ワイミーズハウス襲撃事件
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~ヒーロー~
地下室にはワイミーズハウスの歴史が詰まっている。Lが昔使っていたパソコン、古いおもちゃや落書きなどいろいろなものがしまってある。しかしどれもあまり埃はかぶっていない。それは院長や私を含めた何人かで定期的に掃除しているからだ。
経年劣化を遅らせるために部屋は薄暗く、淡い光を放つ電球が天井からぶら下がっているだけだ。そのため、地下室での作業では万が一電気が消えた時の懐中電灯が必須アイテムだ。その万が一が今日起きた。掃除の一休みに昔Lくんと一緒に描いてたらくがきを懐かしさに浸りながら懐中電灯の明かりで照らしながら見ていると、フッと一段と部屋が暗くなるのを感じた。ブレーカーが落ちたのかまたは電球がダメになったのか…とりあえず院長に報告をしようと地下室を後にする。
地上に出てくるとそこもまた暗かった。時刻は夜の8時過ぎ。消灯時間にはまだ少し早い。となるとブレーカーの方か…なんて考えていると遠くで銃声が聞こえてくる。孤児院で聞こえるはずのない音にすぐさま襲撃という文字が頭の中に浮かぶ。襲撃の際、まずは護衛対象の安全確認。軍で叩き込まれた戦略と経験で身体が勝手に動く。私の護衛対象はニアとメロ。2人が普段いるはずの部屋に向かって走り出す。捜索の時に無闇に光を出せば敵に自分の居場所がバレてしまうため懐中電灯は使えない。暗くて視界は悪いが、この孤児院の間取りはすべて把握している。
しかし部屋に着くとそこには誰もいなかった。机が倒れており、もうすでに敵が通った後だと物語る。手がかりがないかと懐中電灯をシャツで被せて明るさを抑えた状態で辺りを照らす。すると目の端に何かが光るのを見つけた。それは白いパズルのピースだった。
「ニア…」
そのパズルのピースは廊下の方にも落ちており、まるでヘンゼルとグレーテルのパンくずの道のように何処かへと誘導しているようだった。パズルの道を辿っていくとそこは私の部屋だった。見た目は倉庫部屋にしか見えないが、私が改良して住めるようにしている。ブレーカーが落ちているため、中は真っ暗だ。懐中電灯をシャツの下から取り出し、ゆっくり扉を開ける。そして後ろ手で扉を閉めてから暗い部屋を懐中電灯で照らす。
「ニア、えりだよ。ここにいるの?」
「…えり姉?」
声の聞こえた方を向き、照らすと洗濯カゴの服の山からニアが頭を出していた。私は白いシャツを好んで着るため全体的に白いニアには打って付けの隠れ場所だったのだろう。そしてまさか洗濯物を溜め込む癖がここで助けになるとは…ニアをシャツの山から引っ張り出して話を聞く。するとどうやら襲撃の時に物陰に隠れてやり過ごしたがメロを含め他の全員が連れて行かれたとのこと。その時に人数を数えていたので敵が子供達の人数を把握しているという情報漏洩の疑い。また、自分が私の部屋の来たのは、私が必ずそこに辿り着くと思ったからだそうだ。
予備の電源でWi-Fiを起動してパソコンも付ける。私のパソコンはノートパソコンのため、電源が通っていなくてもバッテリーで何時間かは持つ。急いで操作して孤児院内に秘密裏に設置していた監視カメラの画像を画面に出す。すると大広間に皆が集められているのを見つけた。懐中電灯の数を見ると敵は3人…だがたったの3人で乗り込んだとは思えない。そう思っていたら扉の外から足音が聞こえてくる。数は1。ニアの方を向くと、視線が合う。ニアは静かに頷き、再びシャツの山に埋まっていく。監視カメラの映像を閉じてドアの方を見つめる。すると程なくしてドアが勢いよく開けられる。
「おやぁ?やっぱりまだいたんだ〜。お姉さん1人?一緒に来てもらおうかなぁ。」
