三年後
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カーテンの隙間からの陽の光が眩しくて目が覚めた。スワロー島では珍しく太陽が出ているようだ。雪が降っていることが多いこの島でこんな天気の日にあたるとは幸先が良い。
シノは、窓の前にいる先客の隣にひょいと顔を出した。
「おはよー」
「あぁ、おはよう」
ローは窓の外を眺めておりこちらを見ることはないが、ちゃんと挨拶を返してくれた。シノはその返答に満足をして、大きく伸びをしてあくびをする。いつも通りの朝だ。
「あ、朝ごはんの後、出発する前にちょっと出掛けてきて良い?」
「好きなだけ話してこい」
「うん!」
元気に返事をして、ベポとシャチとペンギンを起こす。布団を奪ってやればすぐに起きる。そしてみんなで揃って朝ごはんの支度をした。旅立ち前、この家での最後の食事となるので、出来るだけ全員でやろうと決めていた。
初めてローに会った日からたくさん料理をしてきて、なんやかんやと形にはなったが、結局そんなに上達はしなかった気がする。元々器用な方ではないのでしょうがないのだが。
ヴォルフも含めてみんなでいつも通り朝食を取る。わいわいと騒がしい朝ごはんの時間が終わったら各々旅立ちの準備を始めた。シノは昨日の夜に既に終えていたので、皆に先立ち家を出る。出航は町の人たちも来てくれるのであまり遅くなるわけにはいかない。
「おはよう」
無理を言って丘の上に作ってもらった両親の墓に挨拶をした。ここからならプレジャータウンもミニオン島も見える。お墓の前に座って目を閉じた。
あの日からもう3年が経った。いろんな人に支えられて、あっという間の出来事だった。次にここに来るのはいつになるか。
「……私、好きな人ができたよ。今日からその人達と海賊になるんだ」
両親は海兵で、海賊に殺されたというのに不思議な人生だ。もちろん、町を襲った海賊のようになる気はないが、二人が生きていたら驚いたことだろう。それでもきっと最終的には笑顔で送り出してくれたと信じている。ヴォルフの話で、そう思えた。
本当はもっとずっと一緒にいたかった。料理だって母親に教わって、剣術も父親に教わって、ローやベポやシャチやペンギンも紹介して、海賊になるのを反対して、海兵になれとか言われて、それでも笑顔で見送ってくれて。そんなあり得ない出来事をどれだけ妄想したことか。そうだったらと思うことはあるが、そんな日々に未練があるわけでもない。
「おじいちゃんも、ベポも、シャチも、ペンギンも……ローも、みんな大好きなんだ……」
時々、こんなに幸せで良いのだろうかと思う。ローにもベポにも何かしら旅の目的があるようだったが、自分には何もない。ただ彼らと一緒に居たい、それだけだ。
「……行ってくるね」
きっといろんな世界を回ってまた帰ってくる。もちろん彼らも一緒に。こころの中でそう言い聞かせて立ち上がる。振り返ると、大好きな人が待っていた。
「もういいのか」
「うん」
迎えに来てくれてありがとう、と駆け寄る。しかし動こうとしないローに首を傾げる。彼もシノの両親に何か言いたいことがあるのだろうか。ローが口を開くまで、ただただ待つ。
「……お前の両親の仇がわかるとしたら、知りたいか」
急な話に眉を顰める。今まで一度もそんな話をしてこなかったのに。ローの真意はわからないが、シノは思ったことをそのまま伝えた。
「別に良いかなぁ。皆と居られればそれで良いし。むしろ、知って、復讐したいとか思っちゃうかもしれないと思うと、その方が怖いかな」
正直、知りたいか知りたくないかでいうと、どちらでも良い。知ったからと言って今更どうも思わない気もするし、もしかしたら急に怒りが込み上げるかもしれない。それはもうその時にならないとよくわからない。だったら知らない方が気楽で良い。
「……わかった」
こんな言い方をするのだ。もしかしたら、ローは何か知っているのかもしれない。なんやかんや優しい人なので、何も調べないシノに変わって調べてくれたのかもしれない。
