家族と緊急手術
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プレジャータウンに初めて行った日の翌日から、皆働き始めた。朝、ヴォルフの発明品の自転車で町へ移動し、仕事をする。仕事を終えると家に戻り、家事やヴォルフの手伝い、畑仕事、自分達の勉強や鍛錬。とにかく全員が忙しい毎日を送っている。忙しいが今まで以上に充実した日々で気に入っている。元々はシノの鍛錬を渋っていたローも、最近は積極的に護身術を教えてくれるようになった。シャチの叔父達が立てていた"子ども誘拐計画"の話を聞いた時に、ちらりとシノを見て難しい顔をしていたので、ローもシノと同じようなことを考えていたのだろう。今は無事逮捕されて、平和そのものな町になっているが、そもそも北の海自体、治安が良い海ではないので、対策をして困ることはない。
今日も今日とて、シノは看護師として診療所で働いていた。今は、看護師のお姉さんに教わりながら、受付やカルテの管理、備品薬品の確認等を中心に手伝わせてもらっているが、いずれは先生の手伝いや簡単な処置手当、注射の打ち方等覚えることは山ほどある。それでもローに比べればマシだろう。コミュニケーションは得意な方なので、患者さんとの会話はお手のものだ。逆にローはそこが苦手なようで、不慣れながら頑張っているのを見かけた。
「お疲れ様でしたー」
「はい、おつかれ、また明日ね」
今日の仕事を終え、ローと共に診療所を後にする。今日も覚えることが多くてハードだった。帰ったら復習しなければ。あとは護身術の稽古もつけてもらって……そう思いながら自転車に跨った時、ふと、あるものを思い出して立ち止まった。
「シノ、どうした?」
「ちょっと寄りたい所があって、先帰ってていいよ」
「どこか寄るなら付き合うぞ」
いつもより早めに上がったので時間はある。ローがそういうのであれば、とついてきてもらうことにした。診療所からの帰り道から少し外れた道を行く。住宅街側なので用がないローはあまり来たことがないだろう。二人並んで自転車を手で引きながら、一軒の家にたどり着いた。
「ここは……」
「私の家だよ、元だけど」
ドアを開けてローを招き入れる。定期的にお隣のおばさんが換気に来てくれているので、思ったよりは埃っぽくなかった。
「部屋に物取りに行ってくるからちょっと待っててー」
「ああ」
ローをリビングに残して、シノは寝室に向かう。確か母親の残したノートがあったはずだ。部屋の中はシノがヴォルフの家に移り住んだ日から何も変わらない。ただ、いつもはいたはずの両親の姿がないだけで、随分広く感じた。寂しい、という言葉が脳裏に浮かび、すぐに消した。思っていたよりもまだ感情の整理が出来ていないらしい。ここにはまだ、あまり長居はしない方が良さそうだ。ベッドの横の机をあさり、お目当てのノートを見つけリビングに戻る。
リビングではローが棚の上の写真をじっと見ていた。
「それ、私のお父さんとお母さん」
家族写真だ。両親ともう少し小さい頃のシノの3人が写っている。両親共に仕事が忙しかったので、正直あまり写真は残っていない。何かの祭りの時、たまたま休みと重なり出かけて、その時撮ったものだ。結局そのあとすぐに呼び出されて仕事に行ってしまったのだが。
「シノは一人っ子なんだな」
「うん。ローは?」
「妹がいた」
「あーだから面倒見いいんだ」
ベポとシノはともかく、シャチとペンギンはローより年上だが、圧倒的にローの方が世話を焼いているように見える。もちろん彼らの方が兄に見える時もあるが、基本的にロー自身が世話焼き体質なのだろう。
「お前の両親は、海兵だったんだよな」
「うん。ラッドさんはこの島の自警団的な駐在だけど、私のお父さんとお母さんは海兵で、私が生まれる前からここに常駐してたんだって」
