幕間 好きな食べ物
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それはパンクハザードからドレスローザへ移動中の出来事。
翌日の朝刊が出るまでは自由行動とのことで、シノはサニー号のキッチンを見学させてもらっていた。綺麗に整頓されたそこは、コックのサンジの性格が垣間見える。
「うわーすごいいろんなものがあるねー」
「うちの船のやつらは飯が好きだからなぁ、もちろん可愛いレディ達のためにも俺はいつでも全力で料理を作る!シノちゃんも今日のディナーをお楽しみに!」
そもそも料理をすること自体も好きなのだろう。いろいろな調理器具について聞くと生き生きと説明してくれる。パンクハザードの宴でも思ったが、麦わらの一味、特にルフィはかなりの大食漢のようだった。作り甲斐があるというものだ。
「シノちゃんも料理するのかい?」
「あーうち、コックさんいないから当番制なんだ」
「へぇ、20人もいるのに意外だな」
20人も海賊としては少ない方だと思っていたが、麦わらの一味を見ているとそうでもないようだ。むしろこの人数で見事に役割が分かれている方がすごい。
「まぁ専門じゃなくても料理上手な人もいるし、いろんな人のご飯食べられて楽しいよ」
シノも食事を摂ることは好きだ。特に、皆で揃ってする食事が好きだ。人数が人数なので集まらない日もあるが極力皆で集まって食事を摂るのがポーラータング号の暗黙の了解だった。料理を作ること自体も比較的好きだが、上手いかといわれると正直自信がない。
「良かったら私も手伝っていい?料理あんま得意じゃないからちょっと教えてほしいなぁ」
「OK、かわい子ちゃんに教えるのは大歓迎だ」
「そのかわい子ちゃんってどうなんだろ、一応私の方が年上だけど」
「レディの可愛さに年齢なんて関係ないさ」
パンクハザードで会った時からそうだが、サンジはとにかく優しい。そして凄く褒めてくれる。シノとしては今までモテたこともちやほやされたことも無いから、少しこそばゆい。が、可愛いと言われて悪い気はしない。ナミやロビンがいつも輝いて見えるのは、日々こうして言われ続けている効果もあるのかもしれない。
「それもそうだね、ありがとう」
技術的なものはすぐにどうこうなるものでは無いので、良い食材の見分け方、食べ頃、その食材や料理にあった美味しい切り方等を簡単に教えてもらい、メモを取る。料理自体は当然ほぼほぼサンジが作っているが、野菜を切る作業等は少しだけ任せてもらえた。
「ロー、喜んでくれると良いなぁ」
「当たり前だ!シノちゃんが愛情込めて作ってくれたのに喜ばないやつを俺は許さねェ!!」
「いや、作ったのほぼサンジくんだけどね?」
あとは煮込むだけ、というところで、シノが切った野菜達が煮込まれていくのをまじまじと眺めながら呟く。良い香りが部屋中を漂っている。ポーラータング号では嗅いだことのない香りだ。いつか皆にも食べさせてあげたい。仲間達は元気だろうかとぼんやり考える。
「シノちゃんは本当にあいつが好きなんだなぁ」
「好きだよーでも仲間たち皆が大好きだから、皆にサンジくんの料理食べて貰いたいんだよね」
「まぁ同盟組んでるんだ、いずれそんな日もあるかもしれねェな」
そんな日が来たらきっと楽しい。皆でサンジに料理の教えを乞うことになるかもしれない。いずれまた敵同士になるとしても、一緒にいる間くらいは楽しみたいものだ。
「よし、もう一品作るか、何作りたい?」
「え、じゃあおにぎりが良い!!」
「じゃあ美味しい米の炊き方を教えちゃおうかな!」
「本当ー!?!?」
ここから米を炊くとなると予定より時間がかかりそうだが良いのだろうか。しかしサンジの言葉に甘え、やり方やコツを教えてもらう。基本の流れは一緒なのに、ところどころちょっとした心遣いのようなもので味が変わるらしい。これがプロのコックというものなのか。
お米が炊けて、二人仲良くおにぎりを作る。握る作業はコツより愛情、とのことで、特に何も教わらず思うままに楽しく作る。
「シノちゃん手際いいねぇ」
「おにぎりだけは子供の頃からずっと作ってるからね」
「あー……もしかしてあいつの好物か」
「よく分かったね!?と言っても元々は知らなかったんだけど」
初めて会った日に二人でおにぎりを作って以来、割とよく食卓に上がるようになった。普通に茶碗に盛るよりも、作るのも食べるのも楽しいので、シノが作る日は大抵おにぎりだった。それこそ海に出てから、何かのタイミングで聞いた時に、おにぎりが好きだと知り、ちょうど良かったと思ったものだ。昔から医学書を読み漁り、海に出てからもひたすら本を読む機会の多いローのことだから、片手で食べられるおにぎりはちょうど良いのだろう。パンが苦手だからというのもあるだろうが。
そんな経緯を話していると、サンジの手が止まり、こちらを見た。
「どしたの?」
「……それはねシノちゃん、惚れた女との思い出の飯だから好きになったんだよ」
「惚、れた女、ではないと思うけど……どうだろうなぁ……?」
正直ローのことだから、元から好きだった気もするが、もしかしたら思い出としてローの中にも残っていて、好きな理由の一つとして関わっているのなら、それは嬉しい。
「……そうだといいなぁ」
「なんだなんだー?何の話だー??」
「メシメシ!!サンジまだかー!?」
「おいおい、せっかく楽しいクッキングの時間邪魔するんなー?」
