ドレスローザの解放
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王宮の大地から能力で飛んだローとシノ。ローが叩き斬った建物の一角が地面に落ちるタイミングで入れ替わり、二人揃って地面に落ちた。目の前にはちょうどルフィを背負ったギャッツがいた。狙い通りだ。
「ト、トトト、トラファルガー・ロー!!ひ、ひちひち、七武カ……」
「お前ら遠くへ逃げすぎじゃねェか……?」
「ルフィくんの覇気、戻るの!?」
「あの、10分必要と言われ、今は…あと…3分20秒!!」
ローという王下七武海の存在におびえながらも状況を端的に教えてくれた。約7分、彼を背負って逃げていたようだ。闘技場の猛者達の実況を全力でし続けてきた戦士だ。ドフラミンゴに追われると分かっていても引き受けてくれるだけの度胸があったようだ。
「一刻を争う勝負だ……あとは俺が預かる」
「ハイ!!!」
戸惑いながらもルフィの身柄を渡してくれた戦士ギャッツ。ローの代わりにシノがルフィの体を預かる。ゆっくり渡されたものの当然シノより大きいうえ、完全に力が抜けている男性の体の重さがのしかかり、少しよろけてしまった。何とかギリギリ支え、ローの能力で建物の上に移動し、座り込む。ギャッツが逃げ回るより、ローとシノで護衛している方が安全だ。そして何より、ルフィが起きてすぐにドフラミンゴのもとへ送り届けることも出来る。
「……行けそうか?」
「覇気は正直わからない……けど復帰した時に一応動ける体力は回復できると思うよ」
「それ、どうやって能力使ってんだ」
「え、触れるだけ」
本当に触るだけだ。シノの意志とは関係なく能力が発動する。服の上からではなく直接でなければならないようなので、ルフィの手をひたすら握る。頼まれたからにはやらなければ。とはいえ、まだ能力に慣れていないうえに、マンシェリー姫の能力に比べれば、自分の能力もよくわかっていないシノの力では、ほとんど焼け石に水のレベルかもしれないが。
周りは砂埃が巻き上がり、悲鳴や奮起する叫び声であふれかえっている。先ほどまでいた王宮よりも、一つの国を巻き込んだ大きな戦いの真っただ中に来たことがよくわかる。
今更ながらドフラミンゴから受けた傷が開いたようで、服の中で血がじんわりと出てきて濡れてきたのを感じた。そのうえ、意外というか、よく考えれば当然なのだが、この能力は自分の体力を使うようだ。ローに続いてルフィの回復を行っているせいで限界が近づいていたが、シノはギリと自分の唇を噛み、何とか意識を維持し続けた。
『さァ皆さん!!もう少しの辛抱だ!!』
喧噪の中、先ほどまで一緒にいたギャッツの実況が響き渡った。
『スターは蘇る!ルーシーは約束してくれたんだ!ドフラミンゴの一発KO宣言!!!』
未だに何故出ていたのかもよくわからなかったあの闘技場での戦いを国民のほとんどが見ていたからこそ、ルーシーというスターの名が希望に繋がる。さすがは実況を生業としているギャッツの演説。国中を奮い立たせるその演説は、この絶望的な状況下にいる全員の希望を高めるには十分だった。いつの間にか、国中からルーシーコールが巻き起こっていた。
「一発KOって……こりゃルフィくん、責任重大だね」
「こいつで駄目ならこの国も、俺らも、終わりだ」
「そりゃそうか」
二人並んで力なく笑う。これが本当に最後の希望だ。自分の力でどうにも出来ないのは歯痒いが、ルフィには何故か全ての希望を賭ける価値がある気がする。ボロボロの体で倒れているルフィを眺める。ぴくりと握っていた手が動いた。
「!?ルフィくん、立てる!?」
返事は無かったが、苦しそうに立ち上がるルフィ。かろうじて動いているようにしか見えない。が、彼が立ち上がったということは、ドフラミンゴのもとへ向かうのだろう。
「……おい、トラ男」
「あぁ、わかってる」
