作戦会議
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「キャプテン、今、なんて………」
潜水艇の食堂に集まったハートの海賊団一同。
船長のローから話があると言われ全員が集まった。次の行き先が決まったとの話だったので、誰もが気合を入れて話を聞いていた。
「四皇を引き摺り下ろす時が来た」
偉大なる航路、新世界に入ってからしばらくが経った。だが今までの海と違い、ほとんどが四皇の縄張りとなっており、普通に進もうとするだけで四皇の脅威と出会うことになる。ここから先は、四皇の傘下に入るか、四皇と全面的に戦い続けるか。当然傘下に入るという選択肢は取らないであろうと思っていたが、改めて言われると緊張感が違う。
「とはいえ、すぐにどうこう出来る話じゃない。まずはその準備をする」
「準備って?」
「俺らが狙う四皇は、百獣海賊団……カイドウだ」
白ひげ亡き今、現在の四皇は、ビッグマム、シャンクス、黒ひげ、そして今名前の挙がったカイドウだ。誰を選んでも勝てる気はまるでしないが、ローが理由もなくこんな話をクルーにし始める訳が無いので、何かしら策を考えたのだろう。
「あいつは闇のブローカー"ジョーカー"との取引で戦力を強化し続けている。まずはそれを止める」
ジョーカー。噂は聞いた事があるがその程度だ。いつの間にそんな情報を手にしたのか。ローが王下七武海に入ったのも、ここ最近単独行動を取り放浪する事が増えたのも、ここ数日部屋にこもって忙しそうにしていたのも、これらを調べあげて作戦を練っていたということだ。
「そのためにやることは2つ、ジョーカーの"商品"の生産を止める事、止めた後に再生産されないようその"商品を生産しているやつ"をとっ捕まえる事」
「じゃあこれから、その"商品"を作ってる工場を壊しに向かうって事?」
「まぁ概ねそんな感じだ。結果的にカイドウの戦力強化は止まり、取引が出来なくなったジョーカーはカイドウに狙われて勝手にやりあうはずだ」
分かりやすいように簡潔に話くれたので、だいたいわかってきた。カイドウの戦力追加を止めたうえで、カイドウとジョーカーをぶつけて現状の戦力も削らせる。漁夫の利を取りにいこうという魂胆だ。その下準備として、ジョーカーに喧嘩を売るのが今回の作戦のようだ。ローの横でうんうんと頷いているべポとシャチとペンギン。調べるのを手伝っており、だいたい事前に聞いていたのだろう。
「その工場のある島はわかってるの?」
「おう!いつでも向かえるぞ!」
「いや……そこには俺、一人で行く」
「「「キャプテン!?」」」
べポとシャチとペンギンの声が重なった。三人もこれは聞いていなかったようだ。当然事前に聞いていたら反対していただろう。他のクルー達も含め、ローに視線が集まる。
「いろいろ調べたが細かい場所まではわからなかった。全員で行って騒ぎを起こすより、七武海の称号を利用して一人で潜入して調べた方が安全で確実だ」
言っていることは尤もである。まだ作戦は最序盤だ。出来る限り穏便に安全に済ませるのであればそれに越したことはない。ローの能力を考えても隠密行動に向いているのは事実だ。
「……それで、その間、俺らは?」
「べポ、お前の故郷、ゾウへ行け」
「え、俺の故郷?」
ベポの一族は、新世界にあるゾウという島に住んでいるらしい。そこはビブルカードがないと辿り着けない島だと聞いたことがある。べポがそのビブルカードを子供の頃からずっと持っているので、彼ならそこにたどり着けるだろうが。
「俺が隠密に工場を破壊して、それを生産している元凶を連れていく。そいつをゾウに閉じ込めて俺らもしばらく潜伏する。その間にカイドウとジョーカーがぶつかり合って戦力を削ってくれるだろう」
「それはそうだろうけど……」
「お前らは先にゾウへ行って、その段取りを整えておけ」
確かにべポがいるとは言えど、急に行って歓迎してくれる状況かもわからない。べポ自身、幼い頃に旅に出たきり戻っていないのだ。べポはともかく、他の面々まで受け入れてもらえる状況とも限らない。ローのいうことは全体的に理にかなっていると言えないことも無い。とはいえ、すぐに納得できるかと言われると正直難しい。どう考えてもローの負担があまりにも大きすぎる。海賊団の船長が作戦のほとんどの担う等聞いたことが無い。それぞれがいろいろと思案している間、ローは黙って待っていた。
