宣戦布告
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パンクハザード研究所内A棟。ローと別れたシノはロビンと一緒に行くことにした。ルフィはシーザーを、スモーカーはヴェルゴを探すとなると、たしぎかロビンについて行くしかない。今たしぎについていって海軍の前に行けば敵だと思われる可能性もある。ロビンについて行くのが一番無難な選択だ。
「とりあえずナミ達が茶ひげに乗ってるし、私たちもあそこに乗せてもらいましょうか」
「はーい!」
ロビンたちがいる通路の下を通過するタイミングで飛び降りればちょうどいいだろう。こちらへ来るのは待っていると、警報音が鳴りだした。A棟全体に響いているように聞こえる。
「何かしら……?」
「あ、あのゲート閉じ始めてる。このA棟に閉じ込めようとしてるのかも」
B棟に続くと思われる大きな扉がゆっくりではあるが閉じようとしている。恐らくA棟に閉じ込めて、外へのシャッターを開けてガスに巻き込もうとしているのだ。
「それは……ひどい事するわ」
「うお!?ロビンいつの間に!?」
「あ、私もまたお邪魔しまーす」
ひょいとちょうどやってき茶ひげに飛び乗った。何故か剣士三人組は茶ひげの前を走っている。何かあった時に障害物を壊す担当なのだろうか。案の定、まだドアは閉じていないが、A棟内にガスが入ってきた。巻き込まれた海兵が固まっていく。
「研究所を犠牲にしてガスをいれてくるとは……!まだまだ安心できねェぞ!急げ茶ひげ!」
「いつの間に全員乗っとるんだお前ら!!さすがに重い!!」
結局B棟に滑り込んだあたりで、剣士三人組も大人しく茶ひげの背中にちゃっかりと乗り込んだ。ルフィとチョッパーとフランキー以外の麦わらの一味全員と侍とシノが乗っているのだ。当然重いだろう。茶ひげは兵の屯所へ向かっているようだ。仲間を探しに行って一緒に脱出を図るのだろう。
「あ、そういえばお侍さん治って良かったね。お名前なんて言うんです?」
「拙者、錦えもんと申す」
「錦えもんさんね、よろしくおねがいします」
下半身と頭だけの時は名前を聞けていなかった。無事体も取り戻したところで、今度は息子を探さなければいけない。なかなかに忙しそうだ。子供を全員救出すれば、その中にはいるだろう。
のんきに麦わらの一味に馴染んで会話していた時だった。
「!?」
背後からの気配に背筋がぞくりとした。B棟までは一緒に入ってきたはずのG-5が来ない。ローからの指示は麦わらの一味のサポートであったが、たしぎのことも心配だ。
「ごめん、私ちょっとたしぎちゃん達見てくる」
「戻るなんて危ないわよ!?」
「様子見てすぐ戻るから、先に子供たち探しといて!」
ナミにひらりと手を振り、茶ひげの背中から降りる。
まだあまり離れていなかったからか、人だかりはすぐに見つかった。B棟とA棟をつなぐ扉の目の前からまだ動けていなかったようだ。
その中心にいるのは、白いコートの男。やはりあの気配はこの男だったか。周りには、G-5の面々が倒れている。尊敬していた上司にやられたのか。シノは腰に下げた刀に手をかける。
「みんな離れて!そいつはもうあなた達の知る男じゃない!!」
先にたしぎが男へ斬りかかった。その様子をよく観察する。たしぎの刀が男の右腕で防がれる。刀と当たった音からして、かなり堅そうだ。覇気の力だろう。たしぎには悪いが、たしぎが吹き飛ばされる瞬間にヴェルゴの背後へ周り、首を狙って斬りかかる。
「っ!!!」
「お前は、ローの所のやつか」
ギィンと音を立てて刀がはじかれた。つかまれる前に蹴り飛ばす勢いで距離を取る。ローの部下であることは、あの場にいたヴェルゴにも当然バレている。
「……ちょっと硬すぎませんかね」
「何しに来た」
「たしぎちゃんを助けにに決まってんでしょう。海軍!早くたしぎちゃん連れて逃げて!!」
一番の目的は無論、ローの心臓ではあるが、それを言ってしまうと心臓を人質にされるかもしれない。極力触れずに話をそらしたい。一撃入れただけで、力量の差があることは把握できてしまった。こんな場所で死ぬ気はない。あわよくばと思ったが、ここは海軍が逃げる時間稼ぎをすることに目的を切り替えた方が賢明だ。
「ヴェルゴさん、昔スワロー島でお会いしましたよね、覚えてますか」
「……知らんな」
「13年前、ミニオン島で私の両親が亡くなった時、それを伝えに来てくれた海兵の方がいました……貴方ですよね」
「あぁ、あの時のガキか」
ヴェルゴがしれっと答える。10年以上前の話だ。忘れられてもおかしくないと思っていたが、どうやら覚えていたようだ。
「貴方、海賊だったらしいですね、私の両親を殺したのも本当は貴方ですか?」
「それはジョーカーだ」
「ジョーカー……」
ドンキホーテ・ドフラミンゴか。ヴェルゴがあの場にいたということは、その仲間のドフラミンゴがいたとしてもおかしくはない。あの日の出来事は海賊同士のいざこざで、それに両親は巻き込まれたと聞いていた。その海賊がドンキホーテファミリーだったということか。どこかの名を聞いたこともないような海賊が仇かと思っていたが、悪名高いドフラミンゴが相手では万が一でも生き残ることはできなかっただろう。両親の死は遠い昔に割り切った。
「ただ、お前の両親を殺したのはジョーカーだが、そうなったのはローのせいだ」
「……何言ってんの」