ガヤガヤと急に賑やかになる。少し予定より遅くなってしまったがお腹を空かせたクルー達がぞくぞくとダイニングに押し寄せてきた。サンジも口ではそう言っているが、すぐに準備に取り掛かる。やはり皆に料理を食べて貰うのが好きなのだろう。サンジが他の料理の盛り付けをしているうちに、シノは残りのおにぎりを完成させ、皿に盛る。
麦わらの一味に紛れて、ローや錦えもん、モモの助も席に着き、賑やかな夕食が開始された。
「今日、私手伝ったんだよーその煮込み料理の野菜切ったんだー」
「そうだぞヤロー共、シノちゃんに感謝しろ!!」
「やるじゃねかシノ!!!」
「いや、本当に切っただけなんだけど」
ノリで褒めてくれるルフィ達。つい釣られて笑ってしまう。ローも、特にツッコミも入れず、煮込み料理に口をつけた。
「……こりゃうまいな」
「でしょ!?うちもやっぱりコックさんいた方が良いかなぁ」
「悪くはねぇな」
前向きに検討してくれるようだ。そうなるとシノがおにぎりを作る機会が減ってしまうのは寂しいが、皆で美味しい料理が食べられるなら悪くは無い。
ローは口をつけた煮込み料理の皿を、シノのものと入れ替える。その自然に行われた不自然な流れに、麦わらの一味の目線がこちらに向いた。
「あ、これはサンジ君が作ってくれたのわかってるから大丈夫だよ」
「ああ、悪ィ、癖だ」
「いやいやいや、癖って何!?いつも何してんのあんたら!?」
当然だが、ナミに突っ込まれてしまった。そうなると説明しないわけにもいかない。どこまで話すべきかと考えていると、代わりにローが説明してくれた。
「……前に外食時に薬を盛られたことがあってから、仲間うちで作ったもの以外はうちのクルーの誰かが毒味してるんだ」
「あの、サンジ君のご飯は信用してるからね?」
「分かってるよ。さっき一緒に作ってた時、味見してくれたしな」
麦わらの一味の事は既に信頼しているので、仲間たちの料理同様、サンジの作る料理も躊躇せず食べることが出来る。事実、パンクハザードでもサンジの作ったスープを頂いたばかりだ。ただ、誤解を招かないように事前に説明しておくべきだった。仲間以外と行動する時は、いろいろと気を使うべきだと改めて実感した。
しばらく皆でわいわい食べていると、ふとサンジの視線を感じた。よく見るとシノではなく、ローを見ているように見える。ローもその視線を感じたのか、ちらりとそちらを見た。
「……なんだ」
「いや……お前ちゃんと分かってんだな、それ」
そう言って、ローが手に持っているおにぎりを指差すので、思わずおにぎりとサンジを見比べた。が、サンジが何の話をしているのかはさっぱりわからない。
「サンジくんどうかしたの?」
「あー……さっきからそいつおにぎり3つ目なんだが、全部シノちゃんが作った方食ってると思って」
「そんなに見た目違う!?」
「えーわかんないわよ?」
ナミもちょうど手に持っており、ローが持っているものと比べるが、食べかけとはいえど、ぱっと見はほぼ同じだ。三角形の定番の形にのりがついている。並べた時の見栄えも重視して、恐らくシノの形にサンジが合わせてくれたのだろう。作った本人達は並べた順とかもあるので何となくわかるが……。
「いや、わかるだろ」
「確かに言われてみればこちらの方が若干の不恰好さがあるようにも見えるでござるが……」
「あ、それは確実に私だ」
恐らく1個目に作ったやつだ。炊き立てで熱すぎて力が入り、少し強く握りすぎてしまった。しかしそれ以外は上手く紛れ込んでいたと思ったが。
「愛情こもってるから!好きなだけ食べて!!」
「ただの具の問題だ」
あぁ、なるほど。シノが作ったものなら、梅干しは確実に入ってないという確信があるようだ。それでわざわざシノが作ったものを選んで食べていたらしい。確かにいつも通り梅干しは絶対にいれていないので、賢明な判断だ。サンジが握ったものの方が力加減も絶妙で絶対美味しいはずなので、1つくらいチャレンジすれば良いものを。具の問題だと分かっていても、自分の作ったおにぎりを食べてもらえるのは素直に嬉しい。
「ねぇ、ローはなんでおにぎりが好きなの?」
既に周りの話題が他に移ったことを確認したうえで、隣のローにだけ聞こえるようにぼそりと聞いた。決してサンジに言われたからではない、単なる素朴な疑問だ。お互いおにぎりを持った状態で目が合う。
「米が好きなのと、食いやすいからだな」
「あぁ、やっぱり」
そんなことだろうとは思った。焼き魚も含め和食の類が全般的に好きなのだ。おにぎりならそんな和食を片手で、作業をしながら食べられるというローらしい理由だ。やはりサンジの言うようなことは無かった。シノはサンジの作ったおにぎりを一口食べた。
「……それに、俺らみたいなガキでも作れた程簡単だからな」
「え?」
そう言ってローはおにぎりを口に放り込み、そっと一人で手を合わせると、何も言わずに立ち上がり外へ出ていった。ロー以外もほとんど食べ終えており、シノも慌てて持っていたおにぎりを食べ進める。
「ほらね」
「…………」
前に座っていたサンジがにこにことこちらを見ている。こっそり話していたつもりだったが、聞いていたようだ。おにぎりを急いで詰め込んだためか、口いっぱいに梅干しが味が広がり、いつもより酸っぱく感じて、シノはつい強く目を閉じた。
end.
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