「……わかった」
最初に口を開いたのはべポだった。こくりと力強く頷くベポ。
「俺、みんなをちゃんとゾウに連れていくよ。キャプテン、待ってるから」
「あぁ、頼んだ」
そう言って笑うロー。べポならそう言うと踏んでいたのだろう。彼らの信頼感なら当然だ。シノは黙ってそれを見ている事しかできなかった。
翌日、近くの港でローだけ降りることになった。ゾウの方向とローが向かう島の方向がそこで分かれるようだ。元々放浪癖があり一人でどこかに行ってしまうことが多かったローは、いつもと同じノリでさらりと行ってしまった。シノも個別で話すタイミングはなかった。昨日のあの会話は、全てこうなることがローの中で決まっていたからこその言葉だったようだ。あんなに期待させておいて卑怯ではないか。
ぼんやりと、ローの降りて行った港を見る。もう既に彼の姿はない。せめて行く前にひとこと何か言って欲しかった。
「おい、不貞腐れてるシノちょっと来い」
「なにー?」
シャチに呼ばれついていく。普段、航路や今後の作戦を検討する時に使用している部屋だ。そこにはべポとペンギンが既に待機していた。ゾウへの航路の説明だろうか。であれば、シノよりも他のメンバーの方が必要だと思うが。
「お前、今回の件どう思う?」
「どうって……」
言いたいことは山ほどある。だが一番気になるのは、今までの放浪や七武海の仕事での単独行動とは少し違う気がすることだ。ただの勘なので具体的に説明しろと言われると難しいが。シノはそれを正直に伝える。3人も同意見らしく、揃って頷いた。
「筋が通ってたから何も言えなかったが、あの人絶対何か隠してる」
「だよね」
「で、あの人が隠れて勝手するんだったら俺らだって少しくらい勝手しても良いだろうって思ってんだ」
「え」
どさりと大量の書面を机に出すペンギン。適当に数枚手に取り中身を見る限り、そのほとんどがジョーカーの取引に関するもののようだ。取引先情報に確かにカイドウの名前がある。一体どこでこんなものを入手して来たのか。
「ほとんどキャプテンが集めた情報だけどな。俺らが調べたのはこっちのドレスローザって国の方だ」
ドレスローザ。いつだったかローにその国の古い新聞記事を見せてもらったことがある。それも関係があるのだろうか。
「全部見せてもらったつもりだったけど、何枚か抜けてんだよなー」
「だから何か隠してんだろうなって思ったわけだ」
「ふーん……なんで私には見せてくれなかったんだろ」
「そりゃお前に情報渡したら着いてくってうるさいだろうからな」
シノの性格を考えて黙っていたようだ。確かにそれは正しい。べポ達の方がまだ聞き分けが良いと踏んだのだろうが、残念ながらこうしてシノに情報を公開してしまっている。
「ああは言ってたけど、キャプテン、俺たちを巻き込まないように一人で行ったんじゃないかと思うんだ」
「……でしょうね」
頬杖をつきながら、ペラペラと書類を眺める。初めてローに無性に腹が立ってきた。仲間を大切にしてくれるのは有り難いが、もう少し信じて頼って欲しいものだ。たとえそれが個人的な問題だったとしても。
ふと、スワロー島を旅立った日のことを思い出した。彼が一度だけ口にした心のうちの願い。本当の自由を知りたいというローの思いに同調して五人で船出をしたあの日、もう1つ口にしていた。詳しく聞き返す事はできなかったが、それが関係しているのだろうか。
「で、どうする?」
「どうと言われても……」
3人の視線がシノに集まる。ゾウに行け、というローの指示は絶対だ。ハートの海賊団はゾウに向かう必要がある。ただし、ローは放って置いたらどこかで勝手に無茶をする。あの人は昔から仲間が回りに居た方がかっこつけて火事場の馬鹿力を出せるタイプだ。だとしたら、誰か1人は向かうべきだ。
そうはわかっていても、本当に追いかけていいものか。わざわざシノに黙っていたということは追いかけて来て欲しくないのかもしれない。
