10.変わらないもの
憧れていた外の世界、やっぱり少し大変だけど、みんなと一緒なら何も怖くない。
新しい審神者名を登録し、改めて本丸を運営していくことになった。みんなと一緒にいられることが嬉しくて、すっかり頭から抜けていたけれど。
「さにわってなにをしたらいいの?」
ちょうどその辺を歩いていたこんのすけを捕まえて聞いてみる。せっかく審神者になれたのだ、しっかりと働いていきたい。今まではスマホから日課を終わらせるぐらいだったけど、きっと勝手も違うのだろう。そう思って真剣な顔で返事を待てば、こんのすけはぽふりとしっぽを回す。
「ここの本丸は少々特殊でして」
「とくしゅ?」
「ええ。『竜胆』様の頃より、刀剣男士の皆様が業務を担っていた部分も多く……審神者様は手入れや出陣の指示が主な業務になるでしょう」
「あんまりまえとかわらないのかな」
「そう思っていただいて構いません」
確かに前からこの本丸はあったんだから、みんなが中心に色々やってくれてたのか。そういえばこの前政府に顔を出しに行った時も、加州たちは手続きを難なくこなしていたし。なんて頼りになる。
ふんふんと頷きながら短い腕を組んで、ゲームでやっていた内容を思い返す。内番と遠征と、あとは……。
「あ、えんれんってどんなかんじなの? どこかにいってやるの?」
ゲームでは他の審神者さんと関わる数少ない機能だったが、ここではどうなのだろう。こてんと首をかしげて見せれば、こんのすけはぱちりと瞬きをする。
「演練は政府の施設で行われます。といっても強制ではないので参加するもしないも任意です。日課の報酬のために参加する方は多いですが」
「なるほど、そのうちいってみたいな」
竜胆の頃にそれなりに資材も小判も貯めていたので、焦って参加する必要はなさそうだ。本丸が落ち着いたら参加することにしよう。少しずつ確実にこの本丸を運用していきたい。だってこれはゲームじゃないんだから。
「あとみんなのおかねってどうなってるんだろう……ごはんとか、おやすみのひもちゃんとあるかかくにんして……」
やりたいことがたくさんだ。むんと気合を入れて見せる瑞葉を、こんのすけは目を細めて見つめる。そして少し考えるように目を閉じるとしっぽをふるりと動かした。
「……変わりませんねえ」
「ん?」
「いえ、ではこんのすけはこれで」
ぽふぽふと歩いて行ったこんのすけを見送りつつ、瑞葉は気合十分な表情で本丸の中を駆けて行った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
本丸の中の執務室、そこでは長谷部、長義、加州が書類仕事をしていた。キーボードを叩く音、書類をめくる音が聞こえる部屋に、来客が現れる。
「失礼します」
「こんのすけ? 何かあった?」
部屋に入ってきたのはこんのすけだ。加州が声をかければトコトコと中に入ってくる。こんのすけは机の横で脚を止めて三振りの男士を見上げた。
「審神者様のことでご相談がございまして」
「主に何かあったのか」
長谷部がすぐに作業の手を止めて反応する。長義もぴくりと眉を動かして視線をこんのすけに向けた。
「先ほど審神者様から演練についてのご質問がありまして」
「ああ、政府に行くやつだね。主はなんと?」
「『そのうち参加したい』と」
そこでこんのすけは一度言葉を区切る。すっと視線を下げると言葉を続けた。
「演練に瑞葉様のような幼い審神者様が参加されることは前例がなく、政府が何か対応するとも思えません」
「はっきり言うな」
「ええ、ですので念のため……一部隊の刀剣男士様に加え、もう一振り追加で審神者様に同行できるよう先に申請をしてみてはいかがでしょう」
こんのすけの言葉に意外そうな表情をしたのは長義だ。口端を上げると面白そうにこんのすけを見る。
「こんのすけからそういうことを言うのは珍しい」
「そうなの?」
「個体にもよるが、前例のないことは提案しない場合が多いね」
三振りの視線を受けて、こんのすけは乱れてもいない毛並みを直す。加州もふうん? と笑みを浮かべて片肘をつく。
「へえ、こんのすけもけっこう主のこと好きなんだ」
「……刀剣男士様も、わたくしのことも大事にしてくださいますから」
「当然だ、俺の主だからな」
「は? 俺のだから」
長谷部と加州がガンを飛ばしている間に、長義はパソコンを操作して早速書類の準備に取り掛かっている。
「護衛申請のフォーマットと似た書類で構わないかな?」
「はい、それで問題ないかと」
「さすが政府刀、頼りになる」
「ふふ」
政府への申請は時間がかかる。それでなくとも前例のない事例だ、早めに提出するに越したことはないだろう。長義は慣れた手つきで書類を作成していく。ちらりとこんのすけに目をやれば、まだ乱れてもいない毛並みを整えていた。この本丸の皆が主に愛され、また本丸の皆も主を慕っている。良い本丸じゃないか。長義は口元を和らげながらエンターキーを叩いた。
