新世界
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世間一般で頂上戦争と呼ばれるようになった海軍と白ひげ海賊団によるマリンフォードの戦争から一年半が経とうとしていた。あの時、マリンフォードの沖で戦争を見守っていた海賊達および、ルフィ、黒ひげは、今では最悪の世代と呼ばれ、一目を置かれている。実際、各々新世界で何かしら世を騒がせているのを新聞で見かけた。かく言うハートの海賊団も、ローが大きな事件を起こし、王下七武海の一人となったことで世間を騒がせたわけなのだが。
「べポー港もう着くー!?」
「もう見えてるよー」
いろいろあり、他の最悪の世代よりは遅れながらも新世界に入ったハートの海賊団だったが、なんやかんやで今までとそんなに変わらない海賊ライフを送っている。しいて言うのであれば、ローが王下七武海に入ったおかげで、海軍に追われることはなくなった。
今日も今日とて、活気あふれたとある町に上陸しようとしていた。シノもゆっくりと買い物が出来そうな町に心躍らせ、個人的に欲しいものを買いに行くため、出掛けようと意気込んでいた。
潜水艇で港に停泊すると目立つので、少し外れに浮上し、そこから町へ歩いていくことになる。大きな波音を立てて浮上するポーラータング号。久々の空は綺麗な快晴だ。思わず飛び出し外の空気を大きく吸う。
「おい」
「はいっ!!」
真上からの声にビクッと背筋が伸びる。油断していたせいか、全く気配を感じなかった。体をそる勢いで上を見ると、我らがハートの海賊団の船長ローが見下ろしていた。
「あれ、キャプテン!どうしたの?」
振り返り抱き着こうとしたが、すっと後退し逃げられてしまった。べポだったら抱き着かせてくれるくせにシノはNGらしい。いつものことなので大して気にも留めないが。
「薬の調達行くぞ」
「え……えええええ!?!?」
まさかのお誘いに心臓が跳ねる。が、何故よりにもよって今日なのか。普段は誘っても来てくれやしないのだが、珍しく向こうから誘ってくるとは、何かシノに用があるのだろうか。
それこそ新世界に突入してからは、特に二人になる機会は減ってしまった。ローが王下七武海となり放浪することも増え、そもそもいないというのもあるが、昔の方がなんやかんやとついてきてくれる日もあった。そんな貴重なタイミングを逃すのは正直もったいないが、元々ローには内密に買い出しに行きたかったこともあり、どうしたものかと悩む。
「ちなみに今日はべポとかじゃダメなの?」
「は?」
喜んでついてくると思っていたのだろう、普段であれば喜んで尻尾を振ってついていったのだが。それとなく探りを入れてみると、元から悪い目つきの彼に凄い形相で睨まれ、思わず目をそらした。
「こないだも怪我して手術用の麻酔薬使い切ったのどこのどいつだった」
「うっ……」
「海賊のくせに船酔いするからって毎回酔い止め飲んでるのは誰だ」
「あうっ……」
ぐうの音も出ないとはこのことで。思い当る節がありすぎてグサグサと言葉が刺さる。自分だけではないにしろ、シノが消費したことはゆるぎない事実である。シノの頭では断る口実が見つからない。
「……行くか?」
「はい……」
想定外の自体で計画通りとはいかなかったが、町に出かけるということ自体は変わらない。個人的な買い出しはローとの買い物が終わってから考えることにする。そもそもよく考えてみれば一緒に、しかも二人で出かけるなんて物凄く美味しい展開だ。つまりこれは。
「実質、デート、ってことでは……!?」
「違う」
「え、声出てた?」
「駄々洩れだ」
るんるんの足取りで歩きながら、つい声が漏れていたらしい。普段仲間たちと大所帯で旅をしている分、二人きりになることは多くない。デートではないにしろ、この瞬間をかみしめたい。
「そうだ、私、ちょっと寄り道したいところあるんだけど……」
