vs海賊
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベポから次の島が近いと聞きつけ、キャプテンの指示のもと、クルー総出で準備に取り掛かる。次の島は一体どんな島なのか、先日までいた島で聞いた限り、漁業が盛んなよくある港町があるくらいの小さな町とのことだった。食料や備品の調達をしつつ、"目ぼしいもの"がなければ、またすぐ離れることになるかもしれない。
「ベポ、見えてきたか」
「うん!……ん?他にも港に停泊してる船がいくつかありそうだ」
「漁業が盛んな町らしいから船も多いだろ。念のため離れた所に船をつけるぞ」
「アイアーイ!!」
ひとけの少なさそうな場所を目指し、浮上する。町もそんなに遠くなく、岩場の陰から港の様子も見える位置だ。
「あれ、キャプテン、あそこ海賊船だ!」
漁船に紛れて、黒いドクロの旗を掲げた海賊船が停泊している。見たことのない海賊旗だ。そこまで大きな船ではないので、多く見積もって、ハートの海賊団より少し多いくらいの人数規模だろう。海賊が占領している町とは聞いていない。そんな中で堂々と船を正面から停めているということは、良い状況ではなさそうだ。
「キャプテン、どうします!?」
ローの指示を仰ぐ。もしかしたら、"目ぼしいもの"かもしれない。先日寄った島で聞いた噂。最近ここら辺の島を襲っているという海賊団の可能性がある。近頃、ローの指示で、用の無い島を転々と回っていたのは、この噂の海賊団に"偶然"遭遇するために違いない。
ローは目を閉じて少し考え、口を開く。
「少人数で偵察に行く。各自、島の状況を確認しつつ、情報収集だ。単独行動はするな」
二人一組でペアとして、3チーム編成する。あくまで情報収集を主とし、集合時間は1時間後に船で、となった。ベポは目立つので残念ながら、今回は留守番。シノはペンギンと組むことになった。仮に戦闘となった時の戦力を考えたら妥当だろう。とはいえ、まずはこっそりと情報収集をすることが目的なので、大きな武器は置いていく。
ローは一人でぶらぶらするらしい。結果4チームが町へ散らばった。
町中は海賊と思しき柄の悪い連中が堂々と闊歩している。普通の通行人はおらず、お店の人も奥に引っ込んでいるのかほとんど見当たらない。ただ、家や道が破壊されてる様子等もないので、今のところは被害は出ていないように見える。
「怪我人はいなさそうだね……」
「でもこれ人に話聞くの大変そうだな」
「こういう時こそ私の出番ってもんよ!」
周りをキョロキョロと見回し、海賊が通り過ぎたタイミングでこっそりカフェに近づく。当然鍵を閉めているようで、コンコンとノックをして窓を覗き込む。すると、大柄の女性が少しだけ窓を開けてくれた。
「……なんだい、あんた達」
「あの、私たち船で旅をしてるもので、たまたま立ち寄ったら、海賊船が見えて……」
困ったような表情でそう伝えると、カフェのドアを開けてくれた。早速、ペンギンと二人でお邪魔する。普段は人で賑わっているであろう、ウッド調で居心地の良い店内には、先ほどの女性と小さな女の子以外誰もいない。女の子は女性の陰に隠れてこちらの様子を伺っている。
「まったく変な連中が港にきて早々大砲ぶっ放してね。あんたら大丈夫だったかい?」
「うわ、物騒ですね。ちょうど誰もいない時にきて良かったです」
被害は出てないと思っていたが、港の近くでは実害が既に出ていたようだ。無差別に襲ってくる様子ではなかったために、誰もが家や店にこもってやり過ごそうとしているらしい。人を傷つける目的はなく、脅して食料や金目の物だけ差し出させようという算段か。わざわざ恐怖で従わせようとするのは頂けない。
「食料とか取っていかれるのは困るけどね、人の生き死にには変えられないから、いざとなったら全部渡すつもりさ」
「今その海賊達はどこにいるんですか」
「あぁ、町の奥、もう少し行った所に酒場があってそこにいるようだよ。あの店には悪いが、助けに行く余裕はないからね」
どうりで思いの外、外を歩く海賊の数が少ないと思った。酒場でたらふく飲み食いしていると言うことか。先ほど歩いていたら連中は、一度船に戻ってまたその店に向かっていたとかだろう。つまり、今海賊はほとんどそこに集結しているとみて間違いない。
「……ペンギン」
「だめ」
「まだ何も言ってないのに……」
「でもだめー」
乗り込もうとしたのがすぐにバレた。相手の実力も能力もわからないのにリスクが高すぎるということだろう。ローの指示はあくまで情報収集だから仕方ない。こういう時のお目付役としてペンギンとセットにしたのだろう。
その時、コンコンと扉がノックされた。思わず腰に下げた刀を握ろうとして、手が空ぶった。情報収集するにはあまりに怪しいので置いてきたのだった。