「お前さー、泣くくらいなら行く前にもっと文句言えよな」
「……だって急すぎて頭整理出来なかったんだもん……」
「まぁそれはそうだな。俺らだって準備手伝ってたのに、最後の最後で裏切られたしな」
ぼろぼろと大粒の涙がこぼれてきた。寂しい。文句を言われると分かっていて準備を一切手伝わせてもらえなかった。何も言わずに行ってしまった。もしもう会えなくなりでもしたらと思うと怖い。ずっと一緒にいたいと伝えたばかりなのに。ずっと付き纏うと宣言していたのに。
「……私、追いかけたい」
シノはぽつりと呟いた。付き纏う宣言をしたのだから、追いかけなければ。急な事で動揺してしまったがシノがやるべきことは決まっていた。シャチ達もそれを分かっていて聞いてくれたのだろう。
「ま、それしかねェよな」
「勝手に一人で行くって決めた方が悪いよなァ」
「俺、行きたいけど我慢する……」
当然、全員追いかけたいに決まっている。しかし、べポはどうしてもゾウへいかなければいけない。シャチとペンギンもローがいない今、船の要だ。ある意味、居ても居なくてもなんとかなるのはシノくらいなのだ。
「死に物狂いであの人が死なないよう監視して来いよ」
「本当は俺らだって行きたいんだからなー?行けることに感謝して嚙み締めろよ!」
ばしんと背中を叩かれる。シャチなりの励ましなのだろう。全員を代表して追いかけるのは責任重大だ。絶対にローに無茶させずに、なおかつ足を引っ張らずに、ゾウへ連れて行かなければならない。彼らより戦力的に劣るシノに出来るのかは甚だ怪しい。
「じゃあとりあえず他の奴らにも追いかける旨は話して、ドレスローザまで送るってことで良いな」
「待って。ドレスローザじゃなくて、こっちが良いと思う」
1枚の書類を指さす。元々政府が研究に使用していた島、パンクハザード。書類が何枚か飛んではいるが、ここで"商品"の研究をしているのではという旨が記載されていた。生産を止めるなら工場を狙うとは思うが、ローは先にここへ向かった気がする。
「なんでだ?」
「昨日、ローの部屋でちらっと見た書類にもパンクハザードって文字に丸ついてたから」
「あー……なるほど……?」
理由はそれだけだ。抜けている何枚かがローの部屋にあるとすれば、昨日ギリギリまで見ていたそこへ向かった可能性は高い。ローなら確実に潰すためにそちらもどうにかしようとするのではないか。尤も、ほぼ勘でしかないのだが。
「つっても、そこ、ログもない島だからどうやって行けば良いのか……」
「あ、俺、キャプテンに頼まれて資料からそこに一番近い島からの海図起こしたからわかるぞ」
「「先言えよ!?!?」」
「ごめんなさい……」
怒られてしょんぼりするべポ。相変わらず打たれ弱い。しかし、そうと分かれば確度はかなり上がった。わざわざ海図を起こさせて行かないはずがない。順番的にもドレスローザの工場の前にそちらに行く可能性の方が高いだろう。
「じゃあ絶対そこじゃねェか!」
「でかしたな、べポ!」
「おう!俺、すぐ海図書き直す!」
早速机に向かうべポ。これならすぐに追えるかもしれない。単独行動は初めてなので、ちゃんと出来る限りの準備をしていかなければ。送り出してくれるべポ達の期待に絶対に応えなければ。そう誓って、シノ残りの書類をひたすら読みふけった。
それからはあっという間だった。シャチからの追加の提案等もあり、結局準備に一カ月程要してしまった。ローも慎重に時間をかけて挑むと言っていたので、まだ事を起こすのは先の話だろう。毎日、新聞を隅から隅までチェックしていたが、特にそれらしき事件はなかった。何かあればすぐに新聞で何かしらの情報が入ってくるはずだ。出来る準備はしたつもりだが、ギリギリまで書類に目を通し続けた。ローの部屋は鍵がしまっており、抜けた書類を入手することは出来なかったが、今はとりあえずローがパンクハザードにいることを祈るしかない。
「もうすぐ着くってよ」
「りょーかい」
ペンギンが部屋に入ってきた。ふぅと一息つき、書類を整える。荷物はまとめてある。上陸準備は出来ている。
「キャプテン、怒るかなー?」
「そうしたら一緒に怒られてやるよ。むしろ場合によってはこっちが怒りたいくらいだけどな」
