マスターと子供たち
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パンクハザード研究所の裏口へ向かう麦わらの一味とシノ。ワニタウロスに乗っての移動の為、そんなに時間はかからなかった。
「いた~!!お前ら~!!」
「みなさんご無事ですか~ヨホホ~」
「あ、ルフィ達だ~!会えてよかったぞこんにゃろ~!!」
裏口には、ローの言っていた通り、他の麦わらの一味達がいた。何やらテンションの高い黒足のサンジに迎えられながら合流する。彼らの後ろには大きな見知らぬ子供達が大勢いた。さすがに仲間ではないと思われるので、この島にいた子供たちなのだろうか。
麦わらの一味が勢揃いしているのを見たのはシャボンディ諸島以来だ。治療をしたルフィや少しだけ行動を共にしたゾロはともかく、他の面々はちらりと見た程度なので、手配書や新聞で存在は知っているが面識はない。ただ、とにかく賑やかな一味であることだけは瞬時に理解した。
「えーと、ほぼ初めましてだからあんまりピンとこないけど、フランキーさんと、チョッパー君と、サンジ君と、ナミちゃんは今人格が入れ替わってる……ってこと?」
「そうみたいね……」
合流してまずはお互いの状況を整理することになった。彼らが原因を理解しているかは不明だが、確実にローの能力だ。どうやらどこかでローと遭遇していたらしい。だから裏口にいることを知っていたようだ。
一応よそ者のシノは、あまり口出しするべきではないと思い、そこら辺の石に腰を掛け、彼らの会議の様子を見守ることにした。
「つまり初めから解明していくと、コイツが例のワノ国の侍なんだ」
どんと、下半身に頭だけついた妙な侍。下半身はずっとルフィにくっついていたもので、頭はサンジ達が研究所内に捕まっていた部屋で拾ってきたらしい。予想通りこの侍が、緊急信号の元凶であったようだ。簡単に取り外したりくっついたり出来るということは、確実にローの仕業だ。海軍と戦っていただけではなく、あちらこちらで騒ぎを起こしていたとは。
彼らの話をまとめると、この島の警備にあたっていたワニタウロスの部下達が侵入者であるこの侍に斬られ、ワニタウロスへ緊急信号を出したのを、麦わらの一味が偶然拾った。
そしてその侍は、実は行方知れずとなったモモの助という息子を探してこの島を彷徨っており、邪魔するものをひたすら斬り続けていた、ということらしい。実際に麦わらの一味が連れ出した子供たちの存在を考えると、侍の子供がいるという話も信ぴょう性は高い。
「だが問題は信号の後だ。何が起きた」
「さっきの男でござる!周りの者達が七武海と囃し立てていた!」
「えー!?トラ男あいつ七武海になったのか!?」
いつの間にかトラ男という可愛らしいあだ名をつけられているローに、思わず笑いそうになった。
それにしても、ローに斬られるまで海賊達を一人で返り討ちにし続けていたと言うことは、この侍、かなり強いのかも知れない。今は胴体ごと刀が無いので何も出来ないだろうが油断ならない。ローに仕返しをすると言い出さなければいいが。
「拙者あっという間に体を3つに斬られ……頭は施設へ、胴は置き去り、足は何やら猛獣の餌になるところ」
「それは……お詫び申し上げます……」
「ねェところでこの子は?」
フランキー姿のナミに問われる。2年前一応会っているが、さすがに大勢人がいたせいか、覚えられていないようだ。ローやべポたちはともかくとして、シノは手配書も出ていないのでやむを得ない。
「ハートの海賊団、トラファルガー・ローの部下のシノです。ローを探していたらルフィ君達に拾ってもらいました」
本日何度目かの自己紹介をして、経緯を話す。正確には先にルフィ達を助けたところからなのだが、面倒なので割愛した。
「さっき一瞬ローに会えたんだけど、こっちに行ってろって話だったから、後から来ると思う。そしたら体戻してもらえるようお願いするから……もうちょっと待ってて」
