鳥カゴ
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「どこへ行く気!?」
「あのへんか!?」
1階の窓から外へ飛び出したルフィと、それに掴まれたヴィオラとシノ。我に返ったヴィオラがルフィに問いかけるが、それに対する返事はなかった。外に出たことで2階の窓が見える。ルフィにしか出来ないショートカットだ。器用に足をビュンと伸ばし、2階の窓に引っ掛けると、するりと2階の廊下へと着地した。ようやくその場で解放されるヴィオラとシノ。
「無茶苦茶だわ……」
「あはは、そのうち慣れるよ……」
2階の廊下には誰もおらず、静まり返っていた。正確には、静かな中で、どこか少し離れたところから声が響いている。ドフラミンゴの声だ。目的の人物がこの先にいる。ヴィオラを見ると、黙ってこくりと頷いた。まだ走るのは厳しそうだが、歩くことは出来るようだ。静かに歩いていくヴィオラに黙ってついていく。案内された先は、今までと違い随分と開けた部屋だった。スートの間に着いたようだ。
大きな窓から全員でちらりと中を覗き込む。そこには、ドフラミンゴはもちろん、パンクハザードで会ったバッファローとベビー5の姿もある。そして、ローの姿も。大きなハートの背もたれの椅子に座らされている。意識はあるようだが、ぐったりと背もたれに体を預けている様子を見る限り、恐らく海楼石の手錠をされている。
「なんと……一気に目的の部屋の前に……!!」
「おいなんで隠れるんだよ!ミンゴいたぞ!!」
「静かに!彼らの作戦を台無しにしないで!」
ヴィオラに言われるがままに廊下で隠れる。彼らというのはウソップが一緒に向かったトンタッタ族の作戦だ。どういう作戦かはわからないが、打倒ドフラミンゴの核となる作戦。麦わらの一味側はウソップだけのはずだが、果たして無事だろうか。人数的にフランキーが工場破壊に向かってしまった以上、ウソップしかその作戦に関わる人員がいなかったとは言え、彼の性格を考えるとやや心配だ。
ひょっこりとバレない程度に窓から顔を出して聞き耳を立てる。ある程度距離があるので、多少身を乗り出していてもバレないだろう。
「お前らの狙いはSMILE工場だけのはずだ。なぜ麦わら達とグリーンビットの小人たちがつながっている!?何故シュガーを狙う…!?偶然でなけりゃあ、奴らこの国の闇の根幹を知ってることになる……!!」
ドフラミンゴは相当焦っているのか声から苛立ちが伝わってくる。ローに問いただしているが、残念ながらローはほぼ別行動をしていたので、トンタッタ族の存在すら知らない。麦わらの一味が想定外の事を巻き起こしていることだけは理解しているだろうが、それだけだ。
「あいつらと俺とはもう関係ねェ……同盟は終わってる。お前の言ってる事はおれにはほぼ理解できねェ……」
「そんな訳ねェだろ。お前の仲間の女は麦わら達といたぞ」
「!!」
気絶していたローは、シノとドフラミンゴが接触してしまったことを知らない。女と特定されている時点で、はったりではないことは分かっているはずだ。黙り込むロー。今のドフラミンゴの言葉だけでは、シノの状況がわからない。ロー同様どこかに捕まっている可能性もあると考えているはずだ。ローの沈黙は、どう動くべきか思案しているのだろう。変な方向に向かう前に、無事であることを伝える必要がありそうだ。
「トラ男、ちゃんと息あるな!」
「うん、私のせいでややこしくなっちゃってるけど」
「レオ達はまだか!私も含めドレスローザ中のオモチャ達が人間に戻る。その瞬間こそドフラミンゴを討つ大チャンス……必ず仕留めて見せる!」
「やっぱり、オモチャ達って元々人間だったんだ」
兵隊の言葉に思わず反応する。先ほどの"ヴィオラ様"という発言からそうではないかと薄々考えていた。もとはリク王軍としてヴィオラやリク王に仕えていたのだろう。ただの国民であればドフラミンゴを信じているので、ヴィオラを様付けするとは思えない。10年前、何らかの方法、恐らく悪魔の実の能力でオモチャになったということだ。
「ねぇ、兵隊さんは本当はヴィオラさんの知り合いなんでしょ。なんで名乗らないの?」
「……名乗ったところで伝わらない、そういう"呪い"なのだよ、これは」
オモチャの兵隊の表情は変わらない。ただ、ほんの少しだけ表情が曇ったように見えた。失言だったか。悪魔の実の能力は未知のものが多すぎる。少しでも知って置ければと思ったが、これ以上は触れない方が良いかもしれない。
