12.演練と、広がる噂
ざわざわと騒がしい演練会場で、瑞葉は騒動の中心にいた。しかし当の本人はそんなことには一切気が付かず、頬を桃色に染めて男士たちを出迎える。
「おかえり!」
男士は駆け足で主の元へと辿り着くと、やっと安心したように微笑むのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
瑞葉が本日のおやつを手に、縁側でのんびりとお茶をしている。周りには鶯丸に三日月、髭切と鶴丸がいて一緒に茶をすすっていた。歌仙特製の羊羹を少しずつ口に運んでいると、トコトコとこんのすけが近づいてくる。
「審神者様」
「ん、こんのすけもたべる?」
「いえ、わたくしは──」
こんのすけはふるふると首を振ると瑞葉の横にちょこんと座った。もふもふのしっぽが揺れるのを眺めていると、こんのすけが本題に入る。
「先日お話がありました、演練の件です。申請が済みましたのでいつでも参加可能になりました」
「む! もご」
「主、慌てて食べては危ないぞ? ほれ茶だ」
「んぐんぐ」
三日月に渡されたお茶で口の中の羊羹を飲み込んで、瑞葉はぱっと顔を上げる。
「えんれん! いってみたい!」
「ふふ、やる気満々だねえ」
「演練かあ、腕が鳴るな」
髭切が柔らかく笑い、鶴丸は楽し気に腕をぐるりと回す。瑞葉がうきうきとこんのすけを見ると、こんのすけがこくりと頷いた。
「参加の際は、一部隊に加えて付き添いの刀を一振り同行させることができます」
「そうなんだ、だれにしよう」
「ほう」
通常、演練に参加ができるのは一部隊のみ。その場の男士たちは物言わずちらとこんのすけを見るが、こんのすけはどこ吹く風である。まあ、誰かが無理を通したか、何かの制度を申請したのだろう。男士たちは皆、主にわざわざ言うほどのことでもないなと気を取り直す。そんなことよりも今は大切なことがあるのだ。
「さて、演練は誰が参加になるのだろうな」
鶯丸は二杯目の茶を飲みながら、まったりと呟く。これは荒れそうだ、と内心思いながら湯呑を傾けた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
瑞葉はちょっと、いやちょっとどころではなく困っていた。
その日の夕飯、食事が終わったところで時間をもらい、演練に参加したいと皆に伝える。みんな静かに最後まで話を待ってくれていた。護衛を含めた七振りを決めたい、一緒に行ってくれる刀を募集中と話し終えたところで、広間はあっという間に大騒ぎになった。
「はい! 俺! 俺行きたい!」
「主! 俺がお役に立ててみせます!」
「ぼくもいきたいです!」
「僕も行きたいなあ」
わいわいと立候補する男士たちを前に、瑞葉はおろおろと周りを見渡す。みんなが乗り気なのは嬉しいのだが、希望者が多すぎて一体誰を選んだらいいのやら。くじ引きか、じゃんけんかと悩んでいると、すっと小烏丸が瑞葉の横に来る。
「これこれ、主が困っておろう」
「こがらすまる」
さすがは父。きっとこの騒ぎも治めてくれるに違いない、そう瑞葉が期待を込めて見上げた先で、小烏丸はにっこりと笑った。
「手合わせの勝者が行くのがよかろう」
父!?!?
