11.労働環境は大事です
瑞葉はあんぐりと口を開けて、呆然と佇んだ。目の前にいた蜻蛉切はおろおろと手を泳がせ、御手杵はよく分かっていなさそうに顔をぽりぽりとかいている。瑞葉はわなわなと唇を震わせると、まだたどたどしい口調で悲鳴を上げた。
「おきゅうりょうが、ない……!?!?」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
瑞葉はこんのすけと別れた後、どこかに手の空いていそうな男士はいないかと本丸内を走り回っていた。とととっと廊下を走っていると、ちょうどよく向こうから歩いてきた二振りが見えたので駆け寄っていく。
「とんぼさーん、おてぎねー!」
「主、そう走っては危ないですよ」
「お、どうした?」
瑞葉が首を痛めそうなくらいに上を向いて近づけば、二振りはそっとしゃがんで視線を合わせる。二振りがしゃがんでもそれより小さい審神者の姿に、二振りは優しく目を細めた。瑞葉はさりげないやさしさに触れてくすぐったそうに微笑みつつ口を開く。
「あのね、ききたいことがあって」
「ええ、なんなりと」
「みんなっておやすみとか、おきゅうりょうはどうなってるの?」
「休みと給料ですか」
蜻蛉切はきょとん、として瞬きをする。
「仕事がなければ休みだし、給料は特にないなあ」
「え?」
横の御手杵があっけらかんと答えたが、瑞葉は聞き間違えたかと思った。給料が、ない?
「な、ない……? え?」
「そうですね、必要なものがあれば申請したり、小遣いが欲しいものは休みに稼ぎに行ったり……」
と、そこまで蜻蛉切が話したあたりで、やっと理解ができた審神者はこれでもかと目を見開いて頬を押さえる。
「な、ない……いままでずっと……」
「あ、主?」
本丸のお金は小判である。日頃の日課や大阪城で入手できるそれを、ゲームで使えるのは審神者のみ。もちろん、当たり前といえば当たり前なのだが、つまりそれは男士が自由に使えるお金がないということだ。瑞葉は大事な男士たちの労働環境を知って青ざめた。命を懸けて最前線で戦ってくれている彼らが無給で働いているだなんて、あってはいけない。瑞葉はもう半泣きで顔をしわくちゃにする。
「ええんごめんねええ!」
「主ー!?」
突然半泣きで駆けだした審神者に蜻蛉切と御手杵は慌てて立ち上がる。
瑞葉の本丸改革計画が幕を開けるのであった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
執務室にて、蜻蛉切に抱えられた瑞葉と、机の周りを囲む選ばれし男士たちの姿。そこにいるのは博多、長谷部、大包平、長義、膝丸、陸奥守という書類仕事、とりわけ財務に長けたものたちだ。ちなみに蜻蛉切は泣きながら走る瑞葉をあっさりと確保し、なんとか話を聞きだして執務室に連れてきた。急に泣き出してしまった瑞葉が心配でそのまま抱えている姿がまるで育児中の父親である。
「では! これよりみんなにわたすおきゅうりょうについてはなしあいます!」
気合十分といった表情で会議の開催を告げる瑞葉の目はまだちょっと赤い。蜻蛉切の膝の上できりりと目に力を入れ、本人はやる気十分である。しかし集まった面々は首をかしげて審神者を見た。
「給料ばい?」
「そこまでしていただかなくても……」
「だめ! みんなにはしっかりとおかねをうけとってもらわないと!」
目をぱちくりとする博多に長谷部。それを聞いてふんふんと鼻息を荒くする瑞葉に、長義が声をかける。
「くれるというのならいいんじゃないかな。そのあたりは本丸の方針によって様々だし」
「本丸の財政に響かないのであればいいのではないか」
「ま、正直嬉しい話ではあるのぉ」
「制度を決めるというのであれば、確かに色々と考えることがあるな」
好意的な膝丸、陸奥守と、腕を組んで考えこむ大包平。審神者も大包平と同じように腕を組んできゅっと眉を寄せた。
