三年後
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ロー達と生活し始めて早いもので三年が経った。三年も経つと、この生活にも仕事にも慣れてきて、毎日充実した日々を過ごしていた。
そんな平和そのものな6人の生活だったが、ここ数日、ローの様子がおかしい。5日程前から急に難しい顔をするようになった。皆で会話している時や仕事中は普通なのだが、ふとした瞬間に顔がこわばり、心ここにあらずと言った状態で考え込んでいる。そして、特に顕著なのが夜寝ている時だった。
全員が寝静まる夜中、ベッドから聞こえるうなされる声に、シノは体を起こした。熟睡していれば気づかないかもしれないくらいの小さな声ではあるが、うなされて苦しそうに顔を歪めているローが見える。
「今日も?」
「……うん」
隣で寝ていたべポも起きてきて、二人揃ってベッドの横に座りローを覗き込んだ。ひどい汗をかいている。5日前に何があったのか、あのローがこれほど動揺するほどなのでよっぽどの事なのだろう。静かに見守っていると、ガバリとローが急に飛び起きたので、二人揃ってびくりと肩を跳ねて驚いてしまった。呼吸が乱れ、走った後のように浅い呼吸をする彼に、べポが声をかける。
「ローさん……」
「…………悪ぃな、起こしちまったか」
「いいよ、飲み物、取ってくるな」
べポがシノをちらりと見たので、シノは黙ってこくりと頷いた。ヴォルフの畑で取れるハーブで作ったハーブティーはローのお気に入りなので、少しは心が落ち着くかもしれない。
「シノも悪ぃな」
「いいよ。何かあったんでしょ」
「……ああ」
"何か"についてはわざわざシノからは聞かない。ローが話すべきだと思った事は自分から話してくれる。つまり今はまだ話したくない、もしくは話せない内容なのだろう。
しばらくお互い黙って静かに過ごしていると、べポがハーブティーを持って戻ってきた。
「じいさんが栽培してるハーブのお茶だよ」
「ありがとな、べポ。助かる」
ゆっくりとカップを口に運ぶロー。強張っていた表情が少しは緩んだ気がする。
「……なぁ、お前ら、今、やりたいことってあるか?」
「みんなで魚釣り行って、魚食べたいな」
「そういうのじゃなくてだな」
ローからの問いかけに、べポとシノは顔を見合わせる。今、という言い方をしているが、もっと目標や願望に近いものを聞いているようだ。シノはぼんやりとべポが来た日の事を思い出した。あの時に話していたようなレベル感の話を指しているのだろう。
「だったら、俺はやっぱり兄ちゃんに会いたいな」
航海術を磨いて兄を探しに行く。3年前から変わらない、べポの目標だ。言葉の通りべポはずっと航海術の勉強を続けている。先日はこの島の周辺の海図を書いていた。ブレずに目標に向けて頑張っているべポは、ここ三年間その話題は出さなかったものの、ずっと変わらず兄を探しに行く目標を明確に持ち続けていたのかもしれない。
「……そうか」
ローは一言だけ返して、またハーブティーを口に運んだ。静かなひと時が続く。暗いのでわかりづらいが、随分顔色が良くなったように見える。ハーブティーがなくなる頃合いで、シノはずっと考えていたことを切り出した。
「あのさ、今日は久々にさ、こっちで一緒に寝ようよ」
「は?」
「たしかに!ローさんも並んで寝よう!」
一つしかないベッドで寝ているローの腕を、シノとべポの二人で引っ張ってベッドから引きずり出した。昔と比べると5人で雑魚寝をするには少々狭いが、たまには良いだろう。戸惑ってはいるが、抵抗も出来るだろうに素直に並んだ布団の方にやってくるロー。べポがいつぞやのローのようにシャチをぐいと押して場所を確保する。
「はい、寝転んで!!べポ抑え込んで!」
「アイアイ!」
「やめろ!自分で寝る!!」
ローは文句を言いながら素直に敷布団に寝転んだ。シノはローのベッドから毛布を取ってきてローにかけ、自分も寝転ぶ。自分から誘っておいて何だが、やはりちょっと狭い。べポもローとシャチの間でみちみちになって寝転んだ。
「やっぱり狭いだろ」
「暑苦しくて寝苦しくて、違う意味でうなされるかもね」
「え、それ俺のせい!?」
「……まぁでも、悪くはないな」
そう言って目を閉じるロー。しばらくすると静かな寝息が聞こえた。どうやら眠りについたようだ。最近まともに眠れていなかったと思われるので、疲れがたまっていたのだろう。このまま朝までぐっすり眠れますように、そんな思いを込めて、シノはこっそりとローの手を握った。
翌朝、シノが目覚めるとすぐ横でローがぐっすりと眠りについていた。無事、途中で起きることなく眠れたようでホッとした。何に悩んでいるのかはわからないが、その悩みが少しは落ち着いたのであれば良いが。
