ジョーカーの正体
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周りの騒がしさに意識が呼び戻される。シーザーと対峙して息ができなくなり、意識を手放したシノだったが、少しずつ思考が働き始めた。ルフィの笑い声だ。彼らもどうやら一緒にいるらしい。シノはゆっくりと目を開いた。
「起きたか?」
「キャプテン!?」
シノのすぐ横で寝転んでいるロー。その体には鎖が巻かれている。恐らく海楼石の鎖だ。よく見るとシノも巻かれており身動きが取れないが、こちらは海楼石ではなさそうだ。他にもルフィ、ロビン、フランキー、スーモカー、たしぎも同じように捕まっている。彼らが大人しく捕まっているということは、ご丁寧に能力者だけ海楼石の鎖を使われているのだろう。
「何があった」
「ごめん、シーザーの能力で全員気絶させられて……多分だけどガスを出したんじゃなくて、空気……というか周りの酸素を抜かれたんだと思う」
「なるほどな……」
何かを吸って苦しくなったのではなく、単純に周辺の酸素を抜かれ呼吸が出来なくなった、と思われる。気体を自由自在に操れると考えると厄介な物だ。次にやるなら確実に海楼石を使って能力を無効化して捕まえなくてはならない。
「キャプテンこそなんで捕まってるの?」
「あいつにやられた」
首だけで近くにいた男を指す。寝たままでは見づらいので、シノは身を捩って何とかその場に座り直し辺りを見回す。閉じ込められている檻の外でゆったりとソファに座っている白いコートの男。あの男がローをやったらしい。パッと見ただけでも強そうに見える。
周りにはよくわからない機器が大量に置かれており、パンクハザードの研究所内だろうと推測がついた。ローが一緒に捕まっているということは、シーザーとの縁は既に切れてしまったようだ。
「おいヴェルゴ!!外にいるのは全員G-5の海兵!お前の部下だぞ」
たしぎ姿のスモーカーが怒鳴る。発言から察するに、このヴェルゴという男は海軍の人間だ。何故シーザーと組んでいるのか。仲間のはずのスモーカーとたしぎを捕まえたのか。海軍の中にもいろいろあるのかもしれない。
外では何かの実験が始まろうとしているようだ。先ほど見かけた赤いスライムみたいな物体もその実験のうちだろう。
「何だか懐かしいわね、あなたたちが同じ檻にいると……」
「そうそう俺とケムリン、アラバスタでお前らに捕まった事あったよなー」
「黙れ貴様ら!!」
「え、なにそれ、聞きたーい!!」
緊張感のない話で盛り上がる麦わらの一味。フランキーに至ってはぐっすりと眠っているようだ。ケムリンというのはスモーカーのあだ名だ。アラバスタとロビンと言ったら、2年前新聞で見たBW社のアラバスタ乗っ取り騒動のことか。新聞には詳しくは書かれていなかったが、麦わらの一味も一枚かんでいたということだ。あとで機会があれば聞いてみたい。うつ伏せで倒れ込んでいるたしぎ入りのスモーカーがため息を漏らしている。不思議な光景だ。
「私、この気持ちをどうすればいいのか……!!」
「たしぎちゃん?」
「――お前の予想が最悪の形で的中したな」
スモーカーの話を整理すると、周辺の海域の島々で、シーザーによる子供の誘拐事件が多発していたが、目の前のヴェルゴという男によって海難事故にすり替えられていたようだ。ヴェルゴは海軍G-5の基地長であり、たしぎ達にとっても上司だった。海軍が握り潰していたとなってはかなりの問題だ。部下であるたしぎのショックも大きいはず。
「……お前らが気づかねェのも無理はない。ヴェルゴは海軍を裏切った訳じゃねェ。元々奴は海賊なんだ。名をあげる前に"ジョーカー"の指示で海軍に入隊し、約15年の時間をかけて階級を上げていった。ヴェルゴは初めからずっと"ジョーカー"の一味なのさ……!!」
「"ジョーカー"……確か裏社会の仲介人の名だな……」
相変わらずローの情報量は凄い。ここに来る前に読み込んだ書類の山にも、ヴェルゴの情報は一切なかった。その書類は隠滅していたのか、元々素性を知っていたのか。
ふと、シノはヴェルゴの顔を見て、既視感を感じた。海軍に知り合いは"もう"いないはずなのだが。
「キャプテン……私、あのヴェルゴって人、見たことあるかも」
「んな訳ねェだろ。それなら俺も見てるはずだ」
「ちょうどローに会った頃。13年前、あの島で」