「兵隊さん!1階から敵が来るのが見える!!」
「!!」
シノ達がいる位置からは1階からの階段は見えない。しかし、先ほどの奴らが昇ってきているらしい。やはりヴィオラも何かしらの能力者なのだろう。あまりゆっくりしている時間はないようだ。
「まずいな……挟まれて戦いになるくらいなら、今ドフラミンゴに奇襲をかけた方が得策か!?」
トンタッタ達の作戦が動いている以上、現時点での司令塔はオモチャの兵隊だ。黙って兵隊の判断を待つルフィとシノ。最悪、部屋の中にすぐに踏み込めるよう心の準備をする。
その時だった、外が急に騒がしくなった。兵たちが昇ってきたというより、"国中"が騒がしくなったように思える。
『すまねェ、ドフィ~~~!!!!!シュガーが気絶しちまったァ~!!』
「!?おい、何の冗談だ!!!!」
電伝虫の大きな声が響き渡る。ドフラミンゴの反応からして相当な事態が発生しているようだ。これが、トンタッタ達の作戦だったのだろうか。シノは急いで隣にいる兵隊の方を向いた。
「兵隊さ……ん……?」
ひゅっと赤いマントが窓を開き駆け抜けていった。その姿は、オモチャ等ではなく、人間の男の姿だった。オモチャの呪いが解けたのだ。片足の男が部屋を駆け抜ける。その姿を泣きながら見つめるヴィオラ。
「キュロス義兄様……!!」
「おい、何言ってんだ、どういうこった!!」
「この国のオモチャ達は元々みんな人間で!オモチャにされた人々はみんなの記憶から消えてしまうの!その能力者シュガーが今倒れて、私たちに記憶が戻った……!!彼は元リク王軍軍隊長、キュロス!!」
「軍隊長!?ってことは絶対強いよね!?」
オモチャの時同様、片足だというのにそれを一切感じさせない速さと安定感でドフラミンゴへと直進していくキュロス。先ほど廊下で拾っていた大剣を振り回し、ドフラミンゴの首を――斬った。
「うおー!ミンゴ死んだァ!!」
「嘘!?」
「トラ男を助けるぞ!!」
「うん!!」
ヴィオラはルフィに任せ、シノも窓から部屋に乗り込む。部屋の中はほぼキュロス一人に制圧されかけている。リク王含め、一旦キュロスに任せていて問題なさそうだと判断し、シノとルフィは椅子に座らされているローの元へと真っ直ぐ向かう。
「トラ男~!!良かった生きてて~~!!」
「ロー!!お待たせー!!」
「!!ここに用はないはずだぞ麦わら屋!工場はどうした壊したのか!?」
「工場はフランキーさん達が行ってるよ、私たちはローを助けに来たの」
「ふざけんな、優先順位は工場だろうが……!!」
悪趣味なハートの椅子に座らされているローのもとへ駆けつける。案の定、手錠をされており動けないようだ。手錠の鎖は椅子の後ろを回っており、椅子から降ろすこともできない。周りには同じようなダイヤ、クローバー、スペードの椅子が並んでいる。ドフラミンゴはトランプのモチーフが好きなのだろうか。
「せっかくだが俺とお前らの同盟はもう終わったんだ!」
「え!?お前勝手だな、そういうのは俺が決めるから黙ってろ!」
「どっちが勝手なんだ!?」
「ローの方が勝手に決まってんじゃん!!そんな事言ったら私の立場どうなるの!!一人でここまで助けに来させる気!?」
「……」
仮に本当に同盟破棄になったところで、シノは麦わらの一味ではなくハートの海賊団だ。一人でもローを助けに来るに決まっている。何も言い返せないのか、ローは小さく舌打ちをした。そんなローとシノのことなどお構いなしでローの海楼石の手錠を外そうと試みるルフィとヴィオラ。ヴィオラがどこからか鍵を用意してくれていたようだ。
「海楼石に触れねェから鍵外すの難しいんだ……!」
「頑張ってルフィ君!!」
「だったらシノかそこの女がやればいいだろうが!」
「ごめんなさい、私も能力者だから……」
やはりヴィオラも能力者だった。どうりで状況をよく把握しているとは思っていた。ピーカに廊下を改造されていた時も真っ直ぐ階段に向かえていたのもそのおかげか。一体どんな能力なのかは分からないが、かなり実用性が高そうだ。
「じゃあシノが」
「うわぁ!?」
急にボコンと床がうねりだした。その場にいた誰もが体を投げ出される。ゾロと戦っていたはずのピーカが移動してきたようだ。石の手の上にはドフラミンゴの身体と斬られた首が乗っている。
「フッフッフ……想像以上にしてやられたな」