「私、ロー達のおかげで、今凄く幸せだよ」
「そうか」
「ローに会わなかったら、私生きてなかったかもしれないし、ありがとう」
あの日から立ち直れたのは、ローに会って、ベポに、シャチに、ペンギンに会って、ヴォルフとみんなで家族のように過ごしてきたからだ。毎日こんなに楽しい日々を過ごせていることに感謝しかない。感謝の気持ちをたくさん込めてぎゅうと横からローに抱きつく。
「昔さ、ベポが一緒に住み始めた日に、私の目標聞いたよね」
「あったなそんなこと」
「やっぱり3年経っても変わらないや。ロー達と一緒にいたい。いつかさ、冒険するだけして、満足したら、ローが開いた診療所で看護師したい」
「……まぁ良いんじゃねェか」
フッと笑って髪をぐしゃぐしゃにされる。その笑顔にぎゅうと胸が締め付けられた。この笑顔をずっとそばで見ていたい。そんな不純な理由で海賊になってもいいだろうか。
「俺は……本当の自由を知りたい」
「うん」
一週間前に聞いた、ローの旅立ちの理由だ。シノにも本当の自由というのはよくわからないが、きっとローにとって大事なことなのだろう。
「いろんな海を見て、冒険して経験を積んで、――恩人の本懐を遂げたい」
「うん」
結局、恩人の本懐・願いが具体的に何を指すかは聞いていない。言わなかったということは、言いたくないことなのかもしれない。 ローは笑顔ではあったが、何となくどこか遠くを見ているように見えた。多分、彼にとってかなり大切なことであり、深く聞くべきことではないのだろう。少なくとも今は。
「お前、海兵じゃなくて本当にいいのか」
「向いてないってローも言ってたじゃん」
「海賊の方がよっぽど向いてねェだろ」
「そんなのローも一緒でしょ」
どう考えてもローには海軍の方が似合う気がする。しかし、彼の求める自由を手に入れるには海軍という組織は窮屈なものだろう。きっと海賊にもいろいろな形がある。ローが目指す海賊であれば、シノもなれる気がした。
「昨日、ヴォルフと何話してたんだ」
「あー……両親の事とか」
嘘ではない。ロー達はシノの両親を知らない。今後その話をすることはほとんどなくなるだろう。旅に出る前に、少し思い出話が聞けて良かった。
「あとは、絶対帰ってくるから長生きしてねって」
「それはじいさんも責任重大だな」
「私たちもね」
思う存分冒険をするので、すぐには帰ってくるつもりもないが、それでもいつかヴォルフに会いに帰ってくる約束をしてしまったので、ちゃんと生きて帰って来なければならない。
「これは死ねねーな」
「死ぬ気で生きなきゃね」
海賊になれば何が起こるかわからない。常に危険と隣り合わせの生活になるのだ。そんな生活だからこそ、生きる理由が必要だろう。
「そんなことより、ローこそおじいちゃんとちゃんと話したの?」
「あぁ……まぁだいたい……」
「本当に?言いたいことちゃんと伝えた?」
「…………」
返事は返って来なかった。バツが悪そうに顔をそらした。どうせ素直になれなかったのだろう。ローもヴォルフもどうも素直になれないところがある。二人ともかっこつけて言いたいことを正直に言えない所が似ている。
「まぁいいや、行こっか。迎えに来てくれてありがとう」
「……あいつらは、先に研究所に向かってる、そっち行くぞ」
「うん」
あとはローとヴォルフの問題だ。シノが口出しすることではない。そう思って、深くは追及しなかった。
二人揃って両親の墓のある丘を後にし、ヴォルフの研究所へ向かった。昨日の夜、ヴォルフに研究所に呼び出され、潜水艇を託された。ヴォルフの最高傑作で、ロー達は冒険に出ることになった。潜水艇の名前は、ローによって"ポーラータング号"と名付けられた。
ヴォルフの研究所で皆と合流し、ポーラータング号へと乗り込んだ。操縦の仕方を教わりながら、プレジャータウンの港へ向かう。そこには、町の人々が見送りに集まってくれていた。各々が、職場の人や、ラッドや商店街の人たちと別れの挨拶をする。シノはそれをヴォルフの横で見守った。
「お前は挨拶せんで良いのか」