細身の男がニヤニヤしながら私の身体を上から下へと懐中電灯でゆっくり照らしながら、まるで舐め回すように見つめてくる。そしてその男はポケットから何かを取り出そうとポケットに手が触れた瞬間に一気に距離を詰めて股間に対してキックを入れ込む。男の手から通信機が落ちてゴトリと鈍い音をして床に当たる。男が倒れ込むと同時に見えた腰に付いてた銃から慣れた手付きで弾を抜いてポケットにしまい、そっと銃だけを元の場所に戻す。
ドアが空いていたため廊下にも音が響きわたり、足音が一つこちらに向かって走ってくるのが聞こえてきた。距離はかなり近かったらしくすぐにその足元の主と対面することになった。さっきの男とは真反対の巨漢だった。
「なんだ?お前こんな姉ちゃんにやられたのかよ。情けねぇな」
股間にダイレクトヒットされた細身の男はあまりの痛さに声が出ず、ただ床でヒィヒィと這いつくばっていた。
「悪いけど俺は女だろうが容赦しねぇぞ」
そう言い、巨漢は顔面に目掛けて右ストレートを仕掛けてくる。しかし私はそれを予知してしゃがみ、今度はチョップで敵の股間に攻撃する。巨漢は一瞬怯み、そのまま足を引っ掛けてヤツを転ばせることに成功する。そしてすかさず首に注射器を刺す。すると最初は暴れていた巨漢が段々と動きが弱くなっていき、そのまま動かなくなる。
「お、お前、ソイツに何にしたんだ…」
「麻酔の注射だよ。それよりキミにやってもらいたいことがあるんだけど…やってくれるよね?」
そう言い、使った注射器を細身の男に近づける。
「わ、分かった!言うこと聞くから!」
細身の男は手を上げ、無抵抗だと必死に訴えて来た。とりあえず床に落ちていた通信機と巨漢の通信機を取り上げて机の上に置く。そしてニアが入っているシャツの山から2枚シャツを取り、巨漢を縛り上げる。縛り上げた後に、細身の男に私を捕まえたというていで一緒に仲間のところの連れて行くように話した。すると突然
「私も行きます。」
ニアが再びシャツの山から顔を出す。
「ここで1人待つなんて嫌です。私も行きます。」
ここに置いていった方が安全だが、いくら麻酔しているといっても巨漢と2人きりというものは嫌だろう。仕方なくニアも連れていくことにした。細身の男がニヤりと口が動くのを目の端で見ながら金庫から銃と手榴弾を取り出す。注射筒型の麻酔弾を使用する小型の麻酔銃だ。さっきの注射器はこの銃の弾の中身のスペアみたいなものだ。手榴弾は閃光手榴弾といって攻撃力はなく、代わりに眩しい光を放つというものだ。孤児院に万が一の場合でも金庫が敵や子供たちに開けられる可能性を考えて殺傷能力があるものなんて置いておけるわけがないからね。男にバレないようにニアに注射器を一本渡し、彼はブカブカの袖の中に隠す。
準備を整えた私はニアを先頭にし、その後ろに私、最後に細身の男という順番で部屋を出る。この編成ならニアが男に狙われる可能性をを私と言う壁で阻止できる。私の部屋から大広間まではそこそこの距離はあるからニアが先頭で懐中電灯を照らしながら歩く。しばらく歩くと大広間に着き、敵のリーダーらしき人が声をかけてくる。
「なんだ、残りの2人見つけたのか!ジョンの奴は一緒じゃないのか?」
「あ、あぁアイツなら一応他に誰かいないかもう少し歩き回るって言ってたぜ」
「そうか。じゃとりあえずその2人も目隠しと…」
ピンを外し、空中に閃光手榴弾を投げる。敵の位置は懐中電灯で把握済みだ。光が爆発する瞬間に目を瞑り、麻酔銃を取り出して撃つ。下っ端らしき2人を麻酔銃で鎮圧した後に敵リーダーへと目掛けて走る。敵リーダーはサングラスをしていたため閃光手榴弾の威力は十分には効いていないはずだ。そのため麻酔銃で狙っても当たる保証がなかった。敵の手からアサルトライフルを蹴り落としたところで敵は状況を理解しナイフを振るってきた。私もそれに応戦するように隠しナイフを取り出す。他のやつと違ってコイツは明らかに強かった。軍経験者の傭兵ってところだろう。
