過保護な船長
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「 「じゃんけん、ぽん!!!」 」
島の上陸に際し、行動ペアを決めるためのじゃんけん大会が開催された。基本的には皆誰と行きたい等の希望はないのだが、シノはどうしてもローと出掛けたかった為、ローと同行する人を決めるじゃんけん大会を勝手に開催したというのがことの経緯だ。
今はまさに決勝戦、ペンギンとシノの勝負が繰り広げられていた。シノ、渾身のパーに対して、ペンギンはチョキ。シノがその場で崩れ落ちる。
「俺の勝ちー、んじゃキャプテン行こうぜー」
「うわーん、ペンギンのバカー!!!」
「はいはい、じゃあシノは俺とな」
シャチに引き摺られるように町へと繰り出した。どうもシノはここぞという時のじゃんけんに弱い。共同生活しているとじゃんけんで何かを決める機会もちょこちょこ発生するのだが、毎回負けて貧乏くじを引く。
「しゃーねーだろ、お前。じゃんけんは運だ運」
「そうなんだけど……あーあ、じゃんけんなんて言うんじゃなかった」
「まぁお前の場合、運だけじゃねェけど」
基本的に複数名で行動するか、目的に応じてローが行動組を指定するか、ローが単独行動を取るか。そんなパターンが多いので、フリーのタイミングでローと二人で出掛けられる機会はなかなか少ない。どうせならと思ったのだが、またダメだった。とは言いつつ、シャチとのお出かけも楽しいので、今日はそれを楽しむことにする。
「とりあえず新鮮な魚とか飯買い込もうぜー!!」
「おー!!!!!」
食料調達係ではないが、美味しそうな食材があれば確保したい。ふらふらとシャチと町の中を見て回る。アイス屋でアイスをおごってもらい、可愛い洋服をウィンドウショッピングして。目的もなくただ歩き回る。
「お、酒場だ。酒でも飲んでくか」
「そうだねー」
なんやかんやとシノの好きな場所に付き合ってもらってしまったので、酒場ならシャチも楽しめるだろう。カランカランと鐘がなるドアを開ける。いい感じの雰囲気の酒場だ。適当に一杯くらい飲んで、良さげな酒のボトルをいくつか買って帰るか。そう思って店内に目を向けた時だった。
「おい、シノ、急に止まるなよ!」
思わず見覚えのある人物を見つけ、止まってしまった。そこにはソファ席に腰掛け酒を飲むローの姿があった。正面には一緒に出かけたペンギンもいる。
「ん?お、キャプテン達いるじゃん、合流しようぜ」
「……キャプテンが、美女をはべらせてる……」
「はべらせてるというか、店員だな」
普通の酒場ではないのか。ソファに座るローの両隣に女性が座っている。綺麗な艶のある金髪と黒髪、大人っぽい顔立ちにメイク、これでもかと言わんばかりのスタイルの良さ。そんな女性に囲まれているロー。ただ座っているだけなのに、なんて絵になる人間たちなのか。ローも女性達もただただ眩しい。綺麗な女性たちを見る事は好きなのだが、ローが囲まれているとなると話は別だ。
「……キャプテン、ああいうのが好みなんだ……!!」
「いやーよく見ろ、どう見ても興味なさそうな目してるだろ」
「知らない女の人に触ってる……!!」
「いいか、あれは触ってるんじゃなくて触られてるって言うんだ」
「あんなのが好みならそりゃ私なんて眼中にないよね…」
「……少なくとも今現在進行形でお前のことガン見してるな」
シャチにそう言われ、はて、とローを改めて見る。確かにこちらを凄い形相で見ている。声は聞こえないが、何やってんだお前らと言われている気がする。一旦茶番は置いておいて、シャチとシノはロー達のテーブルへと向かい、ペンギンの隣に腰かけた。
「お前ら店の入り口で何してんだ」
