三年後
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ローとシノが外へ出ると全員既に揃っていた。皆と合流し、ヴォルフのバギーで彼の研究所へ向かう。なんやかんやでこの三年間一度も入ったことのないそこは、割と家からすぐ近くだった。何もない広い更地の前でバギーから降ろされる。ヴォルフはその真ん中の地面にある金属製のドアを開いた。こんなところにヴォルフの研究所は隠されていたようだ。
「すげー!秘密基地みてぇだ!」
「急な階段になっておる。転ばないよう気をつけろ」
わくわくしているべポたちとは裏腹に、シノはそろそろと降りていく。確かに秘密基地の様だが、わくわくするというより、少し怖い。階段から転がり落ちても良いように、念のためべポの後ろを歩いた。螺旋階段をずっと降りていくと、いわゆる研究室と言われて想像するままの光景が広がっていた。よくわからない装置や発明品が置かれているが、さっぱりわからない。ただ、ローやべポが目を輝かせているのがわかる。こういう時、男女差を感じる。
「じいさん、本当に発明家だったんだな……」
「当たり前じゃ!お前らワシをなんだと思っとたんじゃい!」
実際いろいろ怪しい発明品をいくつか見てきたので発明家であるとは認識していたが、ここまで本格的にやっていたとは思わなかった。ヴォルフは何やらローに指示して、一本の刀を持たせている。バッカとの戦いに必要なものらしい。ローは元々刀を得意としているのでちょうどいいだろう。
そのまま、ヴォルフに案内され奥の部屋へと進んでいく。またしても階段があり降りていく。先ほどとは違い木で出来た階段はぎしぎしと軋んでいる。どんどんけられて急に眩しくなった。よく見ると洞窟上になっており、す暗くなって視界が遮られていくが、その分、何かの匂いを感じた。潮の香りだ。海の近くまで来ているのだろうか。
ヴォルフによって電灯がつくと、そこには海が見えた。特殊な島の構造をしており、島の地下はこうして海が繋がっているらしい。実際に見たのは初めてだ。しかし、ヴォルフが見せたかったのは海ではなく、その海に浮かんでいる巨大の黄色い船のようだ。
「でけぇ!!」
「ガラクタ屋、この船はもしかして」
「これこそが天才発明家ヴォルフの発明品、潜水艦・花マル無敵号じゃ!」
「「「「名前だっせえええ!!」」」」
4人の声が重なる。どうやらただの船ではなく、潜水艦らしい。これでどうバッカを倒しに行くのかはわからないが、促されるがままに、中へと入った。船については全くわからないが、いろんな計器がついており、恐らく張りぼてではなく本物であるという事だけはわかる。シノ以外の4人がはしゃぐのも頷ける。下手に触って何か起きても怖いので、シノは何もないところにちょこんと立ち尽くした。
「どうじゃ!わしの偉大さが分かったか!」
「それはいいけどよ、あいつらは陸のど真ん中にいるんだぞ。この船でどうすんだ?」
「こいつの馬力を甘く見るなよ!船を動かすぞ、どこか捕まっとれ!」
シノは近くにあった座席に座った。シャチ達ははしゃぎながらまだきょろきょろと見回っている。ヴォルフがエンジンをかけるとキイイインと耳をつんざくような音が鳴り響く。潜水艦のスクリュープロペラの音らしい。そのまま船は動き出した。大きな音を立てて海の中へ沈んでいく。先に述べた通り、スワロー島は大部分の地下が海に繋がっている。このまま神殿の近くまで移動していこうということか。とはいえ、研究所とは違い、神殿には地下から地上への階段等無い。近くまで行ける事には行けるが、それだけだ。
「おい、じいさん、結局どうするつもりなんだよ」
「そろそろじゃな……ちょうどこの真上に、バッカたちのいる神殿がある」
