のおかしい刀が目についた。いつも明るいその男子は、端末片手に難しい顔をしている。
「おはようかしゅう、どうしたの?」
「あ、主」
ビクッと肩を震わせた加州は急いで端末を隠す。ぎこちなく笑顔を作ると「おはよう」と瑞葉に返した。
それを見た瑞葉はピンと来た。ぎこちない笑顔、隠された端末──。過去に病院のテレビで流し見していたドラマが頭を駆け巡る。
「う、うわきだ……!」
「なんだと加州!! 主!! 俺は主一筋です!!」
「違うから!! 長谷部も飛んでくんな!!」
どこからともなく飛んできた長谷部に頭を抱えた加州が、しぶしぶ端末を操作してとある画面を見せる。
「サニッター?」
「そう、この前主に許可取ったやつね」
その画面には加州のアカウントが映っている。ほうほう、と覗き込めばみんなで一緒に撮った写真が投稿されていた。
「これがどうかしたの?」
「ここ見て」
すい、とスクロールされた画面を見ると、つい先日の初陣勝利祝いの時の写真だ。加州の整った爪の先には今なお増えるハートの数。
「ハートがいっぱい!」
「めっちゃバズってさあ」
「主のお写真ならばそうもなるだろう」
得意げな長谷部と目を丸くする瑞葉に、加州は苦笑いして頬をかく。
「そうしたら変なコメントまで来て……主のためにも消したほうがいいのかとか考えてた」
「へん?」
「なんでも突っかかってくる奴はいるからさあ」
「見せてみろ」
長谷部が加州の端末を受け取ると、じっくり見てその眉を釣り上げた。
「こいつらのアカウントを教えろ!」
「だめだめだめ! 何する気だって」
「主、ご安心ください。俺が対処しておきます」
二振りとも瑞葉には見せなかったが、投稿した画像に来たコメントには攻撃的なものが混じっていた。
“幼女を働かせるな”
“本丸は保育園じゃない”
”こんな幼い主だなんて男士が可哀想”
こんな具合である。最初のは正論かもしれないが。
しかし瑞葉とて中身は幼児ではない。なんとなく変なコメントが来たの意を察してため息をついた。
「へんなひとにからまれちゃった? こまったねえ」
顔の見えない匿名でのやり取りなんてそんなものである。ふうとため息をついた瑞葉に、加州はうーんと悩んで眉を寄せた。
「主のことを説明するのもさあ」
「そうだな」
「あ~、たしかに」
加州と長谷部がうんうんと頷くのを見て、瑞葉も同意する。こんな、気が付いたら幼女の体になって本丸と再会しました、なんて到底信じてもらえないだろう。
「もったいないよね」
「ああ」
「え?」
もったいない、の言葉が予想外で瑞葉は首をひねった。しかし二振りは当然のような顔で続ける。
「こんな感動的で奇跡的なことを軽々しく教えたくないっていうか」
「俺たちだけが知っていればいいだろう、そんな奴らに言う必要ない」
「……ふふ」
瑞葉は目を細めて微笑む。二振りとも、そう思ってくれてたんだ。そうだね、私たちは感動的で奇跡的な再会をしたの。
「うん、みんなだけがしっていればいいよね」
「ね」
「わたしはそんなこめんと、きにしないから。かしゅうのすきにしたらいいよ」
「そう? 分かった」
「俺にお任せください」
「今何も任されてなかったからね」
なんだか今の本丸が、主になった自分が誇らしくて。瑞葉は体の奥底から力が湧いてくるようだった。無敵の気分でぐっと背伸びをする。
「きょうもいちにち、がんばろー!」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
穏やかな空気が流れる午後三時。おやつの蒸しパンとお茶を楽しんでいる瑞葉のもとに、源氏兄弟がやってきた。
「主」
「美味しそうなものを食べているねえ」
「ひざまる、ひげきり」
二振りは瑞葉の近くに腰を下ろす。瑞葉は山になっている蒸しパンを一つずつ渡した。
「いっしょにたべよ」
「いいのかい?」
「たくさんあるから」
「気持ちだけ、有り難く」
髭切は瑞葉と一緒に蒸しパンをもぐもぐと頬張っている。手を付けていない膝丸は、何か言いたげに瑞葉を見つめていた。そうして瑞葉がお茶を飲んでいるタイミングでゆっくりと口を開く。
「君に、聞きたいことがある」
「うん?」
「君の中身は何歳なんだ?」
確かに言っていなかったかもしれない。瑞葉は『竜胆』だった時のことを思い返す。
「せいじんするかしないかってぐらいかな」
「それだと中身と体に乖離があるだろう、周りの扱いに思うことはないか?」
「えっと……?」
膝丸が聞きたいことがすぐにピンと来ずに宙を見つめた。周りの扱いに思うこと? きょとんとした瑞葉を見て蒸しパンを食べ終えた髭切がフォローを入れる。
「幼子扱いは嫌じゃないのかい?」
「あ、なるほど」
ようやっと意図を汲み取った瑞葉が少し考える。確かに幼子扱いされていることはあるけど……。
「じ、じつはね」
「うん」
「うれしいの……」
瑞葉は気恥しそうにちょっと俯いて頬を染める。もじもじと手をいじりながら言葉を選んだ。
「『まえ』はこんなにあまえることもしたことなかったし、なんか……じんせいをやりなおしてるみたいでうれしくて」
「……ああ」
「あまえすぎかな……」
「そんなことないよ」
優しい瞳で頷く膝丸と、柔らかく微笑む髭切に見つめられて、瑞葉は照れくさそうに笑う。
「えへへ、でもきっとすぐおおきくなるよ」
「人の子の成長は早いからな」
「ちょっと寂しいなあ」
瑞葉は小さなその手をぎゅっと握る。もちもちの手に丸い頬。そして──長さの変わらぬ、黒い艶やかな髪がさらりと揺れた。
「おおきくなるの、楽しみ!」