「あ、こら、やめなさい!」
女の子が扉の方へ駆けていく。シノ達を入れたから、誰でも入れていいと勘違いしたのか。鍵を開けて扉を開けてしまった。
「あれ、誰………」
女の子が扉の外の人物を見あげる。その手には剣が握られている。――やばい、シノは咄嗟に女の子の腕を引き、後ろに軽く突き飛ばした。すかさずペンギンがキャッチしていたのを背後で感じた。自分たちを入れてくれたせいだ。この店に入られる訳にはいかない。シノは地面を蹴り、男に体当たりをして、外の地面に押し倒した。
「早くドア閉めて!!ペンギン、お店よろしく!!」
「おい、バカ!!!」
「おい、女、何しやがる!!」
ペンギンと相手の海賊の声が被った。剣を振り上げる男の腕を、即座に銃で撃つ。刀は目立つので、銃だけでも服の中に隠してきて良かった。撃たれた腕の痛みに叫んでいる間にシノは立ち上がり、同じく立ちあがろうと体を起こした男の顎を蹴り上げた。脳が揺れたのか、立ち上がれずまたしても倒れ込む男。あまり銃を撃つと他の海賊にバレる可能性があるので、首を無理やり殴ってなんとか気絶させた。
「おい、お前何やってんだ!?!?」
ふぅと一息つく間も無く、結局他のやつも近くにいたらしい、見つかってしまった。刀がない今どう考えても不利だ。銃では音が響く上に、中長距離の命中率には自信がない。
「やばー……」
こうなったら逃げるしかない。ここにいてはカフェが怪しまれる可能性もある。とりあえず追いかけてくる海賊がいない方に向かって走って逃げる。いっそ船の方に逃げれば、気づいた留守番組が助けに来てくれるか。いや、船の場所がバレるのもまずい。しかしこのまま町の中を走っていては他の海賊にバレて追っ手が増える可能性もある。他の情報収集してる仲間達に迷惑がかかるかもしれない。
一か八か、路地裏に入って撒くか倒すか。そう思った時だった。
「ROOM」
「あ、」
聞き覚えのある声が聞こえ、サークルが展開された。入ろうと思っていた路地から出てきた見慣れた彼が鬼哭を構えている。
これは、と思った瞬間、スパッとシノの体が真っ二つになった。もちろん、シノを追いかけていた海賊もばっさりと斬られた。ゆっくりと歩いてくるローを見上げる。
「キャプテーン、ありがとー……!!」
「お前は、なんで一人なんだ……?」
「ちょっと緊急事態でして……」
「何が緊急事態だ、ペンギンとセットにした意味がねェだろ!!」
「ごめんなさいーーー!!」
ぎゃあぎゃあと怒鳴られて泣きながら謝る。とりあえず体を繋げてもらい、急いでその場から離れ、ローが出てきた路地に隠れる。ペンギンやカフェの方々は無事だろうか。シノやローが倒した海賊は大して強くなかったので、おそらく普通の戦闘員達のレベルは高くない。ただ、そういう海賊団でもたまに化け物級の船長がいたりするので油断は禁物だ。
シノは、とりあえず事の発端をローに伝えた。町の状況、カフェで起きた事、その後走って逃げていた事。
「まずは戻って合流だな」
「でも、酒場の人たちが」
「お前今、刀ねェだろうが」
「確かに!!」
当初の約束の一時間を少し過ぎている。どちらにしろ戻らないと他のクルーが心配して押しかけてくるかもしれない。刀を取り戻り、万全の体制で酒場に攻め入るべきだ。
急いで戻ろうとした時、どこからか大きな音が聞こえた。路地を出て少し先の建物からだ。二人で路地の影から覗き込む。
建物から突き飛ばされたのか、外に男性が倒れている。服装から見るに酒場のバーテンダーだろう。海賊の気を削ぐようなことをしたのか、大きめのコートを羽織った大柄の男が、バーテンダーに向けて銃を突きつけている。既にボロボロな体に銃まで撃たれたら確実にもたないだろう。銃をつきつけている男の背後にはゲラゲラと笑っている柄の悪い海賊達が何人もいる。
「……シノ、お前はサポートに徹しろよ。中に人がいたら逃がせ」
「アイアイ、りょーかい!!」
「シャンブルズ」
いつのまにか張られたROOM内で、先ほどのバーテンダーと、ローとシノが入れ替わる。ローの鬼哭の間合いに入らないようすぐに距離を取り、銃を両手で持つ。
「な、なんだ、こいつら!?」
その場にいた海賊全員の体を斬るロー。大柄の男だけがすぐに状況に気づいたのか、ギリギリROOMの外へ出ていた。この男がこの海賊団の船長なのかもしれない。だとしたら、そんなに強くはなさそうだ。
「野郎ども、敵襲だー!!」
そう言ってゾロゾロと酒場から海賊達が出てくる。意外と人数がいるようだ。遠くから、探しに来たのだろうシャチ達が走ってくるのが見えたので、シノは人が減った酒場へこっそりと乗り込む。全員出て行った後のようで海賊は一人もいなかった。恐らくここの従業員であろう女性が何人かいる。みんな端で頭を抱えて震えている。
「大丈夫!?」
