三年後
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「貴様らー!このプレジャータウンで横暴を働くことは、この私が許さんぞ!!」
「ラッドさん!?」
突然、何者かによって襲われたプレジャータウン。仕事終わりにこの事件に遭遇したロー達は、現状を把握し対処するため、広場の様子を伺っていた。
この町の駐在のラッドが広場へやってきたようだ。職業柄、騒ぎがあれば当然くるだろう。ラッドは海賊の船長らしき男と会話をしている。あの海賊の名前は、アルトゥール・バッカと言うようだ。ラッドとバッカの会話に聞き耳を立て、何となく話が分かってきた。どうやら20年前にもあの男はこの町を襲った事があるようで、ラッドとも顔見知りのようだ。20年前ではシノは生まれていないので、当然身に覚えはない。
「ローさん、ヴォルフには連絡してきた。すぐ向かうって」
「わかった」
美容院に行ったペンギンが走って戻ってきた。その言葉に、ローはこくりと頷き、また広場の方へ耳を澄ませる。
海賊達は偉大なる航路を目指してその道中に他の海賊達に敗北し、休息をとるためにこの町へ来たらしい。もちろんそれだけのためではなく、スワロー島の財宝を探しているようだ。どうやらどこかの海賊がこの島に財宝を残したらしい。そんな事で海賊に狙われることになるとは。いい迷惑だ。
そこまで聞いた時、ラッドの叫び声が響いた。シノからはローに塞がれて、広場の様子が見えないので全く状況はわからないが、襲われているのは確かだろう。
「ロー!!!」
「…………」
よく見知った人が襲われていて放っておけるわけがない。さすがのローも飛び出そうと動き出した時だった。
「そこまでじゃあっ!!!!」
「おじいちゃん!?」
聞きなれたヴォルフの声が広場に轟いた。呼んだとは聞いていたが、まさか堂々と飛び出すとは。この早さで来たということはバギーに乗ってきたのだろう。
「てめぇ……まさか親父か!?」
「久しぶりじゃのう、バッカ。とうの昔にくたばっておると思っておったわい」
その言葉に、全員が息を呑む。バッカは、ヴォルフに対して親父と呼んだ。四人がシノの方を見るので、首を横に振る。何も知らない。少なくともシノが生まれた時にはいなかった。先ほどの話の通り、20年前にこの町を襲って以降、この町を離れていたのだろう。
「ひでぇ親父だぜ!!」
「20年前にも伝えたはずじゃ、お前とは親子の縁を切ると」
どうやらその20年前の事件が起きるまでは、ヴォルフは息子の海賊船に乗っていたらしい。通りで普通の老人とは思えない強さや体力を持っていたわけだ。
20年前、この島に金品を奪いに来たバッカ。それを親として止められなかったことに罪を感じ、ヴォルフは船を降りてこの島に再度定住することになってからも、町から離れたあの場所に住み続けていたらしい。
「あんたは俺の敵だ!立ちはだかるやつは誰であろうとすり潰す!!」
元親子の会話は終わったらしい。当然良い方向に進むわけもなく、バッカは自分の武器であろう2本の棍棒を構える。それに対してヴォルフも銃を構えた。
「俺たちも行くぞ!!」
「「「「おぉ!!」」」」
ローの合図で、全員でヴォルフ達の元へと駆け出す。当然、そこら中にいる海賊の手下達がそう易々と通してくれるわけもない。だが、手下たちだけなら、ロー達の敵ではない。ただ仕事をしに来ていただけなので、訓練に使っている武器は持っていないが、体術で蹴散らしていく。
「シノはラッドを頼む」
「わかった!!」
ロー達の影に隠れ、シノはどうにかラッドのもとへ向かう。ローは親玉と、ベポたちはそれ以外の周りの海賊達とやり合うようだ。シノはラッド含め、この場にいる町の人たちを出来るだけ逃さなければ。
「ラッドさん!動ける!?」
「うぅ……」
意識はあるようだ。苦しそうに咳き込んでいるが歩けないことはなさそうだ。パッと見、血が出るような外傷もない。
「あっちの路地まで移動するよ!!」