ふわりとローのROOMが広がる。その場にいたはずのルフィが消え、代わりにヴィオラが現れた。何事かと建物の上から下を覗き込むと、ドフラミンゴの姿があった。そばにはルフィとレベッカがいる。余裕がなく全く気付かなかったが、すぐそばでヴィオラとレベッカがドフラミンゴに接触していたらしい。気づいていなかったのはシノだけだったようだ。
「ロー!レベッカも……!!」
言い切る前に、そこらの石ころと交代でレベッカが飛んでくる。ドフラミンゴがちらりとこちらを見た。ローの能力であることは明白だ。ROOMの展開されている位置から、ここにいるとバレた。目はあったが、上っては来ないようだ。ドフラミンゴ自身も相当余裕がなくなっている。目の前のルフィに集中するつもりのようだ。もう時間がない。
町中に真っ白な糸が広がっていく。鳥カゴもかなり迫ってきた。本当に一発KOをして貰わないと、かなりの死者が出るかもしれない。シノ達がいるこの場も無論、例外ではない。
「いい加減にしろォ!!!!」
ルフィの叫び声が響く。彼らが前後で何を話していたのかはわからない。ただ、ルフィがドフラミンゴに対して怒りをぶつけていることだけは、その叫び声で伝わってきた。
先ほどのように大きな体に膨らむルフィ。王宮のある大地を駆け上り、空高く高く上っていくルフィ。ドフラミンゴも糸を使いそれを追いかけ飛んでいく。今、国中の人々が空を見上げている事だろう。シノもただじっと空を見上げた。
鳥かごの中の空高くで、大きく振り上げられるルフィの右腕。大きく膨らんだ右腕は、覇気により黒くなっている。覇気の回復が間に合ったようだ。
「神誅殺!!!銃!!!!!」
右腕が振り下ろされ、ドフラミンゴに直撃し、空高くから地面へと叩きつけられた。一瞬、世界が静まり返る。誰もが、その光景に息をのみ、声が出なかった。シノも声が出ず、目も離せず、ただただそれを眺めた。
ローの能力でルフィがどさりと降ってきた音で我に返る。
「ルーシー!!!」
レベッカがルフィに駆け寄る。彼のことは彼女に任せておけば良い。シノはローのもとへ駆け寄り、倒れこむ寸前に抱き留めた。最後の力を振り絞りルフィを回収したのだろう。
「鳥カゴ、消えるよ」
「あぁ」
「勝ったんだよ、ドフラミンゴに」
「……あぁ」
空を覆っていた糸のカゴがてっぺんから消えていく。恐ろしい能力だというのに、消える様はとても綺麗な光景に見えた。ようやくこの鳥カゴから、ドフラミンゴから解放される。ドレスローザも、ローの心も。これでローを縛るものは無くなった。
「……おつかれさま」
ぼろぼろと零れ落ちてくる涙がローにかからないように、シノは空を見上げながら、意識を失ったローを抱きしめた。
強国ドレスローザの偽りの栄華とその本性、世界最大の闇の仲買人ドフラミンゴの失脚、海軍本部大将藤虎の土下座。ドレスローザで起きた出来事はすぐに世界中に広まっていった。無論、麦わらの一味とハートの海賊団の海賊同盟によるものだということもあっという間に知れ渡った。
ドレスローザ内は思いのほか平和に事が進んでおり、海軍は海賊達を捕まえることはせず、ドンキホーテファミリーのみを捕縛していった。闘技場の大会のために集まり一緒に戦っていた大量の海賊や戦士たちは、王宮にて公然の秘密として匿われた。
そして、麦わらの一味とロー、シノ、ベラミーは、キュロスの好意でキュロスの家に身を寄せることとなった。あの後、少し目を覚ましたローは、気絶したように眠るルフィとベラミーをこの家へ運び、やることをやって満足したのか再び眠りについた。
「ロー達よく寝てるなぁ」
「今日はゆっくり休ませてあげましょ」
「うん」
シノが出会った時からずっと抱えていたものをついに果たしたのだ。ようやくぐっすり眠れたことだろう。そんなローを見て、シノも思わず笑顔になる。それを見てクスクスと目の前で笑うロビン。
「それにしてもよっぽど仲が良いのね、それ」
「え、あ、これは私の能力で……」