「あんたのとこの船長、厄介な能力持ってるわねぇ……」
「申し訳ない」
深々と頭を下げる。シノが悪いわけではないが、さすがにフランキー姿になってしまったナミには申し訳なさが勝ってしまい、代わりに謝罪した。
「のんきなもんだな、お前らはもうすぐ殺される。ローが俺を助けにきてくれるからな」
「……??」
突然喋りだしたワニタウロスこと茶ひげ。やはり元海賊の男だったらしい。どおりで見覚えがあったわけだ。縛られたままにやにやとしながら何を言い出すのかと思えば、随分とローを信頼しているらしい。ワニの体と合体しているのはどう考えてもローの仕業なので、恐らくそれが関係しているのだろう。
「俺はお前らの世代の海賊たちが大嫌いだが、ローは別だ」
「なんだ俺たちの世代って」
「2年前にシャボンディ諸島で会ったでしょ。その時にいた億超ルーキー達と、頂上戦争で騒ぎを起こした黒ひげも含めて、最悪の世代って呼ばれてるんだよ」
「そうなのか?」
「うん、麦わらの一味だと、ルフィ君とゾロ君かな。うちだとローだけだけど」
ローの七武海の件といい、ルフィは世情に疎いようだ。
茶ひげの話を聞くところによると、最悪の世代のバジルホーキンスに両足を斬られ、仲間達とこのパンクハザードに逃げ込んだらしい。しかし、四年前にこの島でベガパンクが起こした事故で発生した神経ガスがまだ残っており下半身の自由を奪われ死にかけていたところを、M(マスター)と名乗る人間に、動けるようにしてもらい、部下となったそうだ。
「同士たちの足を奪ったベガパンクが悪魔なら、Mは心優しい救いの神だ……!!!さらに数ヶ月前、二人目の救いの神……トラファルガー・ローがここへやってきた。奴は能力で俺たちに生きた動物の足をくれたんだ!!」
涙しながら語る茶ひげ。つまり、ローは今そのMに協力しているようだ。放棄されたはずの研究所、そこで活動しているM。茶ひげのおかげで状況が読めてきた。ローのターゲットは間違いなくそのMだ。研究の情報収集をしつつ、そのMの信頼を得て油断させるために茶ひげ達を治したというところか。結果的に茶ひげ達は救われたので、こういう話し方になるのはわかるが、あまり美化し過ぎるのもどうなのだろうか。医者とは言えど、あくまでローの本職は海賊だ。通常であればそんな無条件で信頼するべきではない。そして、元々ロー達から聞いていた話を考えると、そのMという人間も良い人間とは到底思えない。
「やっぱりトラ男はいい奴なんだ」
「医者だもん」
いろいろ思考を巡らせつつも、自分のところの船長を褒められて悪い気はしない。茶ひげもそうだが、ルフィの言葉も素直に嬉しくてシノは笑顔で、うんうんと頷いた。
「何だと!?侍のやつ、外へ!?」
「はい、先ほど胴体をどの辺で見たか聞かれましてそのまま外へ」
「あいつを連れ出したのは俺なんだ……お節介にもケジメってもんがある、今やられたら俺のせいだ」
すぐ横でサンジとブルックが何やら騒ぎ始めた。よく見るといつのまにか侍がいなくなっている。どうやら一人で胴体を探しに行ってしまったらしい。元は強いのだろうが、胴体もなく戦う術もない中では危険だろう。
「ルフィ、ちょっとここ空けるがいいか!?」
「うん、いいぞ!」
「いってらっしゃ~い」
サンジ(ナミの姿)、ブルックに加え、ゾロも連れて三人は侍探しに旅立って行った。今日知り合ったばかりであろう侍をそこまで気にかけてあげられるのはサンジの性格だろうか。はたまた、この一味だったら誰でもそうするのだろうか。
状況の整理もある程度でき、ローの目的も何となく理解できてきた。現時点ではやることも無くなってしまった。ローがここへ来るのであれば、とりあえず待つしか無い。
「チョッパー君、何してんの?」
「この子供たちは何かの病気があってこの島で治療しているらしいんだ。だから何の病気なのか、簡易的ではあるけど調べてみようと思って」