瑞葉がめきょっと目を見開いていると、それを聞いた男士たちが気合十分な表情でぞろぞろと広間を出ていく。小烏丸は横で満足げに頷いているがしかし。瑞葉は小烏丸の袖を引いた。
「え、えと、じゃんけんとかでもいいかなって」
「ほほ、何を言う。これは主の初陣のようなものぞ、気合を入れねばな」
「ういじん……?」
「うむ」
瑞葉は目から鱗だった。確かに自分が「瑞葉」として最初の戦いだ。だから皆はあんなにも気合を入れてくれてたんだ。(初陣だろうがなんだろうがこうなっていたと思います、とはこんのすけ談。)皆の想いを理解して瑞葉はうるうると瞳を潤ませる。
「みな、主のために戦うのでな」
「うん……うん……!」
小烏丸と瑞葉が微笑み合っている会話を背に、立ち上がった男士たちは眼光を鋭くする。審神者のために、自分が力になりたい。練度差がなんだ、必ず勝ち残る。その気迫は本丸の外にいた小鳥が飛び立つほどだった。こんのすけもちょっと怖くて毛が逆立った。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「勝った……! 勝ったよ主……!」
「ゼエ、ハア……」
手合わせの結果、決まった七振りの男士。怪我こそないものの、一体どんな死闘を繰り広げたんだと聞きたくなる有様だ。
「だ、だいじょうぶ……?」
「ゔん……!」
勝ち残ったのは、さすが我らが初期刀の加州。主への想いは誰にも負けない長谷部。若さはパワーな和泉守。鋼の精神力、大包平。本丸一の練度を誇る今剣。演練の悪魔、蛍丸。そして護衛には、室内でも対応ができ、何かあった際の対応を見込んで脇差の政府刀、肥前である。偶然にもバランスの良い編成になったので、男士たちも満足なようだ。瑞葉はその本気度に驚くと同時に筋肉痛とか大丈夫なんだろうかとちょっと心配になった。その辺は鍛えてるから大丈夫なようで良かった。
「それじゃあみんな、よろしくね!」
「「おう!」」
瑞葉は何も心配していなかった。なんていったって自慢のうちの刀たちだから。その瑞葉の表情に、男士たちも応える。審神者「瑞葉」、とうとう初陣である。
▽▽▽▽▽▽▽▽
演練会場には様々な審神者がいる。経験の浅い者、手練れの者。若い者に、老いた者。しかし瑞葉ほどに幼い審神者はこれまでいなかった。演練会場に一歩踏み入れれば、突き刺す様に視線が集中する。加州に手を引かれてぽてぽてと歩く瑞葉を多くの者が見つめていた。
「かしゅう……なんかすごいみられてる……?」
「大丈夫だよ、安心して」
加州は瑞葉を安心させるように優しく微笑んだ。瑞葉を囲うようにして歩く男士たちは、ざわめく雑踏の中から会場の審神者たちの声を拾う。
「ねえ、あんな小さい子が……」
「ほんとだ……え、でも男士は練度高いね?」
「引継ぎ?」
「訳ありっぽい」
ひそひそと飛び交う審神者の声に、男士たちは眉間に皺を寄せる。主に何か言おうものなら許さない、と聞こえてくる音に集中した。
「きっと何かあったんだよ……」
「それであんなに幼いのに審神者に……?」
「だって審神者ってことはご両親と離れてさあ……」
「あっ、私そういうの駄目。泣く」
「おれらで見守ってやらないと……」
「……」
想像していた声とは少し違ったが、まあまあ色々と言われている。主に同情、それから好奇心。やはり本丸の戦力を揃えてきて良かった。主が舐められないように、下手な扱いを受けないように。男士たちは瑞葉に見えないように好戦的に笑った。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「それじゃ、後は頼んだよ」
「おう」
加州は繋いでいた手を離し、護衛役の肥前に瑞葉を託す。肥前も心得たように頷いて、瑞葉の手を取る。出番となり、六振りは演練会場の戦闘場へと向かった。瑞葉と肥前は審神者用の席に座り、開戦を待つ。演練の見学席には多くの審神者がいて、瑞葉は興奮した表情で肥前を見上げた。
「えんれんかいじょうってひとすごいね」
「そうだな」
肥前は相槌を打ちながら、通常よりもはるかに多い見学席を見る。これはやはり幼い瑞葉のことが話題になっているのだろう。やはりこの幼さは良くも悪くも目立ってしまう。しかし目立つというのならば、力を示すのにも絶好の機会。肥前は口の端を歪ませる。
「やっぱ初っ端が肝心だよな」
視線の先には、勝利を主に捧げんと不敵に笑う刀剣男士たち。演練会場に開戦の合図が響き渡った。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「主〰〰!!!!」
「おつかれ〰〰!!」
六振りの男士はあっという間に演練相手を沈め、鮮やかに勝利を収めてきた。男士たちは試合が終わるや否や瑞葉の元に駆けてくる。肥前の横で飛び跳ねて勝利を喜ぶ姿に、ほっと胸をなでおろした。これで周りに瑞葉の力を見せることができただろう。幼子だからと侮るものが少しでも減ればいい、と男士たちは息を吐く。