「…………用事が終わったらな」
「わーい、ありがとー」
かなりの間はあったが、彼はなんやかんやでクルーには甘いのだ。彼の答えに満足してスキップ気味に歩く。足の長さ的にどう考えても彼の方が速いはずなのだが、ちゃんと速度を合わせてくれているようだ。それも嬉しくて笑みがこぼれてしまう。
***
「よし、これで買い物OK?」
「あぁ、十分だろ」
あれやこれやと医薬品類を買いこみ、結構な荷物になってしまった。これだけあれば当分買わなくても十分だろうという量だ。前半の海と比べ、新世界は安全ではない場所が多いので、備蓄があるに越したことはない。帰ったら医務室の整理をしないとなぁとぼんやり考える。
「それで、どこに寄るんだ」
「あ、そうだった」
元々一人で行く予定ではあったが、こうなってしまっては仕方がない。誤魔化したところで、シノがローを振り切って一人になれるわけがないので、この際正直に話してしまっても良いだろう。
「実はさ、もうすぐキャプテンの誕生日だからプレゼント買おうと思ってて。だから何か欲しいものない?」
「そういうことか……」
一緒に行くのを渋っていた理由がわかり納得したらしい。少し早いがもうすぐローの誕生日だ。しかし、ここを逃したらプレゼントをしばらく買えない可能性もある。恐らく他のクルー達もこの島か前回立ち寄った島等で用意していることだろう。ローは手を口元にあて、少し考える素振りを見せる。なんでもいい、と言われると思っていたので、真面目に考えてくれるとは意外だった。
「来る途中で見かけた店行くぞ」
「りょーかーい!!」
どこの店を指しているのかわからないがローについて行く。たどり着いたのはジュエリーショップだった。ショーケースが並んだ少し高級感のある店。こういう店には行きなれていないので、果たしてシノのお小遣いで足りるものなのか、少し身構えてしまう。
なんの躊躇もなく中へ入っていくロー。その後ろをついて行きながら周りのショーケースの中をきょろきょろと眺めた。ローはピアスを付けているが、シノはアクセサリーを普段つけないので、何を買えばいいのかわからない。
「ちょうどピアスを買い替えようと思ってたんだ。ここら辺から適当に選べ」
「あ、わかった、任せて」
ここまで指定してもらえるとかなり助かる。正直自分のセンスに自信がない。ローもわかっているのだろう。勝手に選ぶよりお互いの為にも良かったかもしれない。しばらくいくつかのピアスとにらめっこをし、シノは無難なピアスを一つ選んだ。今使っているものとあまり変わらないが、ローに似合うものと考えると似てしまうのはやむをえない。
「じゃあこれください」
店の人にプレゼント仕様で包んでもらい、受け取る。予算内にも収まり無事買い物を終えることが出来た。目的は達成されたので、あとは船に戻るのみだ。そう思って店を出ると、ローの足がぴたりと止まった。
「シノ、アイス食うか」
「え!?食べるけど……」
ローが親切すぎて逆に怖い。言われるがままにアイス屋で欲しい味を注文する。シノはコーヒー味、ローは抹茶味だ。先ほどは否定されたが本当にデートをしているのではないかと錯覚してしまう。
「この味、美味いな」
「本当ー?私も早く食べたーい……キャプテン?」
「……あぁ」
シノのアイスを一口味見したローから、アイスを受け取ろうと手を伸ばした時だった。一瞬だったがローのアイスを持つ手が引いた。そのまま少し固まったローに声をかけると、普通にアイスを渡された。
ここ最近、ローがよく固まる。今日も向こうから誘ってきたので、避けられているわけではないと思うのだが、シノと会話している時にたまに固まる。特に先ほどのように物の受け渡し時に躊躇することがある。理由を問うたところで、教えてくれるかはわからないので、何も聞かずに気づかないふりをするしかない。
「ちょっと、ここで待ってろ」
「??わかった」