「うわぁミンゴが生きてるー!!!!」
「これはマズイ事態だ……鳥カゴを使わざるを得ない……なぁロー」
「!?鳥カゴを……!?」
「ロー、知ってるの!?」
ローに話を聞く前に、急に建物の天井が斬られた。一瞬の出来事で何が起こったのかわからず、慌てて振り返ると、そこにはドフラミンゴの姿があった。首のついているドフラミンゴだ。キュロスが斬ったのは、偽物のドフラミンゴだったのか。二人のドフラミンゴが連携してルフィに襲い掛かる。
「ドフラミンゴはイトイトの実を食べた糸人間だ。あれも恐らく糸で出来た人形だろう」
「糸人間……だから私が攻撃した時もすぐ修復したのか……」
ローの言葉に納得し、改めてあたりを見回す。可能であればルフィが戦っている今のうちにローの鍵を外しておくべきだ。先ほどまでルフィが持っていたはずの鍵を探す。ピーカによる床の移動でかなり吹き飛ばされてしまったようだ。
「あ!あった!!」
「ピーカ、邪魔者共を外へ!!」
「うわああああ!!!」
「また~!?!?」
せっかく鍵を見つけたのに、またしても床がうねり始めた。今度は天井が開いているので、外に放り出される。ルフィやヴィオラはもちろん、リク王もローも外に追い出された。ルフィが膨らんでクッションになってくれたおかげで、全員無事外に着地する。
「ルフィ君、ありがと……!!」
「見事に落とされたな……ってトラ男、どうした?」
「始まった……鳥カゴだ……!!」
空を見て目を見開くロー。その視線の先を追うと、先ほどまでいたところから何かが伸びて空に広がっていくのが見えた。それこそローの言う通り、鳥かごの如く空を覆っていく。イトイトの実という名前から、あの鳥カゴは糸で出来ていると推測される。本当の糸のように簡単にはさみで切れるようなものではないだろう。つまり、完全に閉じ込められたということだ。
「この国の真実が漏れる前に、今この島にいる奴らを皆殺しにするつもりだ!!」
空に広がる糸のカゴ。シノはそれを息をのんで眺める。ローの反応を見る限り、ドフラミンゴを倒す以外に解放される選択肢はないのだろう。
「あれ、鳥カゴって名前だったんだね」
「……」
「私も知ってたわ、見たことあった」
「……そうだろうな」
ローはヴェルゴの時とは違い、驚きもしなかった。見ていてもおかしくはないと思っていたのだろう。すぐ隣の、見える範囲にある島同士だったのだから。13年前のあの日、シノは両親が向かった島、ミニオン島をスワロー島からふと眺めていた。それは本当に偶然だった。ミニオン島に向かうと聞いていたので、何とはなしに丘の上からあの島を眺めた。隣とは言えど少々離れているので、遠くからぼんやり見ただけだったが、外から何も知らずに見たそれは、何か綺麗なものに見えた。まさか13年後に自分が中から見ることになるとは。外から見たあの時とは、全く別物のように感じる。
「参考までに、ローはどうやって鳥カゴから出たの?」
「……あの時はあいつが解除したんだ。今回はそれは望めないだろうな」
何故解除され、無事スワロー島までたどり着けたのか。恐らく恩人が関わっているのだろうが、ローがそういうのであれば、同じ方法は取れない。そもそも当時も、助かったのはローだけの可能性が高い。この国にいる全員が人質状態の今は適応できそうにない。
「まぁ何とかするしかないよね」
「どうにもならねェよあれは」
「でも、何をしたら良いかはわかりやすいじゃん」
「ふざけんな、本当に分かってんのか!?」
「分かってるよ」
椅子に手錠でくくり付けられているせいで、椅子ごと寝転んだ状態から動けないローの隣に座り、手を取った。その手から、震えが止まらない程、緊張状態にあることが伝わったのか、彼は黙ってシノを見た。
「簡単じゃない事は分かってるよ」
「……」
「でも何とかしないと皆の所に連れて帰れないから」
これはあくまで武者震いだ。そう自分に言い聞かせ深呼吸をする。ローも、麦わらの一味もいる。シノがドフラミンゴと直接戦うようなことはまずない。だが、先ほどまでとは違い、今度こそ文字通り逃げ場が無くなった。誰かがドフラミンゴをやらなければ、こちら側の勝利はない。ドレスローザの国中を巻き込んだドンキホーテファミリーとの本当の戦いがここから始まる。
Tobe continued...
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