「うん、昨日までに済ませたから。それよりおじいちゃんと居たい」
「そうか」
駐在のラッドが号泣し、シャチとペンギンが笑いながら慰めていた。べポは魚屋のおじさんと楽しそうに話している。ローもそれを優しい表情で見守っていた。
「お前ら、そろそろ行くぞ」
「またね、おじいちゃん」
「おう、またな」
ローの言葉に、シノはヴォルフに別れを告げた。シノにとっては、これが正しい別れの言葉だ。笑顔で手を振って船のデッキに向かう。泣くわけにはいかない。笑顔で別れたい。
「じゃあな、じいさん。世話になった。せいぜい長生きしろよ」
ローはデッキからヴォルフへ別れの言葉を告げた。ローらしい言葉ではある。船がゆっくりと動き出し、陸地から少し離れた時、ヴォルフが叫んだ。
「ロー!ペンギン!シャチ!べポ!シノ!これまで楽しかったぞ」
満面の笑みでそう叫んだ。心からの言葉だろう。その言葉に思わず泣きそうになった時、ローがデッキの柵を掴んで、体を乗り出した。
「ヴォルフ!!寂しくないわけがねぇだろうが!あんたと別れるのが寂しくないわけねぇだろうが!!ありがとう!ずっと、ずっと優しくしてくれて、ありがとう!離れててもあんたは俺の最高の友達だ!!」
ローの心からの言葉。最後の方はかすれていた。ローにとってヴォルフがどれだけ救いだったか。シノには計り知れない関係性があっただろう。操縦室からべポも飛び出してきた。全員が揃って、堪え切れない涙を手で抑えこむ。
「行ってこいガキども!!世界を知ってこい!自由を知ってこい!ワシはお前たちと過ごせて幸せだった!!!」
シノたちは涙を抑えるのをやめて、笑顔で腕を高く突き上げた。涙がこぼれていても関係ない。笑顔を見せたい、そう思った。そのまま船が再び動き出す。もう島の方は見ない。振り返らない。海賊として突き進むだけだ。
「ハートだ」
ぽつりと、ローが呟いた。
「俺たちは、ハートの海賊団だ」
冬島気候で珍しい快晴の日、こうしてハートの海賊団は結成された。彼らが北の海で名の知れた海賊団となり、懸賞金もつき、偉大なる航路に向かうのは、この日から数年後の出来事だった。
end.
シノは、窓の前にいる先客の隣にひょいと顔を出した。
「おはよー」
「あぁ、おはよう」
ローは窓の外を眺めておりこちらを見ることはないが、ちゃんと挨拶を返してくれた。シノはその返答に満足をして、大きく伸びをしてあくびをする。いつも通りの朝だ。
「あ、朝ごはんの後、出発する前にちょっと出掛けてきて良い?」
「好きなだけ話してこい」
「うん!」
元気に返事をして、ベポとシャチとペンギンを起こす。布団を奪ってやればすぐに起きる。そしてみんなで揃って朝ごはんの支度をした。旅立ち前、この家での最後の食事となるので、出来るだけ全員でやろうと決めていた。
初めてローに会った日からたくさん料理をしてきて、なんやかんやと形にはなったが、結局そんなに上達はしなかった気がする。元々器用な方ではないのでしょうがないのだが。
ヴォルフも含めてみんなでいつも通り朝食を取る。わいわいと騒がしい朝ごはんの時間が終わったら各々旅立ちの準備を始めた。シノは昨日の夜に既に終えていたので、皆に先立ち家を出る。出航は町の人たちも来てくれるのであまり遅くなるわけにはいかない。
「おはよう」
無理を言って丘の上に作ってもらった両親の墓に挨拶をした。ここからならプレジャータウンもミニオン島も見える。お墓の前に座って目を閉じた。
あの日からもう3年が経った。いろんな人に支えられて、あっという間の出来事だった。次にここに来るのはいつになるか。
「……私、好きな人ができたよ。今日からその人達と海賊になるんだ」
両親は海兵で、海賊に殺されたというのに不思議な人生だ。もちろん、町を襲った海賊のようになる気はないが、二人が生きていたら驚いたことだろう。それでもきっと最終的には笑顔で送り出してくれたと信じている。ヴォルフの話で、そう思えた。