普段であればローが起きている時間だが、久しぶりにゆっくり眠れたせいか、まだ起きる様子は無さそうだ。少しローの寝顔を眺めていたが、今日の食事当番がローだったことを思い出し、シノはローの手を離し起き上がった。こんな日くらい当番を変わってあげるべきかもしれない。
先に起きて下に降りようと布団の上で着替えを始める。冷蔵庫に何が入っていたか。昨日の夜の記憶をたどるが、全然思い出せない。うーんと眉間に指をつけて考え込んでいると、後ろから寝返りを打つ音がした。くるりと座ったまま顔だけ振り返る。どうやらローが目を覚ましたようだ。
「あ、ローおはよーよく眠れた?」
「……おはよう、…………じゃねェだろーが!!」
普通に挨拶をした後、かなり焦って声を荒げたロー。他の3人がまだ寝ているので声は小さめだ。シノは何事かと眉を顰め、ハッと気づいた。一応、体は後ろを向けているが、着替えの途中だった。ちょうど上着を脱いで今日着る服を着ようとしていたところだった。
「あ、ごめん」
「いいから、早く、服を着ろ!!!」
声を抑えたまま怒鳴られる。普段はローが起きて部屋を出てから、他の3人が起きる前に着替えていた。夜やその他着替えるタイミングは風呂場の手前の脱衣所で着替えていたので、朝はここで着替えていることをローは知らなかったのだろう。
****
「いい加減、部屋を分けるべきだろ」
朝食の時間に、突然ローが真剣な表情で言い出した。何の話だろうかと聞き返す必要もない。先ほどの件で大変ご立腹なのだろう。最近様子がおかしかった分、少しはいつもの調子が出てきたようで何よりだ。当然、今朝の一件を知らない他の4人は首を傾げている。
「なんじゃ急に」
「そもそも5人一部屋ってのが狭ェんだよ!」
「そうは言ってもあの部屋とわしの部屋くらいしかないし、仕方ないじゃろうが」
確かにローの意見は一理ある。割と広い部屋ではあるが、それでも成長しきった男3人とシロクマのミンク族のベポが川の字で寝るとそこそこ場所を取る。とはいえ、今日は一緒に寝ていたが、普段はローはベッドを使っており関係ないし、シノはまだ小さいし今後も正直そんなに背が伸びると思えないので、これ以上狭くなることはないと思うが。
「別に俺、狭くても大丈夫だけどな?」
「お前が一番場所取ってんだからな!?」
「お前らだって背伸びただろー!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐベポ達。ベポはシロクマだからしょうがないとして、他の3人も相当大きくなった。ローに至っては190センチ近くになったと言っていた。身長はもちろんだが、皆日々鍛えていることもあり、がっしりした体付きになっている。ちょうど成長期だったのもあるが、3年でこんなにも変わるものなのか。一番年上のペンギンは先日18歳を迎えていた。一方のシノは、まだ13歳。出会った時のローの年齢だ。まだまだ子供といっても過言ではない。
「シノ、お前だって別の部屋の方がいいだろ」
「いやぁ……寒い日はベポあったかくて助かるし」
正直ベポの隣の寝床は譲れない。毎日、ベポの反対隣をシャチとペンギンが取り合っている。そう答えるとローに睨まれた。同意して欲しかったのだろうが、今更一人だけ別部屋は少し寂しい。どのみち、そのうち本当に別部屋にせざるを得ないのだ。もう少しくらい一緒にいたい。
「ごめんて、もうあの部屋で着替えしないから」
「そういう問題じゃねェ!!つーかお前まさか毎朝あそこで着替えてたのか?」
「うん」
むしろよく今まで気がつかれなかったものだ。風呂場は1階にあり、リビングを通らないと辿り着けない。毎朝、着替えた状態で降りてくるシノを見ていたはずなのだが、さすがにあり得ないと思っていたのかもしれない。
「こいつら思春期真っ只中だぞ!?そんな男共と同じ部屋っておかしいだろ!」
「それを言うならローさんだってそうだからなー?」
ローが怒る気持ちもまぁわかる。ほぼ家族のようなものと言えど、シノの警戒心の無さを心配しているのだろう。シノとしては他4人への信頼感があるからこそであるし、さすがに誰かが起きている中で堂々と着替える気はないのだが。
ヴォルフは保護者として、少し考える素振りを見せ、首を傾げた。
「そうは言うが、お前らシノに欲情するのか?」
「「「「いや、全然」」」」
「ちょっと!?」
4人が声を揃えて即問した。無論、されても困るので正しい反応なのだが、間髪を入れずに回答されるのは、さすがに少々失礼ではないだろうか。そもそもヴォルフのその質問自体、問題発言ではあるのだが。
「じゃあ問題ないじゃろ、さぁさっさと食って仕事に行け!」
「「「「はーい」」」」
ローだけはまだ納得がいっていないようだったが、他の5人に異論がないのでこの会話は終わりだ。ローの胃が痛まないように、今後はもう少しいろいろと気を遣おうと決意した。