当時の記憶が蘇ってくる。まだ10歳だったが、あの日の記憶は鮮明に覚えている。雪の降る日の朝、子供のシノに深々と頭を下げてきたあの男の姿を。それこそ、ローと初めて会った日の翌日の出来事だ。
「やっぱりそう、だと思う。私の両親が死んだ事を伝えに来た海軍の人」
「!?」
「あれ……でも、じゃあ、あの人海賊だったってこと……?」
「……シノ」
「キャプテン?」
「今は一旦考えるな。この島から出たら聞いてやる。それまではシーザー確保に集中しろ」
明らかにローも動揺していたことを考えると、何か知っているのだろう。しかし、彼の言う通り、この状況で動揺している場合ではない。シノは彼の言葉に黙って頷いた。
「おいトラ男、さっき言ってた"ジョーカー"って誰だ?」
ルフィがローに質問をする。ここまで来て隠すこともないだろう。ジョーカーの正体に関する書類も一切なかった。あれだけ調べて無いはずがない。抜き取ったのか、既に知っていたから調査する必要もなかったのか。
「……俺も昔、そいつの部下だった…だからヴェルゴを知ってる」
後者だったようだ。シノも初めて聞く話だ。元々海賊の一味に身を置いていたことは知っていたが、詳しく聞いたことはなかった。黙ってローの話を聞く。
「"ジョーカー"とは闇のブローカーとしての通り名だ。その正体は世界に名の通った海賊、王下七武海の一人…ドンキホーテ・ドフラミンゴだ!!」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。当然会った事はないが、新聞やテレビで散々見たことはある。――正直、そんな気はしていた。いつだったか、ローにドレスローザの新聞を見せてもらった頃からぼんやり感じていた。先日、ペンギン達に見せてもらった書類にドレスローザの文字を見た時に、ほぼほぼ確信した。だが、ロー本人から聞くまでは考えないようにしていた。
ローは幼い頃、ドンキホーテファミリーに居たのだ。そこで何かがあり、恩人に助けられてファミリーを抜け、スワロー島でシノやべポ達と出会った、ということなのだろう。
「キャプテン、この話も後で教えてもらえるの?」
「……まぁ話しておいた方が良いだろうな」
「わかった。じゃあ今は聞かないことにする」
ここから出たら話す事が山ほどありそうだ。まずは無事目標を達成してこの島を出なければならない。
「シュロロロ……待たせたな」
そうこうしているうちに、シーザーが外から帰って来た。変な口癖で笑いながら、ガスの体を滑らせて動くシーザー。先ほどまでローはシーザーと組んでいたはずだが、当然裏切りは露見しているだろう。
「いいザマだな、ロー。やはり人は信用するものじゃない、自業自得というやつだ。お前の心臓はヴェルゴが持ってる」
「うわァっ!!!」
「え!?!?」
ヴェルゴが手に持っていた心臓を軽く握ると同時に、檻の中のローが叫び声をあげる。厚手のコートをきっちりと来ていたので全く気が付かなかった。
「もしかして、キャプテン、自分の心臓渡したの!?」
「んん?お前ローの部下か。そうさ、俺との契約の担保として、ローと俺の秘書モネの心臓を交換して所持していたのさ!!」
「ほらー!私たちいないとすぐ危ないことするー!!」
「モネが気を利かし姿を変えてお前を尾行していた……残念だぞ、せっかくいい友人になれたと思っていたのに!!」
にやにやと笑いながら、シーザーは心にも無いであろう事を言う。ハートの海賊団がそばにいても危ないことをするには変わりないのだが。信用を得るためとはいえ、何故自分の命を受け渡すような真似をしたのか。
「優秀な秘書に救われたな…マスターがあんまりマヌケなんでなめきってたよ」
ローも相手を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。当然、シーザーはまんまと煽られる訳で。ヴァルゴの持つローの心臓を全力でキレながら殴った。
「……く……!!」
「バカー!!何やってんのー!!」
「お前すげェな!心臓取られて生きてんのか!?」
だいたいわかった。煽りにすぐ乗るようなシーザーからなら取り返せる算段があったのだろう。つまり、あのヴェルゴの登場こそが計画を狂わせた元凶なのだ。
「そういうお前だって、シーザーに俺の部下ってバレてただろ!」
「……それはちょっと、麦わらの一味には溶け込みきれなかったというか……」
「お前がキャプテンって呼んだからだバカ!!」