声をかけて手を差し伸べると、震えながらもこちらを見てきた。よく見たら足の太腿から血が流れている。服をナイフで裂こうとでもして足も切れたのか。そこまで深くなさそうだ。この出血量なら多少無理してでもここを離れてから止血したほうが良い。
「歩ける!?」
恐怖で喋ることが出来ないのか、コクコクとただ頷いた。手を伸ばしゆっくり体を起こしながら、店内を見渡す。
「他の人たちも怪我してる?動ける?」
「私たちは大丈夫です……!!姉さんだけ……」
家族経営の酒場だったのか。よく見たら顔がよく似ている。妹と思しき女性に、怪我人を預け、肩を支えてもらう。
「あと、お父さんが……!!」
「あー多分大丈夫、外いた人でしょ、路地裏に隠れてるはず」
ちゃんと確認はしていないが、ロー達が外にいる以上、あの路地裏まで海賊が行くことはまず無い。姉妹に案内され、裏口から店を出る。裏には人はいなさそうだ。
「きゃあ!!!!」
誘導しようと振り返ると、店の中にまだいたのか、入り口から入って追ってきたのか、海賊が女性の腕を掴んでいた。すぐにしゃがんで足払いをし、相手の体勢が崩れたところで腕を撃った。掴んだ手が緩んだ瞬間、女性が逃げる。もう一発追い打ちを、と足を振り上げ、相手のお腹を蹴ろうとしたら、足を掴まれた。思いの外、体勢を戻すのが早かったようだ。
「ふざけんじゃねェぞ!!」
「固定してくれてどうも!!」
肩に銃を二発撃ち込む。足をしっかり支えてくれたおかげで上手く撃てた。ようやく倒れてくれた相手が、シノの足を掴んだまま倒れたため、シノも横転した。
「痛ぁ……!!」
「あの、大丈夫ですか……?」
「大丈夫、大丈夫!転んだだけだから余裕余裕!」
「何が余裕なんだー!?」
「げぇ……」
店の中からまた何人か海賊が現れる。恐らく正面で戦っているローが強過ぎて逃げてきた連中だろう。一人一人は強く無いのだが、こちらには守るべき相手がいる。
とりあえず目の前の男の鳩尾を、銃を持ったまま殴り、撃ち込む。あと数人どう相手にしようかと思った時だった。
「お嬢さん、忘れ物だよー」
「ペンギーーン!!!!」
ほいっと投げられた刀を受け取る。
「本当、キャプテンもシノも勝手に始めないで欲しいんだけどー!」
「ごめんごめん、ありがとー!!」
一度船に戻って、戻らないローとシノを探しにきてくれたようだ。ペンギンもいつもの槍を携えている。これなら負ける要素が無い。二人で武器を構え、海賊達に反撃を開始した。
それからはあっという間だった。大して人数もいなかったので裏口はすぐに制圧でき、正面へ向かうとちょうどそちらも片付いた頃だった。いつの間にやらきたのか、ベポまでいたようだ。お礼を言う女性達と、取り急ぎ気絶している海賊達を縛り上げ、道のど真ん中に置いておいた。
「ありがとうございます…!!」
「いえいえ、それより傷大丈夫?」
「えぇ、ちょっと切っただけですから」
綺麗な白い肌にスッと入った切り傷。痕が残ったら大変だ。ちらりとローを見ると面倒臭そうにため息をついた。
「ベポ、」
「アイアイ、ちゃんと持ってきてるよー!」
医療キットをスッと取り出す。それを持ちながら戦っていたのか。女性の傷を見てもらっているうちに、シャチとペンギンに、路地裏のバーテンダーを運んでもらう。かなり殴られたのだろう、こちらの方が重症だ。通ってきた道にポタポタと血の跡がついてしまっている。
「つーかさ、その血、この人じゃなくて、お前じゃね?」
「え?」
ふと足元を見ると切れたブーツの隙間から、血が垂れ流し状態になっていた。先程横転した際、男が持っていたナイフが刺さっていたようだ。痛いとは思ったがまさかこんなことになっていたとは。ブーツに隠れていて全く気付かなかった。思ったより深くいっていたようだ。見てしまったら急に不調が訪れるもので、ふらっと貧血を起こした。
「ぎゃあああ!!キャプテン、シノが貧血で倒れたー!!!」
「あぁ!?なんでだよ!?」
痛みに強いのも考えものだ。全く気が付かなかった。血が足りなくてくらくらするが、元気は元気だ。
「あ、ちょっとダメかも……」
「「「シノー!!!!」」」
べポ、シャチ、ペンギンの叫ぶ声が響いた。
***
シノが目を開くと見慣れた天井だった。ポーラータング号の中だ。ゆっくり顔を傾ける。横でローが座って本を読んでいる。細くて長い指でページをめくっていく。綺麗だなぁと眺めていた。何ページかめくったのを見守ったタイミングで視線だけちらりとこちらを向き、目が合った。
「起きたなら言え」
パタンと本を閉じて近づいてくる。そういえば足を怪我していたのだっけか。すっと傷のあたりを撫でられ、びくりとする。
「傷は縫った。跡もそのうちわからないくらいになるだろ」
「いつもお手数おかけします」
「全くだ」