もし本当に無茶をする気が無かったならかなり怒るかもしれないが、心当たりがあるならあまり文句は言えないはずだ。
「キャプテンがさ、お前にだけ話さなかったのは、お前が付いていくって駄々こねた時に断れないからだと思うぞ」
「そうかなぁ……?」
「だからお前が行っても、やっぱりって思うだけで怒られやしねェよ」
そう言って笑うペンギン。シノとしては、単純に三人なら思うところはあっても素直に従ってくれると信頼しているからだと思う。シノが駄々をこねるという点に関しては同意するが。
「頼んだぞ、俺らのキャプテンのこと」
「任せといて」
正直不安はある。もし本当に邪魔してしまったら、足を引っ張ってしまったら、そもそもこの島にいなかったら。しかしそんなことを考えてもしょうがない。あとは自力でなんとかするしかない。ぽんと頭の上にペンギンの手が置かれた。
「……キャプテンも心配だけど、俺ら、お前のことだって心配してんだからな。無茶すんなよ」
「大丈夫、ちゃんと二人揃ってゾウに行くよ」
「おう、」
拳を合わせて笑い合う。本当に長い付き合いになったものだ。いつの間にか来ていたベポとシャチとも同じように拳を合わせ、気合いを入れた。
「本当にここで良いのか?」
「うん。そろそろ皆もゾウ向かわないとまずいでしょ」
パンクハザードではない別の島。シャチの提案してくれたとある準備の為にやってきた。シャチ達はそこまで付き合うと言ってくれたが、どれくらい時間がかかるかわからないうえに、ハートの海賊団としての仕事ではない。ここからは別行動を取った方が良いだろう。
「気を付けろよ、シノ」
「ありがとべポ、船と皆をよろしくね」
ぎゅうと抱き着いて挨拶をする。よく単独行動をするローは置いておいて、べポ達と別れるのは初めてだ。名残惜しいが、また会えばもふもふを楽しめる。絶対にまたゾウで再会してハグをしなければ。
「じゃあ、またね」
そう言って手を振り、みんなに見送られながらシノは船を降りた。ここからは一人行動だ。ローと合流してみんなと再会するために、気合いを入れて、まずは目的の地へと向かった。
end.
潜水艇の食堂に集まったハートの海賊団一同。
船長のローから話があると言われ全員が集まった。次の行き先が決まったとの話だったので、誰もが気合を入れて話を聞いていた。
「四皇を引き摺り下ろす時が来た」
偉大なる航路、新世界に入ってからしばらくが経った。だが今までの海と違い、ほとんどが四皇の縄張りとなっており、普通に進もうとするだけで四皇の脅威と出会うことになる。ここから先は、四皇の傘下に入るか、四皇と全面的に戦い続けるか。当然傘下に入るという選択肢は取らないであろうと思っていたが、改めて言われると緊張感が違う。
「とはいえ、すぐにどうこう出来る話じゃない。まずはその準備をする」
「準備って?」
「俺らが狙う四皇は、百獣海賊団……カイドウだ」
白ひげ亡き今、現在の四皇は、ビッグマム、シャンクス、黒ひげ、そして今名前の挙がったカイドウだ。誰を選んでも勝てる気はまるでしないが、ローが理由もなくこんな話をクルーにし始める訳が無いので、何かしら策を考えたのだろう。
「あいつは闇のブローカー"ジョーカー"との取引で戦力を強化し続けている。まずはそれを止める」
ジョーカー。噂は聞いた事があるがその程度だ。いつの間にそんな情報を手にしたのか。ローが王下七武海に入ったのも、ここ最近単独行動を取り放浪する事が増えたのも、ここ数日部屋にこもって忙しそうにしていたのも、これらを調べあげて作戦を練っていたということだ。
「そのためにやることは2つ、ジョーカーの"商品"の生産を止める事、止めた後に再生産されないようその"商品を生産しているやつ"をとっ捕まえる事」
「じゃあこれから、その"商品"を作ってる工場を壊しに向かうって事?」
「まぁ概ねそんな感じだ。結果的にカイドウの戦力強化は止まり、取引が出来なくなったジョーカーはカイドウに狙われて勝手にやりあうはずだ」
