三年後
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「失礼しまーす、ロー、体調どう?」
「問題ない」
「だよね、良かった」
入院中のローの病室に入り、本を読んでいるローに近付く。元々ローは他の4人に比べれば傷は少なかった。胸に何かで殴られた後は残っていたが、それ以外は能力を使って避け続けていたのだろう。体力の消耗が激しかったのと、肋骨にひびが入っていたのと、一部内臓に損傷を確認されたが、命に別条があるものではなかった。とはいえ、肋骨のひびだって問題ないわけがないのだが、一応日常生活は送れるという意味だろう。
「皆無事で良かったよ」
「そもそもお前だって休むべきだろ」
「ペンギンと同じこと言ってるね」
「……」
皆シノを気遣ってくれるのはありがたいのだが、当のシノは本当に元気なのだ。申し訳ない程に。
「ボアケーノに吹き飛ばされただろ、あれは大丈夫だったのか」
「吹き飛ばされて壁に当たった時は痛かったけど大丈夫だったよ」
ぶつけた時の多少の擦り傷やあざはあるが、その程度で骨や内臓には何の影響もなかった。意外と体が丈夫なのか、当たり方が良かったのか。ぶつかった時は上手く息が出来なくて焦ったが、そのあとは普通に動けていた。
「ならいい。それで、何で今まで来なかったんだ?」
逃げられないようにシノの腕をぐいと掴まれた。口角は上がっているが、目は笑っていない。ベッドに座っている為いつもより目線が近くて圧が強い。本当にこの男は、目つきが悪いせいか、睨まれると正直怖い。しかし、顔は良いので近くで見ると眩しい。いろんな感情を飲み込んで、シノはぼそりと呟いた。
「……なんか来づらくて……」
「何やらかしたんだ」
「何もしてないよ!ただ敵と戦うなって言われてたけど、べポを守ろうとして攻撃受ける覚悟で刀構えたというか……でも結局べポに守って貰っちゃったけど……」
「なんだそんなことか」
確かに怒られるようなことは一切していないので当たり前なのだが、ローが呆れたようにため息をついた。
「仲間を守ろうとしたならしゃーねェだろ。俺はどうせ役に立たねーからって捨て身で囮とか危険な事するなって意味で言ったんだ。まぁペンギン達がそんなことさせる訳ねぇだろうが……むしろよくやった」
ぽんと頭を叩かれる。ペンギンの言う通りだった。誉められた。必死過ぎて何を考えていたかあまり覚えていないが、大切なべポを守ることだけを考えていた。三年間鍛えてもらっているうちに、精神面も少しは成長したのかもしれない。
「つーか俺はそんなことで怒ると思われてるのか」
「いや、怒らないとは思ってたけど、心配かけたくないなぁって」
「なかなか来ねェ方が心配すんだろうが!!」
「すみませんでした」
結局怒られたが、悪い気はしなかった。もっと早く来れば良かった。それからはさっさと先生からの確認項目はチェックし、ローの荷物整理を手伝った。明日には退院なので、私物を持ち帰る準備をしなければならない。と言っても、暇つぶしにとローに頼まれてシノが持ってきた本くらいのものだが。
「シノ、今回戦ってみて、どう思った」
「どうって……実戦経験は大事だなぁとか?」
正直、基礎的な戦闘力が見に着いたところで、それを生かせないと意味がないと実感した。圧倒的に力の差があれば別かもしれないが、そうではないのであればいろんな策が必要だ。実践では何が起きるかわからない。やはり場数を踏んで経験を積むことは大事だろう。
「とは言っても、そう簡単にあんな経験することないだろうけどさ」
「……そうだな」
難しそうな顔をして考え込むロー。求めていた答えと違っただろうか。それ以上ローは何も聞いてこなかった。何か一人で考えたいようだったので、適当に会話をした後、シノは部屋を後にした。
*****
「ひょー!久しぶりの我が家だぜ!」
「これでまたいつも通りだー!!」
翌日、6人は揃って家へと帰ってきた。一週間とはいえかなり長く感じられた。やっと安心して普通の生活が出来る。まずは掃除をするところからだなとぼんやり考えていると、ローとヴォルフが何やら会話して二人で外へ出ていった。
「ローさん達どうしたんだろうな」
「最近何か考えてたみたいだし何か相談してるんじゃないか?」
ローは何かがあるとまず最初にヴォルフに相談する。そこで頭の中を整理したうえで、シノ達にもちゃんと話してくれる。恐らく今回もそのパターンだ。ちゃんと話せる状態になったら、あとで話してくれるだろう。