「おぉ、さすがお医者さん、私も何か手伝えるかな?」
「そっかお前、看護師って言ってたな!」
サンジ姿のチョッパーが何か調べ物をしていたので声をかけてみた。子供たちは治療の為に親元を離れてこの島に来たが、親に会いたくてナミ達に頼んで一緒に抜け出してきたと。本当に抜け出して問題ないのか、そもそも何の病気なのかを調べていたようだ。それなら何か手伝えるかもしれないと思った時、ふと子供の様子がおかしいことに気がついた。――大きな子供の顔色が悪い。チョッパーから離れ、子供に駆け寄る。
「どうしたの、どこか痛い?気持ち悪い?」
「う…………!!」
倒れるように膝をつく子供達。頭が痛いのか、頭を抱えて泣き始めた。病気のせいか、はたまた寒さで体調を崩している可能性もある。いずれにしても状況は良くない。
「チョッパー君!子供たちが!!」
「!!!!」
チョッパーがこちらを見る。試験管と子供たちを見比べている。何かわかったのだろうか。次から次へと同じように頭を抱えていく子供たち。どうも様子がおかしい。寒い中を歩き回って容体が悪化したにしても、皆同じタイミングで苦しみだすのは妙だ。
「……お前達、今欲しいものはないか?いつもこの時間何してる?」
「検査の時間があって……その後、キャンディを貰うんだ。あれ食べたらいつも、幸せな気分になるんだ……!」
「それって……」
子どもの言葉に、ちらりとチョッパーを見る。病気についてはわからない。ただ、キャンディを食べた後の反応を聞く限り、思いあたる節があった。わなわなと震えているチョッパーの様子を見るに、シノの予想は当たっているのだろう。
「子供達の体内から出てきた……微量だけどこれは覚醒剤だよ!!」
NHC10。病気の治療でも用いられるが、決められた医師にしか取り扱えない薬。そんなものを、毎日摂取させられていた子供達。この症状は覚醒剤による中毒症状ということだ。何故子供たちにそんなものを食べさせたのか。この症状を見る限り、1回や2回ではない。ずっと食べさせられてきたはずだ。
完全に錯乱状態の子どものうちの一人が、ルフィを殴った。壁に飛ばされるルフィ。子供とは思えない腕力だ。
「何なのこの腕力!!」
「巨人族の子なら腕力もこのくらいあるだろ……!!」
「シンドは巨人族じゃないよ!!みんなこの島に来た時は普通の大きさだったの!」
「僕ら大きくなる病気なんじゃないの!?」
「脳下垂体のホルモンが異常高進してるのは……元々じゃないんだ……だったらこの子たち、実験されてる……!!」
幼い子供の体を大きくする実験をし、逃げ出さないように覚醒剤を食べさせ続けている。Mは確実に黒だ。ローが指していた研究というのはこれの事なのだろうか。
これ以上子供たちを暴れさせるわけにもいかず、かといって傷つけることも出来ない為、ウソップの撃った何かしらの球により、子供たちは眠らされた。ようやく静かになった子供たち。
「こいつらかわいそうだ……家に帰りたがってた……親に会いたがってた!助けてやろうよ!」
「んーじゃあ全員親の所へ送り届けてやるか…!」
「待って、この状態で家族の所に送り届けてもしょうがないでしょ。何をされていたのか確認して治療方針を立てないと」
「そうね、それにまだすべてが予想でしかない……元凶に尋ねなきゃ何も確定できないわ」
ロビンの言う元凶とはMのことだろう。シノとしては予想どころか確定事項だと確信しているが、ローからの事前情報ありきな面がある。下手に口出ししない方が良いだろう。どちらにしても、このまま帰しても何も解決しない。
「じゃあ俺たちはさっきの研究所に行こう、Mに会いに」
ルフィの一声で今後の方針が決まった。この子供たちの一件を問い詰めるため、Mを探しにいくことになった。研究所に行けばローに会えるかもしれないので、シノもそれについていくことにする。眠っている子供を守るために残るチョッパーとナミを置いて、それ以外の面々で研究所に向かうため、下山することになった。
