兄と妹
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朝起きてその日の仕事を確認する。今日は洗濯当番だ。ちょうど船は海上を進んでおり、天気も気持ちの良い晴れ模様のため、洗濯日和と言えるだろう。普段であればはしゃぎたくもなる気候であるが、今日のシノは残念ながらそんな心境になれなかった。
ここぞとばかりに、いつも以上に多い洗濯物の数。クルー全員分の服や下着、タオル、シーツ類等、一気に洗濯機に入れることは出来ないので、順に進めていく。洗濯が完了したものから外へ干しにいく、という流れだ。この外へ干すという行為がかなりの重労働となる。
「キャプテン、おはよー」
「おはよう」
仕事の前にはエネルギー補給、ということで、何はともあれ朝食を摂る。朝からローを見かけ、少しテンションが上がる。好きな人が視界に入るだけで嬉しくなるのはしょうがない。ローは寝起きで食が進まないのか、ぼんやりとシノの方を見ていた。
「……お前、今日洗濯担当か」
「え?うん、そうだよ。ペンギンと一緒」
「ならいいか」
どうやらシノではなくその後ろの担当表を眺めていたようだ。女性陣だけだと筋力的にキツイのでそこらへんを気にしてくれたのだろうか。細かいところまで気にしてくれるローは良い船長だ。できるだけ期待に応えたい。シノは朝食のスープをゆっくりと口に流し込み、気合を入れて持ち場に移動する。
「ペンギンおはよー」
「おー、今日いつものつなぎじゃないのな」
「うん。つなぎも全部洗っちゃおうと思ってさ。先に入れられるだけ洗濯機に詰め込んどいたよ」
ペンギンも少しだけ遅れて洗濯室にやってくる。食堂でシャチ達とじゃれながら朝食を摂っているのをみかけた。既に食事は終えていたのですぐ来るだろうと思いつつ、先に始めてしまった。シノ以外にもまとめて洗濯しようとした者が多いのか、白いつなぎも大量にある。
「量多いからなぁ、助かるわー」
「その分、運ぶの頑張ってねー」
適材適所。分別してネットに分けて、洗濯機を回したり細々としたものを運ぶのはシノで十分だが、大物を運んだり干す作業は背が高いし力のあるペンギンがやった方が良い。もちろん最終的には二人でやることになるが、分けられるところは分けていく。
「はいはい、乾燥機付きのに買い替えねェのかな」
「でも干せる日はお日様の下で干したくない?」
「確かに」
陽の光を浴びたシーツや布団カバーは寝心地が格段に違う。海中での生活が長い航海では、出来るだけそういうところを大切にしていきたい。
待っている間に、次の洗濯物の仕分けを進める。
「ベポにも日光浴させるかー」
「もふもふで良い匂いしそー」
ローの昼寝が捗りそうだ。ベポの今日の当番は確か掃除だったか。ちょうど今頃甲板で日光を浴びているかもしれない。午後はいい感じのベポ枕になっていそうだ。
しばらくすると洗濯完了の音が鳴った。ペンギンはガバッと取り出し大きなカゴに放り込むと、抱えて部屋を出ていく。
「おーし、そんじゃ先シーツ達干してくるわ」
「頼んだよー」
ペンギンを見送り、今度は小物を処理していく。つなぎ、下着、私服、部屋着、タオル…何台か一気に稼働しているが、なかなか時間がかかる。色移り等を気にして一応分けて放り込んでいく。立ったり座ったりを繰り返しているとくらくらするので、一通り稼働させたら、また椅子に座って丸くなった。窓もないので少し薄暗い上に、他に誰もいないので少しくらいぼんやりしていてもバレないだろう。と思った矢先、ガチャリとドアが開いた。
「あれ、キャプテンどうしたの?」
「ペンギン見なかったか?」
「今、甲板に干しに行ってるよ」
「……入れ違いか」
ちっと小さく舌打ちをする。どうやらローも先ほどまで甲板にいたようだ。大物を大量に持っていったのでしばらく時間がかかるだろうし、どうせまだこちらの洗濯がかかるとわかっているだろうから、ついでに外でゆっくりして時間を有効活用して戻ってくるはずだ。お互い、決してサボりではない。
「あとどれくらいだ?」
「今やってるのが終わったらもう1回まわして終わりの予定」
