三年後
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「べポ!!起きて!!」
「う~ん……」
シャチとペンギンがボアケーノと戦っている間に、シノは倒れていたべポの元へ駆け寄り、ぺしぺしと軽く叩いた。軽い脳震盪を起こしていただけのようだ。意識は戻っているようで、ゆっくりと目を開けた。
「大丈夫?動けそう?」
「……」
まだぼうっとしており、こちらの問いには答えない。ぼんやりと遠く見ている。シノはゆっくりとべポの体を起こした。その間も、べポの視線はぼんやりと焦点が定まっていないようだった。
「べポ……?どうしたの?」
何か様子がおかしい。脳震盪による眩暈等ではないように思える。背後で戦っているシャチとペンギンの苦しそうな声が聞こえてきて気が気じゃないが、この状態のべポを放っておくわけにもいかない。シノはべポの視線を追う。空……というよりは月、だろうか。見事な満月が煌々と輝いているおかげで、外もかなり明るく見える。白クマに、満月を見る習性等あるのだろうか。狼ならなんとなく物語の中で聞いたことがあるが。
「月が、気になるの……?」
「…………」
やはり返事はない。瓦礫の陰に隠れようにも完全に意思の疎通を取れないべポを運ぶのはシノには至難の業だ。どうしたものかと思った時、シャチの声が響いた。
「お前ら何やってんだ!?」
「のんびり月見てる場合じゃねえぞ!?」
慌てて振り返ると、完全にボアケーノのターゲットがこっちを向いている。座り込んでいるべポを狙う気だ。迎え撃とうしているべポならまだしも、この状態のべポがまた技を食らったら今度は脳震盪では済まない。シャチとペンギンの距離ではここまで間に合わないだろう。
シノはすぐさま近くに転がっていた刀を手に取り立ち上がった。べポを庇うように立ち、ボアケーノへと対峙する。深呼吸をして刀を構えた。人を傷つける勇気がなくて持ってこなかったが、3年間、ローに剣術を習ったのだ。突進してくると分かっている相手には、銃より刀を構えた方が可能性があるだろう。
前傾姿勢を取るボアケーノ。来る、そう思って刀を握る手に力を入れた。が、ボアケーノの動きが止まった。ボアケーノの視線は、シノではなく後ろのべポを見ているようだ。べポに何かあったのか。しかし、ボアケーノから視線を逸らすわけにはいかない。
「おい!!やめろ、シノ逃げろ!!」
「べポ!!早く起きてそこから離れろ!!」
「ふんっ!何か不気味なものを感じたが……そんなものは気のせい、このまま二人まとめてあの世に送ってやるでごわすっ!"発気宵"!!」
「「べポ!!!シノ!!!!」」
今度こそボアケーノがシノのもとへ突進してくる。最初に食らった技だ。最悪、一発くらいなら生き残れる。べポへの突進の緩和剤になればそれでいい。あわよくばあの勢いで刀が刺さってくれれば儲けものだ。
衝撃を覚悟して、刀を両手で突き出した時だった。ボアケーノが、目の前で止まった。刀は思惑通り刺さったようだが、半分にも達していない。シノのすぐ横に、白い毛で覆われた腕があった。
「べポ……?」
べポの右腕が、ボアケーノを止めたのだ。ボアケーノも想定外の事態に目を見開いている。
「アオオオオオオ!!!!」
大きな叫び声をあげるべポ。いつものべポではない。そう思った時には、べポの姿が変化していった。体がどんどん大きくなり、全身の白い毛が伸びていく。気づけばボアケーノよりも大きくなったべポの姿に、その場にいた誰もが固まってその様を眺めた。シノも刀から手を離し、隣に立つべポを見上げた。
「こいつはどうなってんだ……?」
「べポがでっかくなったって事しかわかんねェよ……けどこれに賭けるしかねェ!!」
「おい、シノ!今のうちにこっち来い!!」
「う、うん……!!」
二人のもとに駆け寄り、広げられたペンギンの両手に飛びついた。
「シノ、よく踏ん張ったな!」
「べポ、守らなきゃって思って……でもべポ、あれ大丈夫なのかな」
「わからん!けどとりあえず、今は見守るしかねェだろ」
大きくなったべポがひたすらボアケーノを殴る。いつものべポの打撃とは明らかに重みが違う。体が大きくなったからだけでなく、確実に攻撃力が上がっているようだ。しかしそう簡単にやれるボアケーノでもない。相手も張り手を繰り出し、互角の殴り合いが続く。お互い相手の攻撃を受けることなく相殺しあっているので、ダメージは受けていない。このままだと体力勝負になるのだろうか。
「お前ら油断するなよ、武器は構えとけ」
「おう!」
「わかった!」
