シャボンディ諸島、上陸
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「わー、泡が浮いてるー!!」
シャボンディ諸島。島と銘打ってはいるが、ログは取れない。79本のヤルキマンマングローブという巨大な樹木の集合体であり、実際は島では無いらしい。そこらじゅうにふわふわと浮いているシャボン玉は、この巨大な樹木の根から発生しているようだ。
「触っても、割れない……!」
「おーい、置いてくぞーシノ」
今まで辿ってきた偉大なる航路の前半戦は、いくつかのルートから一つ選び真っ直ぐ進んできた。しかし、後半の海に行くには、赤い大陸を越えるため、マリージョアを通る必要がある。当然、海軍本部のあるマリージョアを海賊が船も含めて通ることが出来るはずもなく、ルートとしては海底を進み魚人島を抜けるルート一択となる。その結果、海底を進むための船のコーティングが出来るこのシャボンディ諸島に、いくつものルートに分かれていた海賊達が集まってくる、ということだ。
「新世界に行く奴らはここを通るしかねェからな」
「だから海賊っぽいガラが悪い人が多いのかぁ」
「でも海軍本部も近ェし、駐在所もあるから、問題起こすなよ〜」
ハートの海賊団としても、そのコーティングが必要らしく、コーティングが出来る人物を探しにここへやってきた。ポーラータング号は潜水艇ではあるが、魚人島へのルートがどれだけの深度でどれだけ危険かもわからないので、通例に則り、コーティング船で向かった方が良いだろうとの判断だった。
樹木ごとに一つの島となっており、島ごとに特色がある。今いるのはレストランや店が多くある繁華街の地域だ。
「じゃあ私ここら辺の店で情報収集してくるから」
船のコーティングを請け負ってくれる業者を探す為、近くのいくつかの島に散って情報収集をすることになった。
「俺とキャプテンはこの島ふらふらしてるから1時間後ここ集合なー」
「うん、何かあったら連絡するから」
そう言ってポケットの中に入れた電伝虫を見せる。基本的にはこの島に戻ってくれば、ベポは目立つのですぐ見つけられる。万が一何かがあって島へ来れなかった時のための連絡手段だ。
皆と別れ、ふらふらと町を歩き回る。飲食店、ファッション系の店、アンティークショップに、武器屋。様々な種類の店がある。ふと目に入った露天に足を向けた。
「レモネード一つ!」
「ピザセット一つ!!!」
声が合ってしまった。お互い、声を発した相手を見る。ピンク色の長い髪、茶色い毛皮のミニ丈コート、サスペンダーをつけたホットパンツ。そのオシャレな女性に見覚えがあった。
「あ、ジュエリー・ボニー」
「あたしの事知ってんの?あんたも海賊?」
お先どうぞと譲りつつ、手配書に書いてあった名前を思い出した。1億4000万ベリーの賞金首で、今この島に11人いる億超ルーキーのうちの一人だ。
「うん、ハートの海賊団のクルーです」
「あー、トラファルガー・ローのところか」
「そちらもコーティング船を?」
「まぁね、知り合いに頼んだから作業待ち」
「え、何それ、紹介してくれない!?」
下手にそこら辺で情報収集して質の悪い技師を捕まえるより、彼女の知り合いのほうが腕は確かだろう。会ったばかりの海賊を信用しても良いものか、という話もあるが。
「じゃあこのピザ奢ってくんない?」
「いいよー」
そのくらいであれば、と自分のレモネード分含め支払いをする。ピザセットとやらは円形ピザ2枚セットだったらしく、想定より高かったがやむを得ない。
近くのテラス席に腰掛け、二人で座る。早速ピザに喰らいつくボニーを、レモネードを飲みながら見守った。
「食べるの好きなんだねぇ」
あまりの食べっぷりに感嘆してしまう。シノはこのサイズのピザを1枚食べ切る自信もない。美味しそうに食べている人を見るのは、こちらとしても気持ちが良い。女性の海賊に会うのは珍しい。しかも見た目からして10代後半から20代前半くらいに見えるので、おそらく歳も近いだろう。仲良くなれると嬉しいのだが。
ピザがあと一切れというところまで来た時、近くで銃声が聞こえた。海賊も多いのでどこかで小競り合いをしているのかもしれない。ボニーが最後の一切れを口に放り込むと、ボニーとシノは銃声のした方へ覗きに行った。
「げ、天竜人かよ……」
「なんか揉めてるね……」