ラッドの腕を肩にかけ支え、移動する。身長が足りないず、ちゃんと支えきれないので、意識があり歩ける状態で良かった。ペンギンが道を作ってくれているので、なんとか敵のいない道を通り、路地へ向かう。途中、ヴォルフのやられる声が聞こえたが、振り返っている暇はない。そう簡単に死ぬ人じゃないと分かっている。なんとか路地裏に辿り着き、近くにあった店の裏口から中に入り、店の人にラッドを預けた。
「ラッドさん、私いくから!!」
「シノも危ないからここにいなさい……!」
「そうもいかないよ!」
ロー達が戦っているのに放って置けない。それに他にも町の人がいるかもしれない。戦えなくても逃がすくらいのことはできる。ラッドの静止を振り切り、シノは店を出て広場へ飛び出した。
「ガキ、お前もあいつらの仲間かー!?」
「!!!」
パッと広場に出た瞬間、ちょうど海賊と鉢合わせてしまった。へらへらと笑ってこちらを見ている。一番近いペンギンと目があったが、それでも少し距離がある。そもそも向こうは向こうで大勢相手にしているのだ。助けを待っている場合じゃない。シノは覚悟を決めて海賊に向き直った。子供と思って完全に油断しているうちに先手必勝だ。
「ごめんなさい!!」
「うっ!?!?!?」
ガンと男性の急所を蹴り上げる。前屈みになって悶えている間に、ヒールを脱ぎヒール部分で頭を全力で殴りつけた。当たりどころが良いのか悪いのか、無事気絶して倒れてくれた。こういう時のために、歩きづらいヒールをわざわざ履いているのだ。……正直役に立つ日が来るとは思っていなかったが。
ちゃんと気絶しているか、念のため確認しようと屈んで男の様子を見た時だった。ローのいる広場の真ん中の方から、青白い光が飛んできた。何事か。よく見るといつのまにか周りに立っている敵の姿がいなくなっている。ペンギン達が倒したにしては転がっている敵の数が足りない。
「ペンギン、何があったの……きゃあ!?」
「シノ!?」
シノは突然背後から何者かに刀で斬りかかられた。多少かすったが、なんとか転がり避けた。敵がいなくなって手が空いていたペンギンが、シノに駆け寄ってくる。
「え………?」
目の前に立っていたのは、元々の家の近所に住んでいたおばさんだった。その手には、先ほどシノを襲った刀を持っている。親切にしてくれていたおばさんが何故。衝撃のあまり、手が震える。
「よく見ろ!どう考えても正気失ってるだろ!操られてんだ!!」
「あ、そ、そっか……」
震える声で答え、ペンギンの手を取りなんとか立ち上がる。腰を抜かしている場合じゃない。動揺している場合じゃない。周りをみると、町の人々が同じような状態になっていた。遠くでローが取り囲まれている。その中には先ほどまで一緒にいた診療所の先生の姿もある。
「……逃げよう、ペンギン!」
「……そうだな。俺、バギー取ってくるから、ベポはじいさん回収してこい!」
「俺はローさん呼んでくる!シノはペンギンと行け!」
「うん!!」
シャチがローの元へ走っていったのを確認し、シノはペンギンを追いかける。この状況ではどう考えてもこちらが不利だ。町の人は心配だが、今は引くべきだ。各自目的に向かって走る。町の人たちには危害を加えないようとにかく避けながらバギーに乗り込み、ベポとヴォルフを回収する。ペンギンが運転席に、ベポが助手席に乗り、シノはヴォルフを抱き抱えて後ろに乗った。ローとシャチも飛び乗ってきて、急ぎ家へと向かう。後ろに4人は少々窮屈だがしょうがない。
「スピード出してくぜ!みんな落ちるなよ!!」
*****
町が海賊に襲われ、一旦家に戻ってきたシノ達。とりあえず戦いで汚れてしまったため、順番にシャワーを浴びることになり、シノは一番最初に入らせてもらった。見知った町の人々に襲われた時はかなり動揺したが、お湯を頭から浴びて少し冷静になってきた。ペンギンが言った通り、どう見ても正気ではなかった。何かされたのだろう。あれが昔、ローが言っていた悪魔の実とやらの力なのだろうか。
シャワーの順番が詰まっているので、早めに切り上げ、汚れていない動きやすい服に着替える。
「ロー、次どうぞ」
「あァ」
びしょびしょの髪をタオルで拭きながらローに次を促す。ヴォルフはまだ気絶しているが、ロー曰く軽い脳震盪なのですぐに目を覚ますだろうと言っていた。ソファに横たわるヴォルフへ念のためタオルケットをかけた。