「茶ひげの背中、楽だったねー」
「そうね。でもさすがにこれ以上協力してくれるとは思えないわ」
「いつ裏切られるかもわからんし怖くて乗れねーよ」
「あはは、確かに」
のんきに会話していると、どこからか爆音がした。吹雪いている中ここまで聞こえてくるということは相当大きな音だ。
「どっかでまた誰か暴れてんのかァ?」
「でもこれ、私たちが来た方向よね……」
「ってことはナミちゃん達が襲われてるかも」
「戻ろう!!ナミ達が危ねェ!!」
結局すぐに来た道を戻ることになってしまった。離れない方が良かっただろうか。走って戻るが、ルフィとチョッパー姿のフランキーが速すぎて追いつけない。ロビンとウソップも雪に足を取られて走りづらそうだ。
「やっぱり!さっきまで私たちが居たところだ!!」
「ぎゃああ!!何かでけェのがいんぞ!?」
爆発で煙が立ち込めているが、その中に大きな何者かが二人いるのが見える。少し前を走っていたルフィ達に大きな銃が向けられた。大きな音を立てて爆発する。
「うわっ!何も見えない!!」
シノ達には当たってはいないが、爆風と煙で前が見えない。煙に咳込みながらなんとか進むと、大きな何者かは既にいなくなっていた。そこには子供たちと、黒焦げになった茶ひげとサンジ姿のチョッパーがいた。
「え!?茶ワニ!?今の奴らこいつ助けに来たんじゃねェのか」
「目的は子供たちみたいだ!俺たちの命と!でもMの依頼でまず茶ひげは消されたんだ、味方のはずなのに!」
あれほどMを慕っていた茶ひげ。予想通り、Mは彼を利用していたのだろう。子供たちに実験をしているような人間が、彼ら海賊を本当に大切にするはずがない。今は気絶している茶ひげも相当ショックが大きかったはずだ。
「ルフィ!Mって相当心のねじ曲がったやつだよ!」
「ねぇ、そういえばナミちゃんは?」
「連れていかれちまったんだ!あんなやつに捕まったら何されるかわかんないよ!!」
「え!?」
チョッパーは連れていかれなかったということは全員生け捕りにしろと言われているわけではないのだろう。中身が入れ替わっていることは敵方には知られていないはずなので、目的はフランキーか。
「必ず奪い返す!お前達、子供ら頼むぞ!!」
連れ去られたのがフランキーならともかく、今はナミ入りのフランキーだ。自分の体ではないのでまともに戦えないだろう。ルフィとフランキー入りのチョッパーが二人で助けに向かった。
「大丈夫かな、ナミちゃん……」
「ルフィが向かったから大丈夫よ。フランキーは知らないけれど」
「そうだ、ルフィは強ェからな。フランキーは知らんが」
「俺の体……」
チョッパー入りのサンジが悲しそうに、ルフィ達が消えていった方角を眺める。何が起きたのかよくわからなかったが、フランキー入りにチョッパーが暴れながらルフィを追いかけて行った。そもそも入れ替わった状態で戦うのは、戦闘スタイルが元々似ていなければ厳しいだろう。
「そもそもお前が気にすることじゃねェだろ、お前お人好しというか、良いやつだなー」
「いや、そもそも入れ替わってたせいでナミちゃんが攫われちゃったわけだし……」
「あー……確かに」
入れ替わっていなければ、茶ひげを攻撃しただけで去ってくれたかもしれない。何となく罪悪感を感じてしまう。
「とにかくローと合流したらすぐに戻してもらって……」
「でも今、ナミの体、ないわよ」
「「あ…………」」
「とにかく、今は待つしかないわね」
まずはルフィ達が帰ってきてから次のことを考えることにした。ローは一体いつになったら来るのか。パンクハザードに上陸して大分経ったがローに会えたのはほんの一瞬だった。本当にまた会えるのか、正直不安になってくる。ただ、今出来ることはロビン達と、ルフィ達が帰ってくるのを待つことだけだった。
Tobe continued...