建物の影から様子を伺う。どうやら天竜人の目の前の病院に怪我人を運び込もうとして、怪我人に追い打ちをかけるように銃で撃ったようだ。
そして今度は看護師に絡んでいる。それを止めに入った男性が撃たれた。看護師の叫び声が響く。
「本当に無茶苦茶だね、天竜人……」
「危害加えたら海軍大将が飛んでくるから誰も手出せねェんだよ」
「確かに大将は困るけど……早くどこか行かないかな」
看護師には悪いが、彼女を助ける術は持ち合わせていない。せめて今撃たれた男性だけでもすぐに病院に運び込めば命は助かるだろう。これ以上、問題が起きなければ。
「あ……?あいつ何やってんだ…!?」
「あ、電伝虫に着信だ」
プルプルプルとポケットの中の電伝虫が呼んでいる。シノは周りの様子見つつ、電話に出る。
「もしもし、シノです」
『おい、シノ、お前今どこだ』
ローの声だ。まだ経ってはいないが、もうすぐ1時間が経過しようとしているようだ。連絡してきたということは他のクルーは全員集まったのか。
「ごめん、今ちょっと天竜人見かけて」
『!?関わったのか!?』
「まさか!でも目の前でトラブってるからすぐには動けなくて。後から向かうから先1番GR向かっててもらって良い?」
『わかった。急ぐ必要はねェから、絶対関わるんじゃねェぞ』
このあと、1番GRのオークション会場に向かうと言っていた。治安の悪い地域を通るので出来れば一緒に行きたかったが、このままではオークションが始まってしまう。
横にいるボニーが焦っているので何かと思えば、誰もが膝をついて動かないようにしている中、堂々と道のど真ん中を歩いている男がいるようだ。
「うん、わかった。……ってボニーちゃん!?ちょっと待って」
『ボニー、ってジュエリーボニーか!?』
「話せば長いんだけど……あー…会ったら話す!あとでね!」
『おい、』
歩いていた男が天竜人の前に辿り着いていた。天竜人を知らないのだろうか。一触即発の状況に、思わずボニーが飛び出した。天竜人の撃った銃を避けた男は、刀を抜き、天竜人に斬りかかろうとした。それをギリギリの所でボニーが抱きついて離した。完全に避けていたはずだが、何故か赤い血が飛び散っている。
「えーーん、お兄ちゃんどうして死んじゃったのー!?天竜人に逆らったの!?それなら死んでも仕方ない!!うえーん!!」
わざとらしいボニーの泣き声。その姿はどう見ても子供だ。つい先程まで横にいた時は、同じくらいの歳の女性だったはずなのに。ボニーの能力だろうか。
天竜人は、その男が死んだと納得したのか、看護師の女性を連れて去っていった。シノは慌ててボニーに駆け寄る。
「ボニーちゃん、大丈夫!?」
駆け寄った時にはまた大人に戻っていた。能力に関しては聞いても答えないだろう。男の方は血を流していると思いきや、匂いからしてトマトジュースだ。いつの間に持っていたのか。
「お兄さんも大丈夫?」
よく見るとその男も賞金首だ。海賊狩りのゾロ。麦わらの一味の一人であり、億超ルーキーのうちの一人だ。今日は大物にばかり会う日だ。先ほどのピザ屋で貰ったウェットティッシュを手渡し、トマトジュースを拭かせる。
「てめェ一体どういうつもりだよ!!この島に大将呼び寄せる気か!?海賊なら海賊同士の暗黙の了解って部分があんだろ!?ウチらにまで迷惑かけんな!!」
「???」
「アタマ大丈夫か!?」
「まぁ怪我はしてねェ」
「バーカ!中身の話だよ!!!てめーアホだろ!!」
「まぁまぁボニーちゃん、落ち着いて」
ボニーが怒るのも無理はない。仮にここに海軍大将が来てしまったら、実際には何もしていない海賊達も捕まりかねない。この島は海賊も多いので、そこは何も言わずとも各々注意しているところである。
「あのね、天竜人……ってさっきの人らに危害を加えると、報復に海軍の大将が来るんだよ。特にここはマリンフォードにも近いからすぐ飛んでくるよ」
「あぁ?なんじゃそら」
本当に何も知らなかったのだろう。尤も、知っていたとて膝をつくような事はしないだろうが、本当にボニーが言う通りバカではないのであれば、関わらないよう隠れたはずだ。
「あ、そんなことよりさっきの人!」
急いで先ほど撃たれた男性に駆け寄る。まだ息はありそうだ。なんとかして目の前の病院に運び込まなければ。地元の人なら、病院にも知り合いがいるだろう。運び込みさえすればなんとかなるはずだ。スッと横から男が担がれた。ロロノアゾロが担いでくれたようだ。
「おい、病院どこにある」