「姉ちゃんやるねぇ。動きから見てあんたも軍経験者か?言っておくが殺す気で来いよ。俺に脅しは意味ねぇからな」
「そのようですよね…」
ナイフを握り直し、敵を睨みつける。そしてまたぶつかり合う。お互い切り傷は増えて行くが決定打がなく、戦いは無意味に長引いていた。すると外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。実は監視カメラの映像を信頼のできる警察関係者に配信しており、その到着を待っていたのだ。
「お、お姉さんそこまでだ!この子がどうなってもいいのか!?」
細身の男がパトカーの音で慌てたようにニアの頭に銃を突きつける。だが、私はそちらに見向きもしなかった。しかしリーダー格の男はそれに対して一瞬注意を私から逸らした。その瞬間を待っていた私はナイフを瞬時にヤツの首元に当てて掻き切った。男の首から勢いよく血が吹き出す。突然のことのよろめく男に対してトドメをと、ナイフをさらに胸元へと突き刺す。細身の男はその光景から目が離せなかったようでニアに麻酔入りの注射を打たれ、そのまま倒れ込んだ。私の身体は返り血で赤く染まり、手もまたベタベタと赤く光っていた。
数分後には警察が孤児院に突入しており、皆外に出されてから目隠しや縛り上げられていた紐やガムテープを外された。しばらくは現場保護のため大広間へは立ち入り禁止になるだろう。血の掃除も含めてね。
私はというと自室に一旦戻り、手と顔を軽く洗ってから新しい服に着替える。子供達に血濡れた姿を見せる訳にはいかないからね。後ろに近づく気配を感じ、ナイフを構えながらバッと振り向く。
「なんだニアか。ごめんね、今アドレナリンでピリピリしてるんだ。」
ナイフをしまい、ニアに向かって微笑む。
「いえ、私の方こそ先に声をかけるべきでした。」
「そういえば何で来たの?皆今はもう外に連れて行かれてたと思うんだけど。」
「えり姉の様子が気になったので…というのはダメですか?」
心配してくれたのが嬉しくてニアの頭を撫でようと手を近付けるが、その手がさっきまで血に濡れていたのを思い出して引っ込める。
「ありがとう。大丈夫だよ!ニアやメロほど頭がよくない私が出来ることなんてこれくらいだから。」
ニアは引っ込められた手の方をジッと見つめていたが少しため息をついてから喋り出した。
「えり姉は馬鹿じゃないですよ。あの時だって最善の策だったと思います。敵リーダーは引く気がなかったですし本当に死ぬまで諦めなかったと思います。それに私に銃を突きつけてきた男の銃はすでに弾を抜き終えていたのでノーリスクで敵の注意を引けましたね。」
「私がニアを利用したみたいに聞こえるな…」
「実際そうでしょう?あなたはあの時私の方を見向きもしませんでした。私の命の安全が保障されているのを知っていてチャンスを伺っていたのでしょう?」
「さすがニアだね。その通りだよ。」
負けたよなんて言わんばかりに両手を上げて微笑む。それが気に入らなかったようでニアは唇を尖らせる。そして急に私の腰に抱きつく。
「えり姉は皆を助けたヒーローなんです。誇りに思ってもいいんですよ?」
自分の手が気になって抱き返せずに手をうろうろさせているとニアが、
「子供が抱きついているんですよ?安心させるために抱き返したらどうですか?」
なんて言ってくる。
その子供から言われた子供らしくない発言に笑いを抑えきれなかった。笑いながらギュッと抱き返す。ニアは私の手が血で汚れていても構わないと言いたいのだろう。彼は不器用だが優しい一面がある。歳下なのに変に気を使わせちゃったな、と心の中で反省しながらニアの手を取って皆のいる外へと向かった。