「勝手に動くなよ!!」
「はいはーい」
先にアイスを食べ終わったローがベンチから立ち上がり、どこかへ行ってしまった。用事が済んでしまったシノは他に行く場所もないので、大人しくアイスを食べて待つ。と言ってももうほとんど食べ終わっており、残りのアイスが染みたコーンをちまちまと食べ進めていた。
行き交う人々をぼんやり眺める。当たり前だが新世界に入ったところで人の営みは変わらない。海賊が拠点として居着いていたらまた違うのかもしれないが、少なくともこの町は北の海で見てきたような町と何ら変わらない。平和そのものだ。
「シノ」
「あ、キャプテンおかえりー」
しばらくしてローが帰ってきた。ぼーっとしており気づかなかったが、何回か呼ばれていたようだった。
「何ぼーっとしてんだ」
「なんか新世界も思ってたよりは平和だなぁって」
「言っとくがここはビッグマムのナワバリだぞ」
「え!?」
「……お前、海賊旗見てなかったのか」
浮かれすぎていて周りを全然見ていなかった。まさか四皇のうちの一人のナワバリだったとは。
「まぁここは新世界の端だからな。ビッグマム本人も傘下の奴らもいねェよ。ただ定期的にお菓子の徴収に来るくらいなもんだ」
「だからアイスも美味しかったのかぁ」
「そうかもな」
新世界といってもいろいろな島がある。単にこの島が平和なだけのようだ。ここは大人しく買い出しするくらいであれば問題ないようだが、新世界を進めば進むほど、四皇のナワバリが多くなり、衝突は避けられない。何か突破口を見つけなければこの先の航海は困難になってくるらしい。詳細は聞いていないが、ローが七武海に入ったのも、この突破口を探るためなのだろう。
「麦わらの一味、元気かなぁ」
「……」
「え、なに?」
「お前、本当に麦わらの一味好きだよな」
「キャプテンもでしょー?」
シャボンディ諸島で会って彼らの人柄を見たからというのももちろんあるが、そもそもシノにとっては、ローがわざわざ危険を冒してでも救おうとしたルフィに興味があると言った方が正しい。ローはシノの言い分が不服だったのか少し難しい顔をしていた。
「好きじゃないにしても興味はあるでしょ?」
「まぁあいつらが次何をするか、興味はある」
あれから一年半が経とうとしているが、一向に表舞台に出てこない麦わらの一味。しかし、完全に消えたわけではなく帰ってくるとローも信じているのだろう。
「レイリーさんがさ、新時代が来るって言ってたじゃん。なんとなくだけど、それってルフィ君達のことなのかなぁって思ったんだよね」
「そんなことねェだろ」
実際二年前も世界を揺るがす事件のたびに彼らがいた。いつか復活した時もたくさんの事件を巻き起こすことだろう。てっきりローもそう考えていると思っていたのだが。
「あーいや……あいつらが台風の目になるだろうとは俺も思ってるが、あいつら"だけ"ってことはないだろう」
「キャプテンも?」
「……どうだかな」
ふっと笑って誤魔化しはしたが、ローも嵐を巻き起こす気満々なのだろう。じゃなければ海賊の心臓を100個取ってくる等という狂気の沙汰を実行するとは思えない。
「まぁどちらしろ、いないあいつらに期待しすぎるなって事だ」
「復活のニュース楽しみだねー」
彼らのことだ。そのうち何事もなかったかのように現れるはずだ。待っていれば、そのうち新聞に載るだろう。
ふと隣で座っていたローが立ち上がった。そろそろ帰るのだろうか。シノも倣って立ちあがろうとした時だった。目の前に綺麗に包装されたものを差し出された。綺麗な包装紙で包まれ、リボンを巻かれたそれは所謂プレゼントのように見える。シノは、何事かと目を瞬かせてローを見る。
「少し先だが、お前も誕生日だろ」
「大分先だよ!?あ、当日祝えないってこと?」
「……ちゃんと当日も祝う。……祝えたら」