「キャプテンがモテモテだったからついふざけてました」
くだらないことを言ったからか、心底呆れた顔で見られた。
ローはモテる。シノたちと入れ替わりで席を外してしまった女性たちは店員だったようだが、見知らぬ通りがかりの人間にもよくモテている。目つきが悪いので怖いと言う意見もあるが、そういう男に惹かれる女性も多いのだろう。派手で綺麗な人たちに絡まれているのを何度か見た。その度に、少し羨ましくなる。自分の方が近くにいるし、大切にされている自覚はあるが、女として見られている気はまるでしないし、女としてアピールできるものもない。ああして堂々とローを誘惑できる女性が少し羨ましい。
「別にキャプテンがモテてるのなんていつもの事じゃん」
「そうだけどー……」
むぅと少し不機嫌な表情を隠さず、シャチが持ってきてくれたカクテルを飲む。甘い味付けのそれはシノの好みにぴったりだった。
「なにこれ、美味し~!!」
「お前がまず直すべきなのはそういう所だろうな」
すぐに機嫌を取り戻したことにシャチが突っ込む。まだ気にはしているが、せっかく皆と一緒にいるのに、不機嫌になっている方が失礼だ。シノの好きそうな酒を持ってきてくれたシャチの好意を素直に受け取ったまでだ。
「で、欲しい情報は手に入ったの?」
「まぁぼちぼちだな」
酒場にいたのはそういうことだろう、と本題に入る。もちろん酒を飲むという目的もあるが、だいたい情報収集のためだ。こういう場には情報が集まりやすく効率的なので、ここに来たようだ。最近、この近辺の島を荒らしまわっている海賊がいるらしい。この島はちょうど海軍の大佐が滞在していたタイミングで来たため返り討ちにしてもらえたようだが、周りの島の港町は町を壊される、食料を奪われる、女が襲われる等好き放題されているようだ。
「そのうち出くわす可能性はあるよね……」
「戦力がわからねェ。下手に会わないよう気を付けるに越したことはないな」
そう言いながらも、どうせ出くわしたら殲滅するくせに。とは口に出さない。あくまで正義の味方ではなく海賊だ。進んでそういう事をするつもりはない。が、偶然出会ってしまったらそれはしょうがない。というのがローの理屈だ。シノはぼんやりとカクテルグラスを眺め、無駄にくるくると回す。
「シノ、どうかしたか?」
「いや……今更だけど、私まだ未成年だったなァって思って」
「 「 「…………」 」 」
べポ以外のクルーのほとんどが年上なので、当たり前のように飲んでいたが、まだギリギリ19歳だ。彼らの反応を見るに、恐らく忘れていたのだろう。旅を始めて早6年。誕生日を祝うような習慣もなく、誰もが年齢が曖昧になっていたのだろう。とはいえ、彼らも成人する前から飲んでいたから、特に気にするようなことではないのだが。
「……今度からそれぞれの誕生日、祝うか」
「年に何回誕生日会するのさ」
「いや、船で旅をしている以上、日付を忘れないようイベントごとは大事かもしれねェ」
「よし、戻ったら全員の誕生日洗い出すぞ」
男三人が急に真面目に盛り上がり始めた。大人になってもこんなことに本気になれるのは変わらないようだ。
次の誕生日でシノも成人を迎える。はずなのだが。どうも先ほどの絵になる美男美女の様子が頭をよぎり、何とも言えない気持ちになる。年だけ重ねてもローを誘惑できるような女性になれる気がまるでしない。今後もああいう姿を見にすることはあるだろう。何なら、ローが放浪して帰って来ない時は、ああいうシノの知らない女性と過ごしているのかもしれない。
「シノ、今度はどうしたー?」
「……何でもない」
くいと残りのカクテルを煽る。その液体が喉を通るのが分かるくらいに喉が熱い。やはり美味しくて、ほぅと笑みがこぼれる。アルコール度数が高い酒は一杯で十分だ。満足して席を立つ。