分かりやすいように簡潔に話くれたので、だいたいわかってきた。カイドウの戦力追加を止めたうえで、カイドウとジョーカーをぶつけて現状の戦力も削らせる。漁夫の利を取りにいこうという魂胆だ。その下準備として、ジョーカーに喧嘩を売るのが今回の作戦のようだ。ローの横でうんうんと頷いているべポとシャチとペンギン。調べるのを手伝っており、だいたい事前に聞いていたのだろう。
「その工場のある島はわかってるの?」
「おう!いつでも向かえるぞ!」
「いや……そこには俺、一人で行く」
「「「キャプテン!?」」」
べポとシャチとペンギンの声が重なった。三人もこれは聞いていなかったようだ。当然事前に聞いていたら反対していただろう。他のクルー達も含め、ローに視線が集まる。
「いろいろ調べたが細かい場所まではわからなかった。全員で行って騒ぎを起こすより、七武海の称号を利用して一人で潜入して調べた方が安全で確実だ」
言っていることは尤もである。まだ作戦は最序盤だ。出来る限り穏便に安全に済ませるのであればそれに越したことはない。ローの能力を考えても隠密行動に向いているのは事実だ。
「……それで、その間、俺らは?」
「べポ、お前の故郷、ゾウへ行け」
「え、俺の故郷?」
ベポの一族は、新世界にあるゾウという島に住んでいるらしい。そこはビブルカードがないと辿り着けない島だと聞いたことがある。べポがそのビブルカードを子供の頃からずっと持っているので、彼ならそこにたどり着けるだろうが。
「俺が隠密に工場を破壊して、それを生産している元凶を連れていく。そいつをゾウに閉じ込めて俺らもしばらく潜伏する。その間にカイドウとジョーカーがぶつかり合って戦力を削ってくれるだろう」
「それはそうだろうけど……」
「お前らは先にゾウへ行って、その段取りを整えておけ」
確かにべポがいるとは言えど、急に行って歓迎してくれる状況かもわからない。べポ自身、幼い頃に旅に出たきり戻っていないのだ。べポはともかく、他の面々まで受け入れてもらえる状況とも限らない。ローのいうことは全体的に理にかなっていると言えないことも無い。とはいえ、すぐに納得できるかと言われると正直難しい。どう考えてもローの負担があまりにも大きすぎる。海賊団の船長が作戦のほとんどの担う等聞いたことが無い。それぞれがいろいろと思案している間、ローは黙って待っていた。
「……わかった」
最初に口を開いたのはべポだった。こくりと力強く頷くベポ。
「俺、みんなをちゃんとゾウに連れていくよ。キャプテン、待ってるから」
「あぁ、頼んだ」
そう言って笑うロー。べポならそう言うと踏んでいたのだろう。彼らの信頼感なら当然だ。シノは黙ってそれを見ている事しかできなかった。
翌日、近くの港でローだけ降りることになった。ゾウの方向とローが向かう島の方向がそこで分かれるようだ。元々放浪癖があり一人でどこかに行ってしまうことが多かったローは、いつもと同じノリでさらりと行ってしまった。シノも個別で話すタイミングはなかった。昨日のあの会話は、全てこうなることがローの中で決まっていたからこその言葉だったようだ。あんなに期待させておいて卑怯ではないか。
ぼんやりと、ローの降りて行った港を見る。もう既に彼の姿はない。せめて行く前にひとこと何か言って欲しかった。
「おい、不貞腐れてるシノちょっと来い」
「なにー?」
シャチに呼ばれついていく。普段、航路や今後の作戦を検討する時に使用している部屋だ。そこにはべポとペンギンが既に待機していた。ゾウへの航路の説明だろうか。であれば、シノよりも他のメンバーの方が必要だと思うが。
「お前、今回の件どう思う?」
「どうって……」
言いたいことは山ほどある。だが一番気になるのは、今までの放浪や七武海の仕事での単独行動とは少し違う気がすることだ。ただの勘なので具体的に説明しろと言われると難しいが。シノはそれを正直に伝える。3人も同意見らしく、揃って頷いた。
「筋が通ってたから何も言えなかったが、あの人絶対何か隠してる」
「だよね」
「で、あの人が隠れて勝手するんだったら俺らだって少しくらい勝手しても良いだろうって思ってんだ」
「え」
どさりと大量の書面を机に出すペンギン。適当に数枚手に取り中身を見る限り、そのほとんどがジョーカーの取引に関するもののようだ。取引先情報に確かにカイドウの名前がある。一体どこでこんなものを入手して来たのか。