「やっぱりみんなすごいね、つよいね!」
瑞葉は男士の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねている。肥前が転ばないように近くで見守っているのも相まってなんとも微笑ましい。
そこにぞろぞろと審神者の集団が近づいてきた。男士たちはすぐさま瑞葉を背に、壁を作る。打合せ通り、対応は政府時代の知識が豊富な肥前が前に出る。
「あの!」
「……何か用かよ」
「これ、おれの名刺です! 何かあればこれに!」
「あ?」
次々に審神者たちから名刺を渡され、肥前は両手いっぱいに名刺を抱える。時折、「頑張ってね」、「力になるからね」などの応援の言葉をかけながら審神者たちは去っていった。
「……?」
「いいひとたちだったね!」
「おう……?」
何がどうなっているのか。首をかしげながら、害のないならばいいかと名刺を仕舞う。
瑞葉たちは知らなかった。演練をしている間、噂が噂を呼び、瑞葉が悲劇のヒロインになっていることを。親に売られ、突如引継ぎ審神者になった哀れな幼女として噂が立っていることを。
そして瑞葉本人がその噂を決定的なものにしてしまう。
「こんなにひとがいっぱいなばしょ、はじめてきた」
「疲れてませんか?」
「うん、みんなやさしいし、うれしい」
瑞葉は初陣の勝利で興奮している。ほっぺをふくふくにさせながら、にぱっと笑った。
「みんなのあるじになれて、しあわせ!」
「主……!」
加州、長谷部を筆頭に感動しているが、その周囲の審神者たちは瑞葉の発言を聞いて視線を泳がせた。やはり不運な生まれの子で、今まで辛い人生を歩んでいたに違いない。(あながち間違いでもない)これからは幸せになるんだよ……。
そんな事は露しらず、両手を繋いで瑞葉は上機嫌で本丸へと帰るのであった。
「おかえり!」
男士は駆け足で主の元へと辿り着くと、やっと安心したように微笑むのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
瑞葉が本日のおやつを手に、縁側でのんびりとお茶をしている。周りには鶯丸に三日月、髭切と鶴丸がいて一緒に茶をすすっていた。歌仙特製の羊羹を少しずつ口に運んでいると、トコトコとこんのすけが近づいてくる。
「審神者様」
「ん、こんのすけもたべる?」
「いえ、わたくしは──」
こんのすけはふるふると首を振ると瑞葉の横にちょこんと座った。もふもふのしっぽが揺れるのを眺めていると、こんのすけが本題に入る。
「先日お話がありました、演練の件です。申請が済みましたのでいつでも参加可能になりました」
「む! もご」
「主、慌てて食べては危ないぞ? ほれ茶だ」
「んぐんぐ」
三日月に渡されたお茶で口の中の羊羹を飲み込んで、瑞葉はぱっと顔を上げる。
「えんれん! いってみたい!」
「ふふ、やる気満々だねえ」
「演練かあ、腕が鳴るな」
髭切が柔らかく笑い、鶴丸は楽し気に腕をぐるりと回す。瑞葉がうきうきとこんのすけを見ると、こんのすけがこくりと頷いた。
「参加の際は、一部隊に加えて付き添いの刀を一振り同行させることができます」
「そうなんだ、だれにしよう」
「ほう」
通常、演練に参加ができるのは一部隊のみ。その場の男士たちは物言わずちらとこんのすけを見るが、こんのすけはどこ吹く風である。まあ、誰かが無理を通したか、何かの制度を申請したのだろう。男士たちは皆、主にわざわざ言うほどのことでもないなと気を取り直す。そんなことよりも今は大切なことがあるのだ。
「さて、演練は誰が参加になるのだろうな」
鶯丸は二杯目の茶を飲みながら、まったりと呟く。これは荒れそうだ、と内心思いながら湯呑を傾けた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
瑞葉はちょっと、いやちょっとどころではなく困っていた。
その日の夕飯、食事が終わったところで時間をもらい、演練に参加したいと皆に伝える。みんな静かに最後まで話を待ってくれていた。護衛を含めた七振りを決めたい、一緒に行ってくれる刀を募集中と話し終えたところで、広間はあっという間に大騒ぎになった。
「はい! 俺! 俺行きたい!」
「主! 俺がお役に立ててみせます!」
「ぼくもいきたいです!」
「僕も行きたいなあ」
わいわいと立候補する男士たちを前に、瑞葉はおろおろと周りを見渡す。みんなが乗り気なのは嬉しいのだが、希望者が多すぎて一体誰を選んだらいいのやら。くじ引きか、じゃんけんかと悩んでいると、すっと小烏丸が瑞葉の横に来る。
「これこれ、主が困っておろう」
「こがらすまる」
さすがは父。きっとこの騒ぎも治めてくれるに違いない、そう瑞葉が期待を込めて見上げた先で、小烏丸はにっこりと笑った。
「手合わせの勝者が行くのがよかろう」
父!?!?