「帰る」
「おい、シノー??」
ローは悪くない。自信を持てない自分が悪い。妹から抜け出せる自信がない自分が悪い。が、勝手に嫉妬してしまったので何となく今はローのそばにいたくなくなってしまった。普段はそんなに気にならないので、酒のせいかもしれない。シノはスッと立ち上がった。
「さっきのお酒のリキュールだけ買って先に船戻ってるよ」
「じゃあ俺も戻るか」
「いいよ、シャチもっと飲みたいでしょ。真っ直ぐ戻るから大丈夫だよ」
「一人で平気かー?」
「大丈夫だって、心配ならリキュールも頼んだ。私何もせず帰るから」
先ほどの話の通り、よく海軍が訪れる町のようで、町全体の治安も良い。ここに来る時も女や子供が普通に一人で歩いていたくらいには安全な町なのだろう。海賊とは言えどシノは賞金首ではないので顔も知られていない。海軍に出くわしてもおとなしくしていればバレやしない。
酒の購入も任せ、酒場を後にするシノ。酒で少し熱かったので、外の空気が心地よい。少し散歩をしたいところだが、真っ直ぐに帰ると約束したので素直に船に向かった。
「お姉さん、楽しそうだねー」
急に声を掛けられ、声の方を見る。どうやら魚屋のようだ。気の良さそうな男性がにこにこと声をかけてきた。
「そうなんですよー」
「そんな日の夕飯に、魚料理はどうだい?」
あまりにも雑な営業方法に笑ってしまった。魚を売りたいのはわかるが、こじつけにもほどがある。しかし、今日の夕飯を焼き魚にしてもらうのはありかもしれない。ローが喜ぶだろう。と考えて少し悩んだ。今まさにローのことを忘れようと離れたのに、ここで考えてしまって良いのか。
「今日の朝採れたてで新鮮だよー魚好きならぜひ」
「んー……お兄さんのおすすめは?」
「そうだなーこれとか……」
指さされた魚を一緒に覗き込む。この近海特有の魚で、大振りだが繊細な味がするらしい。多分食べたことはない。ローに限らず、ハートの海賊団は魚好きが多い。これは本当にお買い得かもしれない。シノは自分の財布の中身を思い浮かべる。この魚を2,3匹ならギリギリ今持っているお小遣いでいける。
「じゃあこの魚3匹ください!」
「まいどあり~!!」
持ち帰れるよう丁寧に袋に詰めてもらう。一匹が大きいので、かなりの荷物になりそうだ。今日の夕飯当番は誰だったか。もしかしたら既に何か材料を仕入れているかもしれない。戻ったらすぐに献立の交渉をしなければならない。急ぎ帰らなければ。
「お姉さん、ここら辺の人じゃないの?」
「出身はスワロー島です」
「おー、じゃあ結構距離あるねぇ、一人旅?」
「一人じゃねェ」
「キャ……、ロー!?」
突然背後から、腕を首にかけられ引き寄せられた。キャプテン、と呼ぶと海賊と疑われるかもしれないのでギリギリ飲み込んだ。もう酒場から出たのだろうか。きょろきょろと周りを見るが、シャチとペンギンの姿はない。
「なんだ、兄ちゃんと旅行かー、いいねぇ」
「…………」
否定も肯定もしない。傍から見ると、ローとシノは兄妹に見えるのか。果たして兄を名前で呼ぶだろうか。そんな関係もなくはないのだろうが。シノはローの腕を外そうと手をかけるがびくともしない。眉を顰め、真上を見てローに声をかける。
「ロー、何してんの?」
「お前こそ何絡まれてんだ」
「絡まれ……いや、相手、魚屋さんですけど!?」
どう見ても魚を購入しているだけなのだが。声のかけられ方はナンパ風だったが、どう考えても魚の営業とそれを購入した客なのだが。何をどう勘違いしたのか。美味しそうな魚を購入していただけだと伝えても、腕を離してくれる気はないらしい。