「ほとんどキャプテンが集めた情報だけどな。俺らが調べたのはこっちのドレスローザって国の方だ」
ドレスローザ。いつだったかローにその国の古い新聞記事を見せてもらったことがある。それも関係があるのだろうか。
「全部見せてもらったつもりだったけど、何枚か抜けてんだよなー」
「だから何か隠してんだろうなって思ったわけだ」
「ふーん……なんで私には見せてくれなかったんだろ」
「そりゃお前に情報渡したら着いてくってうるさいだろうからな」
シノの性格を考えて黙っていたようだ。確かにそれは正しい。べポ達の方がまだ聞き分けが良いと踏んだのだろうが、残念ながらこうしてシノに情報を公開してしまっている。
「ああは言ってたけど、キャプテン、俺たちを巻き込まないように一人で行ったんじゃないかと思うんだ」
「……でしょうね」
頬杖をつきながら、ペラペラと書類を眺める。初めてローに無性に腹が立ってきた。仲間を大切にしてくれるのは有り難いが、もう少し信じて頼って欲しいものだ。たとえそれが個人的な問題だったとしても。
ふと、スワロー島を旅立った日のことを思い出した。彼が一度だけ口にした心のうちの願い。本当の自由を知りたいというローの思いに同調して五人で船出をしたあの日、もう1つ口にしていた。詳しく聞き返す事はできなかったが、それが関係しているのだろうか。
「で、どうする?」
「どうと言われても……」
3人の視線がシノに集まる。ゾウに行け、というローの指示は絶対だ。ハートの海賊団はゾウに向かう必要がある。ただし、ローは放って置いたらどこかで勝手に無茶をする。あの人は昔から仲間が回りに居た方がかっこつけて火事場の馬鹿力を出せるタイプだ。だとしたら、誰か1人は向かうべきだ。
そうはわかっていても、本当に追いかけていいものか。わざわざシノに黙っていたということは追いかけて来て欲しくないのかもしれない。
「お前さー、泣くくらいなら行く前にもっと文句言えよな」
「……だって急すぎて頭整理出来なかったんだもん……」
「まぁそれはそうだな。俺らだって準備手伝ってたのに、最後の最後で裏切られたしな」
ぼろぼろと大粒の涙がこぼれてきた。寂しい。文句を言われると分かっていて準備を一切手伝わせてもらえなかった。何も言わずに行ってしまった。もしもう会えなくなりでもしたらと思うと怖い。ずっと一緒にいたいと伝えたばかりなのに。ずっと付き纏うと宣言していたのに。
「……私、追いかけたい」
シノはぽつりと呟いた。付き纏う宣言をしたのだから、追いかけなければ。急な事で動揺してしまったがシノがやるべきことは決まっていた。シャチ達もそれを分かっていて聞いてくれたのだろう。
「ま、それしかねェよな」
「勝手に一人で行くって決めた方が悪いよなァ」
「俺、行きたいけど我慢する……」
当然、全員追いかけたいに決まっている。しかし、べポはどうしてもゾウへいかなければいけない。シャチとペンギンもローがいない今、船の要だ。ある意味、居ても居なくてもなんとかなるのはシノくらいなのだ。
「死に物狂いであの人が死なないよう監視して来いよ」
「本当は俺らだって行きたいんだからなー?行けることに感謝して嚙み締めろよ!」
ばしんと背中を叩かれる。シャチなりの励ましなのだろう。全員を代表して追いかけるのは責任重大だ。絶対にローに無茶させずに、なおかつ足を引っ張らずに、ゾウへ連れて行かなければならない。彼らより戦力的に劣るシノに出来るのかは甚だ怪しい。
「じゃあとりあえず他の奴らにも追いかける旨は話して、ドレスローザまで送るってことで良いな」
「待って。ドレスローザじゃなくて、こっちが良いと思う」
1枚の書類を指さす。元々政府が研究に使用していた島、パンクハザード。書類が何枚か飛んではいるが、ここで"商品"の研究をしているのではという旨が記載されていた。生産を止めるなら工場を狙うとは思うが、ローは先にここへ向かった気がする。
「なんでだ?」
「昨日、ローの部屋でちらっと見た書類にもパンクハザードって文字に丸ついてたから」
「あー……なるほど……?」