北の海は物騒なことが多い。その分、海軍から派遣されて各島に常駐する海兵も多い。そんなしがない一般海兵だった。ラッド達と違い、あくまで所属が海軍なのでこのスワロー島に限らず、近場の島で何かがあると、すぐに人手として駆り出されていた。そのせいでなんやかんやいつも忙しそうにしていた。
「だから私もいつか海兵になるのかなぁって思ってた」
「向いてなさそうだな」
「だよね、よく言われる」
小さい頃から、両親や町の人たちからもお前は海兵にはならない方が良いと言われ続けてきた。それほど危なっかしい子供だったのだろう。自分で言うのも何だが、確かに不器用なうえお人好し精神でいろんなことに首を突っ込んで早死にしそうだと思ってしまう。
「ローのところは?」
「父様は医者で、母様は看護師だった」
初めて聞くローの話。通りでシャチやペンギンの手術が出来たわけだ。いや、普通に考えたら親が医者だからといって出来るはずがないのだが、きっと医者になるべく両親のもとで勉強しており、基礎知識は充分あったのだろう。
「珀鉛病、って知ってるか」
シノは首を横に振る。
「俺は昔、その病気のせいで、身勝手な政府に国を滅ぼされ、両親も妹も友達も失った」
「…………」
ローはフレバンスという国の話、珀鉛病の迫害の話、恩人に出会い助けて貰ったが、その恩人を失った話を簡単に教えてくれた。その経緯を聞いて、シャチやペンギンのように大人を信じられなくなった理由がわかった。大人どころか世界の全てを信じられなくなってもおかしくない。その恩人の人やヴォルフがローと出会ってくれて本当に良かった。
「あいつらにもこないだ話したから、お前にも話しておく」
「そっか、ありがとう」
ローは珀鉛病とやらのせいで大切な家族や友達を失い、その数年後に出来た大切な恩人をまたしても失ったのだ。人の悲しみの大きさは比較出来るものではないが、2度味わっている分、シノなんかよりよっぽど苦痛を経験してきただろう。
「……私、ローとずっと一緒にいるよ」
「は?」
「それで、一分一秒でもローより長生きするから。そしたらまた嫌なことあっても守れるし、寂しい思いもさせないでしょ」
ローがシノ達を大切に思ってくれているかわからないが、もしそうだとしたら、シノは絶対に死ねない。人というものは本当に簡単にいなくなってしまうと最近実感したが、もうこれ以上ローにそんな体験はさせたくない。
「待て、飛躍しすぎだろ!!お前だってその、いつかは……結婚とか、するだろうし、ずっとはねェだろ……」
「ローと結婚すれば問題なくない?」
「勝手に決めるな!!」
怒ってはいるが、本気で怒っているわけではないのが伝わってくる。少しは安心してもらえただろうか。本当は自分のために言っているところもあるのだが。シノにとって、ローもベポ達も、みんな大切な存在だ。彼らがいなくなったらとてもじゃないが耐えられない。
「まぁ結婚はしないにしても、一緒にいられる方法あると思うんだ。べポ達も一緒にいたいだろうし」
「べポはメス熊につられてどっか行っちまうかもしれねェけどな」
冗談交じりで笑うローと話していたら、先ほど寝室で感じた寂しさがいつの間にかちゃんと埋まっていた。やはりシノの中でローやべポたちは特別なのだろう。
「お目当てのものはあったのか」
「うん、お母さんのノート。海兵だったから応急処置とかいろいろまとめてたの持ってたなぁって思って」
「へぇ……よくまとまってるな」
パラパラとめくりながら軽くローに見せる。基本中の基本のことしか書いていないので、今更ローが見たところで知っていることしか書いていないだろうが、感心したように覗き込んでくれた。何となく母親が誉められたようで嬉しくなった。
「さ、帰ろうか」
「写真とかは良いのか」
「うん、それはここに置いておきたいから」
あれはこの家のものだ。シノにとってとても大切なものではあるが、ヴォルフの家に置くべきものではない。いつかもっと向き合えるようになったらまた来よう。そう誓って、久々の家を後にした。