「いた~!!お前ら~!!」
「みなさんご無事ですか~ヨホホ~」
「あ、ルフィ達だ~!会えてよかったぞこんにゃろ~!!」
裏口には、ローの言っていた通り、他の麦わらの一味達がいた。何やらテンションの高い黒足のサンジに迎えられながら合流する。彼らの後ろには大きな見知らぬ子供達が大勢いた。さすがに仲間ではないと思われるので、この島にいた子供たちなのだろうか。
麦わらの一味が勢揃いしているのを見たのはシャボンディ諸島以来だ。治療をしたルフィや少しだけ行動を共にしたゾロはともかく、他の面々はちらりと見た程度なので、手配書や新聞で存在は知っているが面識はない。ただ、とにかく賑やかな一味であることだけは瞬時に理解した。
「えーと、ほぼ初めましてだからあんまりピンとこないけど、フランキーさんと、チョッパー君と、サンジ君と、ナミちゃんは今人格が入れ替わってる……ってこと?」
「そうみたいね……」
合流してまずはお互いの状況を整理することになった。彼らが原因を理解しているかは不明だが、確実にローの能力だ。どうやらどこかでローと遭遇していたらしい。だから裏口にいることを知っていたようだ。
一応よそ者のシノは、あまり口出しするべきではないと思い、そこら辺の石に腰を掛け、彼らの会議の様子を見守ることにした。
「つまり初めから解明していくと、コイツが例のワノ国の侍なんだ」
どんと、下半身に頭だけついた妙な侍。下半身はずっとルフィにくっついていたもので、頭はサンジ達が研究所内に捕まっていた部屋で拾ってきたらしい。予想通りこの侍が、緊急信号の元凶であったようだ。簡単に取り外したりくっついたり出来るということは、確実にローの仕業だ。海軍と戦っていただけではなく、あちらこちらで騒ぎを起こしていたとは。
彼らの話をまとめると、この島の警備にあたっていたワニタウロスの部下達が侵入者であるこの侍に斬られ、ワニタウロスへ緊急信号を出したのを、麦わらの一味が偶然拾った。
そしてその侍は、実は行方知れずとなったモモの助という息子を探してこの島を彷徨っており、邪魔するものをひたすら斬り続けていた、ということらしい。実際に麦わらの一味が連れ出した子供たちの存在を考えると、侍の子供がいるという話も信ぴょう性は高い。
「だが問題は信号の後だ。何が起きた」
「さっきの男でござる!周りの者達が七武海と囃し立てていた!」
「えー!?トラ男あいつ七武海になったのか!?」
いつの間にかトラ男という可愛らしいあだ名をつけられているローに、思わず笑いそうになった。
それにしても、ローに斬られるまで海賊達を一人で返り討ちにし続けていたと言うことは、この侍、かなり強いのかも知れない。今は胴体ごと刀が無いので何も出来ないだろうが油断ならない。ローに仕返しをすると言い出さなければいいが。
「拙者あっという間に体を3つに斬られ……頭は施設へ、胴は置き去り、足は何やら猛獣の餌になるところ」
「それは……お詫び申し上げます……」
「ねェところでこの子は?」
フランキー姿のナミに問われる。2年前一応会っているが、さすがに大勢人がいたせいか、覚えられていないようだ。ローやべポたちはともかくとして、シノは手配書も出ていないのでやむを得ない。
「ハートの海賊団、トラファルガー・ローの部下のシノです。ローを探していたらルフィ君達に拾ってもらいました」
本日何度目かの自己紹介をして、経緯を話す。正確には先にルフィ達を助けたところからなのだが、面倒なので割愛した。
「さっき一瞬ローに会えたんだけど、こっちに行ってろって話だったから、後から来ると思う。そしたら体戻してもらえるようお願いするから……もうちょっと待ってて」
「あんたのとこの船長、厄介な能力持ってるわねぇ……」
「申し訳ない」
深々と頭を下げる。シノが悪いわけではないが、さすがにフランキー姿になってしまったナミには申し訳なさが勝ってしまい、代わりに謝罪した。