「じゃあ終わったらちょっと俺の部屋寄れ」
「?わかった。ペンギンも?」
「ペンギンには今から甲板行けば会えるだろ」
そう言って出ていくロー。であればシノも今ここで用事を済ませば良かったのではないか。と思わないこともないが、この後も会いにいく口実が出来たので良いことにする。
しばらくしてまた洗濯が終わる。終わったものをガサゴソとカゴに放り込み、最後の洗濯物を洗濯機へ放り込んだ。
「ただいまー」
「ちょうど良かった、これ次のね」
見計らったかのように絶妙なタイミングで入ってくるペンギン。カゴを1つ手渡し、シノも1つ持つ。
「そっちも俺持とうか?」
「こっちはいいの」
一応女性物だけは、洗濯当番とは関係なく、イッカクとシノで個別で回しており、このカゴはその分だ。ここ数日面倒くさくて溜め込んだ洗濯物たちをまとめて対応した。それを察してか、ペンギンはそれ以上何も言わなかった。
「それやったら次、シノ甲板で日向ぼっこしていいよ」
「日向ぼっこしてたんかい」
先ほど帰りが遅かった理由が判明した。暑すぎず、寒すぎずいい気候なのだろう。今回している分は、後ほどペンギンが取りに行ってくれるということか。正直ありがたい。外に出ると眩しいくらいの日差しが出迎えてくれて、目が眩む。聞いていた通りのいい天気だ。
「うわぁこれはよく乾きそうだねぇ」
「だろーあとで洗濯したてほやほやのシーツで昼寝するか」
「皆でぐるぐる巻きになりたいね」
干しやすいように既に、ロープと竿がセットされている。しゃがんで洗濯物を拾い、気持ち背伸びをして洗濯物を干す。その作業を繰り返していく。
あとちょっと。あとちょっとなのだが。
洗濯物を拾うフリをしてしゃがみ込み、お腹を抱えた。この後、日向ぼっこと称して寝転ぶ予定だったので、それまで何とか耐えられればと思っていたのだが。お腹が痛い。気持ち悪い。頭が痛い。冷や汗が止まらない。
これはちょっとダメかもしれない。そう思ってペンギンを探すが、ちょうどシーツの影に隠れてしまってシノのしゃがみ込む位置からは見えない。どうしよう、と頭の中が真っ白になって何も考えられなくなった。
「キャプテン……ペンギン……」
シノは、震える声を振り絞る。小さすぎてどこにも届かないかもしれないレベルの声だったが、――すぐにシーツのカーテンが開けられた。
「おっ前はさー!!なんでそんな端っこで倒れてんだよ、やばくなる前に言えよー!!!!」
「部屋運ぶぞ、誰かイッカク呼んでこい」
ローとペンギンの姿に、思わず涙腺が緩む。泣くほどではないが、体調のせいでメンタルが弱っているらしい。涙が溢れそうになるのをなんとか飲み込み、素直にペンギンに持ち上げられる。毛布がわりにローのコートを掛けられた。
あっという間に女子部屋に運び込まれ、ベッドに寝かされる。ローは部屋に戻って薬を取りに行っていたらしい。シノは促されるままに薬を飲んだ。
「ありがとうございました……」
「言いづらいのはわかるけど、もう少し早く言えるようになれよな。朝イチでキャプテンが気付いたから良いけど」
「どう見ても顔色悪かったし、朝飯もスープだけなのにやたらとゆっくり無理やり食べてたからな」
ペンギンに怒られ、ようやく合点がいった。朝食で会った時点でバレており、言いたくないだろうと気を遣われた結果、今日の相方のペンギンを探してそれを伝えておいてくれたのだ。だからペンギンも、外に出る時やたらと気を遣ってきたのだ。体調不良で余裕が無さすぎて、全く気付けなかった。
「とにかく今日は寝てろ。食べられそうなら昼もスープだけで良いから食え。また午後見にくるから大人しくしてろよ。イッカク、頼んだぞ」
「りょーかいです、キャプテン!」
「俺もあとでベポ枕連れてくるわー」
ローに続いて、ペンギンもひらひらと手を振って出ていく。我慢しようとして結果的に迷惑をかけてしまい自己嫌悪する。
「イッカクもごめん……」
「いーよいーよ、掃除サボれたし!これに懲りたらせめて私には言ってよね」
そうしたらキャプテンにもすぐ伝えるから、と笑うイッカク。今日のことで確信した。隠したところでバレてしまうのであれば恥を忍んででも言うべきかもしれない。そもそも恥じることではないとわかってはいるのだが、どうしてもまだ言いだしづらい。