最後にシャワーを浴びたシャチが出てくる頃には、ヴォルフも目覚めていた。全員分の紅茶を用意し、会議を始めることになった。しかし、あまりに急な出来事だったため、何から話すべきかと誰も口を開かない。最初に口を開いたのは、ヴォルフだった。
「迷惑かけたな、お前たち」
「……あの連中はなんなんだ?あんたとバッカってやつはどういう関係なんだ?」
「うむ……バッカはワシの実の息子じゃ」
バッカ。あの海賊たちの船長だと思しき人物は、その発言の通り、ヴォルフの息子だったようだ。この町に住んでいた頃から盗みや喧嘩を繰り返す気性の悪い男だったバッカは、25年前に海賊になるため海に出たらしい。そして、父親であるヴォルフも、経験を積んで落ち着くのであればと監視の意味も込めて一緒に海賊として旅に出たのだった。
「バッカは穏やかになるどころか、どんどん歪んでいった。そして、デロデロの実を食べたことで、やつの残虐性は取り返しのつかないものとなった」
「デロデロの実……やっぱりあいつ悪魔の実の能力者か」
「そうじゃ。悪魔の実のおかげでバッカの海賊団は勢力を増し、偉大なる航路に挑むための準備でスワロー島へ寄り、町を襲った。ワシはその時に一味を抜けたんじゃ」
昔、シノが生まれる前に一度プレジャータウンが滅びかけたという話は聞いたことがある。それがどうやらバッカ達のせいだったようだ。ヴォルフはバッカと戦い町を守ろうとしたが、それでも死人が出てしまった。その騒動後、どうにか復興は出来たが、ヴォルフは責任を感じて町には住まず、この家に一人で住みだしたようだ。そして、今回のことにも当然責任を感じているだろう。今まで見た中で一番落ち込み弱り切ったヴォルフの話に、誰もが何を言えば良いか悩み黙り込んでいた。そんな中、ローが口を開いた。
「ガラクタ屋……おれは戦うぞ」
ヴォルフを真っ直ぐとみるローは覚悟を決めた目をしている。勝てるか勝てないかは問題ではない。今、あの町を救えるのはロー達だけなのだ。ここで何もしないという選択肢は、彼の中にはないのだろう。
「あんたが何を考えてるのかは分からねェが、俺のやることは決まってる。こいつらと一緒にもう一度町へ行って、バッカと連中を叩き潰す」
「ロー……」
「あんたはどうする。このまま家にひきこもろうと責めたりはしない。だけど、今しかないんじゃねェのか、今度こそ町の人たちを守って、背負っちまった罪悪感から解放されるチャンスは」
以前の騒動も悪いのはバッカであってヴォルフが罪悪感を背負う必要はないのだが、それを決めるのはヴォルフ自身だ。彼が背負ってしまったものは、彼にしか降ろすことは出来ない。それが分かっているからローはこうして背中を押しているのだろう。
「ふんっ、お前に言われずとも、ワシは逃げたりなんぞせんわい!」
「決まりだな。問題はどう戦うかだ」
「そのデロデロの実、だっけ?それってなんなんだ?」
「まぁ簡単に言うと、食った者を溶解人間にする」
「ようかい……?」
自分の体を自由に液体化できる人間。つまり普通に殴ってもダメージは与えられないようだ。そんな人間をどうやって倒せばいいのか。バッカを倒さないとこの町に平和は訪れない。
「待って、町の人たちが操られてたのは?あれも能力でしょ?」
「他人を操る光線じゃ。あいつの光線を浴びた者は、心を溶かされ、やつの意のままに操られる。極端な話、やつが死ねと命じれば、自死させることも可能じゃ」
「悪党には似合いの能力だな」
攻撃が通らないだけでも厄介なのに、そんな能力まで持っているとは。悪魔の実とはどれほどチート能力なのか。ローの能力も相当なものだが、いろいろな方向性の能力があるようだ。シノたちも浴びないように気を付けなければ。特にローやヴォルフが浴びてしまったらもう作戦どころではなくなってしまう。
「厄介なのは、光線を食らった人間は、24時間で死亡する」
「「「「「え!?」」」」」
5人の声が揃う。町で戦ってから4時間くらいは経っている。あと20時間くらいしか猶予がない。
「心という形のないものでも溶かすことができる。そして24時間で完全に心は溶け切ってしまう。そうなればもう何をしても助からん」
