お正月2025
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喉の渇きを感じ目が覚めた。むくりと体を起こすと、あたりには眠り込んでいる仲間達が大量に転がっていた。ポーラータング号では昨晩から年越しの宴が繰り広げられていた。どこかの島に停泊できれば良かったのだが、生憎近場に良さげな島が無かった為、今年は海の上での年越しとなった。大量の酒を飲みどんちゃん騒ぎをして、そのまま力尽きた皆々の合間を進み、シノは水を飲んだ。乾き切った喉が潤された。誰のものかもわからないイビキが響く食堂を後にし、外の空気を吸うためにデッキを目指す。
重いドアを開けて外に出ると、キンと冷えた空気がシノを包んだ。冬島が近い為、この海域の空気も冷えるとは聞いていたが、想像以上に寒い。しかし、ほんのり酒が残った寝起きの体には気持ちよさも感じられた。シノは船の端の柵に腕を乗せ体重を預け、空を見上げた。空は少々白み始めており、ちょうど良いタイミングで出てきたようだ。もう少し待てば、日の出が見られそうだ。
1年間、いろいろなことがあったなぁと目を閉じて思い出す。海賊をしていると、毎日が大冒険でいろいろなことがある。良いことも悪いことも。何もない日の方が珍しいくらいだ。今年はどんなことが待っているか。
「おいおい、抜け駆けか」
「俺らも起こせよな」
「シャチ、ペンギン、おはよ」
背後から声が聞こえて振り返る。シノが動く音で起きたのか。寒い寒いと喚きながら二人が隣に立った。3人並んで空を見る。先ほどよりも随分と水平線が明るくなってきた。本当にベストタイミングだ。
「キャプテンとベポは?」
「キャプテンはいなかったな。ベポは気持ちよさそうに寝てたから置いてきた」
ベポは温かいので湯たんぽがわりに仲間達にしがみつかれていることだろう。それを起こすとなると、ほぼ全員が起きてきそうだ。ここにベポが来てくれれば、暖を取れるのだが残念だ。
「キャプテンは……」
「おい、お前ら風邪引くぞ」
「「「キャプテン!!!!!」」」
バサリと大きな毛布を投げつけられた。もふもふの毛布を頭に被り、ただでさえ跳ねていた髪がさらにボサボサになってしまった。シノが外へ出て行ったのを見て毛布を取りに行ってくれていたようだ。
「さっすがキャプテン頼りになるー!!」
「キャプテンのそういうとこ好きだぜ〜!!」
「毛布一枚でごちゃごちゃうるせェ」
シャチとペンギンは投げられた毛布に二人で包まりながらキャッキャと盛り上がる。まだ酒が残っているのだろう。二人してとても楽しそうだ。いくら大きいとはいえ一枚の毛布には大人の男二人でぎゅうぎゅうだ。あれ……?ときょろきょろするシノ。はっとローと目が合うと、ローは羽織っていた毛布を広げてくれた。
「あったか〜」
「……お前、あとでシャワー浴びて温まれよ」
「はいはーい」
シノはローに寄り添い毛布に入り込む。隣のローの温もりと布団の保温性で、身も心もほっこりとする。そんな彼女とは裏腹に、シノの体があまりに冷え切っていたからか、ローが呆れた顔をしてこちらを見た。ぴたりとくっついた体は冷たかっただろうが、避けられることはなかった。
「お、赤くなってきたぞ」
シャチの言葉に水平線を再び見る。海やあたりの空が赤く光っている。ゆっくりと登ってくる眩しい光を、ただただ静かに眺める。その神々しさは寒さを忘れるほどだった。海賊を始めて、海の旅を始めてから毎年のように見ているが、何度見ても飽きることはない。それくらい特別な美しさがあった。
「偉大なる航路でもこれは変わらないね」
「そりゃそうだろ、太陽は太陽だ」
「そりゃそっか」
初めての偉大なる航路での年越し。今までよりも大変な海路、強い海賊達で溢れかえる偉大なる航路も、この日の出を見ると、北の海と何も変わらないのだなと改めて実感する。
あっという間に太陽は半分以上顔を出し、朝焼けが広がっていく。
「さて、初日の出も見たし寝直すかー」
「だなーベポが起きてくる前に寝ねェとあとでドヤされるぞ」