「のんきなもんだな、お前らはもうすぐ殺される。ローが俺を助けにきてくれるからな」
「……??」
突然喋りだしたワニタウロスこと茶ひげ。やはり元海賊の男だったらしい。どおりで見覚えがあったわけだ。縛られたままにやにやとしながら何を言い出すのかと思えば、随分とローを信頼しているらしい。ワニの体と合体しているのはどう考えてもローの仕業なので、恐らくそれが関係しているのだろう。
「俺はお前らの世代の海賊たちが大嫌いだが、ローは別だ」
「なんだ俺たちの世代って」
「2年前にシャボンディ諸島で会ったでしょ。その時にいた億超ルーキー達と、頂上戦争で騒ぎを起こした黒ひげも含めて、最悪の世代って呼ばれてるんだよ」
「そうなのか?」
「うん、麦わらの一味だと、ルフィ君とゾロ君かな。うちだとローだけだけど」
ローの七武海の件といい、ルフィは世情に疎いようだ。
茶ひげの話を聞くところによると、最悪の世代のバジルホーキンスに両足を斬られ、仲間達とこのパンクハザードに逃げ込んだらしい。しかし、四年前にこの島でベガパンクが起こした事故で発生した神経ガスがまだ残っており下半身の自由を奪われ死にかけていたところを、M(マスター)と名乗る人間に、動けるようにしてもらい、部下となったそうだ。
「同士たちの足を奪ったベガパンクが悪魔なら、Mは心優しい救いの神だ……!!!さらに数ヶ月前、二人目の救いの神……トラファルガー・ローがここへやってきた。奴は能力で俺たちに生きた動物の足をくれたんだ!!」
涙しながら語る茶ひげ。つまり、ローは今そのMに協力しているようだ。放棄されたはずの研究所、そこで活動しているM。茶ひげのおかげで状況が読めてきた。ローのターゲットは間違いなくそのMだ。研究の情報収集をしつつ、そのMの信頼を得て油断させるために茶ひげ達を治したというところか。結果的に茶ひげ達は救われたので、こういう話し方になるのはわかるが、あまり美化し過ぎるのもどうなのだろうか。医者とは言えど、あくまでローの本職は海賊だ。通常であればそんな無条件で信頼するべきではない。そして、元々ロー達から聞いていた話を考えると、そのMという人間も良い人間とは到底思えない。
「やっぱりトラ男はいい奴なんだ」
「医者だもん」
いろいろ思考を巡らせつつも、自分のところの船長を褒められて悪い気はしない。茶ひげもそうだが、ルフィの言葉も素直に嬉しくてシノは笑顔で、うんうんと頷いた。
「何だと!?侍のやつ、外へ!?」
「はい、先ほど胴体をどの辺で見たか聞かれましてそのまま外へ」
「あいつを連れ出したのは俺なんだ……お節介にもケジメってもんがある、今やられたら俺のせいだ」
すぐ横でサンジとブルックが何やら騒ぎ始めた。よく見るといつのまにか侍がいなくなっている。どうやら一人で胴体を探しに行ってしまったらしい。元は強いのだろうが、胴体もなく戦う術もない中では危険だろう。
「ルフィ、ちょっとここ空けるがいいか!?」
「うん、いいぞ!」
「いってらっしゃ~い」
サンジ(ナミの姿)、ブルックに加え、ゾロも連れて三人は侍探しに旅立って行った。今日知り合ったばかりであろう侍をそこまで気にかけてあげられるのはサンジの性格だろうか。はたまた、この一味だったら誰でもそうするのだろうか。
状況の整理もある程度でき、ローの目的も何となく理解できてきた。現時点ではやることも無くなってしまった。ローがここへ来るのであれば、とりあえず待つしか無い。
「チョッパー君、何してんの?」
「この子供たちは何かの病気があってこの島で治療しているらしいんだ。だから何の病気なのか、簡易的ではあるけど調べてみようと思って」
「おぉ、さすがお医者さん、私も何か手伝えるかな?」
「そっかお前、看護師って言ってたな!」