「あのね、モテモテのローと違って、私に声かけてくるのは営業か道端の優しいおじいちゃんとかだから」
少しトゲトゲしくモテモテの部分を強調して言う。そもそも何故先ほどまで金髪美女に囲まれていた人にそんなことを言われなければならないのか。
「じじいだって何考えてるかわかんねェだろ」
「さすがにわかるわ!!」
下心のある老人か、ただの優しい老人か位の判別はつく。親切な老人に失礼だ。まぁセクハラ発言されることはあるが、少なくとも今まで下心まで感じた老人には会ったことがない。
「いいから。お前は一人になるな」
「分かった!分かったから首離してー」
首が少し苦しいくらいに引っ張られ、ローの腕をペチペチと叩く。離してはくれなかったが、少し緩めてくれた。気付かなかったが、シノが酒場を出た時からずっとついてきていたのだろう。過保護な兄だ。
「私だってたまにはモテてみたいよ……」
「必要ねェだろ」
シノの頭の上で、不思議そうに首を傾げるロー。一体何てことを言うのか。モテる男としては、モテても良いことがないと言いたいのか。実際シノはローが好きなので、ロー以外にモテてもどうしようもないのだが、それはそれとして、全くモテないのは女としての魅力が足りないようで解せない。
「何言って……って魚屋さん??」
「あーいやごめんごめん、仲良いねぇ。面白くてつい」
魚の袋詰めは終わっていたらしく、魚屋の男性が目の間で必死で笑いをこらえていた。
「兄ちゃん誤解させて悪かったね、お詫びに魚もう1匹つけといたから」
「わぁ、お兄さんありがと~」
大きな袋の入り口を覗くと、魚がぎゅうぎゅうに詰まっている。ようやく離してくれたローが袋をひょいと担いだ。正直この大きさとなるとシノが運ぶには大きすぎたので助かった。魚屋に手を振りその場を後にする。
しばらくお互い何も話さず横を歩いていた。船に向かうのは決まっているので、言わなくても向かう報告はわかる。
「……お前さっきの店で一切こっち見なかったな」
「……さっきの大人の女性達に嫉妬してたもので」
酒場で一切ローの方を見ていなかったのがバレていた。勝手に嫉妬していただけで、ローに当たるのも違うので、せめて目を合わせたくなかった。子供っぽい理由だが、隠しても仕方ないので正直に伝える。
「シャチも言ってただろ。別にああいうのは好みじゃない」
「あれ、聞こえてたの?」
「あれだけ騒いでたらな」
「金髪のセクシーなお姉さん達だったのに??」
正直、別に好みだったとしても構わないのだが。ローは22歳男性、職業"海賊"なのだ。そういう店に行くことだってあってもおかしくない。それを止められる立場でもないし、他の女と関係を持ってほしくない等と言うつもりもない。シノとしては、何年かけても最終的に振り向いてもらうまで粘るだけの話だ。まぁいちいち嫉妬はするので、出来ればシノの知らない所でお願いしたいところではある。
「……ちなみに、私は好みだったり……?」
「いや?」
「そこは形だけでもちょっと悩んでよ!?」
怒るシノを見て、笑うロー。からかわれたようだ。こういう所が兄妹と言われる所以なのだろう。このままでは一生女として見てもらえない気がする。今悩んでも仕方がない。現時点では妹どまりなのは事実だ。
「……絶対立派な大人の女性になってやる」
「あと一年で法的に大人にはなるな」
「一年じゃ無理かも……」
「……お前こそ、そこはもう少し頑張れよ」
いつの日か、べポの故郷のある偉大なる航路に行く日が来るだろう。それが何年後かはわからないが、その頃には少しは魅力的な女性になれているだろうか。この関係は少しは変わっているのだろうか。どう変わるかはわからないが、今はまだこの心地よい関係を堪能することにした。
end.