一瞬思考が止まりそうになった。どう考えてもシノを動揺させるために言ったとしか思えない。いや、実際ローが関わっているのは事実だろう。ローはドフラミンゴの部下だったと言っていた。そして、ドフラミンゴがミニオン島にいたタイミングでスワロー島へやってきてシノと出会ったロー。無関係なはずがない。
だが、シノにとってそんなことはどうでも良い。ローは一旦考えるなと指示をした。だから今ヴェルゴの言葉に耳を貸す必要はない。ふぅと一息深呼吸をする。
「……生憎、そんなことで動揺しないくらいには、うちのキャプテンのこと信頼してますので」
「そうか、残念だ」
微塵も残念などと思っていないだろうトーンで返される。シノに対して一ミリも興味等無いのだろう。むしろ過去のあの日のことを覚えていたことがもはや奇跡的だ。シノにとっては一生忘れられない日。きっちりと、深々と頭を下げて、まだ子供だったシノにも真摯な態度で事情を話して謝罪してくれたあの姿。シノはそっと目を閉じあの日の記憶を思い出して、消した。ローの件と同じ、今は置いておかなければ。
ヴェルゴの素早いストレートが飛んできたのを感じ、シノはすぐに目を開いた。こちらから攻撃する余裕はないが、刀で防ぐことは出来る。
「たしぎちゃん、早く今のうちに海兵連れて逃げて!!!」
「でも……!!」
「一人で逃げるくらいは出来るから!!」
そうでなければ、どう考えても強いと分かっている相手の所に飛び込むような真似はしない。ある程度攻撃を受ける前提ではあるが、戦線離脱ぐらいは何とかなる。
「よそ見している場合か」
「!!!!」
ヴェルゴの拳がもろに頭に入り吹き飛ばされた。脳が揺らされてくらくらする。ちらりと見たが、たしぎはまだ動けそうにない。彼女が立ち上がってくれないと、ここから逃げることも出来ない。このまま防戦一方ではさすがにまずい。
「女性の顔殴るなんてサイテー」
「殺し合いに男も女も関係ないだろう」
「そりゃそうですね」
にやりと笑うシノ。刀を両手で構え距離を詰める。ヴェルゴの懐に入り、喉元を突く。が、やはり硬い。鉄に向かって刀で突進した気分だ。腕が痺れて力が抜けてしまい、刀を弾き飛ばされる。そしてそのままヴェルゴの拳が腹に入り、シノは勢いよくたしぎの方へ飛ばされた。
「貴女、大丈夫……!?」
「痛ぁ~いけど大丈夫……たしぎちゃん海兵に指示して!貴女が行かないと皆逃げないから」
「でも、ヴェルゴが……あれ…?」
シノはお腹を押さえながら、たしぎを抱き起こし、肩を貸す。
「……お前、覇気を使えたのか」
「……銃弾貫通して血でてるのに、普通に立たないでくれません?」
ヴェルゴも同じように腹部を押さえている。腹を殴られる時に、隠し持っていた銃に覇気を纏わせて腹部に銃口を当てたまま撃ち込んだ。どう考えても向こうの覇気に勝てるはずがないと分かっていたので、ずっと覇気も銃も使わずに戦っていた。完全に格下だと油断させて最大限の覇気を込めたつもりだったが。傷をつけることには成功したが、さすがに一発ではダメだったか。少しくらいは時間を稼げると期待したが、ここまで向こうの覇気が強すぎると硬すぎて相性が悪すぎる。
「せめて足狙っとけば良かったかな」
追いかける足を削っておくべきだった。刀は飛ばされてしまったので、たしぎを支えたまま、銃を構える。
その時だった。横で風が通り過ぎていった。黒い影が真っ直ぐヴェルゴへ向かっていく。
「レディが俺を、呼んでいる~~~!!!!」
「サンジくん!!!」
サンジの蹴りがヴェルゴに当たった。あの硬かったヴェルゴが、血を吐いて吹き飛ばされる。
「女の…涙の落ちる音がした」
「ありがとう、サンジ君!助かった!!」
最高のタイミングで来てくれた。銃をすぐにしまい、両手使ってたしぎを支え直す。呆然としながら立ち上がるたしぎ。どうやら一人で立つことはできそうだ。
「シノちゃん、かわい子ちゃん、大丈夫!?」
「私は大丈夫!!たしぎちゃん走れる!?」
「…………」
「お前らさっさと逃げろ!!また閉じ込めてガスをたれ流す気だぞ!!」
サンジが周りの海兵達に向かって叫ぶ。それと同時に、閉まっていたはずのA棟への扉が開き始め、毒ガスが入り込んできた。サンジが吹き飛ばしたはずのヴェルゴものっそりと立ち上がる。血は出ているが、大して効いていないようだ。
「なるほど……鉄の塊か何かかコイツは」
「少なくとも今のところ能力は使ってないと思う!けど覇気が強すぎてめっちゃ硬いのこの人!!」
「そういうことか……」
ヴェルゴの蹴りをサンジも蹴りで受け止める。が、サンジの表情が歪んでいる。さすがのサンジでもきついようだ。シノがいても役には立たないので、海兵たちが次の扉へ逃げ込むのを見守りながら、シノも少し距離を取り、刀を回収してから一応銃を構える。元々自分で戦うよりもロー達のサポートが本業だ。サンジの邪魔をするつもりはないが、隙があればサポートはする。
『――こちらD棟より、第三研究所全棟へ緊急連絡!!』
突如放送が鳴り響いた。敵側、シーザー側の放送だ。今度はこの棟だけではなく全棟への放送のようだ。ヴェルゴに意識を割きつつ、放送に耳を澄ませる。
『只今、トラファルガー・ローが……SAD製造室へ侵入しました!!!』
「!」
「!?」
研究施設を破壊しに行くとは聞いていたが、それがSAD製造室とやらのようだ。緊急放送が流れるほどだ。よっぽど重要な施設であるに違いない。何度も繰り返される放送。
「……王下七武海に入ったのもその部屋たどり着くためか……!あのガキ……頭の中に最悪のシナリオを描いてやがる!!!新世界を滅茶苦茶にする気か!!!」
「!?」