サンジ姿のチョッパーが何か調べ物をしていたので声をかけてみた。子供たちは治療の為に親元を離れてこの島に来たが、親に会いたくてナミ達に頼んで一緒に抜け出してきたと。本当に抜け出して問題ないのか、そもそも何の病気なのかを調べていたようだ。それなら何か手伝えるかもしれないと思った時、ふと子供の様子がおかしいことに気がついた。――大きな子供の顔色が悪い。チョッパーから離れ、子供に駆け寄る。
「どうしたの、どこか痛い?気持ち悪い?」
「う…………!!」
倒れるように膝をつく子供達。頭が痛いのか、頭を抱えて泣き始めた。病気のせいか、はたまた寒さで体調を崩している可能性もある。いずれにしても状況は良くない。
「チョッパー君!子供たちが!!」
「!!!!」
チョッパーがこちらを見る。試験管と子供たちを見比べている。何かわかったのだろうか。次から次へと同じように頭を抱えていく子供たち。どうも様子がおかしい。寒い中を歩き回って容体が悪化したにしても、皆同じタイミングで苦しみだすのは妙だ。
「……お前達、今欲しいものはないか?いつもこの時間何してる?」
「検査の時間があって……その後、キャンディを貰うんだ。あれ食べたらいつも、幸せな気分になるんだ……!」
「それって……」
子どもの言葉に、ちらりとチョッパーを見る。病気についてはわからない。ただ、キャンディを食べた後の反応を聞く限り、思いあたる節があった。わなわなと震えているチョッパーの様子を見るに、シノの予想は当たっているのだろう。
「子供達の体内から出てきた……微量だけどこれは覚醒剤だよ!!」
NHC10。病気の治療でも用いられるが、決められた医師にしか取り扱えない薬。そんなものを、毎日摂取させられていた子供達。この症状は覚醒剤による中毒症状ということだ。何故子供たちにそんなものを食べさせたのか。この症状を見る限り、1回や2回ではない。ずっと食べさせられてきたはずだ。
完全に錯乱状態の子どものうちの一人が、ルフィを殴った。壁に飛ばされるルフィ。子供とは思えない腕力だ。
「何なのこの腕力!!」
「巨人族の子なら腕力もこのくらいあるだろ……!!」
「シンドは巨人族じゃないよ!!みんなこの島に来た時は普通の大きさだったの!」
「僕ら大きくなる病気なんじゃないの!?」
「脳下垂体のホルモンが異常高進してるのは……元々じゃないんだ……だったらこの子たち、実験されてる……!!」
幼い子供の体を大きくする実験をし、逃げ出さないように覚醒剤を食べさせ続けている。Mは確実に黒だ。ローが指していた研究というのはこれの事なのだろうか。
これ以上子供たちを暴れさせるわけにもいかず、かといって傷つけることも出来ない為、ウソップの撃った何かしらの球により、子供たちは眠らされた。ようやく静かになった子供たち。
「こいつらかわいそうだ……家に帰りたがってた……親に会いたがってた!助けてやろうよ!」
「んーじゃあ全員親の所へ送り届けてやるか…!」
「待って、この状態で家族の所に送り届けてもしょうがないでしょ。何をされていたのか確認して治療方針を立てないと」
「そうね、それにまだすべてが予想でしかない……元凶に尋ねなきゃ何も確定できないわ」
ロビンの言う元凶とはMのことだろう。シノとしては予想どころか確定事項だと確信しているが、ローからの事前情報ありきな面がある。下手に口出ししない方が良いだろう。どちらにしても、このまま帰しても何も解決しない。
「じゃあ俺たちはさっきの研究所に行こう、Mに会いに」
ルフィの一声で今後の方針が決まった。この子供たちの一件を問い詰めるため、Mを探しにいくことになった。研究所に行けばローに会えるかもしれないので、シノもそれについていくことにする。眠っている子供を守るために残るチョッパーとナミを置いて、それ以外の面々で研究所に向かうため、下山することになった。
「茶ひげの背中、楽だったねー」