「あ、目の前のこれ……」
すぐ横の建物を指差す。十字マークがあるので、病院で合っているだろう。
「は??放っとけそんな見ず知らずの男!!」
「でも撃たれてるし……」
最初に撃たれた男の方は、既に大怪我をしていたせいもあり、残念ながらもう息をしていなかった。まだ息のあるこちらの男性だけでも何とかしてあげたい。
「お前もかよ……呆れたぜ、海賊が人助け!?聞いた事ねェよ!!」
「人助けという程でもないけど……ってゾロくん、そっちじゃないって!!じゃあね、まだ天竜人近くにいるかもだし、ボニーちゃんも気をつけてね」
「あ、おい!」
目の前の病院と言ったのに、何故か違う方へ歩き出そうとしたゾロを追いかけ、病院へ案内した。入ってすぐのところで、出るに出られずいた医者がいたので、男を受け渡す。あとは病院内で何とかしてくれるだろう。
「運んでくれてありがとね、ゾロくん」
「……お前は?」
素直に案内されてくれた割には声色がこちらを警戒している。シノの腰に刀が下げられているから一般人ではないと気付いたのだろう。
「ハートの海賊団のシノと申します。そりゃボニーちゃんの事も知らなさそうだったし知らないよね」
シノを知っているはずはないのだが、そもそもボニーの事を知らないのであれば、同じく億超ルーキーのローのことも知らないだろう。正直に名乗りお辞儀をしたからか、刀にかけていた手は外された。こちらから何かしない限りは何もしてこないだろう。
二人揃って病院を出ると、まだボニーがいた。
「あれ、ボニーちゃん?」
「約束しただろ、これ、あたしの知り合いに見せればコーティングしてくれるはずだ」
「え、いいの?」
そういえば元々そんな話をしていたのだった。確かにピザを奢ったが、まさか本当に融通してくれるとは思わなかった。紙にはその知り合いの店の名前と島の場所と、ボニーのサインがされている。
「構わねェよ。……人を見る目くらいはあるつもりだ」
「ありがとー!あ、ついでに手配書にサインくれる?」
「はぁ!?」
そう言いつつ、素直にサインをしてくれるボニー。有名人のサインが手に入り満足するシノ。
「なんだ、てめェ、コーティング屋と知り合いなのか。俺らにも紹介してくれよ」
「しねェよ!?お前には迷惑かけられるところだったんだからな!?」
ゾロとボニーのやりとりに思わず笑う。普通に会話している分には、皆新聞で見ていた程凶悪な犯罪者とは思えない。自分も海賊なので人のことは言えないのだが。
「まぁいいか、ハチが何とかしてるだろ」
「ゾロくんどこ行くの?」
「1番GRってとこで仲間と待ち合わせなんだ」
1番GR、と言えばオークション会場のあるところだ。シノも仲間達と待ち合わせをしている。これは渡りに船だ。
「あ、私もそこ行くんだ!一緒に行っても良い?あそこら辺治安悪いらしいからさぁ」
「あぁ??自分で行けよ」
「でもそっち1番GRと逆だけど」
「……………」
どうやら方向音痴のようだ。それでよく単独行動を許されているものだ。強いから問題ないのだろうが、いざという時逸れていそうで少し心配だ。
「じゃあボニーちゃん、本当にありがとね」
「気をつけろよ、そいつまた問題起こすかもしれねェから」
「ちゃんと見とくよ、またね」
ボニーに手を振り別れ、なかば無理やりゾロについていく形で1番GRを目指す。危ない場所を一人で歩くより、道案内と称して用心棒を連れていた方が、ロー達も安心するだろう。
一緒に歩いていて気付いたことがある。ロロノアゾロは、あまり自分からは話さないようだ。見た目通りと言えば見た目通り。話しかければ返してはくれるが、フレンドリーというわけではない。少しローに似ているかもしれない。
「ボニーちゃんの知り合いに口聞こうか?」
「いや、俺らもコーティング屋には当てがあったようだから問題ねェよ」
「そっか。なんか知り合い多そうだよね、麦わらのルフィ」
「まぁそこら中で勝手に友達作ってやがるからな」
別に友達でも仲間でもないので、当たり障りない会話しかしたいないが、やはり新聞で読んで感じていたような海賊団とは思えない。海賊なのである程度悪事を働いているのは当然として、根は悪い人間ではないのだろう。ボニーじゃないがシノも人を見る目はあるつもりだ。……たまに騙されるが。
「それにしても1番GRに船止めるって普通ないよ?」