ヴェルゴが放送を聞いて動揺している。この男がここまで言うということは相当やばいことをしようとしているのか。血相を変えて急に走り出すヴェルゴ。SAD製造室へ向かうのだろう。彼がわざわざわ向かうほど、破壊されてはいけない代物ということだ。
「あ、ちょっと待って!!」
「シノちゃん、やめとけ!!それよりちょっと失礼するよ!!」
「え、うわ!?サンジ君!?」
ひょいと片手で腰を捕まれ、優しい手つきで抱きかかえられる。毒ガスから逃げるためとはわかっていても驚く。もう片方の腕でそこらへんにいた海兵も抱え走るサンジ。人を二人も抱えながら軽々走れるものなのか。
「ちょっと高い所から降りるよ」
「え、ちょっと待って、心の準備が、いやああああああ!!!」
降りるというか落ちる瞬間のふわっとした感覚に悲鳴を上げて目を瞑る。落ちている間重力を感じる。が、トンと信じられない位軽く地面についた。
「大丈夫か海軍のかわい子さ~~ん♡」
「ウォー!!黒足ィ!!」
「良かった生きてた~!!ありがとなお前~~!!!」
「黙れ貴様ら!!」
海軍の男達の野太い声援にキレている姿を見て笑いそうになる。見ての通り女性が大好きなのだろう。男女への対応の差が大きい。逆に、女性に対しては、海軍だろうと海賊だろうと関係ないようだ。
「ウッ……」
「サンジ君、足大丈夫!?早く降ろして!?」
「いや、出来ればこのままずっと抱いていたいです!!」
「いや、何言ってんの!?」
足を怪我しているというのになんてバカなことを言っているのか。渋々降ろしてくれたサンジに改めてお礼を言う。足を骨折していてもおかしくない。そんな状態で抱えて逃げてくれたのだ。
「本当にありがとうね、サンジ君」
「どういたしまして~~♡♡俺もシノちゃんと話せたおかげで痛みも吹き飛んだ気がするよ〜」
「あー……うん、あながち間違いじゃないというかなんというか……」
海軍たちと全力で走りながら、サンジと会話をする。目が完全にハートになっているサンジの言葉に、曖昧に返事をした。
「しかしあいつ急に血相変えて逃げたがどうなってんだ」
「多分うちのキャプテン追いかけて行ったんだと思う」
「あぁ?確かにさっき何か放送が入ってたな。SAD製造室っつってたか」
ヴェルゴが王下七武海に入ったのもこのためだったのかと言っていた。この研究所の場所を調べるためということなのだろう。通常ルートでは知りえる事が出来ないこの島。この情報を集めるために、わざわざ海賊の心臓を100個集めて、海軍に献上したのだ。どれだけ周到に準備を進めてきたのか。
「……私、SAD製造室行ってくる」
「でもシノちゃん、場所わかるのか?」
「わかんない。けど探す」
ローがヴェルゴに負けるとは微塵も思っていないが、出来れば追いかけたい。恐らく、ただの見知らぬ敵ではなく、何かしら因縁があるはずだ。足を引っ張るわけにはいかないが、出来ることなら見届けたい。
「……わかった。たしぎちゃんは俺に任せとけーー!!!」
「やめてください!!馴れ合わないで!敵ですよ!?」
「それは世間が決めたことさ!海賊は自由なんだぜ♡」
楽しそうに盛り上がる海兵達とサンジ。たしぎは怒っているが全く気にしていない。彼らはサンジさえいれば大丈夫だろう。ヴェルゴもローを追った今、脅威になるものはいないはずだ。
「じゃあ、後でね!!ナミちゃんにあとで合流するって言っちゃったから、会ったらよろしく言っといて!」
「は~い♡またね~♡」
目をハートにして送り出してくれるサンジ。たしぎにも軽く手を振ったが、ばつが悪そうな顔をされた。シノも海賊だとわかっているから返すに返せないのだろう。でも助けられた手前、あまり冷たくも出来ないのだろう。真面目で可愛い海兵だ。
***
どこへ行けばいいかはわからないがひたすら走りB棟の端までたどり着いた。が、D・Cと書いてある扉は閉ざされている。開いているのはR棟へ続くと思われる扉のみ。どう考えても誘い込まれているとしか思えないが、このB棟も炎とガスで安全とは言えない。止まるわけにはいかないので飛び込んだ。
ひらけた広い部屋には、シーザーとその部下たち、そしてルフィがいる。ちゃんと目的のシーザーへたどり着いていたらしい。ルフィの後ろには、茶ひげが泣きながら倒れていた。尊敬していたシーザーに裏切られてやられたのか。
「ルフィ君!!」
「……」
声をかけたが反応はない。状況がわからないが、ルフィがシーザーに対して怒っているのだけは伝わってくる。一旦ルフィのことは置いておき、シノは茶ひげに近付き、状態を確認した。大きな体がうつ伏せになっており傷口は見えてないがかなり出血しているようだ。
「茶ひげ、喋れる?」
茶ひげは口をぱくぱくとはさせるものの、まともに喋れる状態では無さそうだ。ごめん、と一言声をかけて、少しだけ体を動かしてみたが、恐らく銃で撃たれたのだろう。背中から貫通はしていないので体内に銃弾が残っているはずだ。それに関しては、ローに後で何とかしてもらうしかない。
「ごめん、私もあまり時間無いから、とりあえず鎮痛剤だけ打っとくよ。あとでちゃんとローに治療してもらうから、ちょっとだけ我慢してね」
リュックから注射器を取り出し、茶ひげに打つ。少しでも楽になれば良いが、恐らく今は体の痛みよりも、心の痛みの方が強いだろう。
「……みんな騙されてここにいるんだな」
ルフィがぽつりとつぶやいた。どうやらシーザーに向けて言われた言葉のようだ。シノは茶ひげの横にしゃがみ込んだまま、ルフィを見た。
