脱出
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D棟SAD製造室。
SADとやらが入っていたであろう装置は、先ほどのローの一撃で真っ二つにされ、中の液体のようなものが漏れ出している。ローが焦っていないということは、漏れ出しているだけでは害はないのだろう。それでも緑色のどろどろとしたものが漏れ出しているのは見ているだけで気持ちが悪い。
丁寧にヴェルゴを細かく斬り刻み、手すりに貼り付けていくローのもとへ、歩いていく。何度見てもローの能力は本当に規格外だ。シノがあれだけ苦労したヴェルゴが、肉をさばくようにサクサクと切り分けられてしまった。
「お疲れ様~、帽子ありがと」
シノは背伸びをしてローの頭に帽子を戻す。ちゃんと被れるよう少し屈んでくれたおかげで、帽子はいつもの定位置へと戻っていった。やはりシノの頭よりもこちらの方がしっくりくる。
「おい、その頭の傷どうした」
「あーそいつにちょっと。帽子少し汚しちゃった、ごめん」
バラバラのヴェルゴを指さす。頭を殴られたときに額が切れて血が流れていたようだ。走りながら抑えて応急処置はしたのでとりあえずもう血は止まっている。ローの帽子で隠していたのをすっかり忘れていた。そして、どちらかというと殴られた腹の方が痛いのだが、これは黙っていることにした方がよさそうだ。
「お前もこいつのこと斬っとくか?」
「別にいいよ、こんな人」
ちらりとヴェルゴの頭を見ると目が合った。こんな状態になっても笑みを浮かべている。何を考えているかわからないが、もう何も出来ないだろう状態の人間を甚振るような趣味はない。
「良いのか、お前の両親を殺したのは俺だぞ」
「さっきドフラミンゴって言ってたじゃん」
「そうだ……俺はあの時、海軍側だった。だが、先ほども言ったが、あれは全てローのせいだ」
覇気を込めてヴェルゴの手の甲を撃つ。当たってはいるが、眉一つ動かさないヴェルゴを、シノはにっこりと笑って見下した。
「どうでもいいよ、そんなこと」
くるりと背を向け、ローの方へと向きなおる。
「ロー、早くしないとさっきので研究所崩れるよ」
「あぁ。白猟屋、もう一つ仕事がある、手伝え。シノ、シーザーは」
「向こうのR棟でルフィ君が殴ってたから今頃捕まえてると思う」
「わかった、行くぞ」
ヴェルゴを置いて三人で部屋を出ようとする。SADの装置が何回か小さな爆発音を立てている。ずっとこの部屋にいたらそのうち大きな爆発が起こるかもしれない。ローの言うもう一つの仕事が何かはわからないが急いだほうが良さそうだ。
「ずいぶんじゃないか…ロー。こりゃあ番狂わせだ…だが必ず後悔する。よく覚えておけ……お前はジョーカーの過去を知らない。それが必ず命取りになる!!」
「!?」
「少し名を上げたくらいの新世代に取って代われる程世界は浅くない。教えてやれよスモーカー。威勢だけの小僧共にこの根深い世……!!」
そこでヴェルゴが黙った。ローがヴェルゴの顔を縦に斬り割いたからだ。スモーカーも興味無さそうに大きな葉巻を二つくわえて火をつけた。
「俺の心配は良い。てめェの身を案じてろ……この部屋はやがて吹き飛ぶ。じゃあな……海賊ヴェルゴ」
シノもローとスモーカーについて部屋を後にする。二人に遅れないよう少し早歩きでいかなければならない。とことこと早足で横を歩きながら、ローの顔をちらりと見た。わかりづらいが、覚悟を決めたように見える。これでドフラミンゴやカイドウと戦うことが確定した。シノも覚悟を決めなければならない。
「スモーカー、これを運ぶぞ」
「必要なのか!?これが」