「しかしさすがキャプテン。私、朝会った時全然気付かなかったわ」
「昔からすぐバレるんだよね。それこそ初めてなった時もう両親いなかったから、おじいちゃんとキャプテン達と暮らしてたんだけど、キャプテンがそれがどういうものか淡々と説明してくれたんだよ」
「なんかいっそ怖いわ、その関係……」
あの頃は子供だったので何とも思わなかったが、今思い返すと確かに恥ずかしい。しかし、ずっと変わらずローは家族であり主治医なのだ。一生、頭が上がらない。
「良い兄ちゃん達だね」
「……イッカクも好きだよ」
「はいはい、優しい姉ちゃんが見ててあげるから早く寝なさい」
イッカクのこのサラッとした性格が好きだ。やはりそばに女性がいるのは心強い。シノは、イッカクの手を握り、ようやく眠りについた。
****
何時間寝ただろうか。昼ごはんは食べ損ねた気がする。薬が効いたのか寝る前よりは頭痛や吐き気は落ち着いたが、やはりまだお腹が痛い。片手で毛布の上からお腹をさする。気休め程度だが、少しは楽になる気がする。
「まだ痛み強いか?」
「!?」
声に驚いて目を開く。完全に誰もいないと思っていた。イッカクがいたはずの場所にローがいる。確かに午後に見に来るとは言っていたが。
「ロー、……じゃなくてキャプテン!?」
「わざわざ言い直す必要あったか、それ」
別にどちらで呼んでも良いのだが、一応気持ちの切り替えということで、なんとなく、皆がいる前ではキャプテンと呼ぶようにしている。今は他に誰もいないからどちらでも良かったのだが。
「……できればもう少し服用時間あけたほうが良いな。いけるか?」
「うん、大丈夫」
時計を見て確認するロー。医者っぽい。と言ったら怒られそうなので飲み込む。サイドテーブルには既に薬と水が準備されている。そろそろ起きると思い、待機してくれていたようだ。
「今度からもっと早く言うようにします……」
「本来隠すような話でもねェし、体調が悪い時は内容に関わらずすぐ言うべきだが……まァ言いづらい時はこっちで対処するから問題ない」
周期やシノの食事量や顔色を見れば、医者であるローにはすぐに分かる。だからといって甘えてばかりではいれない。ちゃんと言えるようになるべきだ。
「あと元々お前貧血気味だから気をつけろ」
「あーなんか健康診断で言われたような……」
「極力、血は流すな」
「無茶を仰る……」
海賊をやっていて血を流すなは無謀な話だ。非戦闘員であっても戦いに巻き込まれることはある。とはいえ、医者の意見は極力聞くべきだ。
「今後のためにも日頃から献血しとこうかな」
「その調子で抜けるわけないだろ、アホ」
だよね、と笑って返すシノ。現状、血液型F型はローとシノしかいない。出来ればローに何かあった時に役立てるようにしておきたかったのだが、むしろ貰わないといけない立場になってしまう。もう一人ぐらいF型の仲間が増えて欲しい。
「何か食べられそうか?」
ローの言葉に黙って首だけ振る。また痛みが強くなってきた。シノはお腹を抱えて体を丸める。
「少し早いけど許容範囲か……」
体を起こされ、薬とコップを渡された。シノは素直に受け取り、常温に戻された水で薬を流し込む。効くまでにはまだかかるだろう。少しずつ、残った水を飲む。シノが飲み終わるまでずっと背中を支えてくれているローの腕が熱く感じた。
「ん……ありがとう」
「他に何か必要なものがあれば用意しとくぞ」
再度寝かせてもらい、また丸くなった。ローはコップを持って立ち上がる。無事薬も飲ませたので戻るのだろう。シノは少し悩んで思いついたことを口走った。
「……じゃあ寝るまで、そこにいて欲しい」
食欲も無いし、水分も摂取したので他に欲しいものは特にない。特にはないが、何となく誰かにそばにいて欲しかった。
「わかった」
「いいの?」
「別にやることもないしな」
そう言ってまたベットの端に腰かけるロー。まさか本当にいてくれるとは思わなかった。それだけで少し痛みが吹き飛びそうな気分だ。
「じゃあ手も貸してほしいです!!」
