記憶喪失ネタ
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連れて行かれたのは大きいビルの地下室。大量のモニターがそこら中に並べており、ニュースやその他資料など世界各国の情報が表示されている。忙しそうに電話の対応する人やパソコンの画面と睨み合いながらキーボードを叩いている人。ここは少数ながらも活気にあふれていた。
「ここが作戦本部です。今はキラに纏わる情報を集めています。えり姉のデスクはここです。」
私のデスクと呼ばれた場所は誕生日席のような位置で他の人たちのデスクより一回り大きかった。だがパソコン、捜査資料と思われるファイルと筆記用具が綺麗に並べてあったくらいで特にめぼしい情報は得られなかった。
「パソコンはプライバシー保護のためまだハッキングはしていません。もし中身が見たい場合は言ってもらえれば手配します。」
「手配するって…ニアって何者?ここのボスなの?」
「ボスという言葉にはしっくりきませんが、そうです。私がSPKのリーダーです。」
「天才少年とかそういうやつ?すごいな…しかも私こんなところで働いてたの?私も実はすごかったりして…なんて」
「えり姉はすごいですよ。」
間を置かずにすぐ答えるものだからキョトンと静止してしまった。そんな私を見てニアはフッと鼻で笑い、「えり姉の自室に行きましょうか」と腕を引っ張ってくる。
私の自室と呼ばれる部屋はホテルの一室のような作りで、広くもなく狭くもないといった感じだった。どうやらもっと広い部屋もあったのだが、広すぎると落ち着かないという私の希望でこの広さになったらしい。部屋の中を歩き回ると確かにさっきの作戦本部の大部屋より大分落ち着く空間だ。
クローゼットを開けてみるとそこには今着ているベスト姿と同じセットの服装が何着も入っていた。どうやら私は服にはあまり興味がないようだ。唯一見つけた私服らしい服は棚の奥の方に綺麗に収納されていた。
ベッドに腰掛けて今までの情報を整理してみる。私はニアの部下でSPKの中でもそれなりの役職についている。目立った趣味などはないが、綺麗なデスクやクローゼットから見てしっかり者の性格である。自分のバッグに入っていた証明証などは偽装用のものだとニアに教えてもらった。
自分の存在が嘘で塗り固められた中で記憶喪失になったら、本当の自分にありつくことなんて不可能だろう。ニアはすべて知っているだろうが核心に迫るような情報はくれない。そしてそっけない態度をしてるかと思えば、今では私の行動の一つ一つを監視しているようにも見える。
ふと病院で見ていた携帯のことを思い出す。この背景の建物は何かしらのヒントになっているはずだ。簡単な4桁のパスワードで守られている携帯の中身より大事なのはこの背景。これだけが本物な気がした。
「ニアってこの携帯のパスワード分かったりする?4桁だから誕生日とかそういう簡単なのだと思うけど…」
「0824です。」
「私の誕生日?」
「いえ、私の誕生日です。」
ニアは私の横に座り、髪の毛を弄りながら目線を合わせずに答えた。
ーーニアの誕生日をパスワードに…?随分と仲が良いんだね。
そう思ったが、口には出さずに言われた通り0824と入力してみる。するときちんと開く。
背景の写真も気になったが、とりあえず連絡先を開いてみる。いろんな電話番号が出てきたがどれも名前が暗号のようにイニシャルだけだったり、記憶がない状態で探るのは難しそうだった。しかし履歴を見ると、この携帯から最後に、私が記憶を失う数日前に発信履歴があることを見つけた。最後にかけた電話だとしたら重要なものではないのか?
だが、肝心な連絡先の名前が空欄だった。上司のニアの携帯番号はNと表記されているのに空欄ということは、更に上の立場の人間なのだろうか?ニアは相変わらず真顔で髪の毛をくるくると弄っている。
ーー試しにかけてみるか…
発信ボタンを押して携帯を耳に当てる。
トゥルートゥルー…
トゥルー…
おかけになった電話番号は現在使われておりません。
無機質な機械音声が流れる。
「使われてない?この数日の間に解約したってこと?