茶ひげ、子供たち、それ以外のシーザーの部下たちも全員そうだろう。まだ騙されてシーザーの言うことを聞いている部下たちも、シーザー自身が危険になったら即刻裏切り犠牲にするはずだ。ここに来るまでにガスにより固まったシーザーの部下たちを何人も見てきた。
「この島は何なんだ!!!」
「シュロロロロ……そうだな、まるで空気の様なモンさ。ない様である島」
ジョーカーという、強大な後ろ盾がいるから、ここでどんな実験をしたところで全て揉み消される。この島の存在自体ないものとされているが、実際には許されない実験が続けられているのだ。
「お前はこの島の何もわかってねぇんだ麦わら!!同盟もそうだ!ローはSADに手を出そうとしている!SADはあの王下七武海で最も危険な男、ドンキホーテ・ドフラミンゴの持つ工場でSMILEという果実に変わる!」
「……」
SMILEとは動物系の人造悪魔の実。これを四皇と取引し、能力者軍団を生み出しているらしい。ローはドフラミンゴの邪魔をして、四皇に喧嘩を売ろうとしているのだ。ざっくりと聞いていた内容と書類の内容がいろいろと繋がってきた。ローの言っていた"商品"というものがシーザーのいう"SMILE"なのだろう。
「ドフラミンゴのビジネスを邪魔することでどれだけの大物をブチキレさせるか理解したか!?ドフラミンゴと四皇に喧嘩売る度胸あんのかよ!?」
シュロロロと独特の笑い方をするシーザー。自分が守られていると思って完全に油断しきっているのだろう。バカな男だ。麦わらの一味が今まで引き起こしてきた事件を知らないはずがないだろうに。
「そんなもん、いくらでも売ってきた!!!!!」
前動作もほぼなく、一瞬でシーザーに詰め寄り、ドゴォンと音を立ててシーザーが殴り飛ばした。自然系の能力者であるシーザーを全力で殴るルフィ。惚れ惚れする強さに思わず心の中で拍手をした。
「おい、シノ!お前トラ男探してんだろ!?」
「うん!!」
急にルフィから声を掛けられ驚いた。シノがこの部屋に来ていたことには気づいていたらしい。ルフィは、部屋の隅にいる桃色の小さなドラゴンを指さした。これも先ほど研究所に入り込んでいたようなべガパンクが生み出したドラゴンの一種なのだろうか。B棟で暴れまわっていたものよりは、かなり小さいうえ、大人しそうに見えるが。
「モモはしばらくこの研究所にいたんだ!場所も詳しいはずだ!」
「拙者!?!?」
「喋るの!?!?」
よく考えたらべポも喋るのだ。ドラゴンが喋ってもおかしくない。走って桃色のドラゴンに近付き捕まえる。ちょっと掴む力が強すぎて、ぐえっと苦しそうな声が聞こえたが聞かなかったことにした。
「ごめん、SAD製造室って知ってる!?」
「わからぬ……けどC棟には無かった、から、多分あっち……」
「D棟ね!?ありがとう!!ルフィ君もありがとう、行ってくる!!」
「おう!!」
パッと小さなドラゴンを握った手を放し走り出す。シーザーはルフィに任せておけば大丈夫だろう。もう負けるようなことは無い。数時間の付き合いではあるが、そう思えた。
D棟へ続く道を走ると、正面の部屋から音がした。恐らく誰かが戦っている。正面の装置には大きくSADと書いてある。ビンゴだ。先ほどのドラゴンに感謝しなければ。ここにローとヴェルゴがいるはずだ。シノはそっと入口の陰にしゃがみ込み、中の様子を伺った。ヴェルゴを目指していたスモーカーもまたここにたどり着いていたようだ。ヴェルゴと戦っていたのか、息切れしながら床に倒れこんでいる。立っているのは、ヴェルゴと……ローだ。
ローの手の中には心臓がある。どうやらスモーカーが戦いながら奪い取ったようだ。ローがコートを開けて心臓を自分の中に戻す。心臓が戻ったのであれば、心臓を人質に取られることもないので、シノも隠れている必要はない。ローがヴェルゴと何かを喋っているが、ここからでは聞き取れないので、一応気配は消しながら部屋に入る。
「聞こえてるんだろ!ジョーカー!!!」
『フッフッフッ……』
ヴェルゴがポケットから電伝虫を取り出した。ジョーカー、あの電伝虫越しにドフラミンゴがいるのだろう。本当に、ドフラミンゴと知り合いだったようだ。
「ヴェルゴはもう終わりだ。シーザーは麦わら屋が仕留める。つまりSADも全て失う。この最悪の未来を予測できなかったのは、お前の過信だ。いつものように高笑いをしながら次の手でも考えてろ。――だが、俺たちはお前の笑みが長く続くほど予想通りには動かない」
ローが不敵な笑みを浮かべている。彼はもう、目の前にいるヴェルゴを見てはいない。ドフラミンゴに喧嘩を売る気だ。ヴェルゴが白いコートを脱ぎ、鉄パイプのようなものを構える。
『フッフッフッ……イキがってくれるじゃねェか小僧!目の前のヴェルゴをキレさせてやしねェか!?お前のぶった斬り能力でもこいつの覇気は全てを防ぐ……立場、実力ともにお前はヴェルゴに敵わねェ!!』
ローも鬼哭を抜いた。そして――全てを斬った。
真っ二つになる研究所。天井が浮いた。いつの間に研究所全体を覆うほどのROOMを展開していたのか。当然、ヴェルゴも真っ二つだ。
「頂上戦争から2年…誰が何を動かした…?お前は平静を守っただけ。白ひげは時代にけじめをつけた。大物たちも仕掛けなかった、まるで準備をするかのように。あの戦争は序章に過ぎない。お前がいつも言ってたな。手に負えねェうねりと共に、豪傑共の新時代がやってくる!!歯車を壊したぞ、もう誰も引き返せねェ!!!!」
浮いた天井は、音を立てて元の場所に落ちた。
Tobe continued...
