シロクマとシャチとペンギン
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シノの両親が亡くなり数日後、シノは本当にヴォルフの家に越してきた。親戚は居なかったが、近所の人が引き取ると名乗り出てくれていた。それでもシノはヴォルフとローがいる家を選んだ。
やること自体は大して変わらない。家事や畑の手伝いをしたり、ローの修行とやらを眺めたり、散歩について行ったり、一人で編み物をしたり、本……を読むのはあまり好きでは無かったが、多少は読んだり。そんな三人の共同生活にもだいぶ慣れてきた頃だった。
その日はヴォルフが町に出る日だった。ローとシノは留守番をしており、ローは本を読み漁っていた。シノも暇だったので鍵編みで黙々とコースターを作っていた。この家はコースターを使う文化が無かったので、作れば皆勝手に使うだろうと、暇つぶしに作り始め、もうすぐ3個目が完成間近というところまで来ていた。
「出来たー!!!」
色違いで3点、出来上がったそれを眺め満足する。お揃いのものというのは家族感があってちょっと嬉しい。早速ローに見せようと部屋を覗いたが、どうやらいないようだ。集中しすぎて出掛けたことに気が付かなかった。そのうち戻るだろうと待っていたが、結局ヴォルフのほうが先に帰ってきた。
「おかえりなさーい」
「なんじゃ、ローはおらんのか」
「うん、まだ帰ってきてない」
まぁそのうち帰ってくるだろうと、二人とも気にも留めなかった。ローの帰る場所はここだと分かっているから。
それから30分くらいして、家のドアが開いた。ローが帰ってきたようだ。
「おーい、ガラクタ屋」
「何回も言わせるな!ガラクタ屋じゃなく、天才発明家ヴォルフ様と呼べ……ってそのでっかいクマはなんじゃああ!!!」
その日、ローは大きなシロクマを連れ帰った。そもそもシロクマが服を着て二足歩行をする生き物だとは知らなかった。ローよりも大きい体をしている割には、緊張しているのかそわそわとローの後ろに隠れている。シノはソファからひらひらとシロクマに向かって手を振る、シロクマも恐る恐る手を振り返した。コミュニケーションは取れるようなので危険はないだろう。
「こいつはベポ。迷子のシロクマだ。今日からここで暮らすからよろしくな」
「わー、よろしくー」
「家主であるワシの許可は!?」
ヴォルフの言うことも尤もだが、シノの時も結局勝手にローが決めていた。ヴォルフもローが連れてくるほどの人間?をよっぽどのことがない限り断りはしないだろう。布団セット、もう一つあっただろうか。最悪、町にあるシノの元々の家の布団を回収してくるかとぼんやり検討する。他に住む人もいないので、家だけはそのまま残させてもらった。ちょっとずつ荷物整理を進める必要はあるが、ゆっくりで良いと許可をもらった。
「まぁ、いいじゃねェか。多分、力仕事とかで役に立つぜ」
「あ、どうもベポと言います」
「「喋った〜〜〜!?!?」」
シロクマが喋った。少なくとも今までこのスワロー島で喋るシロクマとは出会ったことがなかった。シロクマに限らず喋る動物は人間しか見たことがなかった。世の中まだまだ知らないことが多いらしい。
ベポがどうやら訳ありらしいと言うことで、ヴォルフはベポにいろいろと今までの経緯や事情を聞き始めた。聞いて良いのかわからなかったが、ちらほら聞こえてきたのでまとめると、偉大なる航路にある新世界という所に住んでいるミンク族という一族らしい。やはり、普通のシロクマではなかったようだ。
いなくなった兄を探して船に乗ったらいつの間にかこの北の海に辿り着き、スワロー島に上陸したらしい。そして、町の子供達にいじめられていた所をローに助けられ、ローが事情を聞いて拾って連れてきた。概ねそんなところだ。
「航海術を学んで、自分の兄を探しに行きたいんだと」
「へぇ、すごいねー」
「お前はなんか目標あるのか?」
ローの質問にきょとんとする。目標、考えたこともなかった。この平和な島に生まれ育ち、このままのほほんと生きていくと思っていた。なりたいものもなければ、やりたいこともない。今の生活に満足している身としてはなかなか難しい質問だ。
「おじいちゃんとローと一緒にいたい」
「いるじゃねェか既に」
「えー、じゃあローに名前で呼んでもらう、とか……?」