「調子乗るな、早く寝ろ!!」
さすがに怒られた。居てくれるだけで感謝しなければ。そっと目を閉じても感じる気配に安心する。手は貸してくれないにしても、なんやかんやで甘い船長だ。
鎮痛剤の効果もあるのか、だんだんと眠気が襲ってきた。ぼんやりとした意識の中、頭を撫でられたような感覚があった。ふんわりとローの香りがした気がした。
****
「あ、イッカク、シノどうだ?」
「んー……寝てるんじゃない?」
ペンギンは、食堂の席でハクガンと雑談していたイッカクに声をかけた。イッカクは少し考えるそぶりをした後に、そう言って笑う。少しは落ち着いたのだろうか。もう少し早く気づいてやれれば良かった、と多少の罪悪感を感じる。
「んじゃべポ連れて部屋顔出すかな」
「あ、今は止めといた方が良いかも」
「なんで……、あぁなるほど」
イッカクがここにいる理由をようやく理解した。薬を届けに行ったローを見かけないのが何よりの証拠だ。やましい事があるわけでもないので、別に突入しても何も問題ないのだが、わざわざ行かなければいけない理由もない。
「別に行ってあげてもいいと思うけどね、お兄ちゃん」
「いやーそれは三男の兄ちゃんに任せるわー」
ペンギンからしたらローに関しては兄弟というより恩人兼悪友感覚なのだが。わざわざノリに水を差す必要もないので、イッカクの話に乗って返した。
シノは5つも年下で性別も違うので、確かに友人というよりは妹くらいに思っている。シノ側も同様だろう。ただ、ローとシノに関してはややこしい事この上ない。片や兄のように慕いながら恋愛感情を持っており、片や妹を重ねてやたらと重い家族愛と仲間愛を注いでいる。兄妹ごっこをしている間は良いが、年を重ねて、変なところで不器用な友人が、拗らせなければ良いのだが。
その時が来たら何か相談に乗ってやれるのだろうか。わからないが、今は見守るしかない。
「まったく、長男は大変だぜ」
「ペンギン、長男だったのか」
「頑張れ長男~」
とりあえず洗濯物の取り込みは他の二人の兄弟に手伝ってもらって、あとで部屋に押しかけよう。皆で行けば怖いものはない。そう心に決めて、今は二人との談笑を楽しむことにした。
end.
ここぞとばかりに、いつも以上に多い洗濯物の数。クルー全員分の服や下着、タオル、シーツ類等、一気に洗濯機に入れることは出来ないので、順に進めていく。洗濯が完了したものから外へ干しにいく、という流れだ。この外へ干すという行為がかなりの重労働となる。
「キャプテン、おはよー」
「おはよう」
仕事の前にはエネルギー補給、ということで、何はともあれ朝食を摂る。朝からローを見かけ、少しテンションが上がる。好きな人が視界に入るだけで嬉しくなるのはしょうがない。ローは寝起きで食が進まないのか、ぼんやりとシノの方を見ていた。
「……お前、今日洗濯担当か」
「え?うん、そうだよ。ペンギンと一緒」
「ならいいか」
どうやらシノではなくその後ろの担当表を眺めていたようだ。女性陣だけだと筋力的にキツイのでそこらへんを気にしてくれたのだろうか。細かいところまで気にしてくれるローは良い船長だ。できるだけ期待に応えたい。シノは朝食のスープをゆっくりと口に流し込み、気合を入れて持ち場に移動する。
「ペンギンおはよー」
「おー、今日いつものつなぎじゃないのな」
「うん。つなぎも全部洗っちゃおうと思ってさ。先に入れられるだけ洗濯機に詰め込んどいたよ」
ペンギンも少しだけ遅れて洗濯室にやってくる。食堂でシャチ達とじゃれながら朝食を摂っているのをみかけた。既に食事は終えていたのですぐ来るだろうと思いつつ、先に始めてしまった。シノ以外にもまとめて洗濯しようとした者が多いのか、白いつなぎも大量にある。
「量多いからなぁ、助かるわー」
「その分、運ぶの頑張ってねー」
適材適所。分別してネットに分けて、洗濯機を回したり細々としたものを運ぶのはシノで十分だが、大物を運んだり干す作業は背が高いし力のあるペンギンがやった方が良い。もちろん最終的には二人でやることになるが、分けられるところは分けていく。
「はいはい、乾燥機付きのに買い替えねェのかな」