地下室にはワイミーズハウスの歴史が詰まっている。Lが昔使っていたパソコン、古いおもちゃや落書きなどいろいろなものがしまってある。しかしどれもあまり埃はかぶっていない。それは院長や私を含めた何人かで定期的に掃除しているからだ。
経年劣化を遅らせるために部屋は薄暗く、淡い光を放つ電球が天井からぶら下がっているだけだ。そのため、地下室での作業では万が一電気が消えた時の懐中電灯が必須アイテムだ。その万が一が今日起きた。掃除の一休みに昔Lくんと一緒に描いてたらくがきを懐かしさに浸りながら懐中電灯の明かりで照らしながら見ていると、フッと一段と部屋が暗くなるのを感じた。ブレーカーが落ちたのかまたは電球がダメになったのか…とりあえず院長に報告をしようと地下室を後にする。
地上に出てくるとそこもまた暗かった。時刻は夜の8時過ぎ。消灯時間にはまだ少し早い。となるとブレーカーの方か…なんて考えていると遠くで銃声が聞こえてくる。孤児院で聞こえるはずのない音にすぐさま襲撃という文字が頭の中に浮かぶ。襲撃の際、まずは護衛対象の安全確認。軍で叩き込まれた戦略と経験で身体が勝手に動く。私の護衛対象はニアとメロ。2人が普段いるはずの部屋に向かって走り出す。捜索の時に無闇に光を出せば敵に自分の居場所がバレてしまうため懐中電灯は使えない。暗くて視界は悪いが、この孤児院の間取りはすべて把握している。
しかし部屋に着くとそこには誰もいなかった。机が倒れており、もうすでに敵が通った後だと物語る。手がかりがないかと懐中電灯をシャツで被せて明るさを抑えた状態で辺りを照らす。すると目の端に何かが光るのを見つけた。それは白いパズルのピースだった。
「ニア…」
そのパズルのピースは廊下の方にも落ちており、まるでヘンゼルとグレーテルのパンくずの道のように何処かへと誘導しているようだった。パズルの道を辿っていくとそこは私の部屋だった。見た目は倉庫部屋にしか見えないが、私が改良して住めるようにしている。ブレーカーが落ちているため、中は真っ暗だ。懐中電灯をシャツの下から取り出し、ゆっくり扉を開ける。そして後ろ手で扉を閉めてから暗い部屋を懐中電灯で照らす。
「ニア、えりだよ。ここにいるの?」
「…えり姉?」
声の聞こえた方を向き、照らすと洗濯カゴの服の山からニアが頭を出していた。私は白いシャツを好んで着るため全体的に白いニアには打って付けの隠れ場所だったのだろう。そしてまさか洗濯物を溜め込む癖がここで助けになるとは…ニアをシャツの山から引っ張り出して話を聞く。するとどうやら襲撃の時に物陰に隠れてやり過ごしたがメロを含め他の全員が連れて行かれたとのこと。その時に人数を数えていたので敵が子供達の人数を把握しているという情報漏洩の疑い。また、自分が私の部屋の来たのは、私が必ずそこに辿り着くと思ったからだそうだ。
予備の電源でWi-Fiを起動してパソコンも付ける。私のパソコンはノートパソコンのため、電源が通っていなくてもバッテリーで何時間かは持つ。急いで操作して孤児院内に秘密裏に設置していた監視カメラの画像を画面に出す。すると大広間に皆が集められているのを見つけた。懐中電灯の数を見ると敵は3人…だがたったの3人で乗り込んだとは思えない。そう思っていたら扉の外から足音が聞こえてくる。数は1。ニアの方を向くと、視線が合う。ニアは静かに頷き、再びシャツの山に埋まっていく。監視カメラの映像を閉じてドアの方を見つめる。すると程なくしてドアが勢いよく開けられる。
「おやぁ?やっぱりまだいたんだ〜。お姉さん1人?一緒に来てもらおうかなぁ。」