「はっ!?そういうこと!?」
「お前ら、おもしれェな~」
お揃いつなぎも着ていないのに何故バレたのかと思っていたら、シノ自身がバラしていたとは。二人のやり取りを横で聞いていたルフィが笑っている。ロビンもシノの横でくすくす笑っていた。どうせ他のクルー達もいないのだし、今更遅いが呼び方も気を付けた方がいいかもしれない。
「マスター、映像の準備が出来ました」
「そうか……よし映せ!!」
シーザーの秘書のモネが映像電伝虫を操作し、画面に大きな飴玉が映し出された。ついに何らかの実験が始まるらしい。
シーザーが何者かへ向けて演説をするように喋り始める。あの謎の赤いスライムたちが集まると、毒ガスが発生し、殺戮兵器と化すようだ。
閉じ込められ、縛られている一同には何も出来ることはない。気づけばスライムが大きな飴玉を飲み込み、大きなスライムの体が毒ガスらしき煙状に変化し広がっていく。外にいる人々が逃げ惑う趣味の悪い映像を見せられ続ける。毒ガスに巻き込まれた者は白い石のようにその人の形のまま固まっていった。
「ひどい……」
「前回は、毒が効いても多少動けるから避難できた……固めちまえば良かったんだ。灰のように体に纏わりつくガスは皮膚から侵入し全身を一気に麻痺させる!」
「あー!おい見ろ!ゾロ達、煙に追われてるぞ!!」
画面が切り替わり、ゾロ、ナミの姿のサンジ、ブルック、侍の4名が全力で足をバタバタさせながら走っている姿が映し出された。
「何やってんだあいつら」
「あら、お侍さん完成してるわね」
「ほんとだ!じゃあ足くれねェかな!!」
「あの侍の人ってローが切ったんでしょ?」
「…………」
足だけで走り回っていたということは、ローの能力で切られたのだ。彼が切られていなければ、今頃あの場を走って逃げることにはなっていなかったかもしれない。尤も、あそこに居なければ、ここで同じように捕まっていた可能性も高いが。
「おーい!お前らその煙危ねェぞ!逃げ……ダメら…大声出そうとすると…」
海楼石の鎖のせいで大声が出せないようだ。ルフィが息苦しそうに呼吸をしている。そもそもここから映像に向かって叫んだ所で届かないのだが。シーザーの実況電伝虫に届いたとしても、この研究所の外に向けては放送していないはずだ。
「さすがにお前の仲間はしぶといなぁ!だがこの研究所の外にいる連中は誰一人生き残れやしない!!お前らもなァ……!!」
「ひゃあ!?」
ガコンと急に檻が傾き、鎖につられ檻自体が動き出す。そのまま外へ動かされ、シーザーの笑い声が遠のいていく代わりに、外で逃げ遅れた人々の声が大きくなってくる。ほとんどがG-5の海軍達らしく、スモーカーとたしぎを見て、何か騒いでいる。
「大佐ちゃ~ん、中将~!俺たち一体どうなるんだよー!」
「死にたくねーよぉ!!」
「…………!」
もぞもぞと動いて檻の網の前まで移動したたしぎの横に、シノも同じようにして移動する。ゾロ達の姿はまだ見えない。まだ遠くの方がから走ってきているのだろうか。子供たちと残してきたナミとウソップも心配だ。
「たしぎちゃん達、慕われてるんだねぇ」
「…………」
「大丈夫大丈夫、こんだけ戦力集まってるんだから何とかなるよ」
「そうは言っても我々は捕まってるわけだし……」
「ここには船長2人に中将までいるんだよ。部下たちの為になんとかしてくれるって」
「そんな楽観的な……」
遠くに毒ガスが見えてきている。ずっとここにいるわけにはいかない。少なくともローの鎖さえ取れればどうとでもなるのだが。シノはちらりとローの方を見る。相変わらずのんきに転がっている。
「ヴェルゴの登場は想定外だったが……麦わら屋、俺たちはこんなところでつまずくわけにゃいかねェんだ。作戦は変わらず、今度はしくじるな、反撃に出るぞ」
「トラ男、なんか策あんのか?」
「この中で誰か物を燃やせる奴は?いなきゃ別にいいが」
「火ならフランキーだ!ビームも出るぞ!」
ローの指示で、フランキーが火を噴き、近くにあった軍艦を燃やした。かなり吹雪いている状況の為、軍艦から出た煙が檻へと流れてきて、全員で咳込む。
「ゲホゲホ、おいこらトラファルガー!煙がこっち来たじゃねェか!!」
「お前がやったんだろう」
「おめェがやらせたんだよ!!」
「ウェッホあははは!!何やってんだよ!!」
緊張感のかけらもない会話をするフランキーと船長達。こんな状況でも楽しめるのは一種の才能だろう。