SAD製造室から出たところにあった大きなトロッコ。ここに線路は無いが、ご丁寧に運びやすいようにロープが結ばれている。車輪もついているので、重いだろうが一応運ぶことは出来そうだ。
「SADを運び出すためのトロッコだ。これに全員乗せる。脱出は一刻を争うんだ!」
「ローが派手に研究所ぶった切っちゃったからね」
恐らくそこらじゅうで崩れかけているだろう。2時間という時間制限はこれを指していたのか。どちらにしろガスの充満までもそれくらいの猶予だっただろうが。
「あ、そうだ。あとで茶ひげの治療して欲しいんだけど」
「誰だそれ」
案の定、ロー側は茶ひげの事を認識していなかった。茶ひげが勝手に恩を感じていたが、ロー側は大量の海賊たちの体の接合をしたのでいちいち覚えていないのだろう。無事この研究所を出た後に、改めて紹介しなければ。
D棟からR棟へトロッコを運び込む。集合場所であるR棟には、ルフィをはじめ、麦わらの一味やたしぎや子供たちも集まっていた。何人か足りない気がするので、まだたどり着いていない面々もいるのかもしれない。
「麦わら屋!!」
「トラ男!ケムリン~~!!」
スモーカーの姿を見て、海軍も歓声を上げる。たしぎがホッとして顔を綻ばせているのを見て、シノも思わず笑みがこぼれた。スモーカーの強さは信頼しているだろうが、それでも別行動を取っていると心配はあっただろう。無茶な上司を持つとお互い大変なものだ。
「シーザーはどこだ!!」
「ああ……あの扉ごとあっちの方にぶっ飛ばした!どこまで飛んだかな」
「おい、約束は誘拐だろう!?」
「でもあんなやつもう捕まえんのも嫌だおれ!!」
「いや、でもそういう計画だ!もし逃げられたらどうしてくれる!!」
ルフィとローが言い合いを始めた。ローを追わずに、ちゃんとルフィの方を見ておくべきだったか。ルフィに言っても通じないとわかったローがシノを睨んできたので、思わず顔をそらす。捕まえているはずと報告した手前、もしこれで逃げられでもしたら、シノもあとで怒られてしまう。いや、よく考えたらシノの仕事は、麦わらの一味を無事脱出させることだ。シーザーの件は悪くない。もっとも、この場を見る限り、その麦わらの一味も足りていないのだが。
「ルフィ君なにやってんのさ!!私も怒られるじゃん!」
「いーじゃねェか、別にあんなの」
「気分で作戦変えんじゃねェよ!お前を信用するんじゃなかった!さっさと追うぞ!!」
急いでトロッコをR棟の線路に乗せ、子供たちを優先しながらトロッコに乗り込んでいく。かなりの人数が乗れる大きさだ。シーザーの部下も、海軍も、海賊も関係なく乗り込む。普段だったらありえない光景だが、緊急事態に所属は関係ない。研究所は本当に危ないようで、ずっとアラートがうるさく鳴り響いていた。
「急げー!!!逃げるぞ野郎共ぉ!!!」
「うぉおおおおお!!!!」
その後もローとルフィが何やらもめていたようだが、ようやく全員揃ったらしい。ぐったりした大きな子供を海軍が運んできた。その上にはチョッパーの姿。あの子の治療をしていて遅れたのだろう。よく見ると、いつの間にかあのぐったりしている子供以外は元気になっているように見える。やはりチョッパーも優秀な医者なのだろう。
何とか全員乗り込み、トロッコが動き出した。天井がどんどん崩れてきているが、麦わらの一味が落ちてきた天井を壊し、何とか進んでいく。
そんな中で、大きな爆発音が聞こえ、天井の崩れるスピードが増した。
「何!?」
「何か爆発したぁ!!」
「この通路は山腹のトンネル。崩れりゃ生き埋めだ」
「何でのんびり語ってんだ!?」
冷静に解説するローへ突っ込むウソップ。先ほどまでいたSAD製造室が爆発したようだ。ふとあの場に置いてきたヴェルゴの姿が脳裏をよぎったが、すぐに消し去った。あれは敵だ。生かしておいては今後の作戦に支障を来たす。海賊同士、ある程度の割り切りは必要だ。