本当はもっとずっと一緒にいたかった。料理だって母親に教わって、剣術も父親に教わって、ローやベポやシャチやペンギンも紹介して、海賊になるのを反対して、海兵になれとか言われて、それでも笑顔で見送ってくれて。そんなあり得ない出来事をどれだけ妄想したことか。そうだったらと思うことはあるが、そんな日々に未練があるわけでもない。
「おじいちゃんも、ベポも、シャチも、ペンギンも……ローも、みんな大好きなんだ……」
時々、こんなに幸せで良いのだろうかと思う。ローにもベポにも何かしら旅の目的があるようだったが、自分には何もない。ただ彼らと一緒に居たい、それだけだ。
「……行ってくるね」
きっといろんな世界を回ってまた帰ってくる。もちろん彼らも一緒に。こころの中でそう言い聞かせて立ち上がる。振り返ると、大好きな人が待っていた。
「もういいのか」
「うん」
迎えに来てくれてありがとう、と駆け寄る。しかし動こうとしないローに首を傾げる。彼もシノの両親に何か言いたいことがあるのだろうか。ローが口を開くまで、ただただ待つ。
「……お前の両親の仇がわかるとしたら、知りたいか」
急な話に眉を顰める。今まで一度もそんな話をしてこなかったのに。ローの真意はわからないが、シノは思ったことをそのまま伝えた。
「別に良いかなぁ。皆と居られればそれで良いし。むしろ、知って、復讐したいとか思っちゃうかもしれないと思うと、その方が怖いかな」
正直、知りたいか知りたくないかでいうと、どちらでも良い。知ったからと言って今更どうも思わない気もするし、もしかしたら急に怒りが込み上げるかもしれない。それはもうその時にならないとよくわからない。だったら知らない方が気楽で良い。
「……わかった」
こんな言い方をするのだ。もしかしたら、ローは何か知っているのかもしれない。なんやかんや優しい人なので、何も調べないシノに変わって調べてくれたのかもしれない。
「私、ロー達のおかげで、今凄く幸せだよ」
「そうか」
「ローに会わなかったら、私生きてなかったかもしれないし、ありがとう」
あの日から立ち直れたのは、ローに会って、ベポに、シャチに、ペンギンに会って、ヴォルフとみんなで家族のように過ごしてきたからだ。毎日こんなに楽しい日々を過ごせていることに感謝しかない。感謝の気持ちをたくさん込めてぎゅうと横からローに抱きつく。
「昔さ、ベポが一緒に住み始めた日に、私の目標聞いたよね」
「あったなそんなこと」
「やっぱり3年経っても変わらないや。ロー達と一緒にいたい。いつかさ、冒険するだけして、満足したら、ローが開いた診療所で看護師したい」
「……まぁ良いんじゃねェか」
フッと笑って髪をぐしゃぐしゃにされる。その笑顔にぎゅうと胸が締め付けられた。この笑顔をずっとそばで見ていたい。そんな不純な理由で海賊になってもいいだろうか。
「俺は……本当の自由を知りたい」
「うん」
一週間前に聞いた、ローの旅立ちの理由だ。シノにも本当の自由というのはよくわからないが、きっとローにとって大事なことなのだろう。
「いろんな海を見て、冒険して経験を積んで、――恩人の本懐を遂げたい」
「うん」
結局、恩人の本懐・願いが具体的に何を指すかは聞いていない。言わなかったということは、言いたくないことなのかもしれない。 ローは笑顔ではあったが、何となくどこか遠くを見ているように見えた。多分、彼にとってかなり大切なことであり、深く聞くべきことではないのだろう。少なくとも今は。
「お前、海兵じゃなくて本当にいいのか」
「向いてないってローも言ってたじゃん」
「海賊の方がよっぽど向いてねェだろ」
「そんなのローも一緒でしょ」
どう考えてもローには海軍の方が似合う気がする。しかし、彼の求める自由を手に入れるには海軍という組織は窮屈なものだろう。きっと海賊にもいろいろな形がある。ローが目指す海賊であれば、シノもなれる気がした。
「昨日、ヴォルフと何話してたんだ」
「あー……両親の事とか」
嘘ではない。ロー達はシノの両親を知らない。今後その話をすることはほとんどなくなるだろう。旅に出る前に、少し思い出話が聞けて良かった。
「あとは、絶対帰ってくるから長生きしてねって」