「でも干せる日はお日様の下で干したくない?」
「確かに」
陽の光を浴びたシーツや布団カバーは寝心地が格段に違う。海中での生活が長い航海では、出来るだけそういうところを大切にしていきたい。
待っている間に、次の洗濯物の仕分けを進める。
「ベポにも日光浴させるかー」
「もふもふで良い匂いしそー」
ローの昼寝が捗りそうだ。ベポの今日の当番は確か掃除だったか。ちょうど今頃甲板で日光を浴びているかもしれない。午後はいい感じのベポ枕になっていそうだ。
しばらくすると洗濯完了の音が鳴った。ペンギンはガバッと取り出し大きなカゴに放り込むと、抱えて部屋を出ていく。
「おーし、そんじゃ先シーツ達干してくるわ」
「頼んだよー」
ペンギンを見送り、今度は小物を処理していく。つなぎ、下着、私服、部屋着、タオル…何台か一気に稼働しているが、なかなか時間がかかる。色移り等を気にして一応分けて放り込んでいく。立ったり座ったりを繰り返しているとくらくらするので、一通り稼働させたら、また椅子に座って丸くなった。窓もないので少し薄暗い上に、他に誰もいないので少しくらいぼんやりしていてもバレないだろう。と思った矢先、ガチャリとドアが開いた。
「あれ、キャプテンどうしたの?」
「ペンギン見なかったか?」
「今、甲板に干しに行ってるよ」
「……入れ違いか」
ちっと小さく舌打ちをする。どうやらローも先ほどまで甲板にいたようだ。大物を大量に持っていったのでしばらく時間がかかるだろうし、どうせまだこちらの洗濯がかかるとわかっているだろうから、ついでに外でゆっくりして時間を有効活用して戻ってくるはずだ。お互い、決してサボりではない。
「あとどれくらいだ?」
「今やってるのが終わったらもう1回まわして終わりの予定」
「じゃあ終わったらちょっと俺の部屋寄れ」
「?わかった。ペンギンも?」
「ペンギンには今から甲板行けば会えるだろ」
そう言って出ていくロー。であればシノも今ここで用事を済ませば良かったのではないか。と思わないこともないが、この後も会いにいく口実が出来たので良いことにする。
しばらくしてまた洗濯が終わる。終わったものをガサゴソとカゴに放り込み、最後の洗濯物を洗濯機へ放り込んだ。
「ただいまー」
「ちょうど良かった、これ次のね」
見計らったかのように絶妙なタイミングで入ってくるペンギン。カゴを1つ手渡し、シノも1つ持つ。
「そっちも俺持とうか?」
「こっちはいいの」
一応女性物だけは、洗濯当番とは関係なく、イッカクとシノで個別で回しており、このカゴはその分だ。ここ数日面倒くさくて溜め込んだ洗濯物たちをまとめて対応した。それを察してか、ペンギンはそれ以上何も言わなかった。
「それやったら次、シノ甲板で日向ぼっこしていいよ」
「日向ぼっこしてたんかい」
先ほど帰りが遅かった理由が判明した。暑すぎず、寒すぎずいい気候なのだろう。今回している分は、後ほどペンギンが取りに行ってくれるということか。正直ありがたい。外に出ると眩しいくらいの日差しが出迎えてくれて、目が眩む。聞いていた通りのいい天気だ。
「うわぁこれはよく乾きそうだねぇ」
「だろーあとで洗濯したてほやほやのシーツで昼寝するか」
「皆でぐるぐる巻きになりたいね」
干しやすいように既に、ロープと竿がセットされている。しゃがんで洗濯物を拾い、気持ち背伸びをして洗濯物を干す。その作業を繰り返していく。
あとちょっと。あとちょっとなのだが。
洗濯物を拾うフリをしてしゃがみ込み、お腹を抱えた。この後、日向ぼっこと称して寝転ぶ予定だったので、それまで何とか耐えられればと思っていたのだが。お腹が痛い。気持ち悪い。頭が痛い。冷や汗が止まらない。
これはちょっとダメかもしれない。そう思ってペンギンを探すが、ちょうどシーツの影に隠れてしまってシノのしゃがみ込む位置からは見えない。どうしよう、と頭の中が真っ白になって何も考えられなくなった。
「キャプテン……ペンギン……」
シノは、震える声を振り絞る。小さすぎてどこにも届かないかもしれないレベルの声だったが、――すぐにシーツのカーテンが開けられた。