一緒に旅に出てから何度怪我をして、何度治療をしてもらったことか。最初のうちこそすぐに怪我をしては怒られていた。最近では大分減ったが、まだまだムラがあるのがシノの問題だ。
「何のためにペンギンと組ませたのか、わかってねェだろ」
「お目付役じゃ無いの?」
「お前の仕事はサポートだろうが。一人行動するなら、今後船から出さねェぞ」
「ええええ!?!?」
シノもそれなりに戦えるが、ベポやシャチ、ペンギンと比較したら弱い。ただ、誰かのサポートであれば周りを見て的確に動けるので勝率がかなり上がる。そのために、絶対に誰かと一緒に戦うよう言われている。
「お前が一人でも冷静に動けるようになるか、一人でも問題ないくらい強くなれば構わねェが、それまでは一人になるな。実際今回も何も考えず一人で突っ込んだんだろ」
「……ごめんなさい」
子供やカフェの人が危ないと思いつい動いてしまった。ペンギンはちゃんと止めた。怒られていないと良いが。
「結果的に怪我人も出なかったし、お前の判断自体は悪くなかった。が、自分の命を守る算段が建てられない間はやめておけ。そもそもお前自身、戦闘に向いてないって自分でわかってんだろ」
シノを心配しての発言であるということはわかる。自分たちのいないところで死なないようにと考えてくれているのだ。危ない所では絶対に幼馴染の誰かと組まされるのはその為だ。戦闘に向いていないと言うのも、シノ自身自覚はある。
ただ、皆と同じ目線でいろいろなものを見て発見して苦労をして楽しむためには、守られるだけではダメなのだ。ただでさえ島にいる頃から年上の三人に置いていかれないよう必死だった。ベポは一応年下だが、三人に引けを取らない程強かった。
「……ちょっと考えます」
迷惑をかけず役に立つ方法。強くなれればそれが良いが、確かにローの言うとおり、サポートの方が向いているとも思う。ただ、ずっと一緒に行動できる状況だけではない。せめて一人行動が許されるようにならなければ。
ローははぁとわざとらしくため息をついた。
「……これから俺たちは偉大なる航路を目指す」
「え……それって……」
「ベポも航海術に十分自信がついたと言っていた。北の海で実戦も積んできたしそろそろ目指しても良い時期だと思う」
旅に出た日からずっと意識はしていた。ベポやシノが年齢的にも能力的にも成長するのを待っていたのかもしれない。随分長い間、北の海にいたが、その時がついに来たのだ。
「偉大なる航路に入れば、海賊達のレベルは一気にあがる。俺らがお前を守り切れる保証はねェ。だから正直、無理に戦わなくても良い、ただ最低限身を守る術は磨いておけ」
海賊として海に出ている以上、完全に安全な場所はない。自分の身は自分で守れないと生きていけない。当たり前のことだ。
「……でも戦わないと、ロー達といつも一緒に居られないかもじゃん」
できるだけ前線に出ていたい。一人前として任されたい。自分の実力のせいだとはわかっていても少し不貞腐れてしまう。良い大人だと言うのに恥ずかしいが、彼らの前ではつい甘えてしまうのだ。
「逆だ。俺らは今更お前に土下座して頼まれてもお前だけ置いていくつもりはねェ、一緒に居るための選択肢だ!」
びしっと指を突きつけられ怒られた。
最悪無理に戦わなくても良いから自分の身を守って一緒にいろ、というのが船長指示らしい。偉大なる航路に入る前に、彼らなりにたくさん考えてくれた結果なのだろう。
「わかったか?」
「うん、なんか凄く愛されてるのは伝わってきた」
肯定もされなかったが、否定もされなかった。
「でもやっぱりちゃんと一緒に戦いたいからちゃんと考える」
「その方が俺らも助かるな」
「私、ずっと付き纏うからね」
「…………その表現は少し違くねェか?」
ローのために命を賭けたいと言ったら多分怒られるので言えないが、今のままではただ心配をかけるだけだ。絶対に最低限強くならなければならない。偉大なる航路に入るまであと数ヶ月はあるらしいので、それまでに何ができるか。
「あ、島の人たちは無事だった?」
「怪我人には応急処置をしてきた。問題ないだろ」
「そっかそっか、よかった」
島を去る前に挨拶をしたかったが、もう船が揺れているということは島を離れてしまったようだ。海賊が長居してもしょうがない。あの海賊達を倒すというローの目的は果たされたので、もうあの島に用事はない。
「ちなみにそれ、捻挫もしてるから数日安静にしてろよ」
「うそー……」
強くなるためにいろいろやりたいというのに、早速出鼻をくじかれるとは。
「医学書か戦術の本なら貸してやるから、動けるようになるまで読んでろ」
「…………はい」
本は苦手だがしょうがない。ローなりに気を使ってくれたのだろう。
あと数か月、忙しくなりそうだ。動けるようになるまでは頭を使って、これから出来ることをゆっくり考えようと決意した。
end.