用事も済んだので、自転車に跨り、漕いで帰る。町の入り口に着いたところで、見慣れた三人が立っていた。
「おー、ローさん!シノ!」
「何やってんだよお前ら」
「いやー皆ちょうど被ったから、どうせなら二人の事も待つかーってことになった」
シノ達は早めに仕事が終わってしまっていたので、真っ直ぐ帰っていたら会えなかったかもしれない。家に寄ってちょうど良かった。
「じゃあ、家まで競争といこうぜ。最下位だったやつは、一週間便所掃除と朝メシ係だ!」
「え!?」
「「「おー!!」」」
慌てて4人について行くように自転車を漕ぐ。風を切って走るので、顔が冷たい。全速力で漕ぎ続けたので、いつもより早く家までたどり着いた。結局、ローが一位、それからシャチ、ペンギン、べポの順でゴールをした。シノは当然のように最下位だ。
「お前、べポより下って……」
「しょうがないじゃん、皆みたいに30分全速力で漕ぐ体力無いよ!!」
べポは体型の問題もあるのか、どうにも自転車を漕ぐのが下手だ。よろよろといつ転んでもおかしくない漕ぎ方をしており、全速力で走っている間は、シノよりも遅い。ただ、シノには致命的に体力が足りなかった。しばらくはトイレ掃除と朝ごはん当番がついてくるようだ。しょんぼりとしながら、4人の後ろを歩いて家に入った。が、部屋の中が暗い。ヴォルフも帰ってきているはずの時間なのだが、珍しい。
「おーい、ガラクタ屋!帰ったぞ!」
「おじいちゃーん?」
シノも階段を上り、ヴォルフの部屋を覗くが、いないようだ。リビングに降りて、こちらを見たローに首を振る。
「どうする?とりあえず先にメシの準備しちまうか?」
「そうしよう。今日は良い魚も買えたんだぜ……ってローさん。あれ、なんだ?」
窓の外を指すペンギン。畑の方から黒い煙が上がっている。シャチとペンギンに出会った時のような不安が頭をよぎった。ただごとではないその様子に全員で慌てて家の裏口を出て、畑の方へ走っていく。
そこには火を噴きながら煙を上げる飛行機らしきものと、血まみれで倒れているヴォルフがいた。
「じいさん!!」
シノ達もローに続き、ヴォルフに駆け寄った。かなりの血を流しており、意識もない。怪我をしたのはいつだろうか。大きな音は聞いていないので、少なくともシノ達が帰ってくる前には何かが起こったのだろう。もっと早く気づくことが出来れば良かったのに。体中の血の気が引くのを感じた。
「じいさんは俺が運ぶ!お前ら先に戻って準備してろ!」
「「「「了解!!」」」」
急いで戻り、家の中を走り回る。それぞれ手分けをして湯を沸かし、手術道具を消毒し、手術の場を整える。ローが戻ってくる頃には万全の体制を準備した。
「じいさんの怪我、どれくらいひどいんだ……?」
べポが震えながらローに聞く。ローは答えなかった。励ますための誤魔化しも言えないレベルなのだろう。何も知らないシノでさえ、普通であれば何とかなるものではないと本能的に分かった。
「どうする!?急いで町に行って医者を呼んでこようか!?」
「おれがやる。おれが、オペをやるよ」
今から呼びに行って医者が来るまで、どんなに頑張っても1時間以上かかる。この状態でそんなに放置できるわけがない。ローがやるというのだから、信じる以外他にない。
「シャチ、ペンギン!お前らの血もらうぞ!」
「おう!!」
ローの指示に従い、全員で輸血の準備を手伝う。しかし、どんどん血が溢れてきている中、輸血しただけでは何も解決しない。ヴォルフの傷を確認しているローの手と足が震えている。ペンギンとシャチの時とは難易度が違うのだろう。ローも不安に違いない。4人で顔を見合わせて、ローの左手を握った。
「ごめん、ローさん。俺たちなんも役に立てねぇ……あんたに全部任せることしかできねェ……でもローさんなら大丈夫だ、頼むよ、じいさんを助けてやってくれよ!」
シャチの言葉に、ローが頷いた。
「大丈夫だ、お前ら離れてろ。……俺を信じて、見てろ」