1番GRは所謂無法地帯だ。人間ショップ、オークション会場がある為、下手に出歩くと攫われて即売られてしまう。しかもすぐ横の区画が海軍の駐屯地だ。どうやってそこまで船を進めてきたのか。いくら方向音痴といえど、最初にいた場所の数字を間違えるとは思えない。
「そんな雰囲気なかったがなぁ」
「まぁこちらとしては凄く助かったけど」
「つーかお前も海賊なら自分の身くらい守れるんだろ?」
「でも少しでも安全な手を取った方がいいでしょ」
ちらりと刀を見られた。何が起こるかわからないのがこの世界だ。海賊にとって完全に安全な場所なんてものはない。自分の身を守るために取れる手段は出来るだけ取っておくべきだ。
「おーーーーーい、ゾローーーーー!!!!」
「「??」」
どこか遠くから声が聞こえる。2人揃って後ろを振り返ると、遠くから凄い勢いで何かが近づいてきている。かちゃりと刀に手をかけたが、ゾロによって静止された。
「いや、あれはルフィの声だ」
「あ、じゃあ仲間か」
ふぅと、手を話すシノ。シノの仲間ではないのだがまぁいいだろう。しかしどういう状況なのかはさっぱりわからない。
「ゾローーーー!!乗れーーーー!!」
「はぁ!?どういうことだ!?」
「そもそも、あれ、なに?」
目を凝らしてみると魚…のようにも見える。魚のような乗り物に2人何者かが乗っているのが見えた。
「いいからとにかく乗れーー!!!」
「おい、お前も1番GR行きてェんだよな?」
「え、うん。行きたい!」
「じゃあ、ちょっと持つぞ!!」
「え、持つって……うわぁ!?」
腰に右手を回され、荷物のように抱えられ、そのままよくわからない乗り物に飛び乗られた。魚は、魚のようだが、バイクのような手を置く場所がついている。ゾロに抱きかかえられたままのシノは、ゾロの方へ振り返ったルフィと目が合った。
「お前誰だ??」
「えーと……シノです」
「そうか、シノか」
正直説明するのが面倒くさい。とりあえず名乗るだけ名乗っておいた。ルフィも大して興味がないのか、考えるのが面倒くさかったのか、それどころではないのか、勝手に納得した。
「おい、ルフィ、トビウオにまで乗って、何をそんな急いでんだ?」
「とにかく急ぎなんだ!!」
「1番GRに向かってるんだよね?」
「おう!!」
どうやらこの魚はトビウオらしい。つい先ほどいたのが2番GRなので、このトビウオに乗っていけばすぐにつくだろう。
「よし!あそこに突っ込めー!!!!」
「突っ込む!?てかあそこって、オークション会場!?」
ルフィの指差す場所は、間違いなくシノの目的地であるオークション会場だ。彼らの船を目指していたのではないのか。どうやらゾロとルフィの中でも食い違いが発生しているようだ。そんなことを問いただす余裕はない。目の前にはオークション会場の屋根が迫っている。
「あああああああああああ!!!!」
「いやあああああああああ!!!!」
ゾロに抱えられたまま身動きも取れず、どうすることも出来ない。これは怪我も覚悟しなくてはいけない。心の中でローに謝罪しながら、シノは衝撃を覚悟して目を閉じた。
Tobe continued...
シャボンディ諸島。島と銘打ってはいるが、ログは取れない。79本のヤルキマンマングローブという巨大な樹木の集合体であり、実際は島では無いらしい。そこらじゅうにふわふわと浮いているシャボン玉は、この巨大な樹木の根から発生しているようだ。
「触っても、割れない……!」
「おーい、置いてくぞーシノ」
今まで辿ってきた偉大なる航路の前半戦は、いくつかのルートから一つ選び真っ直ぐ進んできた。しかし、後半の海に行くには、赤い大陸を越えるため、マリージョアを通る必要がある。当然、海軍本部のあるマリージョアを海賊が船も含めて通ることが出来るはずもなく、ルートとしては海底を進み魚人島を抜けるルート一択となる。その結果、海底を進むための船のコーティングが出来るこのシャボンディ諸島に、いくつものルートに分かれていた海賊達が集まってくる、ということだ。
「新世界に行く奴らはここを通るしかねェからな」
「だから海賊っぽいガラが悪い人が多いのかぁ」
「でも海軍本部も近ェし、駐在所もあるから、問題起こすなよ〜」
ハートの海賊団としても、そのコーティングが必要らしく、コーティングが出来る人物を探しにここへやってきた。ポーラータング号は潜水艇ではあるが、魚人島へのルートがどれだけの深度でどれだけ危険かもわからないので、通例に則り、コーティング船で向かった方が良いだろうとの判断だった。