ローの誕生日当日に祝おうと思って、先ほど買ったものはまだ渡していないのだが、まさかもっと先のシノの誕生日祝いをもらう事になるとは。言いたいことはいろいろあるが、祝おうとしてくれたことは素直に嬉しい。実際、もしかしたら七武海の仕事とやらで呼び出されたり、どこぞの海賊と戦闘になり誕生日どころではないこともあるのでしょうがない。
「ありがとー、開けて良い!?」
「あぁ」
包装からして先ほどローのプレゼントを買った店と一緒だろう。丁寧に包装紙を剥がし、中に入っていた箱を開ける。シンプルで綺麗なブレスレットだ。シノはピアスホールを開けていないのでピアスではないだろうと思っていたが、これならいつでも身に付けておけそうだ。
ローは箱からそれを取り出すと何も言わずにシノの腕につけた。
「わ、綺麗だーありがとー!!」
「ちゃんと常に付けとけよ」
「虫除けなら指輪の方が良くない?」
「違ェ」
睨まれたのでそれ以上は言わなかったが、そうではないなら常に付ける意味があるだろうか。そもそも言われずとも、もちろん大切に毎日つける予定だ。初めて貰ったアクセサリーに思わず顔が綻ぶ。
「……俺のも先に貰っておいて良いか」
「もちろん、私つけようか?」
「ありがとう。自分でつける」
お祝いの言葉を言うのは当日で良いだろうと、とりあえず先ほど買ったプレゼントを手渡す。シノが貰ったものと同じ包装紙を綺麗に剥がし、中のピアスを取り出すと、慣れた手つきで今つけてるものと付け替えた。耳は自分では見えないのに普段から付けている人にとっては、こんな簡単に付け替え可能なものなのかとぼんやり眺める。
「やっぱり似合うねー、付けてくれてありがと」
今までつけていたものと、多少デザインと色は違うが似たような感じなので、当然似合っている。尤も、ローはイケメンなので、何を付けても似合うとシノは思っているのだが。にやにやしながらローを見ていると、元々ローがつけていたピアスを手渡された。
「それ、預かってろ」
「分かったけど……どうしたの?」
ローが優しいのはいつものことではあるのだが、今日は何となくそれだけじゃない気がする。やはりこれはデートだったのかと錯覚するほど、いつもとは少し違う気がした。結局ローから答えはなかった。何か思うところがあるのは確かなのだろう。言いたく無いのであればしょうがない。素直にピアスを預かる事にした。
「あ!せっかくだからこれも付けたいし、ピアスホール開けてくれたりしない?」
「まぁそのうちな」
そう言って笑うロー。能力を使えばすぐに痛みもなく綺麗に開けられるだろうが、今はまだ開けてもらえないらしい。そのうち気が向いたら開けてくれるかもしれない。定期的にお願いしてみるしか無い。
「なんかキャプテンにはいつも貰ってばっかりだね」
「毎年誕生日くらいだろ」
「物もそうだけどそうじゃなくて。こうやって一緒にいて話してるだけで十分幸せだし、このままおばあちゃんになるまで一緒にいたいなぁ」
「……お前はいつも恥ずかしい事をずけずけと」
「ローのこと大好きだからね」
ローはスッと帽子を下げて顔を隠した。口では文句を言っているが、恐らく照れているのだろう。照れ隠しにぶっきらぼうな言い方をするのは昔から変わらない。そんな姿にくすりと笑う。別に応えてもらえなくても拒否をされないのであれば、シノは素直に愛を伝えていきたいと思っている。
「そろそろ戻るか」
「うん。また一緒に散歩しようね」
「……気が向いたらな」
本当は一人で来ようと思っていたが、結果的には一緒に来て良かった。また新世界で平和な町を見つけたら誘ってみよう。もしかしたら付き合ってくれるかもしれない。そもそもこの先どんな島があるのかもわからないので、平和な町に出会えるのがいつになるかも定かではないが、どちらにしろ新世界での冒険は始まったばかりだ。ローや仲間達との冒険を楽しめるよう祈りながら、シノはローと共に、仲間の待つ船を目指した。
end.