理由はそれだけだ。抜けている何枚かがローの部屋にあるとすれば、昨日ギリギリまで見ていたそこへ向かった可能性は高い。ローなら確実に潰すためにそちらもどうにかしようとするのではないか。尤も、ほぼ勘でしかないのだが。
「つっても、そこ、ログもない島だからどうやって行けば良いのか……」
「あ、俺、キャプテンに頼まれて資料からそこに一番近い島からの海図起こしたからわかるぞ」
「「先言えよ!?!?」」
「ごめんなさい……」
怒られてしょんぼりするべポ。相変わらず打たれ弱い。しかし、そうと分かれば確度はかなり上がった。わざわざ海図を起こさせて行かないはずがない。順番的にもドレスローザの工場の前にそちらに行く可能性の方が高いだろう。
「じゃあ絶対そこじゃねェか!」
「でかしたな、べポ!」
「おう!俺、すぐ海図書き直す!」
早速机に向かうべポ。これならすぐに追えるかもしれない。単独行動は初めてなので、ちゃんと出来る限りの準備をしていかなければ。送り出してくれるべポ達の期待に絶対に応えなければ。そう誓って、シノ残りの書類をひたすら読みふけった。
それからはあっという間だった。シャチからの追加の提案等もあり、結局準備に一カ月程要してしまった。ローも慎重に時間をかけて挑むと言っていたので、まだ事を起こすのは先の話だろう。毎日、新聞を隅から隅までチェックしていたが、特にそれらしき事件はなかった。何かあればすぐに新聞で何かしらの情報が入ってくるはずだ。出来る準備はしたつもりだが、ギリギリまで書類に目を通し続けた。ローの部屋は鍵がしまっており、抜けた書類を入手することは出来なかったが、今はとりあえずローがパンクハザードにいることを祈るしかない。
「もうすぐ着くってよ」
「りょーかい」
ペンギンが部屋に入ってきた。ふぅと一息つき、書類を整える。荷物はまとめてある。上陸準備は出来ている。
「キャプテン、怒るかなー?」
「そうしたら一緒に怒られてやるよ。むしろ場合によってはこっちが怒りたいくらいだけどな」
もし本当に無茶をする気が無かったならかなり怒るかもしれないが、心当たりがあるならあまり文句は言えないはずだ。
「キャプテンがさ、お前にだけ話さなかったのは、お前が付いていくって駄々こねた時に断れないからだと思うぞ」
「そうかなぁ……?」
「だからお前が行っても、やっぱりって思うだけで怒られやしねェよ」
そう言って笑うペンギン。シノとしては、単純に三人なら思うところはあっても素直に従ってくれると信頼しているからだと思う。シノが駄々をこねるという点に関しては同意するが。
「頼んだぞ、俺らのキャプテンのこと」
「任せといて」
正直不安はある。もし本当に邪魔してしまったら、足を引っ張ってしまったら、そもそもこの島にいなかったら。しかしそんなことを考えてもしょうがない。あとは自力でなんとかするしかない。ぽんと頭の上にペンギンの手が置かれた。
「……キャプテンも心配だけど、俺ら、お前のことだって心配してんだからな。無茶すんなよ」
「大丈夫、ちゃんと二人揃ってゾウに行くよ」
「おう、」
拳を合わせて笑い合う。本当に長い付き合いになったものだ。いつの間にか来ていたベポとシャチとも同じように拳を合わせ、気合いを入れた。
「本当にここで良いのか?」
「うん。そろそろ皆もゾウ向かわないとまずいでしょ」
パンクハザードではない別の島。シャチの提案してくれたとある準備の為にやってきた。シャチ達はそこまで付き合うと言ってくれたが、どれくらい時間がかかるかわからないうえに、ハートの海賊団としての仕事ではない。ここからは別行動を取った方が良いだろう。
「気を付けろよ、シノ」
「ありがとべポ、船と皆をよろしくね」
ぎゅうと抱き着いて挨拶をする。よく単独行動をするローは置いておいて、べポ達と別れるのは初めてだ。名残惜しいが、また会えばもふもふを楽しめる。絶対にまたゾウで再会してハグをしなければ。
「じゃあ、またね」
そう言って手を振り、みんなに見送られながらシノは船を降りた。ここからは一人行動だ。ローと合流してみんなと再会するために、気合いを入れて、まずは目的の地へと向かった。
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