シノもまたそこら辺にあった適当な武器を拾う。元々多勢の海賊達とここで戦っていたおかげで、海賊たちが落とした武器ならいくつか転がっている。
その間もべポとボアケーノの戦いは続いていた。べポを抱えて飛びあがるボアケーノ。そのまま地面に叩きつけようとしたようだが、べポはボアケーノを振りほどくと、逆にボアケーノを地面へ叩きつけた。ボアケーノよりも大きな体の体重をかけて叩き潰す。これはべポの勝ちだろう。
「ま、まずいでごわす、まずいでごわす……!!」
なんとかべポの下から這い出てきたボアケーノは、焦りながらべポから逃げる。べポを視界にとらえながら、逃げるように大きく後ろへ跳んだ。……後ろにシャチ達がいるとも気づかずに。
「なぁ、シャチ」
「なんだよ、ペンギン」
「なんか飛んでくるな」
「ああ、ぶっとばしたい何かだな」
にやりと笑い、二人が左右に分かれ、武器を構える。いまだに気づいていないボアケーノへ、それぞれの武器を振り上げる。
「いち、」
「にの、」
「「さんっ!!」」
ボアケーノの頭部に、二人の武器が命中する。そのままその場に倒れこむボアケーノ。完全に気絶しているようだ。
「まぁ、これくらい」
「おれたちにとっちゃ、当たり前」
「やったー!!!」
三人でハイタッチをする。まさか本当にあのボアケーノに勝てるとは。しかし、喜んでいるのもつかの間だった。べポが、止まらない。
「おいおい、あいつ敵を倒したことにも気づいてないのか!?」
「あれ、本能だけで動いてるんじゃないか?」
「えぇ!?このままじゃ神殿崩れちゃうよ!?」
とりあえずこちらへ向かってくることもないので、三人で思案する。ただ、ゆっくりはしていられない。そこらじゅうの壁や柱を壊して回っているので、このままでは、神殿が完全に崩壊しかねない。
「あのさ、べポずっと月見てたの」
「つーことは、月から隠せばいいのか?」
「まぁとりあえずやってみるか、シノいけるか?」
「あ、わたし?」
どう考えても一番身軽かつ元気なのはシノなのでしょうがない。最悪力づくで止めるとなった場合は、シャチとペンギンに頼らざるを得ないので、少しでも体力温存してもらわないといけない。
シノは二人の帽子を借りてとりあえず被る。まずはべポの頭にたどり着かなくてはならない。
「いくぞー!!」
「せーのっ!!」
二人に抱えられ、べポの背後から投げてもらう。二人の狙い通りべポの頭部にシノがしがみついた。あとはべポの両眼を塞ぐだけだ。
「べポ、ごめんね!ちょっと落ち着いてー!!」
シノはシャチとペンギンの帽子で、べポの両眼を塞いだ。数秒後、ぴたりとべポの動きが止まり、体もみるみるうちに縮んでいった。いつものサイズに戻るタイミングで、シノも地面に飛び降りる。やはりあの状態は月の効果だったらしい。べポ自身も知っているのかはわからないが、あとでちゃんと話を聞かなければ。
「おい、べポ!生きてるか!」
「ん……あれ、おれ、どうなったんだ?あいつは?」
べポもすぐに意識が戻った。ようやくいつも通りのべポに戻り、三人とも、胸をなでおろす。巨大化している間の記憶はないようだ。気絶した時から記憶が止まっているのだろう。きょろきょろとあたりを見回すべポ。
「ボアケーノは俺たちが倒しといた」
「え、まじかよ!?すげーな!!おれの拳法なんか全く効かなかったのに……」
「いや、お前は十分すげぇ仕事したぞ」
「ま、そうだな」
何も知らないべポに笑うシャチとペンギン。全部、嘘ではない。あとで、ヴォルフやローも含めてみんな揃ったら、ちゃんと説明してあげよう。シノもシャチとペンギンにつられるように笑った。
「でもまぁ細かい話はあとにしようぜ」
「そうだな、もうマジで疲れた」
「俺もなんかすげぇ疲れた……」
バタバタとあおむけに倒れていく三人。べポも記憶はなくとも、あれだけ暴れまわっていたのだ、相当な体力が削られたのだろう。強敵を倒し、一気に気が抜けてしまったようだ。しかし、あの扉の向こうできっとまだ彼らは戦っている。まだ、シノたちの戦いは終わりではない。ギリギリの状態で再び立ち上がるペンギン。シノも慌てて肩を貸した。
「……行こうぜ、ローさんとヴォルフのところへ」
「「「おう!!」」」
ふらふらの身体で奥の部屋へと向かう。途中で倒れているボアケーノが目に入ったので、三人に少し待ってもらって、念のためロープで縛り付けておいた。当分動くことはないと思うが、縛って置いて悪いことはない。もし動き出して奥の部屋に来てしまっては困る。
部屋を出て、しばらく歩いていくと、開かれたままの大きな扉があった。一本道なので彼らがいるのはここに違いない。戦っているような大きな音はしないようだ。広間に入ると、真ん中に、ローとヴォルフの姿が見えた。倒れているのはバッカだ。ローたちも無事、勝ったのだ。