「べポー港もう着くー!?」
「もう見えてるよー」
いろいろあり、他の最悪の世代よりは遅れながらも新世界に入ったハートの海賊団だったが、なんやかんやで今までとそんなに変わらない海賊ライフを送っている。しいて言うのであれば、ローが王下七武海に入ったおかげで、海軍に追われることはなくなった。
今日も今日とて、活気あふれたとある町に上陸しようとしていた。シノもゆっくりと買い物が出来そうな町に心躍らせ、個人的に欲しいものを買いに行くため、出掛けようと意気込んでいた。
潜水艇で港に停泊すると目立つので、少し外れに浮上し、そこから町へ歩いていくことになる。大きな波音を立てて浮上するポーラータング号。久々の空は綺麗な快晴だ。思わず飛び出し外の空気を大きく吸う。
「おい」
「はいっ!!」
真上からの声にビクッと背筋が伸びる。油断していたせいか、全く気配を感じなかった。体をそる勢いで上を見ると、我らがハートの海賊団の船長ローが見下ろしていた。
「あれ、キャプテン!どうしたの?」
振り返り抱き着こうとしたが、すっと後退し逃げられてしまった。べポだったら抱き着かせてくれるくせにシノはNGらしい。いつものことなので大して気にも留めないが。
「薬の調達行くぞ」
「え……えええええ!?!?」
まさかのお誘いに心臓が跳ねる。が、何故よりにもよって今日なのか。普段は誘っても来てくれやしないのだが、珍しく向こうから誘ってくるとは、何かシノに用があるのだろうか。
それこそ新世界に突入してからは、特に二人になる機会は減ってしまった。ローが王下七武海となり放浪することも増え、そもそもいないというのもあるが、昔の方がなんやかんやとついてきてくれる日もあった。そんな貴重なタイミングを逃すのは正直もったいないが、元々ローには内密に買い出しに行きたかったこともあり、どうしたものかと悩む。
「ちなみに今日はべポとかじゃダメなの?」
「は?」
喜んでついてくると思っていたのだろう、普段であれば喜んで尻尾を振ってついていったのだが。それとなく探りを入れてみると、元から悪い目つきの彼に凄い形相で睨まれ、思わず目をそらした。
「こないだも怪我して手術用の麻酔薬使い切ったのどこのどいつだった」
「うっ……」
「海賊のくせに船酔いするからって毎回酔い止め飲んでるのは誰だ」
「あうっ……」
ぐうの音も出ないとはこのことで。思い当る節がありすぎてグサグサと言葉が刺さる。自分だけではないにしろ、シノが消費したことはゆるぎない事実である。シノの頭では断る口実が見つからない。
「……行くか?」
「はい……」
想定外の自体で計画通りとはいかなかったが、町に出かけるということ自体は変わらない。個人的な買い出しはローとの買い物が終わってから考えることにする。そもそもよく考えてみれば一緒に、しかも二人で出かけるなんて物凄く美味しい展開だ。つまりこれは。
「実質、デート、ってことでは……!?」
「違う」
「え、声出てた?」
「駄々洩れだ」
るんるんの足取りで歩きながら、つい声が漏れていたらしい。普段仲間たちと大所帯で旅をしている分、二人きりになることは多くない。デートではないにしろ、この瞬間をかみしめたい。
「そうだ、私、ちょっと寄り道したいところあるんだけど……」
「…………用事が終わったらな」
「わーい、ありがとー」
かなりの間はあったが、彼はなんやかんやでクルーには甘いのだ。彼の答えに満足してスキップ気味に歩く。足の長さ的にどう考えても彼の方が速いはずなのだが、ちゃんと速度を合わせてくれているようだ。それも嬉しくて笑みがこぼれてしまう。
***
「よし、これで買い物OK?」
「あぁ、十分だろ」