「さて。これで映像電伝虫には映らねェ……すぐにバレずに済みそうだ」
ガシャンと音を立ててローの鎖が外される。
「なんだお前……どうやって海楼石の鎖取ったんだ!?」
「初めからおれのはただの鎖だ。能力で簡単に解ける」
「えぇ!?」
海楼石を避けられるよう、何カ月もここにいる間に、すり替えられる普通の鎖を何本も用意していたらしい。この状況も想定していたのか。能力で鬼哭を手元に出すロー。
「うおー!!自由だ~~~!!」
「叫ぶなバカ」
順番に檻にいるメンバーの鎖を切っていく。もちろん海軍2人の分も。ついでにスモーカーとたしぎの中身も戻してやる。これで残るはナミとサンジだけだ。
「おい、白猟屋。お前を助ける義理はねェが、お前らが生きて帰る事でヴェルゴが立場をなくせば俺にも利がある。ただし、俺の話、ジョーカーの話については全て忘れろ。これは頼みじゃねェ、条件だ。お前の命と引き換えのな」
スモーカーの命、というのは先ほどローとシノが再会した時に奪った心臓の事だろう。使えるものは海軍も使うということか。
「あ、ロー。ルフィ君もう外出てるよ」
「!?何であいつ檻の外に!?」
「網破ってでた。網は海楼石じゃねェし」
「勝手な真似を!!おい、俺らも早く入ってシャッター開けるぞ」
シノはローの能力でルフィやロビンのいる場所まで移動させてもらう。スモーカーとたしぎも自力でそこまで降りてきた。フランキーのみ、麦わらの一味の船を探しに別行動を取るようだ。この島を出る時に探しに行くより、今のうちに船を回した方が良いだろう。
ROOMを展開し、研究所の壁をさっくりと開け中へ入る。開けた穴からガスが入って来ないようにちゃんと戻すことも忘れない。中にいた研究所員をサクッと処分し、研究所のシャッターを開けるレバーを下げる。
「さて、心臓どうするか……」
「ししし!楽しくなってきた!!」
「G-5の人たちが入り終わったらまたレバー戻さなきゃ、ガス入ってきちゃうよ」
外にいたG-5の海兵たちが入ってきたことを確認し、レバーを上げる。もう少しでシャッターがしまるという所で、シャッターが斬られ、何者かが滑り込んできた。覗き込むと、茶ひげと麦わらの一味たちだ。そういえばまだ閉めてはいけなかったのを忘れていた。
「お!ゾロ達みんな来たなー」
「トラ男~!!ちょっとあんた~!!」
「あ、ロー。ナミちゃんの体戻してあげて」
「!」
必死でナミの姿のサンジが拒否しているが、戻さないわけにはいかない。自分でやったくせに、ローは面倒くさそうに二人の体を元に戻した。ややこしいのはこれで全て片付いた。
「ここいる全員に話しておくが、この研究所から毒ガスに触れずに直接海へ脱出できる通路が一本だけある。R棟66と書かれた巨大な扉がそうだ。俺は殺戮の趣味はねェが猶予は2時間……それ以上この研究所内にいるやつに命の保障はできねェ!!!」
ローの言葉に、G-5達が驚く。2時間でガスがこの研究所内にも入ってくる可能性があるということか、2時間までは待つがそれ以降はローが脱出するために使うため助けられる保障はないという事か。いずれにしろ、R棟がどこにあるのかわからないので、2時間が早いのか遅いのかも判断できない。
「研究所どうにかなんのか?」
「どうなるかわからねェ事をするだけだ」
「ローは心臓取返しにヴェルゴの所行くんでしょ?」
シーザーを捕まえに行くルフィ、手分けして子供たちを探しにいく麦わらの一味と侍と海軍。シノとしては当然、ローについていくのが筋だ。
「……いや、俺はここの研究施設の一部を破壊しに行く」
「りょーかい。私もそっち行って良いの?」
「お前は麦わら屋の一味か海軍と行け」
「また勝手にどっか行って置いていかないでよ?」
「勝手にここまで追いかけてきておいて今更何言ってんだ」
それもそうだ。置いて行かれても勝手に追いかけるので良いのだが、そこは気持ちの問題だ。ぼす、と頭に何かを乗せられる。すぐにそれがローの帽子だということに気づいた。ちょっとサイズが緩いが、もふもふ素材なので温かい。
「俺は施設の破壊、お前は麦わら屋達がちゃんと脱出出来るようサポートしろ。R棟66で合流だ!!」
「りょーかい、キャプテン!」
軽く拳を合わせて別れた。ここからは時間との勝負だ。無事脱出していろいろと話を聞かなければならない。シノはロビンに駆け寄り、麦わらの一味達と合流することにした。
Tobe continued...