「とりあえずナミ達が茶ひげに乗ってるし、私たちもあそこに乗せてもらいましょうか」
「はーい!」
ロビンたちがいる通路の下を通過するタイミングで飛び降りればちょうどいいだろう。こちらへ来るのは待っていると、警報音が鳴りだした。A棟全体に響いているように聞こえる。
「何かしら……?」
「あ、あのゲート閉じ始めてる。このA棟に閉じ込めようとしてるのかも」
B棟に続くと思われる大きな扉がゆっくりではあるが閉じようとしている。恐らくA棟に閉じ込めて、外へのシャッターを開けてガスに巻き込もうとしているのだ。
「それは……ひどい事するわ」
「うお!?ロビンいつの間に!?」
「あ、私もまたお邪魔しまーす」
ひょいとちょうどやってき茶ひげに飛び乗った。何故か剣士三人組は茶ひげの前を走っている。何かあった時に障害物を壊す担当なのだろうか。案の定、まだドアは閉じていないが、A棟内にガスが入ってきた。巻き込まれた海兵が固まっていく。
「研究所を犠牲にしてガスをいれてくるとは……!まだまだ安心できねェぞ!急げ茶ひげ!」
「いつの間に全員乗っとるんだお前ら!!さすがに重い!!」
結局B棟に滑り込んだあたりで、剣士三人組も大人しく茶ひげの背中にちゃっかりと乗り込んだ。ルフィとチョッパーとフランキー以外の麦わらの一味全員と侍とシノが乗っているのだ。当然重いだろう。茶ひげは兵の屯所へ向かっているようだ。仲間を探しに行って一緒に脱出を図るのだろう。
「あ、そういえばお侍さん治って良かったね。お名前なんて言うんです?」
「拙者、錦えもんと申す」
「錦えもんさんね、よろしくおねがいします」
下半身と頭だけの時は名前を聞けていなかった。無事体も取り戻したところで、今度は息子を探さなければいけない。なかなかに忙しそうだ。子供を全員救出すれば、その中にはいるだろう。
のんきに麦わらの一味に馴染んで会話していた時だった。
「!?」
背後からの気配に背筋がぞくりとした。B棟までは一緒に入ってきたはずのG-5が来ない。ローからの指示は麦わらの一味のサポートであったが、たしぎのことも心配だ。
「ごめん、私ちょっとたしぎちゃん達見てくる」
「戻るなんて危ないわよ!?」
「様子見てすぐ戻るから、先に子供たち探しといて!」
ナミにひらりと手を振り、茶ひげの背中から降りる。
まだあまり離れていなかったからか、人だかりはすぐに見つかった。B棟とA棟をつなぐ扉の目の前からまだ動けていなかったようだ。
その中心にいるのは、白いコートの男。やはりあの気配はこの男だったか。周りには、G-5の面々が倒れている。尊敬していた上司にやられたのか。シノは腰に下げた刀に手をかける。
「みんな離れて!そいつはもうあなた達の知る男じゃない!!」
先にたしぎが男へ斬りかかった。その様子をよく観察する。たしぎの刀が男の右腕で防がれる。刀と当たった音からして、かなり堅そうだ。覇気の力だろう。たしぎには悪いが、たしぎが吹き飛ばされる瞬間にヴェルゴの背後へ周り、首を狙って斬りかかる。
「っ!!!」
「お前は、ローの所のやつか」
ギィンと音を立てて刀がはじかれた。つかまれる前に蹴り飛ばす勢いで距離を取る。ローの部下であることは、あの場にいたヴェルゴにも当然バレている。
「……ちょっと硬すぎませんかね」
「何しに来た」
「たしぎちゃんを助けにに決まってんでしょう。海軍!早くたしぎちゃん連れて逃げて!!」
一番の目的は無論、ローの心臓ではあるが、それを言ってしまうと心臓を人質にされるかもしれない。極力触れずに話をそらしたい。一撃入れただけで、力量の差があることは把握できてしまった。こんな場所で死ぬ気はない。あわよくばと思ったが、ここは海軍が逃げる時間稼ぎをすることに目的を切り替えた方が賢明だ。
「ヴェルゴさん、昔スワロー島でお会いしましたよね、覚えてますか」
「……知らんな」
「13年前、ミニオン島で私の両親が亡くなった時、それを伝えに来てくれた海兵の方がいました……貴方ですよね」
「あぁ、あの時のガキか」
ヴェルゴがしれっと答える。10年以上前の話だ。忘れられてもおかしくないと思っていたが、どうやら覚えていたようだ。
「貴方、海賊だったらしいですね、私の両親を殺したのも本当は貴方ですか?」
「それはジョーカーだ」
「ジョーカー……」
ドンキホーテ・ドフラミンゴか。ヴェルゴがあの場にいたということは、その仲間のドフラミンゴがいたとしてもおかしくはない。あの日の出来事は海賊同士のいざこざで、それに両親は巻き込まれたと聞いていた。その海賊がドンキホーテファミリーだったということか。どこかの名を聞いたこともないような海賊が仇かと思っていたが、悪名高いドフラミンゴが相手では万が一でも生き残ることはできなかっただろう。両親の死は遠い昔に割り切った。
「ただ、お前の両親を殺したのはジョーカーだが、そうなったのはローのせいだ」
「……何言ってんの」
一瞬思考が止まりそうになった。どう考えてもシノを動揺させるために言ったとしか思えない。いや、実際ローが関わっているのは事実だろう。ローはドフラミンゴの部下だったと言っていた。そして、ドフラミンゴがミニオン島にいたタイミングでスワロー島へやってきてシノと出会ったロー。無関係なはずがない。
だが、シノにとってそんなことはどうでも良い。ローは一旦考えるなと指示をした。だから今ヴェルゴの言葉に耳を貸す必要はない。ふぅと一息深呼吸をする。