瑞葉がめきょっと目を見開いていると、それを聞いた男士たちが気合十分な表情でぞろぞろと広間を出ていく。小烏丸は横で満足げに頷いているがしかし。瑞葉は小烏丸の袖を引いた。
「え、えと、じゃんけんとかでもいいかなって」
「ほほ、何を言う。これは主の初陣のようなものぞ、気合を入れねばな」
「ういじん……?」
「うむ」
瑞葉は目から鱗だった。確かに自分が「瑞葉」として最初の戦いだ。だから皆はあんなにも気合を入れてくれてたんだ。(初陣だろうがなんだろうがこうなっていたと思います、とはこんのすけ談。)皆の想いを理解して瑞葉はうるうると瞳を潤ませる。
「みな、主のために戦うのでな」
「うん……うん……!」
小烏丸と瑞葉が微笑み合っている会話を背に、立ち上がった男士たちは眼光を鋭くする。審神者のために、自分が力になりたい。練度差がなんだ、必ず勝ち残る。その気迫は本丸の外にいた小鳥が飛び立つほどだった。こんのすけもちょっと怖くて毛が逆立った。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「勝った……! 勝ったよ主……!」
「ゼエ、ハア……」
手合わせの結果、決まった七振りの男士。怪我こそないものの、一体どんな死闘を繰り広げたんだと聞きたくなる有様だ。
「だ、だいじょうぶ……?」
「ゔん……!」
勝ち残ったのは、さすが我らが初期刀の加州。主への想いは誰にも負けない長谷部。若さはパワーな和泉守。鋼の精神力、大包平。本丸一の練度を誇る今剣。演練の悪魔、蛍丸。そして護衛には、室内でも対応ができ、何かあった際の対応を見込んで脇差の政府刀、肥前である。偶然にもバランスの良い編成になったので、男士たちも満足なようだ。瑞葉はその本気度に驚くと同時に筋肉痛とか大丈夫なんだろうかとちょっと心配になった。その辺は鍛えてるから大丈夫なようで良かった。
「それじゃあみんな、よろしくね!」
「「おう!」」
瑞葉は何も心配していなかった。なんていったって自慢のうちの刀たちだから。その瑞葉の表情に、男士たちも応える。審神者「瑞葉」、とうとう初陣である。
▽▽▽▽▽▽▽▽
演練会場には様々な審神者がいる。経験の浅い者、手練れの者。若い者に、老いた者。しかし瑞葉ほどに幼い審神者はこれまでいなかった。演練会場に一歩踏み入れれば、突き刺す様に視線が集中する。加州に手を引かれてぽてぽてと歩く瑞葉を多くの者が見つめていた。
「かしゅう……なんかすごいみられてる……?」
「大丈夫だよ、安心して」
加州は瑞葉を安心させるように優しく微笑んだ。瑞葉を囲うようにして歩く男士たちは、ざわめく雑踏の中から会場の審神者たちの声を拾う。
「ねえ、あんな小さい子が……」
「ほんとだ……え、でも男士は練度高いね?」
「引継ぎ?」
「訳ありっぽい」
ひそひそと飛び交う審神者の声に、男士たちは眉間に皺を寄せる。主に何か言おうものなら許さない、と聞こえてくる音に集中した。
「きっと何かあったんだよ……」
「それであんなに幼いのに審神者に……?」
「だって審神者ってことはご両親と離れてさあ……」
「あっ、私そういうの駄目。泣く」
「おれらで見守ってやらないと……」
「……」