「起きたか?」
「キャプテン!?」
シノのすぐ横で寝転んでいるロー。その体には鎖が巻かれている。恐らく海楼石の鎖だ。よく見るとシノも巻かれており身動きが取れないが、こちらは海楼石ではなさそうだ。他にもルフィ、ロビン、フランキー、スーモカー、たしぎも同じように捕まっている。彼らが大人しく捕まっているということは、ご丁寧に能力者だけ海楼石の鎖を使われているのだろう。
「何があった」
「ごめん、シーザーの能力で全員気絶させられて……多分だけどガスを出したんじゃなくて、空気……というか周りの酸素を抜かれたんだと思う」
「なるほどな……」
何かを吸って苦しくなったのではなく、単純に周辺の酸素を抜かれ呼吸が出来なくなった、と思われる。気体を自由自在に操れると考えると厄介な物だ。次にやるなら確実に海楼石を使って能力を無効化して捕まえなくてはならない。
「キャプテンこそなんで捕まってるの?」
「あいつにやられた」
首だけで近くにいた男を指す。寝たままでは見づらいので、シノは身を捩って何とかその場に座り直し辺りを見回す。閉じ込められている檻の外でゆったりとソファに座っている白いコートの男。あの男がローをやったらしい。パッと見ただけでも強そうに見える。
周りにはよくわからない機器が大量に置かれており、パンクハザードの研究所内だろうと推測がついた。ローが一緒に捕まっているということは、シーザーとの縁は既に切れてしまったようだ。
「おいヴェルゴ!!外にいるのは全員G-5の海兵!お前の部下だぞ」
たしぎ姿のスモーカーが怒鳴る。発言から察するに、このヴェルゴという男は海軍の人間だ。何故シーザーと組んでいるのか。仲間のはずのスモーカーとたしぎを捕まえたのか。海軍の中にもいろいろあるのかもしれない。
外では何かの実験が始まろうとしているようだ。先ほど見かけた赤いスライムみたいな物体もその実験のうちだろう。
「何だか懐かしいわね、あなたたちが同じ檻にいると……」
「そうそう俺とケムリン、アラバスタでお前らに捕まった事あったよなー」
「黙れ貴様ら!!」
「え、なにそれ、聞きたーい!!」
緊張感のない話で盛り上がる麦わらの一味。フランキーに至ってはぐっすりと眠っているようだ。ケムリンというのはスモーカーのあだ名だ。アラバスタとロビンと言ったら、2年前新聞で見たBW社のアラバスタ乗っ取り騒動のことか。新聞には詳しくは書かれていなかったが、麦わらの一味も一枚かんでいたということだ。あとで機会があれば聞いてみたい。うつ伏せで倒れ込んでいるたしぎ入りのスモーカーがため息を漏らしている。不思議な光景だ。
「私、この気持ちをどうすればいいのか……!!」
「たしぎちゃん?」
「――お前の予想が最悪の形で的中したな」
スモーカーの話を整理すると、周辺の海域の島々で、シーザーによる子供の誘拐事件が多発していたが、目の前のヴェルゴという男によって海難事故にすり替えられていたようだ。ヴェルゴは海軍G-5の基地長であり、たしぎ達にとっても上司だった。海軍が握り潰していたとなってはかなりの問題だ。部下であるたしぎのショックも大きいはず。
「……お前らが気づかねェのも無理はない。ヴェルゴは海軍を裏切った訳じゃねェ。元々奴は海賊なんだ。名をあげる前に"ジョーカー"の指示で海軍に入隊し、約15年の時間をかけて階級を上げていった。ヴェルゴは初めからずっと"ジョーカー"の一味なのさ……!!」
「"ジョーカー"……確か裏社会の仲介人の名だな……」
相変わらずローの情報量は凄い。ここに来る前に読み込んだ書類の山にも、ヴェルゴの情報は一切なかった。その書類は隠滅していたのか、元々素性を知っていたのか。
ふと、シノはヴェルゴの顔を見て、既視感を感じた。海軍に知り合いは"もう"いないはずなのだが。
「キャプテン……私、あのヴェルゴって人、見たことあるかも」
「んな訳ねェだろ。それなら俺も見てるはずだ」
「ちょうどローに会った頃。13年前、あの島で」
当時の記憶が蘇ってくる。まだ10歳だったが、あの日の記憶は鮮明に覚えている。雪の降る日の朝、子供のシノに深々と頭を下げてきたあの男の姿を。それこそ、ローと初めて会った日の翌日の出来事だ。
「やっぱりそう、だと思う。私の両親が死んだ事を伝えに来た海軍の人」
「!?」
「あれ……でも、じゃあ、あの人海賊だったってこと……?」