新しい審神者名を登録し、改めて本丸を運営していくことになった。みんなと一緒にいられることが嬉しくて、すっかり頭から抜けていたけれど。
「さにわってなにをしたらいいの?」
ちょうどその辺を歩いていたこんのすけを捕まえて聞いてみる。せっかく審神者になれたのだ、しっかりと働いていきたい。今まではスマホから日課を終わらせるぐらいだったけど、きっと勝手も違うのだろう。そう思って真剣な顔で返事を待てば、こんのすけはぽふりとしっぽを回す。
「ここの本丸は少々特殊でして」
「とくしゅ?」
「ええ。『竜胆』様の頃より、刀剣男士の皆様が業務を担っていた部分も多く……審神者様は手入れや出陣の指示が主な業務になるでしょう」
「あんまりまえとかわらないのかな」
「そう思っていただいて構いません」
確かに前からこの本丸はあったんだから、みんなが中心に色々やってくれてたのか。そういえばこの前政府に顔を出しに行った時も、加州たちは手続きを難なくこなしていたし。なんて頼りになる。
ふんふんと頷きながら短い腕を組んで、ゲームでやっていた内容を思い返す。内番と遠征と、あとは……。
「あ、えんれんってどんなかんじなの? どこかにいってやるの?」
ゲームでは他の審神者さんと関わる数少ない機能だったが、ここではどうなのだろう。こてんと首をかしげて見せれば、こんのすけはぱちりと瞬きをする。
「演練は政府の施設で行われます。といっても強制ではないので参加するもしないも任意です。日課の報酬のために参加する方は多いですが」
「なるほど、そのうちいってみたいな」
竜胆の頃にそれなりに資材も小判も貯めていたので、焦って参加する必要はなさそうだ。本丸が落ち着いたら参加することにしよう。少しずつ確実にこの本丸を運用していきたい。だってこれはゲームじゃないんだから。
「あとみんなのおかねってどうなってるんだろう……ごはんとか、おやすみのひもちゃんとあるかかくにんして……」
やりたいことがたくさんだ。むんと気合を入れて見せる瑞葉を、こんのすけは目を細めて見つめる。そして少し考えるように目を閉じるとしっぽをふるりと動かした。
「……変わりませんねえ」
「ん?」
「いえ、ではこんのすけはこれで」
ぽふぽふと歩いて行ったこんのすけを見送りつつ、瑞葉は気合十分な表情で本丸の中を駆けて行った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
本丸の中の執務室、そこでは長谷部、長義、加州が書類仕事をしていた。キーボードを叩く音、書類をめくる音が聞こえる部屋に、来客が現れる。
「失礼します」
「こんのすけ? 何かあった?」
部屋に入ってきたのはこんのすけだ。加州が声をかければトコトコと中に入ってくる。こんのすけは机の横で脚を止めて三振りの男士を見上げた。
「審神者様のことでご相談がございまして」
「主に何かあったのか」
長谷部がすぐに作業の手を止めて反応する。長義もぴくりと眉を動かして視線をこんのすけに向けた。
「先ほど審神者様から演練についてのご質問がありまして」
「ああ、政府に行くやつだね。主はなんと?」
「『そのうち参加したい』と」
そこでこんのすけは一度言葉を区切る。すっと視線を下げると言葉を続けた。
「演練に瑞葉様のような幼い審神者様が参加されることは前例がなく、政府が何か対応するとも思えません」
「はっきり言うな」
「ええ、ですので念のため……一部隊の刀剣男士様に加え、もう一振り追加で審神者様に同行できるよう先に申請をしてみてはいかがでしょう」
こんのすけの言葉に意外そうな表情をしたのは長義だ。口端を上げると面白そうにこんのすけを見る。
「こんのすけからそういうことを言うのは珍しい」
「そうなの?」
「個体にもよるが、前例のないことは提案しない場合が多いね」
三振りの視線を受けて、こんのすけは乱れてもいない毛並みを直す。加州もふうん? と笑みを浮かべて片肘をつく。
「へえ、こんのすけもけっこう主のこと好きなんだ」
「……刀剣男士様も、わたくしのことも大事にしてくださいますから」
「当然だ、俺の主だからな」
「は? 俺のだから」
長谷部と加州がガンを飛ばしている間に、長義はパソコンを操作して早速書類の準備に取り掛かっている。
「護衛申請のフォーマットと似た書類で構わないかな?」
「はい、それで問題ないかと」
「さすが政府刀、頼りになる」
「ふふ」
政府への申請は時間がかかる。それでなくとも前例のない事例だ、早めに提出するに越したことはないだろう。長義は慣れた手つきで書類を作成していく。ちらりとこんのすけに目をやれば、まだ乱れてもいない毛並みを整えていた。この本丸の皆が主に愛され、また本丸の皆も主を慕っている。良い本丸じゃないか。長義は口元を和らげながらエンターキーを叩いた。