「ベポ、見えてきたか」
「うん!……ん?他にも港に停泊してる船がいくつかありそうだ」
「漁業が盛んな町らしいから船も多いだろ。念のため離れた所に船をつけるぞ」
「アイアーイ!!」
ひとけの少なさそうな場所を目指し、浮上する。町もそんなに遠くなく、岩場の陰から港の様子も見える位置だ。
「あれ、キャプテン、あそこ海賊船だ!」
漁船に紛れて、黒いドクロの旗を掲げた海賊船が停泊している。見たことのない海賊旗だ。そこまで大きな船ではないので、多く見積もって、ハートの海賊団より少し多いくらいの人数規模だろう。海賊が占領している町とは聞いていない。そんな中で堂々と船を正面から停めているということは、良い状況ではなさそうだ。
「キャプテン、どうします!?」
ローの指示を仰ぐ。もしかしたら、"目ぼしいもの"かもしれない。先日寄った島で聞いた噂。最近ここら辺の島を襲っているという海賊団の可能性がある。近頃、ローの指示で、用の無い島を転々と回っていたのは、この噂の海賊団に"偶然"遭遇するために違いない。
ローは目を閉じて少し考え、口を開く。
「少人数で偵察に行く。各自、島の状況を確認しつつ、情報収集だ。単独行動はするな」
二人一組でペアとして、3チーム編成する。あくまで情報収集を主とし、集合時間は1時間後に船で、となった。ベポは目立つので残念ながら、今回は留守番。シノはペンギンと組むことになった。仮に戦闘となった時の戦力を考えたら妥当だろう。とはいえ、まずはこっそりと情報収集をすることが目的なので、大きな武器は置いていく。
ローは一人でぶらぶらするらしい。結果4チームが町へ散らばった。
町中は海賊と思しき柄の悪い連中が堂々と闊歩している。普通の通行人はおらず、お店の人も奥に引っ込んでいるのかほとんど見当たらない。ただ、家や道が破壊されてる様子等もないので、今のところは被害は出ていないように見える。
「怪我人はいなさそうだね……」
「でもこれ人に話聞くの大変そうだな」
「こういう時こそ私の出番ってもんよ!」
周りをキョロキョロと見回し、海賊が通り過ぎたタイミングでこっそりカフェに近づく。当然鍵を閉めているようで、コンコンとノックをして窓を覗き込む。すると、大柄の女性が少しだけ窓を開けてくれた。
「……なんだい、あんた達」
「あの、私たち船で旅をしてるもので、たまたま立ち寄ったら、海賊船が見えて……」
困ったような表情でそう伝えると、カフェのドアを開けてくれた。早速、ペンギンと二人でお邪魔する。普段は人で賑わっているであろう、ウッド調で居心地の良い店内には、先ほどの女性と小さな女の子以外誰もいない。女の子は女性の陰に隠れてこちらの様子を伺っている。
「まったく変な連中が港にきて早々大砲ぶっ放してね。あんたら大丈夫だったかい?」
「うわ、物騒ですね。ちょうど誰もいない時にきて良かったです」
被害は出てないと思っていたが、港の近くでは実害が既に出ていたようだ。無差別に襲ってくる様子ではなかったために、誰もが家や店にこもってやり過ごそうとしているらしい。人を傷つける目的はなく、脅して食料や金目の物だけ差し出させようという算段か。わざわざ恐怖で従わせようとするのは頂けない。
「食料とか取っていかれるのは困るけどね、人の生き死にには変えられないから、いざとなったら全部渡すつもりさ」
「今その海賊達はどこにいるんですか」
「あぁ、町の奥、もう少し行った所に酒場があってそこにいるようだよ。あの店には悪いが、助けに行く余裕はないからね」
どうりで思いの外、外を歩く海賊の数が少ないと思った。酒場でたらふく飲み食いしていると言うことか。先ほど歩いていたら連中は、一度船に戻ってまたその店に向かっていたとかだろう。つまり、今海賊はほとんどそこに集結しているとみて間違いない。
「……ペンギン」
「だめ」
「まだ何も言ってないのに……」
「でもだめー」
乗り込もうとしたのがすぐにバレた。相手の実力も能力もわからないのにリスクが高すぎるということだろう。ローの指示はあくまで情報収集だから仕方ない。こういう時のお目付役としてペンギンとセットにしたのだろう。
その時、コンコンと扉がノックされた。思わず腰に下げた刀を握ろうとして、手が空ぶった。情報収集するにはあまりに怪しいので置いてきたのだった。
「あ、こら、やめなさい!」
女の子が扉の方へ駆けていく。シノ達を入れたから、誰でも入れていいと勘違いしたのか。鍵を開けて扉を開けてしまった。
「あれ、誰………」
女の子が扉の外の人物を見あげる。その手には剣が握られている。――やばい、シノは咄嗟に女の子の腕を引き、後ろに軽く突き飛ばした。すかさずペンギンがキャッチしていたのを背後で感じた。自分たちを入れてくれたせいだ。この店に入られる訳にはいかない。シノは地面を蹴り、男に体当たりをして、外の地面に押し倒した。