なんやかんや起こさず来たことを気にしているらしい。さすがにそんなことを気にするベポではないと思うが。初日の出を拝み満足して各々自由に動き出す。
「キャプテン、戻らないの?」
「あァ、先戻ってろ」
ローの視線は海の向こう。太陽をぼんやり眺めている。まだしばらく残るようだ。思わず3人で目を合わせる。言葉は発さずとも3人の意見は一致した。黙ってこくりと頷く。
「しょうがないなァ!!」
「あ!?だからお前ら先戻ってろって……」
「ローさんだけ置いていくわけないじゃないっすか!!」
「いや……つーか狭ェ!!お前ら毛布持ってんだろ!!」
「まぁまぁ、たまにはいーじゃないですか!!」
まだ残るというローの包まる毛布に無理矢理入り込もうとする3人。さすがに大人4人には小さすぎる。ローはぐいぐいと押し返し必死に抵抗してきた。ドタバタと押し合いを続け、結果デッキに倒れこむ4人。まだ酒が残っているようでそんなどうでもいいことでも笑えてしまう。
「さすがにもう星も見えないね」
「知ってっか?見えないだけで今も星は空にあんだぞ」
「私のこと馬鹿にしすぎでは!?」
冬島海域特有の冷え切った空気のおかげで空が澄んで見える。ふんわりと明るくなってきた空を4人で見上げた。旅立ってきたスワロー島を思い出された。旅立ってから何年の時が経っただろうか。
「……偉大なる航路ってさ、本当に人魚とかいるのかな」
「いるだろ!!喋るシロクマもいるんだぞ!!むしろ人魚を見るために冒険してると言っても過言じゃねェ!!」
「いや、それは過言だろ」
「なんなら黄金の島だってあるかもな」
「もしあったら新しい絵本作らなきゃ」
口々にあれこれ話して盛り上がる。何が居ても、何があってもおかしくない。空に浮かぶ島や、海の中の島、マグマの中の島だってあるかもしれない。絵本にでてくるような存在だって実在するかもしれない。そんな海についに来たのだ。不安よりもわくわく感が勝つのは、すっかり海賊という生き方に馴染んできたのかもしれない。
「……他の奴らが起きてきたら飲み直すか」
ローがぽつりと呟く。ローから言い出すのは珍しい。彼ももしかしたら少し酔っ払っていて、いつもより気持ちが高揚しているのかもしれない。そんな彼の発言を否定するような人間は、この船のどこにもいない。
「賛成ー!!」
「よっしゃ、今からつまみ作り直すぞ!!」
「寒ィけどどうせなら今度はデッキでやるか!?ベポ叩き起こして準備だ!!」
「いや、だからあいつらが起きてから……!!……行っちまった……」
ガバリと起きて船内に駆け込んで行ったシャチとペンギンを、体だけ起こして引き留めようとしたロー。さすがのローでも一度決まった勢いを止めることは出来なかった。今頃食堂に戻った彼らが大声で全員を起こしていることだろう。シノもその一連の流れに、寝ながら笑った。
「飲み直すって言ったのはキャプテンなんだから諦めなよ」
「さすがに起こすのは悪ィだろ」
「起こしたってまだ寝たい人は寝るだろうし、誰も文句言わないよ」
むしろ食堂での雑魚寝状態から、部屋に戻ってベッドで寝直す機会にはちょうど良いだろう。もっとも、心配せずとも朝からの宴会に全員参加するだろうが。
「あ。そういえば、あけましておめでとう、キャプテン」
「あぁ、今年もよろしくな」
「今年はどんな年になるかなぁ」
「さァな。まぁ急ぐ必要はねェ。せっかくの偉大なる航路だ、ゆっくり堪能していきゃ良いだろう」
「また適当な……」
リバースマウントを登り、一つ決めた航路。そこからは指針の示すままに、気の向くままに進むだけ。ローの言う通り、急ぐ旅ではない。せっかくの冒険を一つずつ堪能していけば良い。
「キャプテン、これからもずっとよろしくね」
「わかったから、あいつら手伝いに行くぞ」
「はいはーい!!」
散らばった毛布を2枚回収し、ローの後ろについて船内に向かう。シノは、今年の冒険と、目の前の宴に想いを馳せて、胸を弾ませた。
End.
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