その機会はすぐに訪れた。夕食を食べ終え部屋に戻ると、ローから話があると集められた。今回は何の話だろうか。先日の海賊との戦いに少なからず関係する話ではあるのだろうが。5人で円になるように床に座り、ローの言葉を待った。
「おれは、海に出る。海賊になって、経験を積んで、力をつけて、恩人の願いを叶える」
昨日、病院でローがしてきた質問はこの件から来たようだ。急に何の質問かと思ったがシノの中でようやく繋がった。そういう意味では、回答はズレてはいなかったのかもしれない。
淡々と、しかしどこか熱のこもったローの言葉に、誰も口をはさむことはなかった。ただただ、真剣に話を聞く。
「バッカと戦って、俺がやるべきこと、やりたいことをやりたいと思ったんだ。それで、本当の自由ってものを知りたい」
そのために都合が良いのが海賊、という事なのだろう。もちろん、バッカのような関係ない人間を傷つけるような海賊ではない。彼の思い浮かべる海賊はどういったものなのか。シノの両親を殺した海賊がどんな人間だったのかはわからないが、海賊と海兵が戦うこと自体は、それはそれで当然の流れなので、一概に悪い奴だったとは限らない。シノはそれぐらいしか海賊を知らないが、海賊というものはいろんな形があってもおかしくはないのかもしれない。
「ローさんが何か考えているのは分かってたし、海賊ってのはちょっとびっくりしたけど、取り乱したりはしないよ」
「おれは、一週間後に島を出る。で、だな……お前らはどうしたい?」
べポの言葉に頷くと、ローは今度はみんなに問いかけた。
「強制はしない。これまで通りここで過ごしたっていいんだ。ただ……その、なんだ……もしお前らが一緒に来てくれるっていうんなら……それは、すごく助かる」
ローは珍しく緊張しているのか、言葉を選びながら、慎重に話した。そんなに誘うのが照れ臭いのだろうか。それでも素直に話してくれたことは、4人にとってとても喜ばしい事だった。少し間をおいて、べポが手を上げた。
「俺、行くよ!俺もいつか兄ちゃんを探しに行きたいってずっと思ってたけど、ずっといつかって思ってて……だから俺も今!行く!俺もちゃんと俺のやるべきことを果たしたいんだ!」
「おれも行く!」
「おれもだ!」
ペンギンとシャチも続くように手を上げて主張する。二人も、ローについて冒険に出たい、熱くなれる何かに出会いたい、そう言って笑った。先日の戦いで彼らも何か思う所があったのだろう。大きな事件だったが、全員にとって少なからず大きな転機になったのは確かだ。
くるりと4人の顔がシノを見た。
「私ももちろん一緒に行くよ、行きたい」
「良いのか?海賊だぞ?」
「今回みたいなことが日常になるんだぞ?」
来て欲しいのか欲しくないのか。心配しているのはわかっているが、過保護な兄弟たちの言葉にシノは思わず苦笑する。周りに流されるのではなく、自分の意思かを確認しているのだろう。
「ローには前に言ったけど、知らない所でみんなが危険な目に遭ってる方がよっぽど怖いし。なにより、私はみんなと一緒にいたい」
あの日、ただ怖がるだけで何も出来ていなかったら、足手まといになるかもしれないと躊躇したかもしれない。しかし、ちゃんとべポを守るために立ち上がれたことがシノにとっては大きなことだった。もっと成長して、皆を助けたい。そう思えた。
「決まりだな、ローさん、俺ら皆一緒に行くよ」
「ああ、これからもよろしく頼む」
それだけ言って、その場は解散になった。寝る前に順番に風呂に入る間、それぞれが好きに行動していると、部屋でゴロゴロと本を読んでいたシノにべポが声をかけてきた。
「シノ、ちょっといいか」
「どしたの?」
「こないだ、俺がハーブティー淹れてる間、ローさん何か言ってた?」
べポの言葉に部屋をきょろきょろと見る。今、ローが風呂に入っているようだ。いないのを確認したうえで、座りなおし答える。
「何も。でも関係は有るんだろうね」
ローの過去はあまり知らない。ざっくりは聞いているが、恐らく肝心なところは話していない気がする。今日言っていた恩人の願いというものが何かもわからない。それでも、4人共ついて行くのだが。
「だよな。いつか話してくれるかな」
「そうだね、ずっと一緒にいるんだから、ゆっくり待とう」
「あぁ、俺らがローさん支えるんだもんな」
「うん、そうだよ」
3年前。二人で決めたこと。まだシャチやペンギンが住み始める前の事。まだまだ力不足ではあるが、いつか役に立てるように、ずっと一緒にいると決めたのだ。べポとシノは顔を見合わせて笑った。