島の上陸に際し、行動ペアを決めるためのじゃんけん大会が開催された。基本的には皆誰と行きたい等の希望はないのだが、シノはどうしてもローと出掛けたかった為、ローと同行する人を決めるじゃんけん大会を勝手に開催したというのがことの経緯だ。
今はまさに決勝戦、ペンギンとシノの勝負が繰り広げられていた。シノ、渾身のパーに対して、ペンギンはチョキ。シノがその場で崩れ落ちる。
「俺の勝ちー、んじゃキャプテン行こうぜー」
「うわーん、ペンギンのバカー!!!」
「はいはい、じゃあシノは俺とな」
シャチに引き摺られるように町へと繰り出した。どうもシノはここぞという時のじゃんけんに弱い。共同生活しているとじゃんけんで何かを決める機会もちょこちょこ発生するのだが、毎回負けて貧乏くじを引く。
「しゃーねーだろ、お前。じゃんけんは運だ運」
「そうなんだけど……あーあ、じゃんけんなんて言うんじゃなかった」
「まぁお前の場合、運だけじゃねェけど」
基本的に複数名で行動するか、目的に応じてローが行動組を指定するか、ローが単独行動を取るか。そんなパターンが多いので、フリーのタイミングでローと二人で出掛けられる機会はなかなか少ない。どうせならと思ったのだが、またダメだった。とは言いつつ、シャチとのお出かけも楽しいので、今日はそれを楽しむことにする。
「とりあえず新鮮な魚とか飯買い込もうぜー!!」
「おー!!!!!」
食料調達係ではないが、美味しそうな食材があれば確保したい。ふらふらとシャチと町の中を見て回る。アイス屋でアイスをおごってもらい、可愛い洋服をウィンドウショッピングして。目的もなくただ歩き回る。
「お、酒場だ。酒でも飲んでくか」
「そうだねー」
なんやかんやとシノの好きな場所に付き合ってもらってしまったので、酒場ならシャチも楽しめるだろう。カランカランと鐘がなるドアを開ける。いい感じの雰囲気の酒場だ。適当に一杯くらい飲んで、良さげな酒のボトルをいくつか買って帰るか。そう思って店内に目を向けた時だった。
「おい、シノ、急に止まるなよ!」
思わず見覚えのある人物を見つけ、止まってしまった。そこにはソファ席に腰掛け酒を飲むローの姿があった。正面には一緒に出かけたペンギンもいる。
「ん?お、キャプテン達いるじゃん、合流しようぜ」
「……キャプテンが、美女をはべらせてる……」
「はべらせてるというか、店員だな」
普通の酒場ではないのか。ソファに座るローの両隣に女性が座っている。綺麗な艶のある金髪と黒髪、大人っぽい顔立ちにメイク、これでもかと言わんばかりのスタイルの良さ。そんな女性に囲まれているロー。ただ座っているだけなのに、なんて絵になる人間たちなのか。ローも女性達もただただ眩しい。綺麗な女性たちを見る事は好きなのだが、ローが囲まれているとなると話は別だ。
「……キャプテン、ああいうのが好みなんだ……!!」
「いやーよく見ろ、どう見ても興味なさそうな目してるだろ」
「知らない女の人に触ってる……!!」
「いいか、あれは触ってるんじゃなくて触られてるって言うんだ」
「あんなのが好みならそりゃ私なんて眼中にないよね…」
「……少なくとも今現在進行形でお前のことガン見してるな」
シャチにそう言われ、はて、とローを改めて見る。確かにこちらを凄い形相で見ている。声は聞こえないが、何やってんだお前らと言われている気がする。一旦茶番は置いておいて、シャチとシノはロー達のテーブルへと向かい、ペンギンの隣に腰かけた。
「お前ら店の入り口で何してんだ」
「キャプテンがモテモテだったからついふざけてました」
くだらないことを言ったからか、心底呆れた顔で見られた。