「……生憎、そんなことで動揺しないくらいには、うちのキャプテンのこと信頼してますので」
「そうか、残念だ」
微塵も残念などと思っていないだろうトーンで返される。シノに対して一ミリも興味等無いのだろう。むしろ過去のあの日のことを覚えていたことがもはや奇跡的だ。シノにとっては一生忘れられない日。きっちりと、深々と頭を下げて、まだ子供だったシノにも真摯な態度で事情を話して謝罪してくれたあの姿。シノはそっと目を閉じあの日の記憶を思い出して、消した。ローの件と同じ、今は置いておかなければ。
ヴェルゴの素早いストレートが飛んできたのを感じ、シノはすぐに目を開いた。こちらから攻撃する余裕はないが、刀で防ぐことは出来る。
「たしぎちゃん、早く今のうちに海兵連れて逃げて!!!」
「でも……!!」
「一人で逃げるくらいは出来るから!!」
そうでなければ、どう考えても強いと分かっている相手の所に飛び込むような真似はしない。ある程度攻撃を受ける前提ではあるが、戦線離脱ぐらいは何とかなる。
「よそ見している場合か」
「!!!!」
ヴェルゴの拳がもろに頭に入り吹き飛ばされた。脳が揺らされてくらくらする。ちらりと見たが、たしぎはまだ動けそうにない。彼女が立ち上がってくれないと、ここから逃げることも出来ない。このまま防戦一方ではさすがにまずい。
「女性の顔殴るなんてサイテー」
「殺し合いに男も女も関係ないだろう」
「そりゃそうですね」
にやりと笑うシノ。刀を両手で構え距離を詰める。ヴェルゴの懐に入り、喉元を突く。が、やはり硬い。鉄に向かって刀で突進した気分だ。腕が痺れて力が抜けてしまい、刀を弾き飛ばされる。そしてそのままヴェルゴの拳が腹に入り、シノは勢いよくたしぎの方へ飛ばされた。
「貴女、大丈夫……!?」
「痛ぁ~いけど大丈夫……たしぎちゃん海兵に指示して!貴女が行かないと皆逃げないから」
「でも、ヴェルゴが……あれ…?」
シノはお腹を押さえながら、たしぎを抱き起こし、肩を貸す。
「……お前、覇気を使えたのか」
「……銃弾貫通して血でてるのに、普通に立たないでくれません?」
ヴェルゴも同じように腹部を押さえている。腹を殴られる時に、隠し持っていた銃に覇気を纏わせて腹部に銃口を当てたまま撃ち込んだ。どう考えても向こうの覇気に勝てるはずがないと分かっていたので、ずっと覇気も銃も使わずに戦っていた。完全に格下だと油断させて最大限の覇気を込めたつもりだったが。傷をつけることには成功したが、さすがに一発ではダメだったか。少しくらいは時間を稼げると期待したが、ここまで向こうの覇気が強すぎると硬すぎて相性が悪すぎる。
「せめて足狙っとけば良かったかな」
追いかける足を削っておくべきだった。刀は飛ばされてしまったので、たしぎを支えたまま、銃を構える。
その時だった。横で風が通り過ぎていった。黒い影が真っ直ぐヴェルゴへ向かっていく。
「レディが俺を、呼んでいる~~~!!!!」
「サンジくん!!!」
サンジの蹴りがヴェルゴに当たった。あの硬かったヴェルゴが、血を吐いて吹き飛ばされる。
「女の…涙の落ちる音がした」
「ありがとう、サンジ君!助かった!!」
最高のタイミングで来てくれた。銃をすぐにしまい、両手使ってたしぎを支え直す。呆然としながら立ち上がるたしぎ。どうやら一人で立つことはできそうだ。
「シノちゃん、かわい子ちゃん、大丈夫!?」
「私は大丈夫!!たしぎちゃん走れる!?」
「…………」
「お前らさっさと逃げろ!!また閉じ込めてガスをたれ流す気だぞ!!」
サンジが周りの海兵達に向かって叫ぶ。それと同時に、閉まっていたはずのA棟への扉が開き始め、毒ガスが入り込んできた。サンジが吹き飛ばしたはずのヴェルゴものっそりと立ち上がる。血は出ているが、大して効いていないようだ。
「なるほど……鉄の塊か何かかコイツは」
「少なくとも今のところ能力は使ってないと思う!けど覇気が強すぎてめっちゃ硬いのこの人!!」
「そういうことか……」
ヴェルゴの蹴りをサンジも蹴りで受け止める。が、サンジの表情が歪んでいる。さすがのサンジでもきついようだ。シノがいても役には立たないので、海兵たちが次の扉へ逃げ込むのを見守りながら、シノも少し距離を取り、刀を回収してから一応銃を構える。元々自分で戦うよりもロー達のサポートが本業だ。サンジの邪魔をするつもりはないが、隙があればサポートはする。
『――こちらD棟より、第三研究所全棟へ緊急連絡!!』
突如放送が鳴り響いた。敵側、シーザー側の放送だ。今度はこの棟だけではなく全棟への放送のようだ。ヴェルゴに意識を割きつつ、放送に耳を澄ませる。
『只今、トラファルガー・ローが……SAD製造室へ侵入しました!!!』
「!」
「!?」
研究施設を破壊しに行くとは聞いていたが、それがSAD製造室とやらのようだ。緊急放送が流れるほどだ。よっぽど重要な施設であるに違いない。何度も繰り返される放送。
「……王下七武海に入ったのもその部屋たどり着くためか……!あのガキ……頭の中に最悪のシナリオを描いてやがる!!!新世界を滅茶苦茶にする気か!!!」
「!?」
ヴェルゴが放送を聞いて動揺している。この男がここまで言うということは相当やばいことをしようとしているのか。血相を変えて急に走り出すヴェルゴ。SAD製造室へ向かうのだろう。彼がわざわざわ向かうほど、破壊されてはいけない代物ということだ。
「あ、ちょっと待って!!」