もうローの手は震えていない。ローの手を離し、邪魔にならないよう離れる。また何の役にも立てない。せっかく診療所で勉強を始めたが、まだまだ何も出来ない。今は見守るしかない。
「ROOM」
ふわっとドーム状の何かが部屋に広がった。何が起きているのかはわからなかったが、今は聞いている暇はない。黙々と手術を進めていくローをただひたすら見守る。どれくらいが経っただろうか。よくわからないが、順調に進めているようだ。そう思った時だった。
「うああああっ!!」
「「「ローさん!!」」」
急にローが叫んで頭を抱え、床に膝をついた。集中しすぎて頭痛が起きたのか、先ほどのよくわからない何かの影響なのか。苦しそうなローに駆け寄りたくなるのを耐える。まだ手術中だ。消毒をしていないシノ達が近づくわけにはいかない。
「問題ねェ……」
なんとか立ち上がり手術を再開するロー。どう考えても問題大ありだろうが、ヴォルフのために、心配しているシノ達のために何とか踏みとどまったのだろう。どうしたらそんなに強くなれるのだろうか。
それからしばらくして、ようやく手術は完了した。ヴォルフのお腹を縫い合わせ、ふらりと倒れそうになったローを3人が支えた。
「ローさん!」
「平気だ。ちょっとふら付いただけだ。手術は完璧だ。あとはじいさんの生命力に賭けるしかない」
「じゃあ大丈夫だよ、おじいちゃんの生命力は私たちの中で一番高いから……!!」
シャチ達の時とは違い、今回はローも起きていると言ってきかなかった。当然ヴォルフの事が心配なのだろう。無理に寝ろと言っても寝るようなローではないので、5人揃って、ヴォルフが起きるまで、誰一人何も言わず、ひたすら見守った。
手術を始めてから十二時間、朝を迎える頃に、ようやくヴォルフは目を覚ました。
「んあ……朝か……」
「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」
ヴォルフの声に、4人が叫んだ。シノもホッと胸をなでおろす。生きている。目を覚ましてくれた。急に緊張状態が解けてしまった。4人が興奮状態でいろいろ喋っていたが、シノの耳には何も入って来なかった。
ヴォルフが目を覚ましてすぐにペンギンが診療所の先生を呼びに行った。いろいろと機器を運び込んでもらい、精密な検査をしてもらったが、問題ないとの診断となった。ローの手術は本当に完璧だったようだ。とはいえ、しばらくは絶対安静で、完治は二か月後になるだろうとのことだった。
しばらくは交代で休みを取りながら、ヴォルフを看病する日々が続いた。そんな生活に誰も文句を言う事はない。しいて言うならヴォルフ本人が文句を言っていたが。
***
「シノ」
ヴォルフの手術をしてからしばらく経ったとある日の夜。シノはリビングでひたすら看護の勉強をしていた。部屋ではみんな寝ている時間なので、リビングでやるしかない。そんな時、ローも寝付けなかったのだろうか。本を持って降りてきた。本を持つ手には、今日入れたばかりのタトゥーが入っている。何を思ったのか、指一本ずつに文字を一つずつ入れて、片手でDEATHと彫られている。彼なりに何か考えがあっての文字なのだろうから、わざわざ聞くようなこともしない。
「お前、最近ちゃんと眠れてないだろ」
「ローだって眠れないから降りてきたんじゃないの」
「俺は昨日はちゃんと寝てる」
どうやら昨日も遅くまで起きていたことがバレているようだ。同じ部屋で寝ているのだから当然なのだが。ローに隠し事をしようとしても無駄だ。シノは素直に話すことにした。
「……寝ようとすると、こないだの夢見るから」
「こないだって、じいさんの怪我の件か?」
黙って頷くシノ。ヴォルフがそのまま死んでしまう夢、ローが手術の途中で倒れて起きなくなってしまう夢。いろんなパターンがあるが、どれも怖くてしかたがない。ちゃんとヴォルフもローも生きているのを毎日確認していてもこれだ。あの日から一カ月も経っているというのに情けない。こんなのが看護師になれるわけがない。