「おっ前はさー!!なんでそんな端っこで倒れてんだよ、やばくなる前に言えよー!!!!」
「部屋運ぶぞ、誰かイッカク呼んでこい」
ローとペンギンの姿に、思わず涙腺が緩む。泣くほどではないが、体調のせいでメンタルが弱っているらしい。涙が溢れそうになるのをなんとか飲み込み、素直にペンギンに持ち上げられる。毛布がわりにローのコートを掛けられた。
あっという間に女子部屋に運び込まれ、ベッドに寝かされる。ローは部屋に戻って薬を取りに行っていたらしい。シノは促されるままに薬を飲んだ。
「ありがとうございました……」
「言いづらいのはわかるけど、もう少し早く言えるようになれよな。朝イチでキャプテンが気付いたから良いけど」
「どう見ても顔色悪かったし、朝飯もスープだけなのにやたらとゆっくり無理やり食べてたからな」
ペンギンに怒られ、ようやく合点がいった。朝食で会った時点でバレており、言いたくないだろうと気を遣われた結果、今日の相方のペンギンを探してそれを伝えておいてくれたのだ。だからペンギンも、外に出る時やたらと気を遣ってきたのだ。体調不良で余裕が無さすぎて、全く気付けなかった。
「とにかく今日は寝てろ。食べられそうなら昼もスープだけで良いから食え。また午後見にくるから大人しくしてろよ。イッカク、頼んだぞ」
「りょーかいです、キャプテン!」
「俺もあとでベポ枕連れてくるわー」
ローに続いて、ペンギンもひらひらと手を振って出ていく。我慢しようとして結果的に迷惑をかけてしまい自己嫌悪する。
「イッカクもごめん……」
「いーよいーよ、掃除サボれたし!これに懲りたらせめて私には言ってよね」
そうしたらキャプテンにもすぐ伝えるから、と笑うイッカク。今日のことで確信した。隠したところでバレてしまうのであれば恥を忍んででも言うべきかもしれない。そもそも恥じることではないとわかってはいるのだが、どうしてもまだ言いだしづらい。
「しかしさすがキャプテン。私、朝会った時全然気付かなかったわ」
「昔からすぐバレるんだよね。それこそ初めてなった時もう両親いなかったから、おじいちゃんとキャプテン達と暮らしてたんだけど、キャプテンがそれがどういうものか淡々と説明してくれたんだよ」
「なんかいっそ怖いわ、その関係……」
あの頃は子供だったので何とも思わなかったが、今思い返すと確かに恥ずかしい。しかし、ずっと変わらずローは家族であり主治医なのだ。一生、頭が上がらない。
「良い兄ちゃん達だね」
「……イッカクも好きだよ」
「はいはい、優しい姉ちゃんが見ててあげるから早く寝なさい」
イッカクのこのサラッとした性格が好きだ。やはりそばに女性がいるのは心強い。シノは、イッカクの手を握り、ようやく眠りについた。
****
何時間寝ただろうか。昼ごはんは食べ損ねた気がする。薬が効いたのか寝る前よりは頭痛や吐き気は落ち着いたが、やはりまだお腹が痛い。片手で毛布の上からお腹をさする。気休め程度だが、少しは楽になる気がする。
「まだ痛み強いか?」
「!?」
声に驚いて目を開く。完全に誰もいないと思っていた。イッカクがいたはずの場所にローがいる。確かに午後に見に来るとは言っていたが。
「ロー、……じゃなくてキャプテン!?」
「わざわざ言い直す必要あったか、それ」
別にどちらで呼んでも良いのだが、一応気持ちの切り替えということで、なんとなく、皆がいる前ではキャプテンと呼ぶようにしている。今は他に誰もいないからどちらでも良かったのだが。
「……できればもう少し服用時間あけたほうが良いな。いけるか?」
「うん、大丈夫」
時計を見て確認するロー。医者っぽい。と言ったら怒られそうなので飲み込む。サイドテーブルには既に薬と水が準備されている。そろそろ起きると思い、待機してくれていたようだ。
「今度からもっと早く言うようにします……」
「本来隠すような話でもねェし、体調が悪い時は内容に関わらずすぐ言うべきだが……まァ言いづらい時はこっちで対処するから問題ない」
周期やシノの食事量や顔色を見れば、医者であるローにはすぐに分かる。だからといって甘えてばかりではいれない。ちゃんと言えるようになるべきだ。