ローはモテる。シノたちと入れ替わりで席を外してしまった女性たちは店員だったようだが、見知らぬ通りがかりの人間にもよくモテている。目つきが悪いので怖いと言う意見もあるが、そういう男に惹かれる女性も多いのだろう。派手で綺麗な人たちに絡まれているのを何度か見た。その度に、少し羨ましくなる。自分の方が近くにいるし、大切にされている自覚はあるが、女として見られている気はまるでしないし、女としてアピールできるものもない。ああして堂々とローを誘惑できる女性が少し羨ましい。
「別にキャプテンがモテてるのなんていつもの事じゃん」
「そうだけどー……」
むぅと少し不機嫌な表情を隠さず、シャチが持ってきてくれたカクテルを飲む。甘い味付けのそれはシノの好みにぴったりだった。
「なにこれ、美味し~!!」
「お前がまず直すべきなのはそういう所だろうな」
すぐに機嫌を取り戻したことにシャチが突っ込む。まだ気にはしているが、せっかく皆と一緒にいるのに、不機嫌になっている方が失礼だ。シノの好きそうな酒を持ってきてくれたシャチの好意を素直に受け取ったまでだ。
「で、欲しい情報は手に入ったの?」
「まぁぼちぼちだな」
酒場にいたのはそういうことだろう、と本題に入る。もちろん酒を飲むという目的もあるが、だいたい情報収集のためだ。こういう場には情報が集まりやすく効率的なので、ここに来たようだ。最近、この近辺の島を荒らしまわっている海賊がいるらしい。この島はちょうど海軍の大佐が滞在していたタイミングで来たため返り討ちにしてもらえたようだが、周りの島の港町は町を壊される、食料を奪われる、女が襲われる等好き放題されているようだ。
「そのうち出くわす可能性はあるよね……」
「戦力がわからねェ。下手に会わないよう気を付けるに越したことはないな」
そう言いながらも、どうせ出くわしたら殲滅するくせに。とは口に出さない。あくまで正義の味方ではなく海賊だ。進んでそういう事をするつもりはない。が、偶然出会ってしまったらそれはしょうがない。というのがローの理屈だ。シノはぼんやりとカクテルグラスを眺め、無駄にくるくると回す。
「シノ、どうかしたか?」
「いや……今更だけど、私まだ未成年だったなァって思って」
「 「 「…………」 」 」
べポ以外のクルーのほとんどが年上なので、当たり前のように飲んでいたが、まだギリギリ19歳だ。彼らの反応を見るに、恐らく忘れていたのだろう。旅を始めて早6年。誕生日を祝うような習慣もなく、誰もが年齢が曖昧になっていたのだろう。とはいえ、彼らも成人する前から飲んでいたから、特に気にするようなことではないのだが。
「……今度からそれぞれの誕生日、祝うか」
「年に何回誕生日会するのさ」
「いや、船で旅をしている以上、日付を忘れないようイベントごとは大事かもしれねェ」
「よし、戻ったら全員の誕生日洗い出すぞ」
男三人が急に真面目に盛り上がり始めた。大人になってもこんなことに本気になれるのは変わらないようだ。
次の誕生日でシノも成人を迎える。はずなのだが。どうも先ほどの絵になる美男美女の様子が頭をよぎり、何とも言えない気持ちになる。年だけ重ねてもローを誘惑できるような女性になれる気がまるでしない。今後もああいう姿を見にすることはあるだろう。何なら、ローが放浪して帰って来ない時は、ああいうシノの知らない女性と過ごしているのかもしれない。
「シノ、今度はどうしたー?」
「……何でもない」
くいと残りのカクテルを煽る。その液体が喉を通るのが分かるくらいに喉が熱い。やはり美味しくて、ほぅと笑みがこぼれる。アルコール度数が高い酒は一杯で十分だ。満足して席を立つ。
「帰る」
「おい、シノー??」