「…………」
白い目で見られたがしょうがない。現状特に目標のないシノとしては思いついたことを言うしかなかった。会ったばかりの頃は呼ぶ気が無いのがわかったが、今は呼ぼうとして誤魔化してる所を何度か見たので、今更呼びづらいのだろう。そのうち慣れるだろうと思っているので大して気にしてはいないが、強いて言うならと上げてみたが、何も返ってこなかった。
ヴォルフとベポの会話がひと段落つくと、ヴォルフはキッチンへ行き、紅茶を人数分用意して持ってきた。四人で揃って紅茶を嗜む。ベポはヴォルフに認められたらしい。事情を聞いて、悪いクマでは無いとわかったようだ。
「ここに住まわせてやる。ただし、わしらはギブ&テイクの関係だということを忘れるな!!」
「アイアーイ!了解だ!役に立てるよう頑張るよ!」
ヴォルフのいうギブ&テイクは建前だ。照れ隠しとも言う。お互い気を遣わない為にちょうどいい口上なのだろう。赤の他人同士が急に共同生活を始めるにはそれくらいの方がちょうどいいのだ。
シノもそろそろ自己紹介をした方がいいだろう。そう思い、紅茶をおいて口を開いた。
「ベポ、こいつはシノだ。こいつもここに住んでる」
突然、ローがシノを指で差し、紹介してくれた。ありがたいが、急にどうしたのだろうか。ベポがよろしく、と笑ってくれた。
「それで、…………シノ、こいつはベポだ。力仕事とか何かあれば振っていいからな」
ローが名前を呼んでくれた。紹介するために名前を出したのではなく、シノに対して呼んでくれた。今更言いづらくてずっとタイミングを図っていたのだろう。照れくさいのを誤魔化しながらも、早速呼んでくれたのが嬉しくて、つい笑いそうになったのを我慢した。頑張って呼んでくれたローに失礼だ。
「ベポ、宜しくね」
こうしてまた同居人が増えた。そしてシノの絞り出した目標もすぐに達成されてしまった。次の目標は、コースターをもう一つ作る、に変更だ。
****
ベポがやってきてから早一ヶ月が経った。ベポはあの家での生活に慣れてきたようで、手伝いにくわえて、空いた時間に航海術の勉強もしているようだ。シノも少し教えてもらったが、さっぱりわからなかった。いつか何かに使えるとも限らないので、わからないなりに教えてもらうようにしている。
「ねー私も連れてってよー」
ある日のこと。ヴォルフはいつも通り研究所に引きこもっており、ローとベポはビニールハウスへ野菜の収穫に向かっていた。
「お前は危ないから家にいろ」
「野菜の収穫の何が危ないの!?」
今まではシノがついていくことに対して何も言ってこなかったローだったが、ベポという新しい友人が出来てからは男同士馬が合うのか、二人でつるんで行動することが増えていた。勝手についていっても撒かれるわけでもないので、シノも極力ついていくようにしている。
「ローさーん、こっちの梅の実も収穫しちゃっていいかなー?」
「やめろ馬鹿!金輪際、俺の前で梅の話をするな!」
「わ、わかったよ、怒鳴るなよう……」
梅を収穫しようとしたベポが怒られた。事情を知らないベポはなぜ怒られたのかもわからずオロオロしている。先日、ベポは美味しそうに梅干しを食べていたから、まさかローが梅干しを苦手等と気づいてもいないのだろう。
「あのね、ベポ。ローは梅干しが嫌いなんだよ」
「え、そうなの??」
こそこそと教えてあげる。だから梅を収穫する時はこっそりやること、と伝えると、こくこくと頷かれた。
この一ヶ月で、シノも大分ベポと仲良くなってきた気がする。毎日一緒に生活しているのだから当たり前だ。ベポは一つ年下なのだが、いかんせん、シロクマなのでシノより背が高く、弟というよりは歳の近い友達くらいの感覚だ。
「さっさと終わらせちゃお……うわぁ!?」
「「シノ!?」」
つるりと滑って転んだ。ビニールハウスの中と同じノリで外で走ろうとして、凍った地面で滑ってしまった。
「だから家で待ってろって言っただろうが」
「ただ転んだだけじゃん!」
「そう言ってお前いつも転んでんじゃねーか!?」
そう言われると何も言い返せない。しかし、ここが冬島でそこら中凍っているのが悪い。むぅと思いながら、ローに差し出された手を取ろうとした時だった。
突然、どこかで爆発音が鳴り響いた。森の方だ。ビニールハウスの外に出ると、離れた森の方から煙が上がっている。どうやら只事ではないようだ。