「あと元々お前貧血気味だから気をつけろ」
「あーなんか健康診断で言われたような……」
「極力、血は流すな」
「無茶を仰る……」
海賊をやっていて血を流すなは無謀な話だ。非戦闘員であっても戦いに巻き込まれることはある。とはいえ、医者の意見は極力聞くべきだ。
「今後のためにも日頃から献血しとこうかな」
「その調子で抜けるわけないだろ、アホ」
だよね、と笑って返すシノ。現状、血液型F型はローとシノしかいない。出来ればローに何かあった時に役立てるようにしておきたかったのだが、むしろ貰わないといけない立場になってしまう。もう一人ぐらいF型の仲間が増えて欲しい。
「何か食べられそうか?」
ローの言葉に黙って首だけ振る。また痛みが強くなってきた。シノはお腹を抱えて体を丸める。
「少し早いけど許容範囲か……」
体を起こされ、薬とコップを渡された。シノは素直に受け取り、常温に戻された水で薬を流し込む。効くまでにはまだかかるだろう。少しずつ、残った水を飲む。シノが飲み終わるまでずっと背中を支えてくれているローの腕が熱く感じた。
「ん……ありがとう」
「他に何か必要なものがあれば用意しとくぞ」
再度寝かせてもらい、また丸くなった。ローはコップを持って立ち上がる。無事薬も飲ませたので戻るのだろう。シノは少し悩んで思いついたことを口走った。
「……じゃあ寝るまで、そこにいて欲しい」
食欲も無いし、水分も摂取したので他に欲しいものは特にない。特にはないが、何となく誰かにそばにいて欲しかった。
「わかった」
「いいの?」
「別にやることもないしな」
そう言ってまたベットの端に腰かけるロー。まさか本当にいてくれるとは思わなかった。それだけで少し痛みが吹き飛びそうな気分だ。
「じゃあ手も貸してほしいです!!」
「調子乗るな、早く寝ろ!!」
さすがに怒られた。居てくれるだけで感謝しなければ。そっと目を閉じても感じる気配に安心する。手は貸してくれないにしても、なんやかんやで甘い船長だ。
鎮痛剤の効果もあるのか、だんだんと眠気が襲ってきた。ぼんやりとした意識の中、頭を撫でられたような感覚があった。ふんわりとローの香りがした気がした。
****
「あ、イッカク、シノどうだ?」
「んー……寝てるんじゃない?」
ペンギンは、食堂の席でハクガンと雑談していたイッカクに声をかけた。イッカクは少し考えるそぶりをした後に、そう言って笑う。少しは落ち着いたのだろうか。もう少し早く気づいてやれれば良かった、と多少の罪悪感を感じる。
「んじゃべポ連れて部屋顔出すかな」
「あ、今は止めといた方が良いかも」
「なんで……、あぁなるほど」
イッカクがここにいる理由をようやく理解した。薬を届けに行ったローを見かけないのが何よりの証拠だ。やましい事があるわけでもないので、別に突入しても何も問題ないのだが、わざわざ行かなければいけない理由もない。
「別に行ってあげてもいいと思うけどね、お兄ちゃん」
「いやーそれは三男の兄ちゃんに任せるわー」
ペンギンからしたらローに関しては兄弟というより恩人兼悪友感覚なのだが。わざわざノリに水を差す必要もないので、イッカクの話に乗って返した。
シノは5つも年下で性別も違うので、確かに友人というよりは妹くらいに思っている。シノ側も同様だろう。ただ、ローとシノに関してはややこしい事この上ない。片や兄のように慕いながら恋愛感情を持っており、片や妹を重ねてやたらと重い家族愛と仲間愛を注いでいる。兄妹ごっこをしている間は良いが、年を重ねて、変なところで不器用な友人が、拗らせなければ良いのだが。
その時が来たら何か相談に乗ってやれるのだろうか。わからないが、今は見守るしかない。
「まったく、長男は大変だぜ」
「ペンギン、長男だったのか」
「頑張れ長男~」
とりあえず洗濯物の取り込みは他の二人の兄弟に手伝ってもらって、あとで部屋に押しかけよう。皆で行けば怖いものはない。そう心に決めて、今は二人との談笑を楽しむことにした。
end.
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