人間としての身体能力の死亡というよりは、心や意思を失い廃人状態になり戻る術がないというの方が近いのかもしれない。町の住人たちを助ける為には、残り20時間以内にバッカを気絶させるか殺すかの二択。しかし、バッカがいるのはヴォルフとローが調べたところによると、町の中心に位置する神殿の中のようだ。準備をして町へ戻り、神殿までの間にいる操られた住人たちを傷つけないよう抜けていき、神殿の中でバッカを打ち倒す。時間制限がある中で、普通に考えればかなり厳しい。
4人でちらりとお互いの顔を見るが、何かアイデアがある者はいなさそうだ。
「あ、思いついたわい」
「何をだ?」
「そうじゃ!この手があったわ!お前ら、すぐに準備をしてワシの研究所へ向かうぞ!」
そう言ってヴォルフは自分の部屋へすっ飛んでいった。妙に自信のありそうな笑みを浮かべていたところを見るに、相当良い手を思いついたのだろう。ヴォルフがそういうのであれば、と各自自分の武器を取りに動き出す。シノもヴォルフに作ってもらった護身用の銃を手に取った。実は、一応常にカバンにいれて持ち歩ていたので、先ほどもシノだけ武器を持っていたのだが。今回はカバンを持っていくわけにはいかないので、ポケットに突っ込んだ。使わないで済むのであればその方が良いが、念のためだ。
「シノ」
「ロー?」
急に声をかけられてびくりとしてしまった。慌てて振り返ると、ローがすぐ近くに立っていた。もう準備を終えたのだろうか。
「お前、大丈夫か」
「あー……正直、大丈夫じゃないし凄く怖いよ」
ローの問いに笑いながら答える。少し落ち着いたとは言え、怖くないはずがない。自分の身に危険が迫るような経験なんて初めてだ。町でラッドを助けに行くために広場に飛び出した時も、勢いとよくわからないテンションで乗り切ったが、内心怖くて震えが止まらなかった。これからまた自分たちの命を狙うような人間だらけの所へ行くと思うと怖くて仕方がない。しかし、そんなものは初めてなのだから当たり前だ。
「じいさんにはああ言ったが、お前はここにいても」
「怖いけど、行くよ。ここにいて、知らない所でみんなが危険な目に遭ってる方がよっぽど怖いから」
一人にされる方がよっぽど怖い。言葉には絶対に出さないが、もし死ぬのならみんなと一緒に死にたい。シノはにっこりと笑ってみせたが、若干ひきつっている気がするし、手だって震えている。だが全て本心だ。ローの言葉が、彼なりの優しさだとはわかっていても、受け入れることはできない。
「……守れるかわからねェぞ」
「これでもちゃんと三年間鍛錬してもらったんだよ」
まさかここまでの事態が起きるとは思っていなかったが、こういう時に使わずにいつ使うのか。べポ達であれば、こんなことを聞かれることはない。仲間として戦力として、信頼できる域に達していないからだろう。こんなことをわざわざ聞かせてしまったことが申し訳ない。それでも、船長クラスの海賊達でなければ、身を守ることくらいは出来る。もちろん敵の戦力を減らすことが優先だが、それ以外でも役に立てることはあるはずだ。
「足は引っ張らないし、一緒に戦わせてください」
シノは深々と頭を下げた。既にバレているとは思うが、出来るだけ不安な顔を見られたくなかった。表情は見えないが、頭の上からローのため息が聞こえた。ぐいと頭を押すように手を置かれた。
「……絶対に危ない事はせずに、べポ達から離れるな」
「うん、わかった」
「お前はまだ敵と戦うなよ、戦わなくても出来ることはある」
「わかってる」
「お前もべポもシャチもペンギンも、全員生きて町の人たちも助けるぞ」
「ローとおじいちゃんもね」
ローの手を押し返し、頭を上げてローの顔を見る。当然死ぬ気はないだろうが、ちゃんと約束しておかないとあの二人は性格的に危なっかしい気がする。
「当たり前だろ」
ぐりぐりと頭を撫でられ、二ッと笑いあう。シノもローも笑ったせいか、少し力が抜けたのが分かった。プレジャータウンの皆の命がかかっているということもあり、かなり気が張っていたようだ。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
To Be continuity...