ずっとローの手を握っていたシノ。少しでも早く回復するようにと手を握っていたのを勘違いされてしまったらしい。断じて手を繋いでいたかったわけではない、断じて。
「あら、でもドレスローザに来る前の夜も仲良さそうに……」
「あーあれはほら、冷えたら良くないと思って、並んで寝てただけで」
「あ?お前、悪魔の実の能力者だったのか?」
「うん、昨日食べたばかりだからぶっちゃけ上手くコントロール出来ないんだけど。一応回復系の能力で」
「昨日!?」
シノは軽く自分の能力を説明した。同盟を組んでいる以上、話していた方が何かに役に立つかもしれない。今起きているのはロビン、ゾロ、フランキーだけなので、信用して話しても問題ないだろう。肌が触れ合うと体力の回復ができる事、傷や病気自体を治す事はできない事。正直もっと能力を把握してコントロールできるようにならないといけない。
「ほぉ……まぁ使い方次第では便利かもな」
「とりあえずローが起きたらちゃんと話して一緒に実験してもらう予定」
「言ってなかったのかよ!?」
「一応さっき伝えたけど、正直それどころじゃなかったもので」
あははと笑って誤魔化す。それこそパンクハザードでゾロやロビンに会う直前に食べた所だった。あれから息をつく暇もなくここまで来てしまったので、自分の能力をまともに試す事なく、実質つい先ほどの行為がぶっつけ本番だった。
「意外と無茶苦茶なやつだな……」
「私、そういう子好きよ」
「えへへ、ロビンさんありがと」
一緒に行動し始めてまだ2日だというのに随分馴染んでしまった。ハートの海賊団とはまた違った雰囲気だが、これはこれで居心地が良い。シノとしても、今回のことで一気に肩の荷がおりた。無事、仲間達との約束を守れそうだ。
「だからパンクハザードで海に飛び込むの断ったのか」
「あーそう、あの時はまだローに話してなかったし、ごめんね」
ベビー5とバッファローとシーザーを海に沈め、それを拾いにいくよう言われた時に断ったシノ。代わりにゾロとサンジが行ってくれたから助かったが、もし海に放り込まれていたら大惨事だっただろう。正直、まだ泳げないという実感はわかないのだが、昨晩サニー号でお風呂に入っただけで力が抜けたので、本当にもう泳げない体になってしまったようだ。
「ルフィくんにもさっき能力使ったから、あとで感想聞いてみたいんだよね」
「うちの船長も世話になったのか、悪いな」
「むしろこっちの方が大変お世話になりまして。皆起きたら改めて伝えるけど、本当にありがとう」
深々と頭を下げるシノ。ローの事情はシノからは話せないが、本人からお礼を言うかはわからないので、代わりに勝手に礼を言う。ローの分ではなく、シノ含めハートの海賊団クルー一同からの礼だ。今更ながら、当初のローの作戦は破綻していたにも程がある。麦わらの一味がいなければ、工場破壊等出来なかっただろう。感謝をしてもしきれない。
まだ眠りにつかない面々でわいわいと話していると、突然ドアがノックされた。一瞬警戒した一同だったが、入って来たのは黒いシルクハットの男だった。
「サボ!」
ロビンが歓迎したと言う事は知り合いなのだろう。話を聞いていると、ルフィの義兄らしい。白ひげ海賊団のエースも兄だと聞いていたが、なんともすごい兄弟だ。聞けば、ルフィ、エースと兄弟の盃を酌み交わした後、事件に遭い記憶を失い、世間的には死んだことになっていたそうだ。そのまま偶然にも革命軍に拾われ、革命軍として生きて来た。記憶が戻ったのはエースの死を知った時、そしてエースの形見の悪魔の実を確保するためにこのドレスローザにやってきたらしい。
「それ、私も聞いちゃって良かったの?」
「ルフィの友達なんだろ?」
「友達……うん、そうだね」
「じゃあ問題ねェな」
気さくで話しやすい人だった。ルフィもそうだったが、そういう兄弟なのだろうか。ローが知ったら怒りそうだが、今は寝ているので、もう友達ということで良いだろう。