道の安全確保は麦わらの一味に任せ、シノはたしぎの元へ向かった。傷だらけだが、元気そうではある。今回は一時的に協力関係にあるが、またすぐに敵対関係に戻ってしまう。少しくらい話しておきたかった。
「たしぎちゃん、大丈夫だった?これあげる」
「……さっきも言ったけど、私たちは敵同士。馴れ合う気はありませんよ」
「うん、だけどこれからこの子供たちを故郷に送り届けたりするんでしょ。だったら傷が早く治った方が良いだろうから」
ローがポーラータング号に置いて行った傷薬だ。かなり染みるが、よく効く。シノはもう無事ローと合流できたので持ち歩かなくても問題ない。たしぎも納得したのか、黙ってそれを受け取った。
「スモーカー、無事で良かったね」
「……えぇ。トラファルガー・ローも」
「うん、やっぱり尊敬する上司はかっこいいよね」
すぐ無茶するけれど。へらへらとしながらローを眺める。たしぎからは肯定も否定もされなかった。少しは警戒心を解いてくれただろうか。年も近そうに見えるので、本当は仲良くなれたら嬉しいが、さすがに立場上難しいだろう。
そうこうしているうちに、出口が見えてきた。無事山を抜けることができたようだ。久々の外は雪も降っておらず、青い空が見えている。
「出ェたァ~~~~!!!!!」
「え!?」
「あ!!」
「やっと来たかあいつらァ、待ちくたびれたぜ!!」
外には、フランキーと何だかよくわからないロボがいた。大人も子供も、よくわからないロボに目を輝かせている。男だけ。そういえばフランキーは船を探しに行くと言っていた。無事船を確保して待ってくれていたようだ。
「バッファロー!!お前は……ベビー5か!?!?」
「知り合い!?」
ローの言葉に周りを見ると、確かにフランキー以外にも人がいる。ミニスカートのぴっちりしたメイドっぽいワンピースを着た女性と、変な髪形で体に鎖を巻いている大きな男の二人組。この二人がローの言うベビー5とバッファローというやつなのだろう。
「……ロー!あなた本当にジョーカーに盾突く気!?」
「この裏切り者がぁ!!ジョーカーはお前のためにまだハートの席を……」
ジョーカー、ということは、この二人はドンキホーテファミリーの人間だ。であればローがドンキホーテファミリーに所属していた頃の知り合いなのだろう。子供の頃のローの話を聞いてみたいところだが、どうやらそんな雰囲気ではないようだ。
「ん?誰だ?あいつら友達か?」
「――いや、敵だ!!」
「一味勢ぞろいに海軍G-5!分が悪すぎる!!」
ベビー5という女性が、転がっているシーザーをつかみ、バッファローへ飛び乗る。バッファローはどうやら空を飛べるらしい。何かしらの能力だろう。くるくると頭と足をプロペラのように回して飛んで逃げようとしている。
「シーザーを奪って逃げた!飛ぶ敵は狙撃手の仕事!!」
「あいつら……!!」
「おいおい、ウソップが任せろって言ったろ」
任せろ!とパチンコを構えるウソップ。ローもROOMを展開しようとしていたが、ルフィとゾロによって止められた。シノの横にいたはずのナミも前に出て、ウソップの隣に並んだ。
「バカいえ、万が一にもあいつを逃がせば作戦は……」
「同盟組んだんでしょ!?少しは信用してほしいわ!!戦意を失い遠くにいる敵なら怖くないのよ!!」
「しかも手負いで背を向けた敵なら任せろぉ!!!」