「早くドア閉めて!!ペンギン、お店よろしく!!」
「おい、バカ!!!」
「おい、女、何しやがる!!」
ペンギンと相手の海賊の声が被った。剣を振り上げる男の腕を、即座に銃で撃つ。刀は目立つので、銃だけでも服の中に隠してきて良かった。撃たれた腕の痛みに叫んでいる間にシノは立ち上がり、同じく立ちあがろうと体を起こした男の顎を蹴り上げた。脳が揺れたのか、立ち上がれずまたしても倒れ込む男。あまり銃を撃つと他の海賊にバレる可能性があるので、首を無理やり殴ってなんとか気絶させた。
「おい、お前何やってんだ!?!?」
ふぅと一息つく間も無く、結局他のやつも近くにいたらしい、見つかってしまった。刀がない今どう考えても不利だ。銃では音が響く上に、中長距離の命中率には自信がない。
「やばー……」
こうなったら逃げるしかない。ここにいてはカフェが怪しまれる可能性もある。とりあえず追いかけてくる海賊がいない方に向かって走って逃げる。いっそ船の方に逃げれば、気づいた留守番組が助けに来てくれるか。いや、船の場所がバレるのもまずい。しかしこのまま町の中を走っていては他の海賊にバレて追っ手が増える可能性もある。他の情報収集してる仲間達に迷惑がかかるかもしれない。
一か八か、路地裏に入って撒くか倒すか。そう思った時だった。
「ROOM」
「あ、」
聞き覚えのある声が聞こえ、サークルが展開された。入ろうと思っていた路地から出てきた見慣れた彼が鬼哭を構えている。
これは、と思った瞬間、スパッとシノの体が真っ二つになった。もちろん、シノを追いかけていた海賊もばっさりと斬られた。ゆっくりと歩いてくるローを見上げる。
「キャプテーン、ありがとー……!!」
「お前は、なんで一人なんだ……?」
「ちょっと緊急事態でして……」
「何が緊急事態だ、ペンギンとセットにした意味がねェだろ!!」
「ごめんなさいーーー!!」
ぎゃあぎゃあと怒鳴られて泣きながら謝る。とりあえず体を繋げてもらい、急いでその場から離れ、ローが出てきた路地に隠れる。ペンギンやカフェの方々は無事だろうか。シノやローが倒した海賊は大して強くなかったので、おそらく普通の戦闘員達のレベルは高くない。ただ、そういう海賊団でもたまに化け物級の船長がいたりするので油断は禁物だ。
シノは、とりあえず事の発端をローに伝えた。町の状況、カフェで起きた事、その後走って逃げていた事。
「まずは戻って合流だな」
「でも、酒場の人たちが」
「お前今、刀ねェだろうが」
「確かに!!」
当初の約束の一時間を少し過ぎている。どちらにしろ戻らないと他のクルーが心配して押しかけてくるかもしれない。刀を取り戻り、万全の体制で酒場に攻め入るべきだ。
急いで戻ろうとした時、どこからか大きな音が聞こえた。路地を出て少し先の建物からだ。二人で路地の影から覗き込む。
建物から突き飛ばされたのか、外に男性が倒れている。服装から見るに酒場のバーテンダーだろう。海賊の気を削ぐようなことをしたのか、大きめのコートを羽織った大柄の男が、バーテンダーに向けて銃を突きつけている。既にボロボロな体に銃まで撃たれたら確実にもたないだろう。銃をつきつけている男の背後にはゲラゲラと笑っている柄の悪い海賊達が何人もいる。
「……シノ、お前はサポートに徹しろよ。中に人がいたら逃がせ」
「アイアイ、りょーかい!!」
「シャンブルズ」
いつのまにか張られたROOM内で、先ほどのバーテンダーと、ローとシノが入れ替わる。ローの鬼哭の間合いに入らないようすぐに距離を取り、銃を両手で持つ。
「な、なんだ、こいつら!?」
その場にいた海賊全員の体を斬るロー。大柄の男だけがすぐに状況に気づいたのか、ギリギリROOMの外へ出ていた。この男がこの海賊団の船長なのかもしれない。だとしたら、そんなに強くはなさそうだ。
「野郎ども、敵襲だー!!」
そう言ってゾロゾロと酒場から海賊達が出てくる。意外と人数がいるようだ。遠くから、探しに来たのだろうシャチ達が走ってくるのが見えたので、シノは人が減った酒場へこっそりと乗り込む。全員出て行った後のようで海賊は一人もいなかった。恐らくここの従業員であろう女性が何人かいる。みんな端で頭を抱えて震えている。
「大丈夫!?」
声をかけて手を差し伸べると、震えながらもこちらを見てきた。よく見たら足の太腿から血が流れている。服をナイフで裂こうとでもして足も切れたのか。そこまで深くなさそうだ。この出血量なら多少無理してでもここを離れてから止血したほうが良い。