「何も出来なかったのが嫌だったからせめて勉強してれば、見なくなるかと思って」
「ばかか、そんな一朝一夕で身に着くもんじゃねェよ」
「そうだけど、」
正直、眠るのが怖い。二人がいなくなるかもしれない夢を見るのが怖い。勉強に疲れて寝てしまえば、寝る時間もかなり短いので見ない確率も高いうえ、そもそも疲れ果てて熟睡すれば夢を見ることもない。
何も言えずに押し黙っていると、ローが呆れたようにため息をついた。
「……しょうがねェな、お前はまだガキだからな。今日は一緒に寝てやる」
「……ローだってまだ子供じゃん」
「いいから、今日は早く寝るぞ」
「なんじゃ、お前らまだ起きとったのか」
ローに促されるまま、二人で部屋に戻ろうとしていたところで、ヴォルフがやってきた。起き上がっているヴォルフを久々に見た。まだ先生の言っていた2カ月には随分早いがその姿は元気そうに見える。
「じいさん、もう立って大丈夫なのか?」
「ふん、一カ月もあれば完治するわい」
「良かった~……けど無理しないでね」
「わかっとるわ!……ところでロー、話がある」
どうやらヴォルフはローに話があって降りてきたようだ。そうなるとシノは邪魔だろう。
「じゃあ私先戻ってるね」
「別にいてもいいだろ」
「早く寝ないとだからね」
わざわざ皆が寝ているこの時間に来たのだ。大事な話があるのだろう。そこまで空気が読めない人間ではない。ヴォルフとすれ違う際おやすみと挨拶をし、階段を上る。他の3人は寝ている時間なのでゆっくりと静かにドアを開けた。物音を立てないように静かに自分の布団に入る。ちょっとやそっとで起きる3人ではないが念のためだ。
ヴォルフの話は一体なんだろうか。あの日からゆっくり話せていないから、改めてあの日のお礼でもしようとしているのか。そうだとしたら、シノがいたらヴォルフも恥ずかしいだろうと思った。
しばらくして、静かに部屋のドアが開いた。ローが戻ってきたようだ。仰向けで寝転んでいたので、パッと目があった。一緒に寝てくれると言っていたが、どうするのだろうか。ローはベッドから自分の毛布を取ると、シノとべポの間にやってきた。
「べポもっとあっち行け」
ぐいぐいと無理やり押すと、ううん、と唸りながらべポはシャチの方に寝返りを打った。あれだけ押されても、起きる様子はない。よく眠っているようだ。毛布を広げて、べポとシノの間に寝転ぶロー。
「ほら、」
そう言って右手を差し出された。これは手を繋いで良いという事か。そういえば妹がいたと言っていた。もしかしたらこうして妹と寝ていたのかもしれない。シノはローの右手首を掴んだ。
「いや、なんで手首なんだよ」
「なんとなく……?」
「さすがにじいさんは一緒に寝れねェが、俺はここにいるんだから、変な夢も見ねェだろ」
ローに突っ込まれ、ちゃんと手を握りなおす。ローが言うのだから、何だか本当にそんな気がしてきた。シノの左手にぬくもりが伝わってくる。一カ月ぶりにゆっくり眠れるかもしれない。
「……明日、べポ達も含めて話がある」
「わかった、寝坊しないように頑張る」
「お前、朝強いじゃねェか」
布団に入ってから会話したくなるこの現象は何なのだろうか。シャチたちも起きていたら皆でワイワイ話してつい夜更かしをしていたことだろう。しかし、もう時間も遅い。いくら朝に強くても、あまり夜更かしすると、明日の仕事が辛くなってしまう。
「私ちゃんといつか、オペの手伝いできる看護師になるよ」
「気長に待ってるよ」
「あと、タトゥー似合ってるよ」
「悪くないデザインだろ」
「あとね、ローのこと大好きだよ」
「……わかったから早く寝ろ」
恥ずかしいのかぶっきらぼうな言い方で返すローに笑い、シノは瞼をゆっくり閉じる。久しぶりの心地よい眠気に、シノはすぐに意識を手放した。
end.
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