あれやこれやと医薬品類を買いこみ、結構な荷物になってしまった。これだけあれば当分買わなくても十分だろうという量だ。前半の海と比べ、新世界は安全ではない場所が多いので、備蓄があるに越したことはない。帰ったら医務室の整理をしないとなぁとぼんやり考える。
「それで、どこに寄るんだ」
「あ、そうだった」
元々一人で行く予定ではあったが、こうなってしまっては仕方がない。誤魔化したところで、シノがローを振り切って一人になれるわけがないので、この際正直に話してしまっても良いだろう。
「実はさ、もうすぐキャプテンの誕生日だからプレゼント買おうと思ってて。だから何か欲しいものない?」
「そういうことか……」
一緒に行くのを渋っていた理由がわかり納得したらしい。少し早いがもうすぐローの誕生日だ。しかし、ここを逃したらプレゼントをしばらく買えない可能性もある。恐らく他のクルー達もこの島か前回立ち寄った島等で用意していることだろう。ローは手を口元にあて、少し考える素振りを見せる。なんでもいい、と言われると思っていたので、真面目に考えてくれるとは意外だった。
「来る途中で見かけた店行くぞ」
「りょーかーい!!」
どこの店を指しているのかわからないがローについて行く。たどり着いたのはジュエリーショップだった。ショーケースが並んだ少し高級感のある店。こういう店には行きなれていないので、果たしてシノのお小遣いで足りるものなのか、少し身構えてしまう。
なんの躊躇もなく中へ入っていくロー。その後ろをついて行きながら周りのショーケースの中をきょろきょろと眺めた。ローはピアスを付けているが、シノはアクセサリーを普段つけないので、何を買えばいいのかわからない。
「ちょうどピアスを買い替えようと思ってたんだ。ここら辺から適当に選べ」
「あ、わかった、任せて」
ここまで指定してもらえるとかなり助かる。正直自分のセンスに自信がない。ローもわかっているのだろう。勝手に選ぶよりお互いの為にも良かったかもしれない。しばらくいくつかのピアスとにらめっこをし、シノは無難なピアスを一つ選んだ。今使っているものとあまり変わらないが、ローに似合うものと考えると似てしまうのはやむをえない。
「じゃあこれください」
店の人にプレゼント仕様で包んでもらい、受け取る。予算内にも収まり無事買い物を終えることが出来た。目的は達成されたので、あとは船に戻るのみだ。そう思って店を出ると、ローの足がぴたりと止まった。
「シノ、アイス食うか」
「え!?食べるけど……」
ローが親切すぎて逆に怖い。言われるがままにアイス屋で欲しい味を注文する。シノはコーヒー味、ローは抹茶味だ。先ほどは否定されたが本当にデートをしているのではないかと錯覚してしまう。
「この味、美味いな」
「本当ー?私も早く食べたーい……キャプテン?」
「……あぁ」
シノのアイスを一口味見したローから、アイスを受け取ろうと手を伸ばした時だった。一瞬だったがローのアイスを持つ手が引いた。そのまま少し固まったローに声をかけると、普通にアイスを渡された。
ここ最近、ローがよく固まる。今日も向こうから誘ってきたので、避けられているわけではないと思うのだが、シノと会話している時にたまに固まる。特に先ほどのように物の受け渡し時に躊躇することがある。理由を問うたところで、教えてくれるかはわからないので、何も聞かずに気づかないふりをするしかない。
「ちょっと、ここで待ってろ」
「??わかった」
「勝手に動くなよ!!」
「はいはーい」
先にアイスを食べ終わったローがベンチから立ち上がり、どこかへ行ってしまった。用事が済んでしまったシノは他に行く場所もないので、大人しくアイスを食べて待つ。と言ってももうほとんど食べ終わっており、残りのアイスが染みたコーンをちまちまと食べ進めていた。