「だから!結局陸に上がって攻め込むんじゃ意味ねェだろうが!」
ここから一番近い陸に上がれる所を探すとなると、やはり神殿からは少し外れてしまう。町の人たちとの戦いは避けられないだろう。しかし、ヴォルフは楽しそうにこちらを見ている。
「陸に上がるつもりなんぞ端からないわい。こいつはな、世界で最も硬い金属のひとつで造られておる!それこそ、どんな硬い岩でも山でもぶち破れるほどの頑丈さを備えておるんじゃ!」
「おいまさかそれって……」
嬉しそうに説明をするヴォルフ。これぞ発明家という生き物なのだろう。自信作の性能を見せることのできるこの状況に浮かべる、その生き生きとした表情は嫌な予感しかしない。
「シートベルトを着けておけよ、お前たち。このまま上昇して、大地を割るぞ」
「は?」
「冗談だよな?」
「「嘘だろおおおおおお!!!!!」」
シャチとペンギンが叫ぶ。全員着席してシートベルトをし覚悟を決める。先ほどとは比べ物にならない大きな音を鳴り響かせながら、潜水艇は浮上していく。そして、なにかにぶつかったような巨大な衝撃とともに、船は神殿内部に到着した。窓から覗くと海賊の一般兵たちがうじゃうじゃと居る。突然現れた謎の船に、当然ながら混乱しているようだ。
「びっくりした~……!!」
「なかなか楽しいシチュエーションになったじゃねェか」
「ここまで来たらやるっきゃねえよな!!」
「神殿着く前に死ぬかとおもったぜ」
「全くだ!!」
これから敵地に飛び込むというのに、笑いが止まらない。シートベルトを外し、ドアの前に立つ。
「足を引っ張るなよ、お前たち!!」
「こっちのセリフだ、ガラクタ屋!!」
ヴォルフが開けたドアから一斉に潜水艦から飛び出す。
あたりには混乱しているとは言えど、5,60人はいる。こちらが6人なので、単純計算で一人当たり10人は相手をしなければならない。前回のように不意打ちが効くとは思えないが、シノも来たからには仕事をしなければ。幸いにも、広場にいた強そうな男2名はいない。
「シノ、お前は敵の武器を狙え!俺が敵を薙ぎ払う!」
「わ、わかった……!!」
ペンギンの指示に頷き、シノはヴォルフに貰った銃を構える。一斉に海賊達のもとへと駆け出して行った仲間たちと少し距離を取ったまま、ペンギンの前にいる相手の武器を狙う。人に当てないギリギリを狙いつつ、深呼吸をして的確に当て、壊せる武器は片っ端から壊していく。当然、何発も外したが、銃弾は多めに持ってきている。それに、人に当てるよりも気持ち的にかなり楽だ。
仲間たちの活躍により、あっという間にその場は片付いた。シノも実践で少しでも役に立てたことにホッと一安心する。
「よっしゃ、楽勝!!」
「訓練の成果ってちゃんと出るもんなんだなぁ……」
「この調子で親玉までぶっ潰そう!!」
べポ達も、広場での乱闘も含め、実践は今日が初めての為、自分達の実力に感動しているようだ。
「ペンギン、私も役立ててた……!?」
「おう、この調子で頼む!」
「了解……!!」
ペンギンに出された両手にハイタッチをする。しかし、問題はここからだ。下っ端の海賊たちは元々問題ではない。あの二人を何とかしないと勝ちではない。
「このまま奥の部屋まで一気に駆け抜けるぞい!あいつらをこれまでの相手と同じようには考えるな!」
「よし、行くぞ!」
ヴォルフとローの言葉に全員気合を入れなおし、頷く。ローが次の部屋へと続く扉を開けた、その時だった。
「発気宵!!」
突然大きな声が聞こえた瞬間には、巨大な何者かに吹き飛ばされていた。部屋の端の壁にぶつかり、体に衝撃が走ったせいで、一瞬息が出来なくなった。急な痛みに耐えながら周りを見ると、ペンギン、シャチ、べポも同じように吹き飛ばされていた。