「そうね。でもさすがにこれ以上協力してくれるとは思えないわ」
「いつ裏切られるかもわからんし怖くて乗れねーよ」
「あはは、確かに」
のんきに会話していると、どこからか爆音がした。吹雪いている中ここまで聞こえてくるということは相当大きな音だ。
「どっかでまた誰か暴れてんのかァ?」
「でもこれ、私たちが来た方向よね……」
「ってことはナミちゃん達が襲われてるかも」
「戻ろう!!ナミ達が危ねェ!!」
結局すぐに来た道を戻ることになってしまった。離れない方が良かっただろうか。走って戻るが、ルフィとチョッパー姿のフランキーが速すぎて追いつけない。ロビンとウソップも雪に足を取られて走りづらそうだ。
「やっぱり!さっきまで私たちが居たところだ!!」
「ぎゃああ!!何かでけェのがいんぞ!?」
爆発で煙が立ち込めているが、その中に大きな何者かが二人いるのが見える。少し前を走っていたルフィ達に大きな銃が向けられた。大きな音を立てて爆発する。
「うわっ!何も見えない!!」
シノ達には当たってはいないが、爆風と煙で前が見えない。煙に咳込みながらなんとか進むと、大きな何者かは既にいなくなっていた。そこには子供たちと、黒焦げになった茶ひげとサンジ姿のチョッパーがいた。
「え!?茶ワニ!?今の奴らこいつ助けに来たんじゃねェのか」
「目的は子供たちみたいだ!俺たちの命と!でもMの依頼でまず茶ひげは消されたんだ、味方のはずなのに!」
あれほどMを慕っていた茶ひげ。予想通り、Mは彼を利用していたのだろう。子供たちに実験をしているような人間が、彼ら海賊を本当に大切にするはずがない。今は気絶している茶ひげも相当ショックが大きかったはずだ。
「ルフィ!Mって相当心のねじ曲がったやつだよ!」
「ねぇ、そういえばナミちゃんは?」
「連れていかれちまったんだ!あんなやつに捕まったら何されるかわかんないよ!!」
「え!?」
チョッパーは連れていかれなかったということは全員生け捕りにしろと言われているわけではないのだろう。中身が入れ替わっていることは敵方には知られていないはずなので、目的はフランキーか。
「必ず奪い返す!お前達、子供ら頼むぞ!!」
連れ去られたのがフランキーならともかく、今はナミ入りのフランキーだ。自分の体ではないのでまともに戦えないだろう。ルフィとフランキー入りのチョッパーが二人で助けに向かった。
「大丈夫かな、ナミちゃん……」
「ルフィが向かったから大丈夫よ。フランキーは知らないけれど」
「そうだ、ルフィは強ェからな。フランキーは知らんが」
「俺の体……」
チョッパー入りのサンジが悲しそうに、ルフィ達が消えていった方角を眺める。何が起きたのかよくわからなかったが、フランキー入りにチョッパーが暴れながらルフィを追いかけて行った。そもそも入れ替わった状態で戦うのは、戦闘スタイルが元々似ていなければ厳しいだろう。
「そもそもお前が気にすることじゃねェだろ、お前お人好しというか、良いやつだなー」
「いや、そもそも入れ替わってたせいでナミちゃんが攫われちゃったわけだし……」
「あー……確かに」
入れ替わっていなければ、茶ひげを攻撃しただけで去ってくれたかもしれない。何となく罪悪感を感じてしまう。
「とにかくローと合流したらすぐに戻してもらって……」
「でも今、ナミの体、ないわよ」
「「あ…………」」
「とにかく、今は待つしかないわね」
まずはルフィ達が帰ってきてから次のことを考えることにした。ローは一体いつになったら来るのか。パンクハザードに上陸して大分経ったがローに会えたのはほんの一瞬だった。本当にまた会えるのか、正直不安になってくる。ただ、今出来ることはロビン達と、ルフィ達が帰ってくるのを待つことだけだった。
Tobe continued...
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