「シノちゃん、やめとけ!!それよりちょっと失礼するよ!!」
「え、うわ!?サンジ君!?」
ひょいと片手で腰を捕まれ、優しい手つきで抱きかかえられる。毒ガスから逃げるためとはわかっていても驚く。もう片方の腕でそこらへんにいた海兵も抱え走るサンジ。人を二人も抱えながら軽々走れるものなのか。
「ちょっと高い所から降りるよ」
「え、ちょっと待って、心の準備が、いやああああああ!!!」
降りるというか落ちる瞬間のふわっとした感覚に悲鳴を上げて目を瞑る。落ちている間重力を感じる。が、トンと信じられない位軽く地面についた。
「大丈夫か海軍のかわい子さ~~ん♡」
「ウォー!!黒足ィ!!」
「良かった生きてた~!!ありがとなお前~~!!!」
「黙れ貴様ら!!」
海軍の男達の野太い声援にキレている姿を見て笑いそうになる。見ての通り女性が大好きなのだろう。男女への対応の差が大きい。逆に、女性に対しては、海軍だろうと海賊だろうと関係ないようだ。
「ウッ……」
「サンジ君、足大丈夫!?早く降ろして!?」
「いや、出来ればこのままずっと抱いていたいです!!」
「いや、何言ってんの!?」
足を怪我しているというのになんてバカなことを言っているのか。渋々降ろしてくれたサンジに改めてお礼を言う。足を骨折していてもおかしくない。そんな状態で抱えて逃げてくれたのだ。
「本当にありがとうね、サンジ君」
「どういたしまして~~♡♡俺もシノちゃんと話せたおかげで痛みも吹き飛んだ気がするよ〜」
「あー……うん、あながち間違いじゃないというかなんというか……」
海軍たちと全力で走りながら、サンジと会話をする。目が完全にハートになっているサンジの言葉に、曖昧に返事をした。
「しかしあいつ急に血相変えて逃げたがどうなってんだ」
「多分うちのキャプテン追いかけて行ったんだと思う」
「あぁ?確かにさっき何か放送が入ってたな。SAD製造室っつってたか」
ヴェルゴが王下七武海に入ったのもこのためだったのかと言っていた。この研究所の場所を調べるためということなのだろう。通常ルートでは知りえる事が出来ないこの島。この情報を集めるために、わざわざ海賊の心臓を100個集めて、海軍に献上したのだ。どれだけ周到に準備を進めてきたのか。
「……私、SAD製造室行ってくる」
「でもシノちゃん、場所わかるのか?」
「わかんない。けど探す」
ローがヴェルゴに負けるとは微塵も思っていないが、出来れば追いかけたい。恐らく、ただの見知らぬ敵ではなく、何かしら因縁があるはずだ。足を引っ張るわけにはいかないが、出来ることなら見届けたい。
「……わかった。たしぎちゃんは俺に任せとけーー!!!」
「やめてください!!馴れ合わないで!敵ですよ!?」
「それは世間が決めたことさ!海賊は自由なんだぜ♡」
楽しそうに盛り上がる海兵達とサンジ。たしぎは怒っているが全く気にしていない。彼らはサンジさえいれば大丈夫だろう。ヴェルゴもローを追った今、脅威になるものはいないはずだ。
「じゃあ、後でね!!ナミちゃんにあとで合流するって言っちゃったから、会ったらよろしく言っといて!」
「は~い♡またね~♡」
目をハートにして送り出してくれるサンジ。たしぎにも軽く手を振ったが、ばつが悪そうな顔をされた。シノも海賊だとわかっているから返すに返せないのだろう。でも助けられた手前、あまり冷たくも出来ないのだろう。真面目で可愛い海兵だ。
***
どこへ行けばいいかはわからないがひたすら走りB棟の端までたどり着いた。が、D・Cと書いてある扉は閉ざされている。開いているのはR棟へ続くと思われる扉のみ。どう考えても誘い込まれているとしか思えないが、このB棟も炎とガスで安全とは言えない。止まるわけにはいかないので飛び込んだ。
ひらけた広い部屋には、シーザーとその部下たち、そしてルフィがいる。ちゃんと目的のシーザーへたどり着いていたらしい。ルフィの後ろには、茶ひげが泣きながら倒れていた。尊敬していたシーザーに裏切られてやられたのか。
「ルフィ君!!」
「……」
声をかけたが反応はない。状況がわからないが、ルフィがシーザーに対して怒っているのだけは伝わってくる。一旦ルフィのことは置いておき、シノは茶ひげに近付き、状態を確認した。大きな体がうつ伏せになっており傷口は見えてないがかなり出血しているようだ。
「茶ひげ、喋れる?」
茶ひげは口をぱくぱくとはさせるものの、まともに喋れる状態では無さそうだ。ごめん、と一言声をかけて、少しだけ体を動かしてみたが、恐らく銃で撃たれたのだろう。背中から貫通はしていないので体内に銃弾が残っているはずだ。それに関しては、ローに後で何とかしてもらうしかない。
「ごめん、私もあまり時間無いから、とりあえず鎮痛剤だけ打っとくよ。あとでちゃんとローに治療してもらうから、ちょっとだけ我慢してね」
リュックから注射器を取り出し、茶ひげに打つ。少しでも楽になれば良いが、恐らく今は体の痛みよりも、心の痛みの方が強いだろう。
「……みんな騙されてここにいるんだな」
ルフィがぽつりとつぶやいた。どうやらシーザーに向けて言われた言葉のようだ。シノは茶ひげの横にしゃがみ込んだまま、ルフィを見た。
茶ひげ、子供たち、それ以外のシーザーの部下たちも全員そうだろう。まだ騙されてシーザーの言うことを聞いている部下たちも、シーザー自身が危険になったら即刻裏切り犠牲にするはずだ。ここに来るまでにガスにより固まったシーザーの部下たちを何人も見てきた。