シノたちを吹き飛ばしたのは、コニー・ボアケーノ。ヴォルフに聞いた話だと、船長のバッカの次に強く、他の海賊達とは別格の強さらしい。まわしを締め、ちょんまげを結ったいわゆる相撲取りのような大きな男が、部屋の真ん中に立っている。ローとヴォルフは今の攻撃を上手く避けたらしい。こちらへ走ってこようとしたローを、ペンギンが手を突き出して静止した。
「ローさん!ヴォルフと一緒にバッカを倒してきてくれ!この相撲とりは俺たちが引き受ける!!」
6人掛かりでボアケーノをやれば勝てる確率はかなり上がるだろう。しかし、奥には敵の大将であるバッカがいる。バッカとボアケーノが揃って連携されたらどうなるかわからない。こちらも連携には自信があるが、向こうはこちらが生まれる前から海賊として連携を取っているはずだ。一人一人相手をした方がまだマシな可能性がある。ペンギンの判断は正しい。ローもそれを分かっているからこそ、駆けだそうとした足を止め一瞬だけ苦しそうに悩んだ。
「……べポ!シャチ!ペンギン!シノ!お前らを鍛えたのは俺だ!そんなやつに負けたら承知しねェぞ!」
「「「「了解!!」」」」
ローの言葉に全員で返事をする。任されたからには仕事を全うしなければならない。走って次の部屋へ行くヴォルフとローを四人は静かに見守った。
走っていくローとヴォルフを見守った4人。ボアケーノも親切にも向こうを追うようなことはしなかった。それほど、バッカの強さに信頼を置いているのだろう。
「お前ら、無事かっ!?」
「問題ねェ!」
「大丈夫だぞ!」
「私も!!」
この4人が揃えば必然的に司令塔は最年長のペンギンとなる。全員ペンギンの言葉に応えるように立ち上がった。正直、自信をもって大丈夫と言い切るには体が痛いが、動けないほどではない。しかし、一瞬で四人一気にこの距離まで吹き飛ばすとは相当な強さだ。極力攻撃は受けない方が良いだろう。
「雑魚4匹狩るだけとは楽な仕事でごわす!あとで全員まとめて売り捌いてやるでごわすか!喋る白クマのガキに、女のガキもそれなりの値がつくでごわすよ!」
そう言って下品に笑うボアケーノ。人間の売買は法で禁止されているのだが、海賊なのでそういった伝手もあるのだろう。もし本当に売られるのだとしたら、シノ達なんかよりローがまずい。いつか話して貰った悪魔の実とやらの能力の件がある。元々負けてやる気はなかったが、一層絶対に勝つ以外の選択肢がなくなってしまった。
「絶対負けるわけにはいかないけど……」
「だけど、あいつ、ただのデブじゃねェぞ」
「あぁ……重くてしかも早い」
「散り散りになって攻めるぞ!!」
ペンギンの言葉に全員がボアケーノ取り囲むように散る。あの重さとスピードでは止めることは出来ない。全員一気にやられないよう連携して戦うべきだ。指示はないが、あの三人が攻撃に出た時に状況に応じてサポートをする。シノの銃や体術ではあいつには傷一つ付けられない。敵を倒すことではなく、仲間のヘルプに徹しなければ。
「アイア―イ!まずは俺が相手になるぞ!かかってこい、この百貫デブ!」
べポが相手を挑発する。恐らくべポが気を引いて足止めしているうちにシャチとペンギンがダメージを入れようとしているのだ。
「白クマ……それは相撲取りに対する最大の侮辱!貴様から肉片に変えてやるでごわすううう!!!」
べポの発言に怒りを露にするボアケーノ。まんまと挑発に乗り、べポに襲い掛かる。べポは突進してきたボアケーノへ、回し蹴りを叩きこんだ。……が、効いていない。攻撃自体は当たっていたが、ボアケーノの体が、ぶ厚すぎてダメージが一切通らない。
「べポ!!」
「食らうでごわす……"怒洲恋"!!」
「うあっ……」
「シャチ!ペンギン!」