ローは悪くない。自信を持てない自分が悪い。妹から抜け出せる自信がない自分が悪い。が、勝手に嫉妬してしまったので何となく今はローのそばにいたくなくなってしまった。普段はそんなに気にならないので、酒のせいかもしれない。シノはスッと立ち上がった。
「さっきのお酒のリキュールだけ買って先に船戻ってるよ」
「じゃあ俺も戻るか」
「いいよ、シャチもっと飲みたいでしょ。真っ直ぐ戻るから大丈夫だよ」
「一人で平気かー?」
「大丈夫だって、心配ならリキュールも頼んだ。私何もせず帰るから」
先ほどの話の通り、よく海軍が訪れる町のようで、町全体の治安も良い。ここに来る時も女や子供が普通に一人で歩いていたくらいには安全な町なのだろう。海賊とは言えどシノは賞金首ではないので顔も知られていない。海軍に出くわしてもおとなしくしていればバレやしない。
酒の購入も任せ、酒場を後にするシノ。酒で少し熱かったので、外の空気が心地よい。少し散歩をしたいところだが、真っ直ぐに帰ると約束したので素直に船に向かった。
「お姉さん、楽しそうだねー」
急に声を掛けられ、声の方を見る。どうやら魚屋のようだ。気の良さそうな男性がにこにこと声をかけてきた。
「そうなんですよー」
「そんな日の夕飯に、魚料理はどうだい?」
あまりにも雑な営業方法に笑ってしまった。魚を売りたいのはわかるが、こじつけにもほどがある。しかし、今日の夕飯を焼き魚にしてもらうのはありかもしれない。ローが喜ぶだろう。と考えて少し悩んだ。今まさにローのことを忘れようと離れたのに、ここで考えてしまって良いのか。
「今日の朝採れたてで新鮮だよー魚好きならぜひ」
「んー……お兄さんのおすすめは?」
「そうだなーこれとか……」
指さされた魚を一緒に覗き込む。この近海特有の魚で、大振りだが繊細な味がするらしい。多分食べたことはない。ローに限らず、ハートの海賊団は魚好きが多い。これは本当にお買い得かもしれない。シノは自分の財布の中身を思い浮かべる。この魚を2,3匹ならギリギリ今持っているお小遣いでいける。
「じゃあこの魚3匹ください!」
「まいどあり~!!」
持ち帰れるよう丁寧に袋に詰めてもらう。一匹が大きいので、かなりの荷物になりそうだ。今日の夕飯当番は誰だったか。もしかしたら既に何か材料を仕入れているかもしれない。戻ったらすぐに献立の交渉をしなければならない。急ぎ帰らなければ。
「お姉さん、ここら辺の人じゃないの?」
「出身はスワロー島です」
「おー、じゃあ結構距離あるねぇ、一人旅?」
「一人じゃねェ」
「キャ……、ロー!?」
突然背後から、腕を首にかけられ引き寄せられた。キャプテン、と呼ぶと海賊と疑われるかもしれないのでギリギリ飲み込んだ。もう酒場から出たのだろうか。きょろきょろと周りを見るが、シャチとペンギンの姿はない。
「なんだ、兄ちゃんと旅行かー、いいねぇ」
「…………」
否定も肯定もしない。傍から見ると、ローとシノは兄妹に見えるのか。果たして兄を名前で呼ぶだろうか。そんな関係もなくはないのだろうが。シノはローの腕を外そうと手をかけるがびくともしない。眉を顰め、真上を見てローに声をかける。
「ロー、何してんの?」
「お前こそ何絡まれてんだ」
「絡まれ……いや、相手、魚屋さんですけど!?」
どう見ても魚を購入しているだけなのだが。声のかけられ方はナンパ風だったが、どう考えても魚の営業とそれを購入した客なのだが。何をどう勘違いしたのか。美味しそうな魚を購入していただけだと伝えても、腕を離してくれる気はないらしい。
「あのね、モテモテのローと違って、私に声かけてくるのは営業か道端の優しいおじいちゃんとかだから」
