海軍との宴
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研究所から無事脱出した一行。待ち構えていたドンキホーテファミリーとシーザーも縛り上げ、ようやくひと段落ついた。これからどう動くかはわからないが、とりあえず手持ち無沙汰になってしまったシノが、とりあえずスープを作るというサンジを手伝おうかとぼんやり考えていたところ、ぽんとローに肩を叩かれた。
「おい、シノ。仕事だ」
「仕事??」
どこかへ歩き出すローについていく。船長からの指示があるのであればそれが優先だ。まだ出発が出来る状態ではなさそうだが、何か準備することがあるのだろうか。
「ガキ共をタンカーに集めろ。今のうちに薬抜くぞ」
「!!りょーかい!」
先にタンカーへ向かうローと別れ、シノは急ぎ子供たちを集める。正直シノ自身はほとんど子供たちとは接点がなかったので、ナミに事情を話し、協力してもらいついてきてもらった。子供たちもナミに懐いているようで、ナミに言われると快くついてきてくれた。
「ナミちゃん、ありがとね」
「こちらこそ。子供たち治療してくれるなんて、良い所あるわねトラ男君」
「治療というかとりあえず今体の中にある覚醒剤抜くだけだけどね」
実験された体を戻したり、完全に覚醒剤の影響から回復するには相当時間がかかる。それでも今ある分だけでも抜ければ、現状のだるさや中毒反応の緩和等は出来るはずだ。
「ローも医者だからなんやかんや放っておけないみたい」
「十分よ」
嬉しそうに笑うナミ。パンクハザードにいる少しの間見ていただけだが、どうやら彼女は結構子供が好きで、世話焼きの様だ。元々印象は悪くなかったが、かなり好感を抱いた。シノに対してもあまり警戒心を抱かずこうして会話してくることもありがたい。
二人で話していると、たしぎがタンカーに乗ってきた。真っ直ぐにこちらへ向かってくる。どうやらナミに用があるようだ。恐らく子供たちのことだろう。彼らの処遇は、ナミと海軍で話すべきことだ。シノが口を出す話ではないので、ナミに目配せしその場を離れ、手術中の部屋の方へ向かった。ゆっくりと歩いてその場に向かうと、ドアの前に既に先客がいた。べしょべしょに泣いているチョッパーだ。
「……チョッパーくん、何してるの?」
「おい!!お前んとこのキャプテン人殺しーーーー!!!!!」
「いやいや、ローは人殺しどころか医者だから」
「でも、でも、あいつさっき、子供たちに!!」
泣きながらドアのまえで叫ぶチョッパー。一体何がどうなっているのか。あのローに限って子供を殺すようなことはしないはずだが。しかしここまで怖がりながらも怒るということは何かしらあったのだろう。ふむと考えこむようにシノは手を顎に当てる。
「あ。もしかして手術中のロー覗いた?」
「そうだ!!そうしたらあいつ、子供たちを斬ったんだ!!」
「あー……そういうことね」
チョッパーはローの能力を知らない。医者と聞いていても、能力を知らずに、あの治療方法を見てしまったら、驚いても無理はない。ローもローで、わざわざチョッパーに説明するようなこともしないだろう。シノはその場にしゃがんでチョッパーの頭をぽんぽんと叩く。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと治療してるから」
「そんなわけあるかァ!ロー出てこい~~!!中で何をしてる~!!」
ちょうど叫んだ時、ガチャリとドアが開き、ローが愛刀の鬼哭を持って出てきた。
「あ、ロー終わった?」
「お前!!一体子供たちに何をしたぁ!あいつらにもしもの事があったらお前ェ!!」
「……だから覗くなと言ったろう。今ガキ共の体を切り刻んできた……!!」
「ギャー!!!!!」
「言い方……」
完全にわざとだろう。怖い顔で恐ろしいことを言い放つロー。チョッパーは泣きながら急いで部屋の中に入っていく。
「覚醒剤だ……辛い長期治療は避けられねェがな」
そう簡単に中毒性が抜けるものではない。多少緩和こそするが、まだまだ苦しい日々が続くことだろう。しゃがんだまま頬杖をついてローを見上げる。
「なんだ」
「別に。チョッパー君の事怖がらせて楽しそうだなぁって」
「あほか……ちゃんとした治療を受けられなきゃこの先どうなるかわからねェ」
「その点は、海軍でなんとかします」
「たしぎちゃん」
無事ナミと話はついたらしい。海賊である麦わらの一味の船に乗り込むわけにもいかないし、今後ちゃんとした治療を続けていくためにも海軍が引き取るのが妥当だろう。予想通りの展開だ。
「シーザーのキャンディの治療は、Dr.ベガパンクに相談します」
「そりゃいい。政府の天才科学者なら何とかしてくれるだろう」