それともそれよりずっと前から…?」
しばらく通話を切らずに考えていると突然携帯から機械音声ではないが、感情のこもっていないような音声が流れてきた。
「Lです。要件は短めにどうぞ。」
「え…る…」
その名前と声を聞いた瞬間、ぼろぼろと涙が勝手に溢れ、全てを思い出した。
キラ事件。Lに協力を要請されて手伝いに行った難事件。しかしまだ解決はしていない。Lが死んで、現在違う人が2代目Lとして彼の死を世界から隠している。そう、Lが、Lくんは死んだのだ。私の神のような存在であるL、幼馴染みだったLくん。今の私を作り上げてくれた彼のためであれば私はどこにいてでも彼の元へ駆けつけた。Lを失った私に残ったのは絶望、悲しみ、そして寂しさ。
一時的にはニアの言葉によって救われたが、それでもキラ事件を続けて調査していくことで彼の死の現実感がだんだんと増してった。
そんなある日、私はLくんの携帯番号の留守電のことを思い出して亡きあの人に電話をかけたのだ。もう一度聞こえてきた彼の声にどうしようもなく耐えられなくなって私はこの部屋で自らの命を絶とうとした。
「ねぇニア…私ってLのこと好きだったのかな…?」
「私に聞かないでください。それはあなたが自分で考えることでは?」
「そう…だよね。うん…」
ニアは私が全てを思い出したことに気づいたのだろう。今度は私のベッドに横になってくつろぎ出した。その様子が可愛くて頭をそっと撫ででやると安心したように目を閉じた。
「ごめんねニア。嫌な物見せたね。」
死の間際で意識が朦朧とする中、ニアの声が聞こえたような気がした。それはきっと気のせいなんかではなかったのだろう。自分の世話をずっとしてくれてた人が自殺しようとしているところなんて見たらひどくショックのはずだ。しかも彼は私をこの世界に繋ぎ止めておこうと、生きる理由をくれたというのに。
「そう思うなら2度とあんなことしないでください。あなたを救えなかったと…私がどれだけ苦しかったか分かりますか…?」
横になって背中を見せるニアだったがその背中が少し震えているように見えた。
「ニア…」
「触らないでください。」
ニアの背中に伸ばした手を引っ込める。背中を向いていても私がしようとすることなんてすべてお見通しなんだろう。
「…優しくしないでください。後が苦しいだけです。」
「ニア。」
「…」
「私はもうどこにも行かないよ。」
「…嘘です。」
「嘘じゃないよ。ずっとニアのそばにいて守ってあげる。」
「…根拠は?」
「Lの死はもちろん悲しいし忘れられる訳がない。それでも私は目の前の泣いているニアを放って置けないんだよ。」
「泣いてなんかいません。」
「ふふ、そうかな?目瞑っててあげるから…おいで?」
目を閉じ、ニアの方を向いて腕を広げる。しばらく動きがなかったが、モゾリとニアが動く気配がすると同時にふわふわとした感触が胸に当たるのを感じる。私は目を開け、ニアを強く抱きしめた。その小さな身体は震え、鼻を擦るこもった音が胸の方から聞こえてくる。背中を優しく撫でるが中々震えが止まらない。彼はこの小さな身体に多くのものを抱え込んでいる。それはLの後継者になるという道を歩み続ける限り消えることはないだろう。でも彼は決してその道を諦めることはない。だから私がそばで支えなくては。私が彼の足を引っ張るような存在ではダメだ。
Lくん、ごめんね。そっちにはしばらく行けそうにはないみたい。だけどその代わりに最高のお土産話をたくさん持っていくから待っててね。
ニアと私のお話を。
-fin-
「ここが作戦本部です。今はキラに纏わる情報を集めています。えり姉のデスクはここです。」
私のデスクと呼ばれた場所は誕生日席のような位置で他の人たちのデスクより一回り大きかった。だがパソコン、捜査資料と思われるファイルと筆記用具が綺麗に並べてあったくらいで特にめぼしい情報は得られなかった。
「パソコンはプライバシー保護のためまだハッキングはしていません。もし中身が見たい場合は言ってもらえれば手配します。」
「手配するって…ニアって何者?ここのボスなの?」
「ボスという言葉にはしっくりきませんが、そうです。私がSPKのリーダーです。」
「天才少年とかそういうやつ?すごいな…しかも私こんなところで働いてたの?私も実はすごかったりして…なんて」
「えり姉はすごいですよ。」
間を置かずにすぐ答えるものだからキョトンと静止してしまった。そんな私を見てニアはフッと鼻で笑い、「えり姉の自室に行きましょうか」と腕を引っ張ってくる。
私の自室と呼ばれる部屋はホテルの一室のような作りで、広くもなく狭くもないといった感じだった。どうやらもっと広い部屋もあったのだが、広すぎると落ち着かないという私の希望でこの広さになったらしい。部屋の中を歩き回ると確かにさっきの作戦本部の大部屋より大分落ち着く空間だ。
クローゼットを開けてみるとそこには今着ているベスト姿と同じセットの服装が何着も入っていた。どうやら私は服にはあまり興味がないようだ。唯一見つけた私服らしい服は棚の奥の方に綺麗に収納されていた。
ベッドに腰掛けて今までの情報を整理してみる。私はニアの部下でSPKの中でもそれなりの役職についている。目立った趣味などはないが、綺麗なデスクやクローゼットから見てしっかり者の性格である。自分のバッグに入っていた証明証などは偽装用のものだとニアに教えてもらった。
自分の存在が嘘で塗り固められた中で記憶喪失になったら、本当の自分にありつくことなんて不可能だろう。ニアはすべて知っているだろうが核心に迫るような情報はくれない。そしてそっけない態度をしてるかと思えば、今では私の行動の一つ一つを監視しているようにも見える。
ふと病院で見ていた携帯のことを思い出す。この背景の建物は何かしらのヒントになっているはずだ。簡単な4桁のパスワードで守られている携帯の中身より大事なのはこの背景。これだけが本物な気がした。
「ニアってこの携帯のパスワード分かったりする?4桁だから誕生日とかそういう簡単なのだと思うけど…」
「0824です。」
「私の誕生日?」
「いえ、私の誕生日です。」
ニアは私の横に座り、髪の毛を弄りながら目線を合わせずに答えた。
ーーニアの誕生日をパスワードに…?随分と仲が良いんだね。
そう思ったが、口には出さずに言われた通り0824と入力してみる。するときちんと開く。
背景の写真も気になったが、とりあえず連絡先を開いてみる。いろんな電話番号が出てきたがどれも名前が暗号のようにイニシャルだけだったり、記憶がない状態で探るのは難しそうだった。しかし履歴を見ると、この携帯から最後に、私が記憶を失う数日前に発信履歴があることを見つけた。最後にかけた電話だとしたら重要なものではないのか?