「……シノ」
「キャプテン?」
「今は一旦考えるな。この島から出たら聞いてやる。それまではシーザー確保に集中しろ」
明らかにローも動揺していたことを考えると、何か知っているのだろう。しかし、彼の言う通り、この状況で動揺している場合ではない。シノは彼の言葉に黙って頷いた。
「おいトラ男、さっき言ってた"ジョーカー"って誰だ?」
ルフィがローに質問をする。ここまで来て隠すこともないだろう。ジョーカーの正体に関する書類も一切なかった。あれだけ調べて無いはずがない。抜き取ったのか、既に知っていたから調査する必要もなかったのか。
「……俺も昔、そいつの部下だった…だからヴェルゴを知ってる」
後者だったようだ。シノも初めて聞く話だ。元々海賊の一味に身を置いていたことは知っていたが、詳しく聞いたことはなかった。黙ってローの話を聞く。
「"ジョーカー"とは闇のブローカーとしての通り名だ。その正体は世界に名の通った海賊、王下七武海の一人…ドンキホーテ・ドフラミンゴだ!!」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。当然会った事はないが、新聞やテレビで散々見たことはある。――正直、そんな気はしていた。いつだったか、ローにドレスローザの新聞を見せてもらった頃からぼんやり感じていた。先日、ペンギン達に見せてもらった書類にドレスローザの文字を見た時に、ほぼほぼ確信した。だが、ロー本人から聞くまでは考えないようにしていた。
ローは幼い頃、ドンキホーテファミリーに居たのだ。そこで何かがあり、恩人に助けられてファミリーを抜け、スワロー島でシノやべポ達と出会った、ということなのだろう。
「キャプテン、この話も後で教えてもらえるの?」
「……まぁ話しておいた方が良いだろうな」
「わかった。じゃあ今は聞かないことにする」
ここから出たら話す事が山ほどありそうだ。まずは無事目標を達成してこの島を出なければならない。
「シュロロロ……待たせたな」
そうこうしているうちに、シーザーが外から帰って来た。変な口癖で笑いながら、ガスの体を滑らせて動くシーザー。先ほどまでローはシーザーと組んでいたはずだが、当然裏切りは露見しているだろう。
「いいザマだな、ロー。やはり人は信用するものじゃない、自業自得というやつだ。お前の心臓はヴェルゴが持ってる」
「うわァっ!!!」
「え!?!?」
ヴェルゴが手に持っていた心臓を軽く握ると同時に、檻の中のローが叫び声をあげる。厚手のコートをきっちりと来ていたので全く気が付かなかった。
「もしかして、キャプテン、自分の心臓渡したの!?」
「んん?お前ローの部下か。そうさ、俺との契約の担保として、ローと俺の秘書モネの心臓を交換して所持していたのさ!!」
「ほらー!私たちいないとすぐ危ないことするー!!」
「モネが気を利かし姿を変えてお前を尾行していた……残念だぞ、せっかくいい友人になれたと思っていたのに!!」
にやにやと笑いながら、シーザーは心にも無いであろう事を言う。ハートの海賊団がそばにいても危ないことをするには変わりないのだが。信用を得るためとはいえ、何故自分の命を受け渡すような真似をしたのか。
「優秀な秘書に救われたな…マスターがあんまりマヌケなんでなめきってたよ」
ローも相手を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。当然、シーザーはまんまと煽られる訳で。ヴァルゴの持つローの心臓を全力でキレながら殴った。
「……く……!!」
「バカー!!何やってんのー!!」
「お前すげェな!心臓取られて生きてんのか!?」
だいたいわかった。煽りにすぐ乗るようなシーザーからなら取り返せる算段があったのだろう。つまり、あのヴェルゴの登場こそが計画を狂わせた元凶なのだ。
「そういうお前だって、シーザーに俺の部下ってバレてただろ!」
「……それはちょっと、麦わらの一味には溶け込みきれなかったというか……」
「お前がキャプテンって呼んだからだバカ!!」
「はっ!?そういうこと!?」
「お前ら、おもしれェな~」
お揃いつなぎも着ていないのに何故バレたのかと思っていたら、シノ自身がバラしていたとは。二人のやり取りを横で聞いていたルフィが笑っている。ロビンもシノの横でくすくす笑っていた。どうせ他のクルー達もいないのだし、今更遅いが呼び方も気を付けた方がいいかもしれない。