「ローさん!!」
「あぁ、行くぞ!!」
3人で森へ向けて駆け出す。慣れた道のりなのですぐに目的地へ辿り着いた。何かが起こっただろう地点の近くの木に隠れながら、様子を伺う。子供の声だ。誰かが泣いているようだ。
「ロー、あそこ、人がいる!!」
「!!あいつら……!!」
シノが子供達を指差すと、ローが驚いたように目を見開いた。ローの知り合いだろうか。ベポも反応しているので、恐らく二人に共通した知り合いなのだろう。シノもどこかでうっすらと見たことがあるような気もする。
「怪我してる……!?」
倒れているキャスケット帽を被った少年は脇腹から血が流れている。ここからだと意識があるかもわからない。もう一人のペンギン帽を被った少年は、座ってはいるものの、……右腕の肘から下がない。近くに千切れた腕が転がっており、既にかなり血を流しているように見える。一体ここで何があったのか。
「シノ!先に戻ってガラクタ屋にこのこと知らせろ!ベポ、お前はそっちのキャスケット帽のやつ背負え!俺はペンギン帽だ!家で治療するぞ!」
「お、おう!絶対助けよう!」
「わかった!!……腕、持ってった方が良いよね」
ローに耳打ちをすると、少し考えた後、黙って頷いた。シノに持たせるべきか悩んだのだろう。ローがペンギン帽を担いでいる間に、そっと、本人に見えないように腕を抱え、家へと走った。力仕事では役に立たない。戻ったらすぐに治療を行えるようヴォルフに状況を説明しておかなければ。ローが医学の勉強をしているのは知っているが、あの怪我をなんとか出来るのか。なんてことを今考えてもしょうがないので、とにかく急いで家へと走って戻る。
「おじいちゃん!!!」
「なんじゃ急に!?」
「森で子供が二人怪我してた!今ローとベポが連れてくる!凄い血だらけで重症なの!!」
はぁはぁと息を切らせながら、とにかく状況を説明する。ヴォルフはシノの抱えている腕を見て、すぐに理解してくれた。
「よし、すぐに湯を沸かせ!リビングを片して使うぞ!!あと氷も持ってこい!!」
「う、うん!!」
使う、というのはここで処置をするのか。ヴォルフに言われるがままに湯を沸かす。そうこうしているうちに、ローとベポが二人を担いで家に飛び込んできた。
「話は聞いとる!ここを使え!!」
「あぁ、分かった!!」
「おじいちゃん、ロー!お湯わいたよ!」
部屋から手術道具を持ってきたローに声をかける。何に使うのかはわからないが、とにかくリビングに運び込んだ。ついでに家にある包帯をありったけ持ってくる。
「ローさん、お、おれはどうすればいい?」
「ペンギン帽の止血を!あとちぎれた腕を氷で冷やしておいてくれ!」
「アイアーイ!!」
「こっちで氷用意してあるから、べポ、止血お願い!!」
べポにペンギン帽の少年を任せ、改めて腕を掴む。ヴォルフに言われるがままに用意した氷は腕を冷やす用だったようだ。冷やすということは当然、繋げる気なのだろう。そんなことが、可能なのだろうか。ペンギン帽の彼に見えない位置で、氷を入れたビニール袋に、そっと腕を入れた。自分のちぎれた腕などできるだけ目にしたくないだろう。
「おい、ペンギン帽!こいつの血液型わかるか!?」
「わかる……X型だ……俺と一緒だからちゃんと覚えてる……間違いない」
ローがバッとこちらを見る。シノは首を横に振った。シノはF型だ。ベポも同じように首を横に振る。当然同じように血を流しているペンギン帽の彼から血を抜くわけにはいかない。
「ロー!わしの血を使え!まごうことなきX型じゃ!!」
ヴォルフがローの前に腕を突き出した。二人分の輸血をするには相当な量が必要となる。血の気の多いヴォルフといえど、ヴォルフ自身にもリスクが伴うだろう。
「……っ分かった!!」
ローもそのリスクを分かった上で、ヴォルフの申し出を受けた。
そこからはとにかく長い長い手術の始まりだった。ヴォルフの血を抜き、二人に輸血を開始し、あっという間にキャスケット帽の少年の傷を塞いだ。13歳の子供とは思えない集中力でローは器用にも手術を進めていく。
しかし、もっと大変なのはペンギン帽のほうだ。何時間もかけてペンギン帽の少年の腕を繋げる手術が始まった。ベポもシノもローの指示に従い、物を渡したり汗を拭く程度の手伝いはしたが、しょせんそれくらいしか出来ない。