「それはじいさんも責任重大だな」
「私たちもね」
思う存分冒険をするので、すぐには帰ってくるつもりもないが、それでもいつかヴォルフに会いに帰ってくる約束をしてしまったので、ちゃんと生きて帰って来なければならない。
「これは死ねねーな」
「死ぬ気で生きなきゃね」
海賊になれば何が起こるかわからない。常に危険と隣り合わせの生活になるのだ。そんな生活だからこそ、生きる理由が必要だろう。
「そんなことより、ローこそおじいちゃんとちゃんと話したの?」
「あぁ……まぁだいたい……」
「本当に?言いたいことちゃんと伝えた?」
「…………」
返事は返って来なかった。バツが悪そうに顔をそらした。どうせ素直になれなかったのだろう。ローもヴォルフもどうも素直になれないところがある。二人ともかっこつけて言いたいことを正直に言えない所が似ている。
「まぁいいや、行こっか。迎えに来てくれてありがとう」
「……あいつらは、先に研究所に向かってる、そっち行くぞ」
「うん」
あとはローとヴォルフの問題だ。シノが口出しすることではない。そう思って、深くは追及しなかった。
二人揃って両親の墓のある丘を後にし、ヴォルフの研究所へ向かった。昨日の夜、ヴォルフに研究所に呼び出され、潜水艇を託された。ヴォルフの最高傑作で、ロー達は冒険に出ることになった。潜水艇の名前は、ローによって"ポーラータング号"と名付けられた。
ヴォルフの研究所で皆と合流し、ポーラータング号へと乗り込んだ。操縦の仕方を教わりながら、プレジャータウンの港へ向かう。そこには、町の人々が見送りに集まってくれていた。各々が、職場の人や、ラッドや商店街の人たちと別れの挨拶をする。シノはそれをヴォルフの横で見守った。
「お前は挨拶せんで良いのか」
「うん、昨日までに済ませたから。それよりおじいちゃんと居たい」
「そうか」
駐在のラッドが号泣し、シャチとペンギンが笑いながら慰めていた。べポは魚屋のおじさんと楽しそうに話している。ローもそれを優しい表情で見守っていた。
「お前ら、そろそろ行くぞ」
「またね、おじいちゃん」
「おう、またな」
ローの言葉に、シノはヴォルフに別れを告げた。シノにとっては、これが正しい別れの言葉だ。笑顔で手を振って船のデッキに向かう。泣くわけにはいかない。笑顔で別れたい。
「じゃあな、じいさん。世話になった。せいぜい長生きしろよ」
ローはデッキからヴォルフへ別れの言葉を告げた。ローらしい言葉ではある。船がゆっくりと動き出し、陸地から少し離れた時、ヴォルフが叫んだ。
「ロー!ペンギン!シャチ!べポ!シノ!これまで楽しかったぞ」
満面の笑みでそう叫んだ。心からの言葉だろう。その言葉に思わず泣きそうになった時、ローがデッキの柵を掴んで、体を乗り出した。
「ヴォルフ!!寂しくないわけがねぇだろうが!あんたと別れるのが寂しくないわけねぇだろうが!!ありがとう!ずっと、ずっと優しくしてくれて、ありがとう!離れててもあんたは俺の最高の友達だ!!」
ローの心からの言葉。最後の方はかすれていた。ローにとってヴォルフがどれだけ救いだったか。シノには計り知れない関係性があっただろう。操縦室からべポも飛び出してきた。全員が揃って、堪え切れない涙を手で抑えこむ。
「行ってこいガキども!!世界を知ってこい!自由を知ってこい!ワシはお前たちと過ごせて幸せだった!!!」
シノたちは涙を抑えるのをやめて、笑顔で腕を高く突き上げた。涙がこぼれていても関係ない。笑顔を見せたい、そう思った。そのまま船が再び動き出す。もう島の方は見ない。振り返らない。海賊として突き進むだけだ。
「ハートだ」
ぽつりと、ローが呟いた。
「俺たちは、ハートの海賊団だ」
冬島気候で珍しい快晴の日、こうしてハートの海賊団は結成された。彼らが北の海で名の知れた海賊団となり、懸賞金もつき、偉大なる航路に向かうのは、この日から数年後の出来事だった。
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