ボアケーノの怒洲恋という名の強烈な張り手攻撃に、べポが一撃で倒れた。既に攻撃態勢に入っていたシャチとペンギンも一時撤退しようとしたが、その隙を逃さなかったボアケーノの張り手に吹き飛ばされた。彼らだけでなく、近くにあった神殿の柱や壁も壊されていく。このままでは隠れて機会をうかがうことも出来ない。戦略的にも苦しくなる一方だ。どう戦うべきかと考えていた時だった。ボアケーノの攻撃により柱が崩れたせいか、神殿の天井が崩れてきた。
「シャチ!!」
シノは咄嗟に走ってシャチに飛び掛かる。何とか崩れた天井の瓦礫を回避した。天井の崩壊は止まったようだが、一部完全に外が見えている。外を見ると、既に月が昇っていた。今、何時頃なのか。住人達のタイムリミットまであとどれくらいなのか。
「二人とも大丈夫か……」
「大丈夫ー……」
「シノ、悪ィ、助かった……」
これが本物の海賊というやつなのか。当然なのだが、シャチ達よりも圧倒的に戦い慣れている。いくらこちらが工夫をしたところで、簡単に対処されてしまう。
「まずいなこりゃ……べポの攻撃が効かないってなると、俺らが倒すしかないぜ」
「でも私たちの武器でも普通にやってたら攻撃通らないよね」
「しかも、もう一回攻撃を受けたらお陀仏だな」
これが絶体絶命というやつか。崩れて床に転がっている瓦礫を持ち上げてぶつける等が出来れば良いが、さすがにそんな怪力こちらにはない上に、そんなことをしていたらあのスピードで止められてしまう。不意打ちでなければ意味がない。
「でもまぁ、諦めるってわけにはいかねェよなぁ……!」
「当たり前だ、ここでやられたんじゃ、じいさんとローさんに面目が立たねェ……!」
「そりゃそう……って、二人とも大丈夫!?」
立ち上がろうとする二人をシノは慌てて支える。先ほどの攻撃を受けたせいで二人とも既にふら付いている。対して向こうはまだまだ無傷も同然だ。一度離れて立て直し……をするような時間はない。放って置けば確実にロー達の方へ行くだろう。それだけは避けなければならない。
「惨めでごわすなぁ。ヴォルフにたぶらかされた結果、お前たちは苦しんで死んでいくのでごわすよ!惨めな老人とガキども、笑いが止まらんでごわすなぁ!」
ボアケーノの言葉に、ぴくりと反応する。ヴォルフは元々この海賊団にいたのだ。ボアケーノとヴォルフが知り合いなのは当然なのだが、そのうえでこの発言をするのか。しかも、よりにもよってヴォルフに助けられた3人に対して。
ペンギンが一歩前へ出る。
「……ヴォルフをバカにするなっ!じいさんは、親に死なれた俺たちを育ててくれた……本当の子どもみたいに優しくしてくれた……その人をてめぇなんかが笑うんじゃねェ!!」
「お前たち、親なしでごわすか!一層あわれでごわす!本当のこども?馬鹿言ってるんじゃないでごわす!ヴォルフはただ、お前たちを労働力として使っていただけでごわす!お前たちは結局誰からも愛されなかったんでごわすよ!」
ボアケーノが爆笑する。何も知らないくせに勝手に盛り上がり、わざわざペンギン達の地雷を踏みぬいていく。一緒に旅をしている間、この男はヴォルフの何を見ていたのか。
「シャチ、シノ、」
「ん?」
「おれは、キレたぞ。意地でもあいつをぶっ倒すぞ」
「ああ、俺も同じだ」
「そうだね」
動揺は一切ない。ただただヴォルフをバカにしたあの男への怒りしかない。
「シャチ、行くぞ。シノ、お前はべポ叩き起こしてこい」
「「おうっ!」」
シャチとペンギンがボアケーノへ飛び掛かる。距離を取りつつ、相手の攻撃より先にとにかく武器を叩きこんでいく。もうあの二人を心配する必要はない。シノはシノの仕事を全うするため、倒れこんでいるべポの元へと走った。
To Be continuity...