「ルフィ、起こしましょうか?」
「いいよ、最後に顔を見に来ただけだから」
サボは一通りルフィとの関係を話すとスッと立ち上がった。本当に顔を見たかったのだろう。久々の再会を果たしたのだ。もう少し会話ができれば良かったが、CP0に追われているようなので、引き止めるわけにもいかない。
「これ、ルフィのビブルカード作っといた。欠片貰っていくよ」
「へぇ……いつの間に……」
「ほんじゃ、ルフィにゃ手を焼くだろうが……よろしく頼むよ」
「エースと似たようなこと言ってやがる」
そう言ってあっという間に去っていったサボ。思わぬところで革命軍との接点ができた。旅を続けていれば、今後また出会うこともあるかもしれない。何が起こるかわからない海賊の世界では、知り合いや情報は多いに越したことは無い。ローが起きたら情報共有をすることが増えてしまった。
そうして夜は更けていき、翌日の昼過ぎ、ようやくローが目を覚ました。一応麦わらの一味は全員賞金首で目立つので、錦えもんとその仲間であるカン十郎と共にシノも食料調達を手伝っていた。カン十郎は絵を具現化させる能力を持っているらしく、彼が出した息絶え絶えのスズメに乗り、食料を持ち帰ったところで、目を覚ましたローと対面した。
「ロー!!!」
起きたばかりと思われるローにシノはどさくさ紛れで抱き着く。昨日だけでも散々抱き着いているし、文句は言われないだろう。後ろで侍二人が微笑ましい目でこちらを見ている気配がしたが、気にしないこととする。
「もう起きて大丈夫なの!?」
「あぁ、よく寝た」
「ほぼ丸一日寝てたもんねー、何か食べる?」
さすがにもうしばらく寝ていると思っていたので、料理は用意できていない。一旦、今買ってきたばかりのリンゴを手渡す。その間にご飯を炊こうかと家の中をきょろきょろと見る。キュロスは不在のようだ。部屋の中には、寝ているルフィ・ゾロ・フランキーくらいしかいない。勝手にキッチンを借りても良いだろうか。
「ロー殿、目覚められて良かった。こちら、拙者の探していた同士、カン十郎でござる」
「錦も無事で何よりだ」
カン十郎はオモチャの家こと工場の掃き溜めに隠れて生き延びていたらしい。想像通りの侍の姿の錦えもんと違い、赤い髪に白塗りというド派手な風体であるが、話してみると錦えもんやモモの助と変わらない侍言葉で、錦えもんと大層仲が良いことがうかがえた。
「ルフィくんはまだ起きてなくて、ゾロくんとフランキーさんは昨日寝ずに番してくれてたから今寝てるかな。ロビンさんとウソップくんは……なんかいないね」
買い出しか王宮に出向いているのかもしれない。シノ達も今帰ってきたばかりなので把握できていなかった。少なくとも、ルフィが起きない以上、この島をでることは出来ないので、ある程度皆自由に動き回っている。無論、海軍が攻めてこない理由がわからないため、油断は出来ないが。
「……ロー?どうかした?」
りんごを齧りながらこちらを見てくるロー。
「……少し、散歩でもするか」
「もう動いて良いの?」
「問題ない」
昨日の今日でもう少し休んで欲しいところではあるが、本人がそう言うのであればしょうがない。自分の体のことくらい、ローが一番わかっているだろう。ドフラミンゴの脅威の去ったドレスローザの様子を見に行きたいのかもしれない。
「じゃあ私もついていくから錦えもんさん達留守番よろしくね」
「スズメに乗って行くか?」
「あー、気持ちだけもらっとく!」
正直あのスズメの絵にもう一度乗っていくのはかなり恥ずかしい。そもそもローが絶対に拒否するだろう。シノは丁重に断り、ローと一緒に外へ出た。キュロスの家の周りは花畑が広がっている。他に建物は一切ない。見通しが良いので海軍がいたらすぐに分かるのもいい点だ。
「そうそう、昨日の夜、革命軍の参謀総長に会ったよ、ルフィくんのお兄ちゃんなんだって」
「あいつの家族はどうなってんだ」