朝食を終え、5人揃って自転車で町を目指す。町に着くと各々職場に分かれていくのだが、ローとシノは同じ診療所なので少し気まずい。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
とはいえ、診療所に着いてしまえば、各々仕事に集中する。それぞれにやることをこなし、業務上の会話は当たり前のようにする。そんなことをしていたら、帰る頃にはお互い朝のことはすっかり忘れ普通に会話するようになってるわけで。
「二人とももう上がっていいよ」
「はーい」
「お疲れ様です」
今日の患者の診療が全て終わっていたローは早々に白衣を脱ぎ帰りの支度を始める。シノは最後の患者のカルテの整理を最後までやり切ってしまおうと、バタバタスピードを上げて対応した。
服を着替え診療所の玄関へ向かうと、ローが壁に寄りかかり待っていた。
「ごめん、お待たせー」
「……帰るか」
二人で自転車を引いて歩いて帰る。今日来た患者の病状や今後の対応を話し合う。最終的には先生に確認して診療方針を決めるのだが、勉強のためにも、出来るだけ自分たちでもあれこれ考えるようにしている。最近では、ローに任せてもらえる事がかなり増えてきた。
ふと、隣に並ぶローを眺めていて、見上げないと彼の顔を見る事ができないことに改めて気づいた。身長が伸びた為当たり前なのだが、昔は年齢の割にどちらかというと身長が低めだったからか、シノより少し高いくらいだったのに。
「……?シノ、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。それにしても今日も疲れたねー」
「まぁな。やりがいはあるが、さすがに一日中やってると疲れるな」
大きなあくびをするローにくつくつと笑う。こういう時の表情は変わっていなくて安心する。ふと通りがかりの魚屋の特売品の文字が目に入り指を刺す。
「あ、魚、特売してるよ!」
「おぅ、買ってくか。あいつらも喜びそうだ」
二人で笑いながら人数分の魚の塩漬けを購入する。今日の晩御飯が楽しみだ。そう思った時だった。
――周りの様子がおかしい。
少し離れたところで怒声や悲鳴が聞こえてきた。改めて意識して町中を見ると、ちらほらとこちらへ走って逃げてくる人々がいる。何かが起きているようだ。シノとローは目配せをし、逃げてくる人々の波に逆らい騒がしい広場の方へ向かった。その道中で、「海賊」という単語が聞こえた。
「おらぁ!酒と食い物もってこい!」
「文句のあるやつはかかってきな!」
広場に着くと見慣れない男達の集団がいた。勢いで飛び出しそうになったのを、ローの腕で抱き止められた。ローはシノを隠すようにしながら、広場を覗いている。シノの位置からは広場は見えない。ローしか見えない。先ほどより近い分、余計に大きく感じる。こんな状況だというのに、不謹慎にもドキドキしてしまった。
「海賊旗を持ってるってことは間違いなく海賊だな……シノ、大丈夫か?」
「へ?うん、ちょっと走ったせいで熱いかも……?そんなことより町の人達は!?」
「出るな!」
自分のことは今どうでも良い。広場にはまだ町の人たちが残っているはずだ。シノはなんとか広場を覗き込もうとするも、ローに阻止された。ローの表情から怒っているのがわかる。見知った町の人たちに被害が出ているということだろう。人には出るなと言いながら、ロー自身が今にも飛び出しそうな形相をしている。
「ローさん!!シノ!!」
「ベポ!」
ベポの後ろにはシャチとペンギンも揃っている。全員騒ぎを聞きつけてこの場に辿り着いたようだ。
「どうする?被害がデカくなる前に取り押さえるか?」
「いや、まだ様子を見る。ほとんどは雑魚だが……奥の二人は間違いなく強い」
言われてみると奥にいる二人だけ余裕が違う。他の奴らはただのチンピラにしか見えないが、二人だけ別格に見える。シノ達の中で一番強いローがそう言うというのだから、相当強いのだろう。
「ペンギン、お前の働いてる店の電伝虫でガラクタ屋に連絡を入れといてくれ」
「わかった!!」
ペンギンの働くレストランには電伝虫がある。他の店にもあるかもしれないが、いちいち探すよりは確実にあるところを目指した方が良い。とりあえず、ペンギンが戻ってくるのを待ちながら4人で待機する。様子は見えないが、広場は相変わらず騒がしい。
「ロー、」
「……まだ待て」
広場から目は離さずそう言うローの表情には焦りが見える。彼がここまで慎重になるということは、この5人だけでは勝てない可能性があるレベルの強さなのだろう。出来るだけ戦力であるヴォルフが来てから動きたいと算段するほどに。それほど、異常な事態が起きているということに、シノは息をのんだ。
To Be continuity...
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