「マスター、映像の準備が出来ました」
「そうか……よし映せ!!」
シーザーの秘書のモネが映像電伝虫を操作し、画面に大きな飴玉が映し出された。ついに何らかの実験が始まるらしい。
シーザーが何者かへ向けて演説をするように喋り始める。あの謎の赤いスライムたちが集まると、毒ガスが発生し、殺戮兵器と化すようだ。
閉じ込められ、縛られている一同には何も出来ることはない。気づけばスライムが大きな飴玉を飲み込み、大きなスライムの体が毒ガスらしき煙状に変化し広がっていく。外にいる人々が逃げ惑う趣味の悪い映像を見せられ続ける。毒ガスに巻き込まれた者は白い石のようにその人の形のまま固まっていった。
「ひどい……」
「前回は、毒が効いても多少動けるから避難できた……固めちまえば良かったんだ。灰のように体に纏わりつくガスは皮膚から侵入し全身を一気に麻痺させる!」
「あー!おい見ろ!ゾロ達、煙に追われてるぞ!!」
画面が切り替わり、ゾロ、ナミの姿のサンジ、ブルック、侍の4名が全力で足をバタバタさせながら走っている姿が映し出された。
「何やってんだあいつら」
「あら、お侍さん完成してるわね」
「ほんとだ!じゃあ足くれねェかな!!」
「あの侍の人ってローが切ったんでしょ?」
「…………」
足だけで走り回っていたということは、ローの能力で切られたのだ。彼が切られていなければ、今頃あの場を走って逃げることにはなっていなかったかもしれない。尤も、あそこに居なければ、ここで同じように捕まっていた可能性も高いが。
「おーい!お前らその煙危ねェぞ!逃げ……ダメら…大声出そうとすると…」
海楼石の鎖のせいで大声が出せないようだ。ルフィが息苦しそうに呼吸をしている。そもそもここから映像に向かって叫んだ所で届かないのだが。シーザーの実況電伝虫に届いたとしても、この研究所の外に向けては放送していないはずだ。
「さすがにお前の仲間はしぶといなぁ!だがこの研究所の外にいる連中は誰一人生き残れやしない!!お前らもなァ……!!」
「ひゃあ!?」
ガコンと急に檻が傾き、鎖につられ檻自体が動き出す。そのまま外へ動かされ、シーザーの笑い声が遠のいていく代わりに、外で逃げ遅れた人々の声が大きくなってくる。ほとんどがG-5の海軍達らしく、スモーカーとたしぎを見て、何か騒いでいる。
「大佐ちゃ~ん、中将~!俺たち一体どうなるんだよー!」
「死にたくねーよぉ!!」
「…………!」
もぞもぞと動いて檻の網の前まで移動したたしぎの横に、シノも同じようにして移動する。ゾロ達の姿はまだ見えない。まだ遠くの方がから走ってきているのだろうか。子供たちと残してきたナミとウソップも心配だ。
「たしぎちゃん達、慕われてるんだねぇ」
「…………」
「大丈夫大丈夫、こんだけ戦力集まってるんだから何とかなるよ」
「そうは言っても我々は捕まってるわけだし……」
「ここには船長2人に中将までいるんだよ。部下たちの為になんとかしてくれるって」
「そんな楽観的な……」
遠くに毒ガスが見えてきている。ずっとここにいるわけにはいかない。少なくともローの鎖さえ取れればどうとでもなるのだが。シノはちらりとローの方を見る。相変わらずのんきに転がっている。
「ヴェルゴの登場は想定外だったが……麦わら屋、俺たちはこんなところでつまずくわけにゃいかねェんだ。作戦は変わらず、今度はしくじるな、反撃に出るぞ」
「トラ男、なんか策あんのか?」
「この中で誰か物を燃やせる奴は?いなきゃ別にいいが」
「火ならフランキーだ!ビームも出るぞ!」
ローの指示で、フランキーが火を噴き、近くにあった軍艦を燃やした。かなり吹雪いている状況の為、軍艦から出た煙が檻へと流れてきて、全員で咳込む。
「ゲホゲホ、おいこらトラファルガー!煙がこっち来たじゃねェか!!」
「お前がやったんだろう」
「おめェがやらせたんだよ!!」
「ウェッホあははは!!何やってんだよ!!」
緊張感のかけらもない会話をするフランキーと船長達。こんな状況でも楽しめるのは一種の才能だろう。
「さて。これで映像電伝虫には映らねェ……すぐにバレずに済みそうだ」
ガシャンと音を立ててローの鎖が外される。
「なんだお前……どうやって海楼石の鎖取ったんだ!?」