「よろしくね、ちゃんと治してくれないとナミちゃんも、うちのキャプテンも心配しちゃうから」
「……」
ローは黙ってどこかへ歩いていく。タンカーを降りるようだ。シノもたしぎへ手を振り後を追った。
タンカーの外ではいつの間にやら、サンジが侍と見慣れぬ子供に料理をふるまっていた。そもそも侍はシーザーの毒薬により固まっていたはずだが、いつの間にか復活したようだ。タンカーにいた間に何があったのか。恐らくあの見慣れぬ子供が侍の探していた子なのだろう。泣きながら料理にがっつく二人。相当訳ありのようだ。
二人の分だけではなく、恐らく全員分のスープを大鍋で作ってくれたサンジ。漂ってきた良い香りにシノも思わずお腹の音が鳴ってしまった。海軍たちも器を持って鍋の周りに集まってきた。ゾロに至っては酒を探そうとしている。
「おい、麦わら屋。ここは急いで離れるんだ。ゆっくり飯なんて食ってたら追手が来る!仲間たちにもそう伝えろ」
「そうなのか、よし!わかった!!」
ローの言葉に真剣な表情で答えるルフィ。
「宴だぁーーーーーーーーーー!!!!」
「…………!?!?」
どうやらローの言葉は何も伝わらなかったらしい。いや、分かったうえで、宴を優先したのかもしれない。一度宴が始まってしまえばもう止められない。誰もが乾杯をし食事にかぶりつく。ずっと死ぬかもしれない緊張の中走り回り、戦ってきたのだから、やむを得ないだろう。先ほどまであんなに大変な中にいたというのに、誰もが笑顔になっている。ルフィにはそんな不思議な雰囲気があるようだ。
「しょうがないよ、とりあえず腹ごしらえして回復しないと」
呆然としているローに笑って声をかける。どうせこれからしばらく気を張り続けなければならないのだ。少しくらい休息は必要だ。スープ貰ってくるから座ってて、シノは宴の中心に入っていく。
「サンジくん、スープ2つ貰ってもいい?」
「もっちろん!さぁどうぞ」
「ありがとー。サンジくんもちゃんと休んでね」
どんちゃん騒ぎの中で、トレーをもらい、スープを2つ、酒の樽ジョッキを2つ受け取る。誰もが楽しそうに笑顔で盛り上がっており、つられてシノも笑顔になる。ローが仲間のもとを離れた時から、こういった宴会はご無沙汰だった。また仲間達と合流したらまずは宴会が出来たら良い。そんなことを考えながら、いそいそと宴の中心から抜け、ローの元へ向かうと、スモーカーとローが少し外れたところで座って何か話をしていた。いつの間にそんなに仲良くなったのか。
「良かったらスモーカーさんもどうぞ」
ローとスモーカーにスープを手渡す。状況的に二人とも酒は飲まないだろう。スープで温まって少しでも英気を養ってもらうのが良い。二人とも文句も言わずに受け取った。シノは残った酒を手に、ローの座る木箱の横に座る。どんちゃん騒ぎに混ざるのも良いが、二人の会話も気になる。
「ロー、まさか俺が海賊のお前との約束を守るとは思っちゃいまい……本気で口止めしたきゃ俺を消せる場面は何度もあった……麦わらを利用して何を始める気だ」
「利用ね……どっちがされてんのか……」
この数時間でどれだけローがルフィに振り回されていたか。話した作戦はほぼ守られなかった。が、最終的には目的を果たしているから不思議だ。これららも同盟を続ける限り苦労させられることだろう。
「……お前を生かした事に意味なんかねェよ……白猟屋」
「……」
「ところで、俺はグリーンビットへ向かうつもりだが……」
カランと音を立ててスープの器を捨てる。あっという間に飲み切ってしまったようだ。
「さて、麦わら屋の一味は俺の手に負えるかどうか……!!」
どんちゃん騒ぎを続ける麦わらの一味たちを見る。スモーカーも同じように眺めていた。何故スモーカーに次の目的地を伝えたのかはわからないが、何かしら思惑があるのだろう。どちらにしろ、スモーカーも手傷を負っており、たしぎが請け負った子供たちを送り届けるというミッションもある。グリーンビットとやらに追いかけてくることはできないはずだ。
「ロー、どこ行くの?」
「野暮用だ。あまり飲みすぎるなよ」
そう言いつつ、縛り付けたドンキホーテファミリーを指さす。ついてこいとは言われていないので、ローを素直に送り出す。聞かれたくない話も無いとは限らない。シノは樽ジョッキを1つ飲み干し、もう1つに手を伸ばす。
「スモーカーさん、飲みます?」
「いらん」
「あ、そうだ。海兵も海賊も結構な人数ガスで固まったと思うんですけど、多分、まだ死んでないと思うんですよね」
「……?」