「歩ける!?」
恐怖で喋ることが出来ないのか、コクコクとただ頷いた。手を伸ばしゆっくり体を起こしながら、店内を見渡す。
「他の人たちも怪我してる?動ける?」
「私たちは大丈夫です……!!姉さんだけ……」
家族経営の酒場だったのか。よく見たら顔がよく似ている。妹と思しき女性に、怪我人を預け、肩を支えてもらう。
「あと、お父さんが……!!」
「あー多分大丈夫、外いた人でしょ、路地裏に隠れてるはず」
ちゃんと確認はしていないが、ロー達が外にいる以上、あの路地裏まで海賊が行くことはまず無い。姉妹に案内され、裏口から店を出る。裏には人はいなさそうだ。
「きゃあ!!!!」
誘導しようと振り返ると、店の中にまだいたのか、入り口から入って追ってきたのか、海賊が女性の腕を掴んでいた。すぐにしゃがんで足払いをし、相手の体勢が崩れたところで腕を撃った。掴んだ手が緩んだ瞬間、女性が逃げる。もう一発追い打ちを、と足を振り上げ、相手のお腹を蹴ろうとしたら、足を掴まれた。思いの外、体勢を戻すのが早かったようだ。
「ふざけんじゃねェぞ!!」
「固定してくれてどうも!!」
肩に銃を二発撃ち込む。足をしっかり支えてくれたおかげで上手く撃てた。ようやく倒れてくれた相手が、シノの足を掴んだまま倒れたため、シノも横転した。
「痛ぁ……!!」
「あの、大丈夫ですか……?」
「大丈夫、大丈夫!転んだだけだから余裕余裕!」
「何が余裕なんだー!?」
「げぇ……」
店の中からまた何人か海賊が現れる。恐らく正面で戦っているローが強過ぎて逃げてきた連中だろう。一人一人は強く無いのだが、こちらには守るべき相手がいる。
とりあえず目の前の男の鳩尾を、銃を持ったまま殴り、撃ち込む。あと数人どう相手にしようかと思った時だった。
「お嬢さん、忘れ物だよー」
「ペンギーーン!!!!」
ほいっと投げられた刀を受け取る。
「本当、キャプテンもシノも勝手に始めないで欲しいんだけどー!」
「ごめんごめん、ありがとー!!」
一度船に戻って、戻らないローとシノを探しにきてくれたようだ。ペンギンもいつもの槍を携えている。これなら負ける要素が無い。二人で武器を構え、海賊達に反撃を開始した。
それからはあっという間だった。大して人数もいなかったので裏口はすぐに制圧でき、正面へ向かうとちょうどそちらも片付いた頃だった。いつの間にやらきたのか、ベポまでいたようだ。お礼を言う女性達と、取り急ぎ気絶している海賊達を縛り上げ、道のど真ん中に置いておいた。
「ありがとうございます…!!」
「いえいえ、それより傷大丈夫?」
「えぇ、ちょっと切っただけですから」
綺麗な白い肌にスッと入った切り傷。痕が残ったら大変だ。ちらりとローを見ると面倒臭そうにため息をついた。
「ベポ、」
「アイアイ、ちゃんと持ってきてるよー!」
医療キットをスッと取り出す。それを持ちながら戦っていたのか。女性の傷を見てもらっているうちに、シャチとペンギンに、路地裏のバーテンダーを運んでもらう。かなり殴られたのだろう、こちらの方が重症だ。通ってきた道にポタポタと血の跡がついてしまっている。
「つーかさ、その血、この人じゃなくて、お前じゃね?」
「え?」
ふと足元を見ると切れたブーツの隙間から、血が垂れ流し状態になっていた。先程横転した際、男が持っていたナイフが刺さっていたようだ。痛いとは思ったがまさかこんなことになっていたとは。ブーツに隠れていて全く気付かなかった。思ったより深くいっていたようだ。見てしまったら急に不調が訪れるもので、ふらっと貧血を起こした。
「ぎゃあああ!!キャプテン、シノが貧血で倒れたー!!!」
「あぁ!?なんでだよ!?」
痛みに強いのも考えものだ。全く気が付かなかった。血が足りなくてくらくらするが、元気は元気だ。
「あ、ちょっとダメかも……」
「「「シノー!!!!」」」
べポ、シャチ、ペンギンの叫ぶ声が響いた。
***
シノが目を開くと見慣れた天井だった。ポーラータング号の中だ。ゆっくり顔を傾ける。横でローが座って本を読んでいる。細くて長い指でページをめくっていく。綺麗だなぁと眺めていた。何ページかめくったのを見守ったタイミングで視線だけちらりとこちらを向き、目が合った。
「起きたなら言え」
パタンと本を閉じて近づいてくる。そういえば足を怪我していたのだっけか。すっと傷のあたりを撫でられ、びくりとする。
「傷は縫った。跡もそのうちわからないくらいになるだろ」
「いつもお手数おかけします」
「全くだ」
一緒に旅に出てから何度怪我をして、何度治療をしてもらったことか。最初のうちこそすぐに怪我をしては怒られていた。最近では大分減ったが、まだまだムラがあるのがシノの問題だ。