「そう、おかねのことはしっかりきめたいから、いっしょにかんがえてほしくて」
「そういうことなら力になろう」
「金のことなら任せんしゃい!」
瑞葉もそれほど経営のことには詳しくないので、これだけの頭脳が揃っているのは有り難かった。長谷部がパソコンを操作して現在の本丸の運営状況を審神者に伝える。
「こちらがデータになります。先日の大阪城もあり、それなりですね」
「いっぱいある」
よく分からないがとりあえずかなりの額の小判があることだけは分かった。まず小判の価値がそもそもよく分からないので瑞葉はしわしわの顔になる。
「ちょうどいいおきゅうりょうのがくがわからない……」
「大阪城はいつもあるわけではないからね、そこは除いた収支を見よう」
長義が見せたデータは、政府からの報酬と遠征での小判獲得が主な表だ。瑞葉はそれを見ながらぶつぶつと考える。
「あかじにならないように……でもみんなにおおくあげて……」
「このくらいの額であれば赤字にはならないのではないか?」
「全員一律がか?」
「うーん、それもね……ちょっとかんがえてて……」
瑞葉は蜻蛉切の膝の上で顎に手を当ててゆらゆらと揺れている。
「ながくここでがんばってくれたひとにはおおめにあげたりできたらなって」
「なるほど、顕現した歴で差をつけますか」
「ど、どうおもう……?」
瑞葉が自信なさげに男士たちに問えば、皆異論なさそうに微笑んで頷く。
「いいと思います。主のご配慮に感謝します」
「うむ、よいのではないか」
「それじゃあ、こんな感じにするのはどうばい?」
博多があっという間に審神者の要望通りの案をパソコンに打ち込んで見せる。それを見て瑞葉は目を輝かせた。
「すごい! かんぺき!」
「当然っちゃ!」
「あとね、それから──」
そこから細かな決めごとを話し合い、本丸の運営が変わっていく。瑞葉は興奮で頬を桃色にしながら必死に頭を働かせた。しかし幼子の体では体力が足りず、そのうちうとうとと舟をこぎ始める。
「お疲れですかな」
「んん……」
蜻蛉切が自分の体にそっと審神者をもたれさせると、人のぬくもりが伝わって抗いがたい眠気がやってくる。しばらく目をこすっていたが、やがて瑞葉はすうすうと寝息を立て始めた。ぽよ、と口を開けて眠る姿に男士たちの頬も緩む。
「……ふふ」
「こんな小さな体で……」
「自分は主を部屋に運んでくる」
「頼んだ」
「それまでにもう少しこの辺を詰めておくか」
「ああ」
こうして本丸初の給料制度が制定された。瑞葉は寝て起きたら完璧なルールができあがっていて目を丸くした。うちの刀たちがとても優秀。まず第一歩、男士たちの環境を改善できて満足そうにする瑞葉を、男士たちは愛おしそうに見つめるのであった。
「おきゅうりょうが、ない……!?!?」
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瑞葉はこんのすけと別れた後、どこかに手の空いていそうな男士はいないかと本丸内を走り回っていた。とととっと廊下を走っていると、ちょうどよく向こうから歩いてきた二振りが見えたので駆け寄っていく。
「とんぼさーん、おてぎねー!」
「主、そう走っては危ないですよ」
「お、どうした?」
瑞葉が首を痛めそうなくらいに上を向いて近づけば、二振りはそっとしゃがんで視線を合わせる。二振りがしゃがんでもそれより小さい審神者の姿に、二振りは優しく目を細めた。瑞葉はさりげないやさしさに触れてくすぐったそうに微笑みつつ口を開く。
「あのね、ききたいことがあって」
「ええ、なんなりと」
「みんなっておやすみとか、おきゅうりょうはどうなってるの?」
「休みと給料ですか」
蜻蛉切はきょとん、として瞬きをする。
「仕事がなければ休みだし、給料は特にないなあ」
「え?」
横の御手杵があっけらかんと答えたが、瑞葉は聞き間違えたかと思った。給料が、ない?