細身の男がニヤニヤしながら私の身体を上から下へと懐中電灯でゆっくり照らしながら、まるで舐め回すように見つめてくる。そしてその男はポケットから何かを取り出そうとポケットに手が触れた瞬間に一気に距離を詰めて股間に対してキックを入れ込む。男の手から通信機が落ちてゴトリと鈍い音をして床に当たる。男が倒れ込むと同時に見えた腰に付いてた銃から慣れた手付きで弾を抜いてポケットにしまい、そっと銃だけを元の場所に戻す。
ドアが空いていたため廊下にも音が響きわたり、足音が一つこちらに向かって走ってくるのが聞こえてきた。距離はかなり近かったらしくすぐにその足元の主と対面することになった。さっきの男とは真反対の巨漢だった。
「なんだ?お前こんな姉ちゃんにやられたのかよ。情けねぇな」
股間にダイレクトヒットされた細身の男はあまりの痛さに声が出ず、ただ床でヒィヒィと這いつくばっていた。
「悪いけど俺は女だろうが容赦しねぇぞ」
そう言い、巨漢は顔面に目掛けて右ストレートを仕掛けてくる。しかし私はそれを予知してしゃがみ、今度はチョップで敵の股間に攻撃する。巨漢は一瞬怯み、そのまま足を引っ掛けてヤツを転ばせることに成功する。そしてすかさず首に注射器を刺す。すると最初は暴れていた巨漢が段々と動きが弱くなっていき、そのまま動かなくなる。
「お、お前、ソイツに何にしたんだ…」
「麻酔の注射だよ。それよりキミにやってもらいたいことがあるんだけど…やってくれるよね?」
そう言い、使った注射器を細身の男に近づける。
「わ、分かった!言うこと聞くから!」
細身の男は手を上げ、無抵抗だと必死に訴えて来た。とりあえず床に落ちていた通信機と巨漢の通信機を取り上げて机の上に置く。そしてニアが入っているシャツの山から2枚シャツを取り、巨漢を縛り上げる。縛り上げた後に、細身の男に私を捕まえたというていで一緒に仲間のところの連れて行くように話した。すると突然
「私も行きます。」
ニアが再びシャツの山から顔を出す。
「ここで1人待つなんて嫌です。私も行きます。」
ここに置いていった方が安全だが、いくら麻酔しているといっても巨漢と2人きりというものは嫌だろう。仕方なくニアも連れていくことにした。細身の男がニヤりと口が動くのを目の端で見ながら金庫から銃と手榴弾を取り出す。注射筒型の麻酔弾を使用する小型の麻酔銃だ。さっきの注射器はこの銃の弾の中身のスペアみたいなものだ。手榴弾は閃光手榴弾といって攻撃力はなく、代わりに眩しい光を放つというものだ。孤児院に万が一の場合でも金庫が敵や子供たちに開けられる可能性を考えて殺傷能力があるものなんて置いておけるわけがないからね。男にバレないようにニアに注射器を一本渡し、彼はブカブカの袖の中に隠す。
準備を整えた私はニアを先頭にし、その後ろに私、最後に細身の男という順番で部屋を出る。この編成ならニアが男に狙われる可能性をを私と言う壁で阻止できる。私の部屋から大広間まではそこそこの距離はあるからニアが先頭で懐中電灯を照らしながら歩く。しばらく歩くと大広間に着き、敵のリーダーらしき人が声をかけてくる。
「なんだ、残りの2人見つけたのか!ジョンの奴は一緒じゃないのか?」
「あ、あぁアイツなら一応他に誰かいないかもう少し歩き回るって言ってたぜ」
「そうか。じゃとりあえずその2人も目隠しと…」
ピンを外し、空中に閃光手榴弾を投げる。敵の位置は懐中電灯で把握済みだ。光が爆発する瞬間に目を瞑り、麻酔銃を取り出して撃つ。下っ端らしき2人を麻酔銃で鎮圧した後に敵リーダーへと目掛けて走る。敵リーダーはサングラスをしていたため閃光手榴弾の威力は十分には効いていないはずだ。そのため麻酔銃で狙っても当たる保証がなかった。敵の手からアサルトライフルを蹴り落としたところで敵は状況を理解しナイフを振るってきた。私もそれに応戦するように隠しナイフを取り出す。他のやつと違ってコイツは明らかに強かった。軍経験者の傭兵ってところだろう。