少しトゲトゲしくモテモテの部分を強調して言う。そもそも何故先ほどまで金髪美女に囲まれていた人にそんなことを言われなければならないのか。
「じじいだって何考えてるかわかんねェだろ」
「さすがにわかるわ!!」
下心のある老人か、ただの優しい老人か位の判別はつく。親切な老人に失礼だ。まぁセクハラ発言されることはあるが、少なくとも今まで下心まで感じた老人には会ったことがない。
「いいから。お前は一人になるな」
「分かった!分かったから首離してー」
首が少し苦しいくらいに引っ張られ、ローの腕をペチペチと叩く。離してはくれなかったが、少し緩めてくれた。気付かなかったが、シノが酒場を出た時からずっとついてきていたのだろう。過保護な兄だ。
「私だってたまにはモテてみたいよ……」
「必要ねェだろ」
シノの頭の上で、不思議そうに首を傾げるロー。一体何てことを言うのか。モテる男としては、モテても良いことがないと言いたいのか。実際シノはローが好きなので、ロー以外にモテてもどうしようもないのだが、それはそれとして、全くモテないのは女としての魅力が足りないようで解せない。
「何言って……って魚屋さん??」
「あーいやごめんごめん、仲良いねぇ。面白くてつい」
魚の袋詰めは終わっていたらしく、魚屋の男性が目の間で必死で笑いをこらえていた。
「兄ちゃん誤解させて悪かったね、お詫びに魚もう1匹つけといたから」
「わぁ、お兄さんありがと~」
大きな袋の入り口を覗くと、魚がぎゅうぎゅうに詰まっている。ようやく離してくれたローが袋をひょいと担いだ。正直この大きさとなるとシノが運ぶには大きすぎたので助かった。魚屋に手を振りその場を後にする。
しばらくお互い何も話さず横を歩いていた。船に向かうのは決まっているので、言わなくても向かう報告はわかる。
「……お前さっきの店で一切こっち見なかったな」
「……さっきの大人の女性達に嫉妬してたもので」
酒場で一切ローの方を見ていなかったのがバレていた。勝手に嫉妬していただけで、ローに当たるのも違うので、せめて目を合わせたくなかった。子供っぽい理由だが、隠しても仕方ないので正直に伝える。
「シャチも言ってただろ。別にああいうのは好みじゃない」
「あれ、聞こえてたの?」
「あれだけ騒いでたらな」
「金髪のセクシーなお姉さん達だったのに??」
正直、別に好みだったとしても構わないのだが。ローは22歳男性、職業"海賊"なのだ。そういう店に行くことだってあってもおかしくない。それを止められる立場でもないし、他の女と関係を持ってほしくない等と言うつもりもない。シノとしては、何年かけても最終的に振り向いてもらうまで粘るだけの話だ。まぁいちいち嫉妬はするので、出来ればシノの知らない所でお願いしたいところではある。
「……ちなみに、私は好みだったり……?」
「いや?」
「そこは形だけでもちょっと悩んでよ!?」
怒るシノを見て、笑うロー。からかわれたようだ。こういう所が兄妹と言われる所以なのだろう。このままでは一生女として見てもらえない気がする。今悩んでも仕方がない。現時点では妹どまりなのは事実だ。
「……絶対立派な大人の女性になってやる」
「あと一年で法的に大人にはなるな」
「一年じゃ無理かも……」
「……お前こそ、そこはもう少し頑張れよ」
いつの日か、べポの故郷のある偉大なる航路に行く日が来るだろう。それが何年後かはわからないが、その頃には少しは魅力的な女性になれているだろうか。この関係は少しは変わっているのだろうか。どう変わるかはわからないが、今はまだこの心地よい関係を堪能することにした。
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