その日の風呂はシノが最後だった。風呂上がりにさらっと風呂掃除も済ませ、風呂場を後にする。キッチンに寄って飲み物を飲んでから部屋に戻ろうと、水を取ってリビングに寄った時だった。誰もいないと思っていたリビングのソファにヴォルフが座っていた。
「うわっ、びっくりした!!おじいちゃん、どしたの?」
「シノお前にちょっと話があってな」
まぁ座れと促され、シノはヴォルフの横に座った。先にローが旅立つ話を聞いているのだ。その関連の話に違いない。ヴォルフは黙ってキッチンへ行くと、二人分の紅茶を持って戻ってきた。
「お前の両親はな、元々海賊だったワシをこの町に受け入れてくれた」
20年前の話だ。海兵だった両親が、町を襲った海賊団の一人だったヴォルフを捕まえたりしなかったことを言っているのだろう。しかし、ヴォルフは息子であるバッカ達を止める為、町を守るため戦ったのだから当然だろう。
「自分で見たものを信じる、そこに海賊だろうと海兵だろうと関係ないんじゃと。お前に似て真っ直ぐで裏表の無い、良い奴らじゃったよ」
「……そっか」
あまり聞いたことが無い両親の話に少し嬉しくなる。久しぶりに両親の話をした気がする。この三年間、その話をすることはほぼ無かった。
「……ローにも話したが、海賊の世界はおっかない。過酷な環境に心が荒むものも多い。じゃが、お前らなら大丈夫じゃろう」
「……うん、おじいちゃん、行ってくる」
「おう、気を付けていけ」
ヴォルフの言葉に、シノは黙って頷いた。本当はヴォルフとも離れたくない。ロー達よりも付き合いの長い、それこそ小さい頃から知っている本当の祖父のような存在だ。しかし、ヴォルフにはヴォルフのやりたいことがある。無理やり連れていけるものではない。
「正直、ワシだけではお前を真っ直ぐ育てられる自信は無かったんじゃが、ロー達が来て良かったわい」
「そんなことないよ、おじいちゃん、ありがとう」
「嫁にでも出す気分じゃな」
「まぁ似たようなもんかもね」
家を出ていくという意味では似たようなものかもしれない。それでも、自分の家はもうここだと思っているので、いつかは帰ってくるつもりなのだが。
「結婚する時はちゃんと報告に来い」
「け、結婚!?」
「なんじゃ、いつかするんじゃろ」
「いや、相手ありきの話だし……」
「ローならそのうち折れるじゃろ」
思わず紅茶を吹き出しそうになった。ギリギリのところで飲み込み事なきを得た。急になんて爆弾発言をし始めるのか。シノは真っ赤になってヴォルフを見た。
「いや、なんで、ローって、」
「見てれば分かるわい」
そう言われて考える。シノ自身もつい最近までまともに自覚していなかったのだが、やはりそうなのだろうか。何となくペンギンやシャチ達とは違う気はしていたが、そういうことなのか。三年前からずっと好きだったが、そういう意味だったのか。
「……でもローは違うよね」
「まぁ長期戦にはなるじゃろうな」
楽しそうに笑うヴォルフ。何故祖父のように思っている老人と恋バナをしているのか、全くもって謎だが、今までシノ自身半信半疑だったので、整理するためにはちょうど良かった。
「なに、いつも通り真っ直ぐ伝えておれば良い。ずっと一緒にいるんじゃろ、お前ほどいい女なんていないとあいつもそのうち分かるわ」
「それはさすがに親バカ過ぎない?」
「そうかもな」
どう考えてもローの性格を考えると、一筋縄ではいかない気がする。ちゃんと伝えていきたいが、気持ちを押し付ける気はない。意味合いは別としても、元々彼の事が好きだということは伝えていた。ヴォルフの言う通り、いつも通りがちょうどいいのかもしれない。
「まぁお前らがどうなるかはお前らの問題だから知らんがな。冗談はさておき、あいつはずっと過酷な運命を生きてきた。だからお前が、本当にあいつのことを大切に思っているなら、今まで通り、それを真っ直ぐ伝えてやって欲しい。あいつは少し自分を大切にしないところがあるからな」
「大丈夫だよ、私も、べポもペンギンもシャチもみんなローのこと大好きだから」
ヴォルフは、シノたちよりもいろいろと詳細を聞いているのだろう。これからも海賊になってもっと過酷なことが待っているかもしれない。それでもローはその道を決めて、シノ達もそれについて行くと決めた。絶対に彼を守って支えていくと決めたのだ。
「……楽しんで来いよ」
「うん、ありがとう、ちゃんと帰ってくるよ」
「そうか……まだまだ死ねんな」
「そうだよ、長生きしてよね」
そう言って、シノとヴォルフは笑った。
end.