「初めからおれのはただの鎖だ。能力で簡単に解ける」
「えぇ!?」
海楼石を避けられるよう、何カ月もここにいる間に、すり替えられる普通の鎖を何本も用意していたらしい。この状況も想定していたのか。能力で鬼哭を手元に出すロー。
「うおー!!自由だ~~~!!」
「叫ぶなバカ」
順番に檻にいるメンバーの鎖を切っていく。もちろん海軍2人の分も。ついでにスモーカーとたしぎの中身も戻してやる。これで残るはナミとサンジだけだ。
「おい、白猟屋。お前を助ける義理はねェが、お前らが生きて帰る事でヴェルゴが立場をなくせば俺にも利がある。ただし、俺の話、ジョーカーの話については全て忘れろ。これは頼みじゃねェ、条件だ。お前の命と引き換えのな」
スモーカーの命、というのは先ほどローとシノが再会した時に奪った心臓の事だろう。使えるものは海軍も使うということか。
「あ、ロー。ルフィ君もう外出てるよ」
「!?何であいつ檻の外に!?」
「網破ってでた。網は海楼石じゃねェし」
「勝手な真似を!!おい、俺らも早く入ってシャッター開けるぞ」
シノはローの能力でルフィやロビンのいる場所まで移動させてもらう。スモーカーとたしぎも自力でそこまで降りてきた。フランキーのみ、麦わらの一味の船を探しに別行動を取るようだ。この島を出る時に探しに行くより、今のうちに船を回した方が良いだろう。
ROOMを展開し、研究所の壁をさっくりと開け中へ入る。開けた穴からガスが入って来ないようにちゃんと戻すことも忘れない。中にいた研究所員をサクッと処分し、研究所のシャッターを開けるレバーを下げる。
「さて、心臓どうするか……」
「ししし!楽しくなってきた!!」
「G-5の人たちが入り終わったらまたレバー戻さなきゃ、ガス入ってきちゃうよ」
外にいたG-5の海兵たちが入ってきたことを確認し、レバーを上げる。もう少しでシャッターがしまるという所で、シャッターが斬られ、何者かが滑り込んできた。覗き込むと、茶ひげと麦わらの一味たちだ。そういえばまだ閉めてはいけなかったのを忘れていた。
「お!ゾロ達みんな来たなー」
「トラ男~!!ちょっとあんた~!!」
「あ、ロー。ナミちゃんの体戻してあげて」
「!」
必死でナミの姿のサンジが拒否しているが、戻さないわけにはいかない。自分でやったくせに、ローは面倒くさそうに二人の体を元に戻した。ややこしいのはこれで全て片付いた。
「ここいる全員に話しておくが、この研究所から毒ガスに触れずに直接海へ脱出できる通路が一本だけある。R棟66と書かれた巨大な扉がそうだ。俺は殺戮の趣味はねェが猶予は2時間……それ以上この研究所内にいるやつに命の保障はできねェ!!!」
ローの言葉に、G-5達が驚く。2時間でガスがこの研究所内にも入ってくる可能性があるということか、2時間までは待つがそれ以降はローが脱出するために使うため助けられる保障はないという事か。いずれにしろ、R棟がどこにあるのかわからないので、2時間が早いのか遅いのかも判断できない。
「研究所どうにかなんのか?」
「どうなるかわからねェ事をするだけだ」
「ローは心臓取返しにヴェルゴの所行くんでしょ?」
シーザーを捕まえに行くルフィ、手分けして子供たちを探しにいく麦わらの一味と侍と海軍。シノとしては当然、ローについていくのが筋だ。
「……いや、俺はここの研究施設の一部を破壊しに行く」
「りょーかい。私もそっち行って良いの?」
「お前は麦わら屋の一味か海軍と行け」
「また勝手にどっか行って置いていかないでよ?」
「勝手にここまで追いかけてきておいて今更何言ってんだ」
それもそうだ。置いて行かれても勝手に追いかけるので良いのだが、そこは気持ちの問題だ。ぼす、と頭に何かを乗せられる。すぐにそれがローの帽子だということに気づいた。ちょっとサイズが緩いが、もふもふ素材なので温かい。
「俺は施設の破壊、お前は麦わら屋達がちゃんと脱出出来るようサポートしろ。R棟66で合流だ!!」
「りょーかい、キャプテン!」
軽く拳を合わせて別れた。ここからは時間との勝負だ。無事脱出していろいろと話を聞かなければならない。シノはロビンに駆け寄り、麦わらの一味達と合流することにした。
Tobe continued...
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