「ローさん!ヴォルフ!」
べポが手を振りながら叫ぶと、二人がこちらを見た。4人の無事を確認して安心したのか、ローはホッとしたように笑った。
「ひでぇ面してやがるな、お前ら」
「ローさんだって、似たようなもんだよ!」
「おれの活躍見せたかったぜ!」
「みんな無事でよかった!」
「おつかれ、みんなー!!」
ちゃんとまた全員集合出来たことに喜び、6人でハイタッチをする。あんな絶望的な状況から大逆転できたのは、全てみんなの力のおかげだ。誰が欠けてもこの展開は起こりえなかっただろう。
その後は、あっという間だった。全員が体力の限界で倒れこんだ後、意識を取り戻した町の人たちが神殿へと押し寄せてきた。無事助けることが出来たことに安心する間もなく、町の人たちはラッドを中心に手際よくその後の処理を進めていった。海賊たちを縛り上げて海兵たちへ引き渡し、ローたちは全員病院に運び込まれた。
シノ以外は全員全治一週間の入院ということで、シノも泊まり込みで皆の看病をさせてもらった。先生と看護師さんだけで5人の対応をするには人手不足なので、シノは簡単な治療だけ施され、看病に明け暮れた。ちなみに、全員同じ部屋だと騒ぐからという理由で、それぞれ別の部屋に隔離されている。
「ペンギーン、調子どうー?」
「もう余裕で動き回れるっての」
「それは良かった」
順番に皆の部屋を回っていきペンギンの部屋へやってきたシノ。先生に言われた項目を確認し、ペンギンの容態を確認する。本人が言う通り、十分回復しているようだ。
「むしろお前も本当は休むべきだろ」
「私最初の攻撃しか受けてないし元気だよ?」
ペンギンの指示に従い、サポートに回っていたので、ボアケーノの不意打ちの攻撃以外まともに食らってはいない。ペンギンが、極力前線から遠ざけて守ってくれていたおかげだ。
「そりゃそうだが、体力とかメンタルとかあるだろ」
「それこそ皆のおかげで無事だったんだから、皆の看病している方がテンション上がるし元気出るんだよ」
「まぁお前がそういうならいいけどさ」
それこそこうして部屋に一人で閉じ込められていたら、皆が心配で逆に病んでしまいそうだ。無事回復している彼らを見るのが一番の精神安定剤だ。
「うん、ちゃんと明日には退院できそうだね」
「早く家に帰って皆でいろいろ話したいよなー」
「そうだねェ」
あれからすぐに入院したため、まだゆっくりとあの日の話が出来ていない。大活躍したペンギンやシャチはいろいろ話をしたいだろうし、べポは意識がなかった間の話を知りたいだろう。ローとヴォルフがどういう戦いを繰り広げたのかも知りたい。無事家に帰ったら、祝賀会をしなければ。今日は一人で家に帰って準備をするのもいいかもしれない。
「ペンギン、ありがとね」
「おう」
二度とこんな体験はないかもしれない、最初で最後かもしれない戦いの中で動けたのは、ペンギンのおかげだ。頼りに出来る存在がいたのはかなり大きかった。自分も守ってもらっているのだから、自分もべポを絶対に守るという勇気が出た。
「ありがとついでに、べポのこと庇ったの秘密にしてくれたり……」
「やだ」
「えー、いいじゃん!」
「いやむしろ秘密にする理由なくね?かっこよかったじゃんか」
ペンギンの言葉にむぅと黙るシノ。結果的には、べポを守るつもりが守られることになってしまったので、かっこよくもなんともないのだが。何も言わないシノに、ペンギンは呆れたようにため息をついた。
「あのなぁ、そんなことでローさん、怒らねェよ。むしろ誉める方だろ」
「そうだろうけど……」
「うじうじするくらいだったら、さっさと本人の所行って来いよ。ずっと避けて一回もちゃんと話してないんだろ」
「何で知ってんの」
「看護師のおねーさんに聞いた」
ローの部屋だけ、ずっと看護師の先輩に代わってもらっていた。それ以外はちゃんと当番制で回っていたので、先輩がペンギンに話してしまったようだ。何となく行きづらかっただけで、別に本当に怒られる等とは思っていない。
「避けてないもん……この後行くもん」
「お前ら仲良いくせに本当変なところで面倒くせェよな」
「私が一方的に面倒臭いだけだと思うけど」
「そう思うなら退院する前にちゃんと話してこい!!」
ペンギンに半分怒られながら部屋を出る。シノとしても、このまま退院するまで話さない訳にいかないとわかっている。今日は元から行く予定だったのだ。あくまで仕事として入って普通に会話をすれば良い。自分にそう言い聞かせ、部屋をノックする。中からローの声が聞こえたのを確認して、部屋のドアを開けた。