「何のためにペンギンと組ませたのか、わかってねェだろ」
「お目付役じゃ無いの?」
「お前の仕事はサポートだろうが。一人行動するなら、今後船から出さねェぞ」
「ええええ!?!?」
シノもそれなりに戦えるが、ベポやシャチ、ペンギンと比較したら弱い。ただ、誰かのサポートであれば周りを見て的確に動けるので勝率がかなり上がる。そのために、絶対に誰かと一緒に戦うよう言われている。
「お前が一人でも冷静に動けるようになるか、一人でも問題ないくらい強くなれば構わねェが、それまでは一人になるな。実際今回も何も考えず一人で突っ込んだんだろ」
「……ごめんなさい」
子供やカフェの人が危ないと思いつい動いてしまった。ペンギンはちゃんと止めた。怒られていないと良いが。
「結果的に怪我人も出なかったし、お前の判断自体は悪くなかった。が、自分の命を守る算段が建てられない間はやめておけ。そもそもお前自身、戦闘に向いてないって自分でわかってんだろ」
シノを心配しての発言であるということはわかる。自分たちのいないところで死なないようにと考えてくれているのだ。危ない所では絶対に幼馴染の誰かと組まされるのはその為だ。戦闘に向いていないと言うのも、シノ自身自覚はある。
ただ、皆と同じ目線でいろいろなものを見て発見して苦労をして楽しむためには、守られるだけではダメなのだ。ただでさえ島にいる頃から年上の三人に置いていかれないよう必死だった。ベポは一応年下だが、三人に引けを取らない程強かった。
「……ちょっと考えます」
迷惑をかけず役に立つ方法。強くなれればそれが良いが、確かにローの言うとおり、サポートの方が向いているとも思う。ただ、ずっと一緒に行動できる状況だけではない。せめて一人行動が許されるようにならなければ。
ローははぁとわざとらしくため息をついた。
「……これから俺たちは偉大なる航路を目指す」
「え……それって……」
「ベポも航海術に十分自信がついたと言っていた。北の海で実戦も積んできたしそろそろ目指しても良い時期だと思う」
旅に出た日からずっと意識はしていた。ベポやシノが年齢的にも能力的にも成長するのを待っていたのかもしれない。随分長い間、北の海にいたが、その時がついに来たのだ。
「偉大なる航路に入れば、海賊達のレベルは一気にあがる。俺らがお前を守り切れる保証はねェ。だから正直、無理に戦わなくても良い、ただ最低限身を守る術は磨いておけ」
海賊として海に出ている以上、完全に安全な場所はない。自分の身は自分で守れないと生きていけない。当たり前のことだ。
「……でも戦わないと、ロー達といつも一緒に居られないかもじゃん」
できるだけ前線に出ていたい。一人前として任されたい。自分の実力のせいだとはわかっていても少し不貞腐れてしまう。良い大人だと言うのに恥ずかしいが、彼らの前ではつい甘えてしまうのだ。
「逆だ。俺らは今更お前に土下座して頼まれてもお前だけ置いていくつもりはねェ、一緒に居るための選択肢だ!」
びしっと指を突きつけられ怒られた。
最悪無理に戦わなくても良いから自分の身を守って一緒にいろ、というのが船長指示らしい。偉大なる航路に入る前に、彼らなりにたくさん考えてくれた結果なのだろう。
「わかったか?」
「うん、なんか凄く愛されてるのは伝わってきた」
肯定もされなかったが、否定もされなかった。
「でもやっぱりちゃんと一緒に戦いたいからちゃんと考える」
「その方が俺らも助かるな」
「私、ずっと付き纏うからね」
「…………その表現は少し違くねェか?」
ローのために命を賭けたいと言ったら多分怒られるので言えないが、今のままではただ心配をかけるだけだ。絶対に最低限強くならなければならない。偉大なる航路に入るまであと数ヶ月はあるらしいので、それまでに何ができるか。
「あ、島の人たちは無事だった?」
「怪我人には応急処置をしてきた。問題ないだろ」
「そっかそっか、よかった」
島を去る前に挨拶をしたかったが、もう船が揺れているということは島を離れてしまったようだ。海賊が長居してもしょうがない。あの海賊達を倒すというローの目的は果たされたので、もうあの島に用事はない。
「ちなみにそれ、捻挫もしてるから数日安静にしてろよ」
「うそー……」
強くなるためにいろいろやりたいというのに、早速出鼻をくじかれるとは。
「医学書か戦術の本なら貸してやるから、動けるようになるまで読んでろ」
「…………はい」
本は苦手だがしょうがない。ローなりに気を使ってくれたのだろう。
あと数か月、忙しくなりそうだ。動けるようになるまでは頭を使って、これから出来ることをゆっくり考えようと決意した。
end.
1/1ページ