「な、ない……? え?」
「そうですね、必要なものがあれば申請したり、小遣いが欲しいものは休みに稼ぎに行ったり……」
と、そこまで蜻蛉切が話したあたりで、やっと理解ができた審神者はこれでもかと目を見開いて頬を押さえる。
「な、ない……いままでずっと……」
「あ、主?」
本丸のお金は小判である。日頃の日課や大阪城で入手できるそれを、ゲームで使えるのは審神者のみ。もちろん、当たり前といえば当たり前なのだが、つまりそれは男士が自由に使えるお金がないということだ。瑞葉は大事な男士たちの労働環境を知って青ざめた。命を懸けて最前線で戦ってくれている彼らが無給で働いているだなんて、あってはいけない。瑞葉はもう半泣きで顔をしわくちゃにする。
「ええんごめんねええ!」
「主ー!?」
突然半泣きで駆けだした審神者に蜻蛉切と御手杵は慌てて立ち上がる。
瑞葉の本丸改革計画が幕を開けるのであった。
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執務室にて、蜻蛉切に抱えられた瑞葉と、机の周りを囲む選ばれし男士たちの姿。そこにいるのは博多、長谷部、大包平、長義、膝丸、陸奥守という書類仕事、とりわけ財務に長けたものたちだ。ちなみに蜻蛉切は泣きながら走る瑞葉をあっさりと確保し、なんとか話を聞きだして執務室に連れてきた。急に泣き出してしまった瑞葉が心配でそのまま抱えている姿がまるで育児中の父親である。
「では! これよりみんなにわたすおきゅうりょうについてはなしあいます!」
気合十分といった表情で会議の開催を告げる瑞葉の目はまだちょっと赤い。蜻蛉切の膝の上できりりと目に力を入れ、本人はやる気十分である。しかし集まった面々は首をかしげて審神者を見た。
「給料ばい?」
「そこまでしていただかなくても……」
「だめ! みんなにはしっかりとおかねをうけとってもらわないと!」
目をぱちくりとする博多に長谷部。それを聞いてふんふんと鼻息を荒くする瑞葉に、長義が声をかける。
「くれるというのならいいんじゃないかな。そのあたりは本丸の方針によって様々だし」
「本丸の財政に響かないのであればいいのではないか」
「ま、正直嬉しい話ではあるのぉ」
「制度を決めるというのであれば、確かに色々と考えることがあるな」
好意的な膝丸、陸奥守と、腕を組んで考えこむ大包平。審神者も大包平と同じように腕を組んできゅっと眉を寄せた。
「そう、おかねのことはしっかりきめたいから、いっしょにかんがえてほしくて」
「そういうことなら力になろう」
「金のことなら任せんしゃい!」
瑞葉もそれほど経営のことには詳しくないので、これだけの頭脳が揃っているのは有り難かった。長谷部がパソコンを操作して現在の本丸の運営状況を審神者に伝える。
「こちらがデータになります。先日の大阪城もあり、それなりですね」
「いっぱいある」
よく分からないがとりあえずかなりの額の小判があることだけは分かった。まず小判の価値がそもそもよく分からないので瑞葉はしわしわの顔になる。
「ちょうどいいおきゅうりょうのがくがわからない……」
「大阪城はいつもあるわけではないからね、そこは除いた収支を見よう」
長義が見せたデータは、政府からの報酬と遠征での小判獲得が主な表だ。瑞葉はそれを見ながらぶつぶつと考える。
「あかじにならないように……でもみんなにおおくあげて……」
「このくらいの額であれば赤字にはならないのではないか?」
「全員一律がか?」
「うーん、それもね……ちょっとかんがえてて……」
瑞葉は蜻蛉切の膝の上で顎に手を当ててゆらゆらと揺れている。
「ながくここでがんばってくれたひとにはおおめにあげたりできたらなって」
「なるほど、顕現した歴で差をつけますか」
「ど、どうおもう……?」
瑞葉が自信なさげに男士たちに問えば、皆異論なさそうに微笑んで頷く。
「いいと思います。主のご配慮に感謝します」
「うむ、よいのではないか」
「それじゃあ、こんな感じにするのはどうばい?」
博多があっという間に審神者の要望通りの案をパソコンに打ち込んで見せる。それを見て瑞葉は目を輝かせた。
「すごい! かんぺき!」
「当然っちゃ!」
「あとね、それから──」
そこから細かな決めごとを話し合い、本丸の運営が変わっていく。瑞葉は興奮で頬を桃色にしながら必死に頭を働かせた。しかし幼子の体では体力が足りず、そのうちうとうとと舟をこぎ始める。
「お疲れですかな」
「んん……」
蜻蛉切が自分の体にそっと審神者をもたれさせると、人のぬくもりが伝わって抗いがたい眠気がやってくる。しばらく目をこすっていたが、やがて瑞葉はすうすうと寝息を立て始めた。ぽよ、と口を開けて眠る姿に男士たちの頬も緩む。
「……ふふ」
「こんな小さな体で……」
「自分は主を部屋に運んでくる」
「頼んだ」
「それまでにもう少しこの辺を詰めておくか」
「ああ」
こうして本丸初の給料制度が制定された。瑞葉は寝て起きたら完璧なルールができあがっていて目を丸くした。うちの刀たちがとても優秀。まず第一歩、男士たちの環境を改善できて満足そうにする瑞葉を、男士たちは愛おしそうに見つめるのであった。