「姉ちゃんやるねぇ。動きから見てあんたも軍経験者か?言っておくが殺す気で来いよ。俺に脅しは意味ねぇからな」
「そのようですよね…」
ナイフを握り直し、敵を睨みつける。そしてまたぶつかり合う。お互い切り傷は増えて行くが決定打がなく、戦いは無意味に長引いていた。すると外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。実は監視カメラの映像を信頼のできる警察関係者に配信しており、その到着を待っていたのだ。
「お、お姉さんそこまでだ!この子がどうなってもいいのか!?」
細身の男がパトカーの音で慌てたようにニアの頭に銃を突きつける。だが、私はそちらに見向きもしなかった。しかしリーダー格の男はそれに対して一瞬注意を私から逸らした。その瞬間を待っていた私はナイフを瞬時にヤツの首元に当てて掻き切った。男の首から勢いよく血が吹き出す。突然のことのよろめく男に対してトドメをと、ナイフをさらに胸元へと突き刺す。細身の男はその光景から目が離せなかったようでニアに麻酔入りの注射を打たれ、そのまま倒れ込んだ。私の身体は返り血で赤く染まり、手もまたベタベタと赤く光っていた。
数分後には警察が孤児院に突入しており、皆外に出されてから目隠しや縛り上げられていた紐やガムテープを外された。しばらくは現場保護のため大広間へは立ち入り禁止になるだろう。血の掃除も含めてね。
私はというと自室に一旦戻り、手と顔を軽く洗ってから新しい服に着替える。子供達に血濡れた姿を見せる訳にはいかないからね。後ろに近づく気配を感じ、ナイフを構えながらバッと振り向く。
「なんだニアか。ごめんね、今アドレナリンでピリピリしてるんだ。」
ナイフをしまい、ニアに向かって微笑む。
「いえ、私の方こそ先に声をかけるべきでした。」
「そういえば何で来たの?皆今はもう外に連れて行かれてたと思うんだけど。」
「えり姉の様子が気になったので…というのはダメですか?」
心配してくれたのが嬉しくてニアの頭を撫でようと手を近付けるが、その手がさっきまで血に濡れていたのを思い出して引っ込める。
「ありがとう。大丈夫だよ!ニアやメロほど頭がよくない私が出来ることなんてこれくらいだから。」
ニアは引っ込められた手の方をジッと見つめていたが少しため息をついてから喋り出した。
「えり姉は馬鹿じゃないですよ。あの時だって最善の策だったと思います。敵リーダーは引く気がなかったですし本当に死ぬまで諦めなかったと思います。それに私に銃を突きつけてきた男の銃はすでに弾を抜き終えていたのでノーリスクで敵の注意を引けましたね。」
「私がニアを利用したみたいに聞こえるな…」
「実際そうでしょう?あなたはあの時私の方を見向きもしませんでした。私の命の安全が保障されているのを知っていてチャンスを伺っていたのでしょう?」
「さすがニアだね。その通りだよ。」
負けたよなんて言わんばかりに両手を上げて微笑む。それが気に入らなかったようでニアは唇を尖らせる。そして急に私の腰に抱きつく。
「えり姉は皆を助けたヒーローなんです。誇りに思ってもいいんですよ?」
自分の手が気になって抱き返せずに手をうろうろさせているとニアが、
「子供が抱きついているんですよ?安心させるために抱き返したらどうですか?」
なんて言ってくる。
その子供から言われた子供らしくない発言に笑いを抑えきれなかった。笑いながらギュッと抱き返す。ニアは私の手が血で汚れていても構わないと言いたいのだろう。彼は不器用だが優しい一面がある。歳下なのに変に気を使わせちゃったな、と心の中で反省しながらニアの手を取って皆のいる外へと向かった。
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