行き交う人々をぼんやり眺める。当たり前だが新世界に入ったところで人の営みは変わらない。海賊が拠点として居着いていたらまた違うのかもしれないが、少なくともこの町は北の海で見てきたような町と何ら変わらない。平和そのものだ。
「シノ」
「あ、キャプテンおかえりー」
しばらくしてローが帰ってきた。ぼーっとしており気づかなかったが、何回か呼ばれていたようだった。
「何ぼーっとしてんだ」
「なんか新世界も思ってたよりは平和だなぁって」
「言っとくがここはビッグマムのナワバリだぞ」
「え!?」
「……お前、海賊旗見てなかったのか」
浮かれすぎていて周りを全然見ていなかった。まさか四皇のうちの一人のナワバリだったとは。
「まぁここは新世界の端だからな。ビッグマム本人も傘下の奴らもいねェよ。ただ定期的にお菓子の徴収に来るくらいなもんだ」
「だからアイスも美味しかったのかぁ」
「そうかもな」
新世界といってもいろいろな島がある。単にこの島が平和なだけのようだ。ここは大人しく買い出しするくらいであれば問題ないようだが、新世界を進めば進むほど、四皇のナワバリが多くなり、衝突は避けられない。何か突破口を見つけなければこの先の航海は困難になってくるらしい。詳細は聞いていないが、ローが七武海に入ったのも、この突破口を探るためなのだろう。
「麦わらの一味、元気かなぁ」
「……」
「え、なに?」
「お前、本当に麦わらの一味好きだよな」
「キャプテンもでしょー?」
シャボンディ諸島で会って彼らの人柄を見たからというのももちろんあるが、そもそもシノにとっては、ローがわざわざ危険を冒してでも救おうとしたルフィに興味があると言った方が正しい。ローはシノの言い分が不服だったのか少し難しい顔をしていた。
「好きじゃないにしても興味はあるでしょ?」
「まぁあいつらが次何をするか、興味はある」
あれから一年半が経とうとしているが、一向に表舞台に出てこない麦わらの一味。しかし、完全に消えたわけではなく帰ってくるとローも信じているのだろう。
「レイリーさんがさ、新時代が来るって言ってたじゃん。なんとなくだけど、それってルフィ君達のことなのかなぁって思ったんだよね」
「そんなことねェだろ」
実際二年前も世界を揺るがす事件のたびに彼らがいた。いつか復活した時もたくさんの事件を巻き起こすことだろう。てっきりローもそう考えていると思っていたのだが。
「あーいや……あいつらが台風の目になるだろうとは俺も思ってるが、あいつら"だけ"ってことはないだろう」
「キャプテンも?」
「……どうだかな」
ふっと笑って誤魔化しはしたが、ローも嵐を巻き起こす気満々なのだろう。じゃなければ海賊の心臓を100個取ってくる等という狂気の沙汰を実行するとは思えない。
「まぁどちらしろ、いないあいつらに期待しすぎるなって事だ」
「復活のニュース楽しみだねー」
彼らのことだ。そのうち何事もなかったかのように現れるはずだ。待っていれば、そのうち新聞に載るだろう。
ふと隣で座っていたローが立ち上がった。そろそろ帰るのだろうか。シノも倣って立ちあがろうとした時だった。目の前に綺麗に包装されたものを差し出された。綺麗な包装紙で包まれ、リボンを巻かれたそれは所謂プレゼントのように見える。シノは、何事かと目を瞬かせてローを見る。
「少し先だが、お前も誕生日だろ」
「大分先だよ!?あ、当日祝えないってこと?」
「……ちゃんと当日も祝う。……祝えたら」
ローの誕生日当日に祝おうと思って、先ほど買ったものはまだ渡していないのだが、まさかもっと先のシノの誕生日祝いをもらう事になるとは。言いたいことはいろいろあるが、祝おうとしてくれたことは素直に嬉しい。実際、もしかしたら七武海の仕事とやらで呼び出されたり、どこぞの海賊と戦闘になり誕生日どころではないこともあるのでしょうがない。