「この島は何なんだ!!!」
「シュロロロロ……そうだな、まるで空気の様なモンさ。ない様である島」
ジョーカーという、強大な後ろ盾がいるから、ここでどんな実験をしたところで全て揉み消される。この島の存在自体ないものとされているが、実際には許されない実験が続けられているのだ。
「お前はこの島の何もわかってねぇんだ麦わら!!同盟もそうだ!ローはSADに手を出そうとしている!SADはあの王下七武海で最も危険な男、ドンキホーテ・ドフラミンゴの持つ工場でSMILEという果実に変わる!」
「……」
SMILEとは動物系の人造悪魔の実。これを四皇と取引し、能力者軍団を生み出しているらしい。ローはドフラミンゴの邪魔をして、四皇に喧嘩を売ろうとしているのだ。ざっくりと聞いていた内容と書類の内容がいろいろと繋がってきた。ローの言っていた"商品"というものがシーザーのいう"SMILE"なのだろう。
「ドフラミンゴのビジネスを邪魔することでどれだけの大物をブチキレさせるか理解したか!?ドフラミンゴと四皇に喧嘩売る度胸あんのかよ!?」
シュロロロと独特の笑い方をするシーザー。自分が守られていると思って完全に油断しきっているのだろう。バカな男だ。麦わらの一味が今まで引き起こしてきた事件を知らないはずがないだろうに。
「そんなもん、いくらでも売ってきた!!!!!」
前動作もほぼなく、一瞬でシーザーに詰め寄り、ドゴォンと音を立ててシーザーが殴り飛ばした。自然系の能力者であるシーザーを全力で殴るルフィ。惚れ惚れする強さに思わず心の中で拍手をした。
「おい、シノ!お前トラ男探してんだろ!?」
「うん!!」
急にルフィから声を掛けられ驚いた。シノがこの部屋に来ていたことには気づいていたらしい。ルフィは、部屋の隅にいる桃色の小さなドラゴンを指さした。これも先ほど研究所に入り込んでいたようなべガパンクが生み出したドラゴンの一種なのだろうか。B棟で暴れまわっていたものよりは、かなり小さいうえ、大人しそうに見えるが。
「モモはしばらくこの研究所にいたんだ!場所も詳しいはずだ!」
「拙者!?!?」
「喋るの!?!?」
よく考えたらべポも喋るのだ。ドラゴンが喋ってもおかしくない。走って桃色のドラゴンに近付き捕まえる。ちょっと掴む力が強すぎて、ぐえっと苦しそうな声が聞こえたが聞かなかったことにした。
「ごめん、SAD製造室って知ってる!?」
「わからぬ……けどC棟には無かった、から、多分あっち……」
「D棟ね!?ありがとう!!ルフィ君もありがとう、行ってくる!!」
「おう!!」
パッと小さなドラゴンを握った手を放し走り出す。シーザーはルフィに任せておけば大丈夫だろう。もう負けるようなことは無い。数時間の付き合いではあるが、そう思えた。
D棟へ続く道を走ると、正面の部屋から音がした。恐らく誰かが戦っている。正面の装置には大きくSADと書いてある。ビンゴだ。先ほどのドラゴンに感謝しなければ。ここにローとヴェルゴがいるはずだ。シノはそっと入口の陰にしゃがみ込み、中の様子を伺った。ヴェルゴを目指していたスモーカーもまたここにたどり着いていたようだ。ヴェルゴと戦っていたのか、息切れしながら床に倒れこんでいる。立っているのは、ヴェルゴと……ローだ。
ローの手の中には心臓がある。どうやらスモーカーが戦いながら奪い取ったようだ。ローがコートを開けて心臓を自分の中に戻す。心臓が戻ったのであれば、心臓を人質に取られることもないので、シノも隠れている必要はない。ローがヴェルゴと何かを喋っているが、ここからでは聞き取れないので、一応気配は消しながら部屋に入る。
「聞こえてるんだろ!ジョーカー!!!」
『フッフッフッ……』
ヴェルゴがポケットから電伝虫を取り出した。ジョーカー、あの電伝虫越しにドフラミンゴがいるのだろう。本当に、ドフラミンゴと知り合いだったようだ。
「ヴェルゴはもう終わりだ。シーザーは麦わら屋が仕留める。つまりSADも全て失う。この最悪の未来を予測できなかったのは、お前の過信だ。いつものように高笑いをしながら次の手でも考えてろ。――だが、俺たちはお前の笑みが長く続くほど予想通りには動かない」
ローが不敵な笑みを浮かべている。彼はもう、目の前にいるヴェルゴを見てはいない。ドフラミンゴに喧嘩を売る気だ。ヴェルゴが白いコートを脱ぎ、鉄パイプのようなものを構える。
『フッフッフッ……イキがってくれるじゃねェか小僧!目の前のヴェルゴをキレさせてやしねェか!?お前のぶった斬り能力でもこいつの覇気は全てを防ぐ……立場、実力ともにお前はヴェルゴに敵わねェ!!』
ローも鬼哭を抜いた。そして――全てを斬った。
真っ二つになる研究所。天井が浮いた。いつの間に研究所全体を覆うほどのROOMを展開していたのか。当然、ヴェルゴも真っ二つだ。
「頂上戦争から2年…誰が何を動かした…?お前は平静を守っただけ。白ひげは時代にけじめをつけた。大物たちも仕掛けなかった、まるで準備をするかのように。あの戦争は序章に過ぎない。お前がいつも言ってたな。手に負えねェうねりと共に、豪傑共の新時代がやってくる!!歯車を壊したぞ、もう誰も引き返せねェ!!!!」
浮いた天井は、音を立てて元の場所に落ちた。
Tobe continued...
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