どうやったのかは分からないが、侍が復活していたのが良い証拠だ。シーザーは確かに一気に全身麻痺させて固めると言っていた。つまり毒ではなく仮死状態になっているイメージなのだろう。もちろんずっと固まっていたら命の保証はないが、今ならまだ助かるはずだ。スモーカーやたしぎは、ヴェルゴとは違い、部下を大切にする海軍だと思ったので、一応伝えておく。
「まぁシーザーにちゃんと聞いてみないとわからないですけど、ご参考にして頂ければ。じゃあ私は宴の方に戻ります」
シノ自身は、たしぎならともかく、スモーカーと話すこともない。向こうもそれは同じだろう。会話も弾まないのに、こんな端で一人寂しく酒を飲む理由もない。戻って麦わらの一味と親交を深めた方が得策だ。仲良くなりすぎてもローに怒られるかもしれないが。ぺこりと軽くお辞儀をして、その場を離れる。
「……お前はローが何をしようとしているのか知ってるのか」
「!!」
まさかスモーカー側から声をかけられるとは思わなかった。一瞬きょとんとして、聞かれた内容に回答する。
「……正直本当の目的はまだちょっとわかってないです。何となくは察してますけど」
方針は聞いているが、ロー自身の目的は本人の口から聞いたわけではないので正直憶測の域を出ない。だが答えは決まっている。一生ローについていくと決めたのだ。
「でもローのこと、信じてるので。私は大切な人についていくだけです」
では、ともう一度お辞儀をして、シノは今度こそその場を離れ、にぎやかな方へと向かう。
岩陰から誰かが出てきたことには気づけなかった。
「……だそうだ。お互い、部下からの信頼が重いな」
「……」
「気をつけろ、あいついつかお前のために死ぬぞ」
「……余計なお世話だ」
******
宴も終わり、出港準備を始める一同。
海軍は迎えの船を待っていたようだが、どうやらタンカーを使って子どもたちと一部の海兵だけ先に出航することになったらしい。たしぎもそちらに乗り込むようだ。子供たちが船の上から麦わらの一味に挨拶をしようとするが、海軍たちが目の前に立ち見えないようにしている。一緒に脱出し宴をしたとは言えど、海賊と海軍が仲良くなるわけにはいかないのでしょうがない。
「んじゃ無事に乗り込んだようだし俺たちも出航だ!!」
「おい、あいつらも一緒に行くのか?」
ルフィの言葉に麦わらの一味に紛れ、ローとシノも麦わらの一味の船へ向かう。海賊同盟の話をしていた時にその場にいなかったゾロ、サンジ、ブルックは事情を理解していないため、ローとシノを見て、眉をひそめていた。
その間もわいわいと騒ぐ子供たち。その様子に海軍が子供たちに銃を突きつける。
「俺たちこそが正義!!ガキ共にこいつらを見せるなー!!」
「いいか海賊は悪で海軍こそが正義!!」
「礼なんて言ったら島に置いてくぞー!!」
海軍に銃を突き付けられ、ようやく黙る子供たち。子供相手に何をしているのか。どうやらG-5は普通の海兵より柄が悪いようで、もはやどちらが悪者かわからない。
「やめなさいあなた達!!みっともない!!」
泣く子供たちのために、たしぎが一喝する。子供たちを見捨てずに助けてくれた麦わらの一味。それを子供たちの前で、大人たちが侮辱するわけにはいかない。たしぎの声に、G-5の面々が押し黙る。
「……だがよ、たしぎちゃん、悪口でも言い続けねェと、俺たちぁこの無法者共を……好きになっちまうよぉぉぉおおお!!!海賊なのによ~~!!!!!」
泣き叫ぶG-5に思わず頭を抱えるスモーカー。G-5に限らず、茶ひげやここの研究所にいた人間たちにとっても、麦わらの一味およびローは恩人なのだ。あの地獄のような状況から一緒に逃げて命を助けてくれた海賊達。ルフィ達としては、ただ自分たちのしたいようにしただけなのだろうが、それでここにいたどれだけの人間が救われたことか。
「なはは、変な海軍」
「海賊のお兄ちゃん、お姉ちゃん!助けてくれてありがとう、大人になったら僕たちきっと……海賊になるよ~~~!!!!」
「なるなぁーーーー!!!!!」
子供たちの歓声に、G-5が突っ込む。さすがに海賊になるのを黙認するわけにはいかないだろう。そんなコントのようなやり取りに笑いながら、子供たちに手を振る麦わらの一味達。
「次会ったら覚悟しろよーー!!!」
「またな~~~~!!!」
わいわいと見送られながら、麦わらの一味も出航をする。
政府の島、パンクハザード。四年前に放棄され忘れられたと思われた島での冒険。この事実は全て隠されることになるのだろう。それでも、この日から確実に時代が動くことになる。麦わらの一味と、トラファルガー・ローら最悪の世代たちによって。現時点では誰にも知られていないこの事件が、歴史の一部となっていくことを、まだ誰も知らない。
Tobe continued...
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