今の所聞けば聞くほど有名どころばかりのルフィの家族。正確には血の繋がりはないが、そんなことは関係ない。類は友を呼ぶのか、なにか惹きつけられる魅力があるのか。なんにせよ現時点では敵じゃなくて良かった。
「他の海賊達は王宮に匿ってもらってるから後でそこにも顔出さなきゃ。ヴィオラさんとレベッカちゃんにも会いたいし。それから……」
話を聞いているのかいないのか。ローはずっと難しい顔をしている。まだドフラミンゴを倒した実感がわいていないのか、それとも、まだ心の整理が出来ていないのか。いずれにせよ、彼にはもう少し時間が必要だろう。心配でついてきてしまったが、一人にした方が良かったのかもしれない。
「……やっぱり私、キュロスさんの家戻ろうか?」
「……?なんでだ?」
「一人で散歩したかったんでしょ?」
元々一人で放浪するのが趣味の人間だ。このドレスローザの状態もいろいろ考えながら一人で見て回りたかったかもしれない。そう考えて立ち止まったシノをローはちらりと見て、シノの手を取ると引っ張って丘の端まで移動した。
「あのなァ、俺はお前と話すために誘ったんだ」
「あ、そうなの?ごめん」
まさかお誘いだったとは。一人行動が好きなローに、一緒に散歩をしたいと思ってもらえたのは素直に嬉しい。丘の下から強い風が吹きあげ、ふとそちらを見ると、ドレスローザの国が一望できた。昨日の戦いのせいで、一部地域を除いほとんどが崩壊しかけている。戦いの爪痕は大きい。しかし、沈んだ様子はなく、既に人々は走り回っており、復興に向けて積極的に動き回っているようだ。それを見て、シノは思わず笑みが溢れた。
「…………?」
「これってさ、ローのおかげだよね」
「麦わら屋とこの国自身がやったことだ」
「でも、ローがルフィくん達を連れてきたわけだし、実質ローのおかげでしょ」
「俺がいなくても錦えもんがここに誘導しただろ」
「そうだけども」
当初はドフラミンゴを直接倒す気もなかったわけで、成り行きで倒すことになったわけだが、ルフィに流され覚悟したとはいえ、この国のこれからの平和の一端をローが担ったこともまた事実だ。ローにその気がなくても、シノとしては勝手に誇らしく思う。
ふと、視線を感じてローを見る。何を考えているのか、表情からは読めないがシノに何かしら言いたい事があるのだろう。
「どうかした?」
「一瞬でも忘れて悪かった」
「あー……」
握られた手に力が入った。たかが10分程の出来事だったが、シノもあの時の事を思い返すといまだに震えそうになる。だが、それはシュガーのせいであり、能力を避けられなかったシノの問題だ。ローが謝る理由は一切ない。とはいえ、そう言ったところで、仲間には人一倍心優しい彼が納得するはずもない。
「私、あの時、ローと立場が逆じゃなくて良かったなぁって少し安心したんだよね」
「?どういう意味だ」
「ローが忘れられる側じゃなくて良かった」
大切な人の記憶から消えることは、ある意味、大切な人を失うのと同義だ。ローにこれ以上、人を失う気持ちを、絶望感を体感してほしくなかったのだ。なんていうのはシノの勝手な想いだ。結果的に"忘れていたという事実"のせいで、こうして今現在ローに罪悪感を感じさせてしまった。子供の頃にずっと一緒にいる、寂しい思いをさせないと誓ったというのに。
シノは痛いくらいに握られた手を引き、ローを抱きしめた。今度はどさくさに紛れた勢いではない。彼を安心させるために。
「忘れても私を取り戻してくれてありがとう」
存在を忘れても、見知らぬぬいぐるみのシノを信じてシュガーを倒してシノを取り戻してくれたのは紛れもなくローだ。それだけで充分だ。忘れていてもきっと心のどこかにシノがいたんだと、そう思えた。
それ以上彼は何も言わなかった。丘の上を心地よい風が吹き抜けた。
To be continued...
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