「ありがとー、開けて良い!?」
「あぁ」
包装からして先ほどローのプレゼントを買った店と一緒だろう。丁寧に包装紙を剥がし、中に入っていた箱を開ける。シンプルで綺麗なブレスレットだ。シノはピアスホールを開けていないのでピアスではないだろうと思っていたが、これならいつでも身に付けておけそうだ。
ローは箱からそれを取り出すと何も言わずにシノの腕につけた。
「わ、綺麗だーありがとー!!」
「ちゃんと常に付けとけよ」
「虫除けなら指輪の方が良くない?」
「違ェ」
睨まれたのでそれ以上は言わなかったが、そうではないなら常に付ける意味があるだろうか。そもそも言われずとも、もちろん大切に毎日つける予定だ。初めて貰ったアクセサリーに思わず顔が綻ぶ。
「……俺のも先に貰っておいて良いか」
「もちろん、私つけようか?」
「ありがとう。自分でつける」
お祝いの言葉を言うのは当日で良いだろうと、とりあえず先ほど買ったプレゼントを手渡す。シノが貰ったものと同じ包装紙を綺麗に剥がし、中のピアスを取り出すと、慣れた手つきで今つけてるものと付け替えた。耳は自分では見えないのに普段から付けている人にとっては、こんな簡単に付け替え可能なものなのかとぼんやり眺める。
「やっぱり似合うねー、付けてくれてありがと」
今までつけていたものと、多少デザインと色は違うが似たような感じなので、当然似合っている。尤も、ローはイケメンなので、何を付けても似合うとシノは思っているのだが。にやにやしながらローを見ていると、元々ローがつけていたピアスを手渡された。
「それ、預かってろ」
「分かったけど……どうしたの?」
ローが優しいのはいつものことではあるのだが、今日は何となくそれだけじゃない気がする。やはりこれはデートだったのかと錯覚するほど、いつもとは少し違う気がした。結局ローから答えはなかった。何か思うところがあるのは確かなのだろう。言いたく無いのであればしょうがない。素直にピアスを預かる事にした。
「あ!せっかくだからこれも付けたいし、ピアスホール開けてくれたりしない?」
「まぁそのうちな」
そう言って笑うロー。能力を使えばすぐに痛みもなく綺麗に開けられるだろうが、今はまだ開けてもらえないらしい。そのうち気が向いたら開けてくれるかもしれない。定期的にお願いしてみるしか無い。
「なんかキャプテンにはいつも貰ってばっかりだね」
「毎年誕生日くらいだろ」
「物もそうだけどそうじゃなくて。こうやって一緒にいて話してるだけで十分幸せだし、このままおばあちゃんになるまで一緒にいたいなぁ」
「……お前はいつも恥ずかしい事をずけずけと」
「ローのこと大好きだからね」
ローはスッと帽子を下げて顔を隠した。口では文句を言っているが、恐らく照れているのだろう。照れ隠しにぶっきらぼうな言い方をするのは昔から変わらない。そんな姿にくすりと笑う。別に応えてもらえなくても拒否をされないのであれば、シノは素直に愛を伝えていきたいと思っている。
「そろそろ戻るか」
「うん。また一緒に散歩しようね」
「……気が向いたらな」
本当は一人で来ようと思っていたが、結果的には一緒に来て良かった。また新世界で平和な町を見つけたら誘ってみよう。もしかしたら付き合ってくれるかもしれない。そもそもこの先どんな島があるのかもわからないので、平和な町に出会えるのがいつになるかも定かではないが、どちらにしろ新世界での冒険は始まったばかりだ。ローや仲間達との冒険を楽しめるよう祈りながら、シノはローと共に、仲間の待つ船を目指した。
end.
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