腕の接合が終わった頃、ついにローはその場に倒れ込んだ。
「「ロー!!」」
「ローさん!!」
「輸血用の針だけ抜けないよう見とけ……ちっとばかり疲れた……」
そう言って、ローは眠った。パタリと座り込むようにして倒れたローを、ベポが助け起こす。気絶したように眠り込んだローを抱きかかえるべポ。
「ベポ、ローをベッドに寝かせて来てくれる?」
「分かった!!任せて!!」
その場に寝かせておく訳にもいかないので、ベポにお願いして部屋へ運んでもらう。その間、シノはローに言われた通り、二人の様子を見守ることにした。ヴォルフもその横に同じように寝転がっているが意識はあるだ。
「おじいちゃん、大丈夫?」
「お前らはいちいち心配しよって。ちょっと貧血なだけじゃい」
「なんか食べる?用意するよ」
「お前、おにぎりしか作れんじゃろう」
血を抜いてすぐよりは顔色も良くなった気はするが、やはり辛そうだ。文句は言われたが、とりあえず少しでもと思い、シノのおやつ用のチョコレートを手渡し、また眠っている子供二人を見守る。そうしているうちに、ベポが部屋から毛布を持って帰ってきた。
「……ローって凄いんだね」
「俺もびっくりした。かっこよかったなー」
「……そうだね」
カッコよかった。それはそうなのだが。あまりにも凄すぎて、なんの役にも立てない自分が恥ずかしかった。ローは今までどういう人生を生きてきたのか。あまり自分のことを喋らないので、シノはローのことを何も知らない。無理やり聞くには訳あり過ぎる気がして、いつか教えてもらえるだろうかと、ぼんやり考える。
もう少し、何か手伝えれば。ローの役に立てる人間になれば、少しは信用して頼って貰えるだろうか。
「シノ、風邪ひいちゃうよ」
「ありがと、ベポ」
二人で引っ付いて一つの毛布に入り、ただただ目の前の少年たちを見守る。
「俺、オロオロしか出来なかった……」
「私もだよ……もっとローの役に立ちたいね」
「そうだな……俺らで頑張って支えような!」
「……うん、そうだね」
二人の子どもの手術を終えて四日が経った頃、二人はようやく目を覚ました。二人が意識を取り戻すまで、ローに教わりながら、傷口の消毒や点滴の交換等世話をし続けていたシノとべポは、二人が目覚めたことでホッと胸をなでおろした。しかし、大事なのはここからだ。
「今から包帯を取る。それで腕や指が動かせるか確認するぞ」
「お、おう」
ローの言葉に、ペンギン帽の少年が緊張した面持ちで自分の腕を見た。出来るだけ隠してはいたが、一度はちぎれた腕を自分でも目にしただろう。一生動かないかもしれないと不安に思うのは当然だ。
全員で彼の腕を見守る。ぴくり、と小指が動いた。順番にそれ以外の指も動かしていく。そして、腕全体を持ち上げ、彼は自分の手のひらを見た。――手術は成功したようだ。ちゃんと動いている。
「うおおおおん!!よかった、よかったなぁ!!」
本人よりも先に泣き出したべポが彼に抱き着いた。その声につられたように、やっと実感がわいたのか、二人の少年も泣き出した。
「ありがとう……!」
「俺もう絶対に死ぬんだって思って怖くて……でもあんたたちのおかげで、生きてる……!!」
「……単なる気まぐれだ」
そう言って後ろを向くロー。口ではそんなことを言っているが、安心したに違いない。彼の照れ隠しのような態度に、ヴォルフと目を合わせて笑った。
それからまた数日後。二人のリハビリを進め、状態が落ち着いた頃にようやく改めて話を聞くことになった。全員でリビングに集まり、ヴォルフの淹れた紅茶をお供に、二人の話を聞く。名前はシャチとペンギンというらしい。
「まずはどういう経緯でこんな怪我をしたのか話して貰おうか」
「……俺たち森の奥に小屋を建てて、二カ月くらい前から暮らしてるんだ」
二カ月前ということは、ローとシノがこの家に住みだしたのと同じくらいの時期だろうか。子供二人で森で暮らすとはどういう経緯かはわからないが、森の動物を狩ってここ二カ月暮らしていたようだ。いつのものように森で暮らしていた所、急に飛び出してきたイノシシに襲われ、シャチが大怪我をしたらしい。
「イノシシがそのあと俺に向かってきて、逃げることも出来たけどシャチを放っておくわけにもいかなくて、俺、持ってた爆弾を投げつけようとしたんだ。でもそれが手元で爆発して……」