だが、肝心な連絡先の名前が空欄だった。上司のニアの携帯番号はNと表記されているのに空欄ということは、更に上の立場の人間なのだろうか?ニアは相変わらず真顔で髪の毛をくるくると弄っている。
ーー試しにかけてみるか…
発信ボタンを押して携帯を耳に当てる。
トゥルートゥルー…
トゥルー…
おかけになった電話番号は現在使われておりません。
無機質な機械音声が流れる。
「使われてない?この数日の間に解約したってこと?
それともそれよりずっと前から…?」
しばらく通話を切らずに考えていると突然携帯から機械音声ではないが、感情のこもっていないような音声が流れてきた。
「Lです。要件は短めにどうぞ。」
「え…る…」
その名前と声を聞いた瞬間、ぼろぼろと涙が勝手に溢れ、全てを思い出した。
キラ事件。Lに協力を要請されて手伝いに行った難事件。しかしまだ解決はしていない。Lが死んで、現在違う人が2代目Lとして彼の死を世界から隠している。そう、Lが、Lくんは死んだのだ。私の神のような存在であるL、幼馴染みだったLくん。今の私を作り上げてくれた彼のためであれば私はどこにいてでも彼の元へ駆けつけた。Lを失った私に残ったのは絶望、悲しみ、そして寂しさ。
一時的にはニアの言葉によって救われたが、それでもキラ事件を続けて調査していくことで彼の死の現実感がだんだんと増してった。
そんなある日、私はLくんの携帯番号の留守電のことを思い出して亡きあの人に電話をかけたのだ。もう一度聞こえてきた彼の声にどうしようもなく耐えられなくなって私はこの部屋で自らの命を絶とうとした。
「ねぇニア…私ってLのこと好きだったのかな…?」
「私に聞かないでください。それはあなたが自分で考えることでは?」
「そう…だよね。うん…」
ニアは私が全てを思い出したことに気づいたのだろう。今度は私のベッドに横になってくつろぎ出した。その様子が可愛くて頭をそっと撫ででやると安心したように目を閉じた。
「ごめんねニア。嫌な物見せたね。」
死の間際で意識が朦朧とする中、ニアの声が聞こえたような気がした。それはきっと気のせいなんかではなかったのだろう。自分の世話をずっとしてくれてた人が自殺しようとしているところなんて見たらひどくショックのはずだ。しかも彼は私をこの世界に繋ぎ止めておこうと、生きる理由をくれたというのに。
「そう思うなら2度とあんなことしないでください。あなたを救えなかったと…私がどれだけ苦しかったか分かりますか…?」
横になって背中を見せるニアだったがその背中が少し震えているように見えた。
「ニア…」
「触らないでください。」
ニアの背中に伸ばした手を引っ込める。背中を向いていても私がしようとすることなんてすべてお見通しなんだろう。
「…優しくしないでください。後が苦しいだけです。」
「ニア。」
「…」
「私はもうどこにも行かないよ。」
「…嘘です。」
「嘘じゃないよ。ずっとニアのそばにいて守ってあげる。」
「…根拠は?」
「Lの死はもちろん悲しいし忘れられる訳がない。それでも私は目の前の泣いているニアを放って置けないんだよ。」
「泣いてなんかいません。」
「ふふ、そうかな?目瞑っててあげるから…おいで?」
目を閉じ、ニアの方を向いて腕を広げる。しばらく動きがなかったが、モゾリとニアが動く気配がすると同時にふわふわとした感触が胸に当たるのを感じる。私は目を開け、ニアを強く抱きしめた。その小さな身体は震え、鼻を擦るこもった音が胸の方から聞こえてくる。背中を優しく撫でるが中々震えが止まらない。彼はこの小さな身体に多くのものを抱え込んでいる。それはLの後継者になるという道を歩み続ける限り消えることはないだろう。でも彼は決してその道を諦めることはない。だから私がそばで支えなくては。私が彼の足を引っ張るような存在ではダメだ。
Lくん、ごめんね。そっちにはしばらく行けそうにはないみたい。だけどその代わりに最高のお土産話をたくさん持っていくから待っててね。
ニアと私のお話を。
-fin-
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