なんだか恥ずかしい理由だが気持ちはわかる。ナミとウソップがどんと構えて戦闘準備に入る。ナミは水色の棒を使って戦うらしい。棒から飛び出した球が空中で割れ、雨雲が現れる。見事に雷がバッファローに的中した。黒焦げになった3人が海に落ちていく。追撃をかけるようにウソップがパチンコから銃のようにがれきを飛ばし、落ちていくバッファローへ当て続ける。そして、シーザーにも海楼石の錠を巻き付け、3人は見事に海へ落ちていった。全員能力者であろうから、海に落ちれば無力化できる。あとはあれを回収すれば終わりだ。
手際の良さに思わず拍手をする。さすがは麦わらの一味。先ほどの発言から戦闘には自信がないほうかと思いきや、やはりいろんな力を隠し持っているようだ。
「……よし、第一段階は成功だ」
「どうだ、やるだろあいつら」
にしし、とルフィが嬉しそうに笑った。これでこのパンクハザードでするべきことは全て片付いた。海軍と研究所の兵士たちと休戦状況にある今、他に敵はもういない。ホッとため息をもらすと、ローが近づいてきて海を指さした。
「おい、シノあいつら回収できるか?」
「え、ここの海寒そうだから無理」
「お前スワロー島で散々寒中水泳してただろうが!?」
「あー、あの後風邪ひいたよね~」
13年前のことを思い出し笑う。あの頃に限らず、ハートの海賊団では海戦をすることが多いので、よく泳いでいた。泳ぎは得意な方だったが、先ほどの3人を担いで引き上げることが出来るかというとそれは別問題だ。そんなことを考えながらごねている間に、ゾロとサンジが海に飛び込んでくれた。さっさと三人を回収してくる二人。
「ごめん二人ともありがと~」
「いえいえ、レディをこんなクソ寒い海に飛び込ませるわけにはいかないって」
「騙されんな、こいつ雪山育ちで、ガキの頃から極寒港で年中泳いでたようなやつだからな」
「言わなくていいから!!」
水中から回収された気絶しているドンキホーテファミリーに毛布を巻きつつ、鎖で縛る。さすがにこのまま放置したら凍え死んでしまうかもしれない。他二人はともかく、綺麗な女性をそんな目に合わせるわけにはいかない。タオルで髪や体を軽く拭いてあげる。シーザーとバッファローの方はサンジとゾロに任せたので、当然拭いたりはせず、そのまま鎖をぐるぐる巻きにしているのだが。
「おい、そんな丁寧にしてやる必要ねェぞ」
「ねぇ、この人たち、ローの知り合いなんでしょ」
丁寧に拭いてあげていたせいか、ローが眉をひそめて苦言を呈してきた。シノはそれを無視して、彼女たちの素性を確認する。
「まぁな」
「友達だった?」
「どうだかな……あいつらとはそういう関係じゃなかったが、まぁ歳も近かったし話すほうではあったな」
軽く話してはくれたが、あまりいい思い出ではないだろう。ゾロやサンジも近くにいる状況で詳しく聞くのはやめておいた方が良いだろうか。シノはふーんとつぶやき、それ以上は聞かなかった。
「さて、俺は料理の準備をするか。寒ィから温まるスープでも欲しいだろう」
「サンジ君てもしかしてコックなの?」
「おう、クソコックだ」
「なんでてめェが答えるんだよ!?」
サンジとゾロが何故か急に言い合いを始める。仲が良いのか悪いのか、その様子にくすくすと笑うシノ。そんなにゆっくりしている場合ではないが、誰もが走り回って、戦って、疲弊していることは確かだ。この後の動きもまだ確認はしていないが、子供たちもいるので、少しくらい休息を取るべきかもしれない。
いつの間にかまた雪が降ってきた。温度も下がってきており、コートを着ていても寒い中、温かい食べ物を作ってくれるというなら大変ありがたい。この人数分のスープを作るなら人手は多いほうが良いだろう。シノも、サンジの手伝いをしようかとぼんやり考えた。
Tobe continued...
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