「大怪我を負ったというわけじゃな」
爆弾は町から盗んだらしい。友人のためにイノシシを撃退しようとして、慣れない爆弾を使用しようとしたが失敗したのだろう。思い出すのも辛いだろうに、一生懸命説明をするペンギン。二人とも無事回復して本当に良かった。
「お前ら、親はどうしたんだ?」
「シャチの親もおれの親も、半年前に死んだ」
彼らは元々家族包みで仲の良い友達同士だったようだ。二人の家族と一緒にこの島の浜辺にいた時に、高波に襲われ、偶然離れたところで遊んでいた二人だけが助かったらしい。その後、それぞれの親族で話し合いが行われ、シャチの叔父の家に引き取られたが、そこで彼らは武器の密輸や宝石の窃盗等無理やりやらされ、少ない食事しか与えられなかったという。
「あ……」
ぽつりと声がもれ、シノは慌てて自分の口をふさいだ。二人のことをどこかで見たことがあると思ったのだ。数カ月前、プレジャータウンでちらりと見かけた。町一番の豪邸にこそこそと入っていくのを見たきり、その後みることは無かった。自分と歳の近い子供はあまり見かけないので。一瞬の出来事だったがぼんやり覚えていたが、それがこの二人だったのだ。それ以前は見たことがなかったので、恐らく元々は両親と、別の町に住んでいたのだろう。
「俺たちはまともな人間として扱われなかった!だから家を出たんだ。でも行く当てもないし、金を稼ぐ当てもないから森に小屋を建てて……でもそこでもまともな暮らしは送れなくて……おれはもう生きてる意味が分からない!!」
「あんたたちが助けてくれなかったら、俺たちはあのまま死んでた。助けてくれてありがとう!白くまも……ずっと世話してくれたよな。俺たちはお前をいじめた人間なのに、そんなやつらに優しくしてくれるなんて……ありがとう!
「ひどいことして、本当に悪かった!ごめんっ!」
「い、いいよ、そんなの怪我してるやつがいたら、助けるの、当たり前じゃんか」
ペンギンもシャチも泣いた。べポとの話は知らなかったが、ローがぺポと会ったのが同じ森だったという話なので、恐らくそこでそんな出来事があったのだろう。シャチもペンギンも、根は良い子なのだ。それが叔父達のせいで荒んでしまっていたのだ。
生きている意味がわからない。彼らはそう言った。シノは両親が亡くなってもすぐに受け入れてくれるヴォルフやローがいた。シノも、彼らがいなかったらそう思ったりしただろうか。実際になってみないとわからない。ただ、今、もし彼らが死んでしまったら、もしかしたらそう思うのかもしれない。
「なぁお前ら。行くとこねェんだよな」
「うん……叔父さん達の家に戻るのだけは、絶対に嫌だ……」
「よし、じゃあお前ら、俺の子分になれ。そうしたら、とりあえずはここに住まわせてやる」
そういった途端、二人はローを見て晴れやかな表情を浮かべた。彼らは自分たちの居場所を求めているのだ。一番欲しい言葉だっただろう。
「だからここはワシの家じゃっつーのに!」
「ちなみに、このべポも既に俺の子分になってる」
「初めて聞いたよ!そうだったのかよ!アイア―イ!」
「私も!?」
「お前は子分にはいらねェよ、弱いし、力無いし」
「それはそれでひどい!!」
最近連れて行ってくれないのはそういう事だったのか。仲間意識を持っていたのはシノだけだったのか。落ち込むシノを放置し、べポとシャチがローとヴォルフの方を向いて頭を下げた。
「「ここに置いてください!お願いします!」」
「……しょうがない、まとめてこの家に置いてやる!だがお前たちの保護者や家族や友達になる気はない!!わしらの関係はギブ&テイク!怪我人の体調が戻り次第、全員町で働いてもらう!それでいいな!?」
ヴォルフの言葉に皆笑顔で頷いた。ヴォルフは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、ふんと顔をそらした。本当に面倒見の良い老人だ。
こうして、一気に増えてしまったヴォルフの家の住人達。六人での共同生活が始まった。騒がしくて楽しくなりそうだ。シノは、鍵編みのコースターをまた二つ増やさないとなぁとぼんやり考えた。
end.
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