想像していた声とは少し違ったが、まあまあ色々と言われている。主に同情、それから好奇心。やはり本丸の戦力を揃えてきて良かった。主が舐められないように、下手な扱いを受けないように。男士たちは瑞葉に見えないように好戦的に笑った。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「それじゃ、後は頼んだよ」
「おう」
加州は繋いでいた手を離し、護衛役の肥前に瑞葉を託す。肥前も心得たように頷いて、瑞葉の手を取る。出番となり、六振りは演練会場の戦闘場へと向かった。瑞葉と肥前は審神者用の席に座り、開戦を待つ。演練の見学席には多くの審神者がいて、瑞葉は興奮した表情で肥前を見上げた。
「えんれんかいじょうってひとすごいね」
「そうだな」
肥前は相槌を打ちながら、通常よりもはるかに多い見学席を見る。これはやはり幼い瑞葉のことが話題になっているのだろう。やはりこの幼さは良くも悪くも目立ってしまう。しかし目立つというのならば、力を示すのにも絶好の機会。肥前は口の端を歪ませる。
「やっぱ初っ端が肝心だよな」
視線の先には、勝利を主に捧げんと不敵に笑う刀剣男士たち。演練会場に開戦の合図が響き渡った。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「主〰〰!!!!」
「おつかれ〰〰!!」
六振りの男士はあっという間に演練相手を沈め、鮮やかに勝利を収めてきた。男士たちは試合が終わるや否や瑞葉の元に駆けてくる。肥前の横で飛び跳ねて勝利を喜ぶ姿に、ほっと胸をなでおろした。これで周りに瑞葉の力を見せることができただろう。幼子だからと侮るものが少しでも減ればいい、と男士たちは息を吐く。
「やっぱりみんなすごいね、つよいね!」
瑞葉は男士の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねている。肥前が転ばないように近くで見守っているのも相まってなんとも微笑ましい。
そこにぞろぞろと審神者の集団が近づいてきた。男士たちはすぐさま瑞葉を背に、壁を作る。打合せ通り、対応は政府時代の知識が豊富な肥前が前に出る。
「あの!」
「……何か用かよ」
「これ、おれの名刺です! 何かあればこれに!」
「あ?」
次々に審神者たちから名刺を渡され、肥前は両手いっぱいに名刺を抱える。時折、「頑張ってね」、「力になるからね」などの応援の言葉をかけながら審神者たちは去っていった。
「……?」
「いいひとたちだったね!」
「おう……?」
何がどうなっているのか。首をかしげながら、害のないならばいいかと名刺を仕舞う。
瑞葉たちは知らなかった。演練をしている間、噂が噂を呼び、瑞葉が悲劇のヒロインになっていることを。親に売られ、突如引継ぎ審神者になった哀れな幼女として噂が立っていることを。
そして瑞葉本人がその噂を決定的なものにしてしまう。
「こんなにひとがいっぱいなばしょ、はじめてきた」
「疲れてませんか?」
「うん、みんなやさしいし、うれしい」
瑞葉は初陣の勝利で興奮している。ほっぺをふくふくにさせながら、にぱっと笑った。
「みんなのあるじになれて、しあわせ!」
「主……!」
加州、長谷部を筆頭に感動しているが、その周囲の審神者たちは瑞葉の発言を聞いて視線を泳がせた。やはり不運な生まれの子で、今まで辛い人生を歩んでいたに違いない。(あながち間違いでもない)これからは幸せになるんだよ……。
そんな事は露しらず、両手を繋いで瑞葉は上機嫌で本丸へと帰るのであった。