樹木ごとに一つの島となっており、島ごとに特色がある。今いるのはレストランや店が多くある繁華街の地域だ。
「じゃあ私ここら辺の店で情報収集してくるから」
船のコーティングを請け負ってくれる業者を探す為、近くのいくつかの島に散って情報収集をすることになった。
「俺とキャプテンはこの島ふらふらしてるから1時間後ここ集合なー」
「うん、何かあったら連絡するから」
そう言ってポケットの中に入れた電伝虫を見せる。基本的にはこの島に戻ってくれば、ベポは目立つのですぐ見つけられる。万が一何かがあって島へ来れなかった時のための連絡手段だ。
皆と別れ、ふらふらと町を歩き回る。飲食店、ファッション系の店、アンティークショップに、武器屋。様々な種類の店がある。ふと目に入った露天に足を向けた。
「レモネード一つ!」
「ピザセット一つ!!!」
声が合ってしまった。お互い、声を発した相手を見る。ピンク色の長い髪、茶色い毛皮のミニ丈コート、サスペンダーをつけたホットパンツ。そのオシャレな女性に見覚えがあった。
「あ、ジュエリー・ボニー」
「あたしの事知ってんの?あんたも海賊?」
お先どうぞと譲りつつ、手配書に書いてあった名前を思い出した。1億4000万ベリーの賞金首で、今この島に11人いる億超ルーキーのうちの一人だ。
「うん、ハートの海賊団のクルーです」
「あー、トラファルガー・ローのところか」
「そちらもコーティング船を?」
「まぁね、知り合いに頼んだから作業待ち」
「え、何それ、紹介してくれない!?」
下手にそこら辺で情報収集して質の悪い技師を捕まえるより、彼女の知り合いのほうが腕は確かだろう。会ったばかりの海賊を信用しても良いものか、という話もあるが。
「じゃあこのピザ奢ってくんない?」
「いいよー」
そのくらいであれば、と自分のレモネード分含め支払いをする。ピザセットとやらは円形ピザ2枚セットだったらしく、想定より高かったがやむを得ない。
近くのテラス席に腰掛け、二人で座る。早速ピザに喰らいつくボニーを、レモネードを飲みながら見守った。
「食べるの好きなんだねぇ」
あまりの食べっぷりに感嘆してしまう。シノはこのサイズのピザを1枚食べ切る自信もない。美味しそうに食べている人を見るのは、こちらとしても気持ちが良い。女性の海賊に会うのは珍しい。しかも見た目からして10代後半から20代前半くらいに見えるので、おそらく歳も近いだろう。仲良くなれると嬉しいのだが。
ピザがあと一切れというところまで来た時、近くで銃声が聞こえた。海賊も多いのでどこかで小競り合いをしているのかもしれない。ボニーが最後の一切れを口に放り込むと、ボニーとシノは銃声のした方へ覗きに行った。
「げ、天竜人かよ……」
「なんか揉めてるね……」
建物の影から様子を伺う。どうやら天竜人の目の前の病院に怪我人を運び込もうとして、怪我人に追い打ちをかけるように銃で撃ったようだ。
そして今度は看護師に絡んでいる。それを止めに入った男性が撃たれた。看護師の叫び声が響く。
「本当に無茶苦茶だね、天竜人……」
「危害加えたら海軍大将が飛んでくるから誰も手出せねェんだよ」
「確かに大将は困るけど……早くどこか行かないかな」
看護師には悪いが、彼女を助ける術は持ち合わせていない。せめて今撃たれた男性だけでもすぐに病院に運び込めば命は助かるだろう。これ以上、問題が起きなければ。
「あ……?あいつ何やってんだ…!?」
「あ、電伝虫に着信だ」
プルプルプルとポケットの中の電伝虫が呼んでいる。シノは周りの様子見つつ、電話に出る。
「もしもし、シノです」
『おい、シノ、お前今どこだ』
ローの声だ。まだ経ってはいないが、もうすぐ1時間が経過しようとしているようだ。連絡してきたということは他のクルーは全員集まったのか。
「ごめん、今ちょっと天竜人見かけて」
『!?関わったのか!?』
「まさか!でも目の前でトラブってるからすぐには動けなくて。後から向かうから先1番GR向かっててもらって良い?」
『わかった。急ぐ必要はねェから、絶対関わるんじゃねェぞ』
このあと、1番GRのオークション会場に向かうと言っていた。治安の悪い地域を通るので出来れば一緒に行きたかったが、このままではオークションが始まってしまう。
横にいるボニーが焦っているので何かと思えば、誰もが膝をついて動かないようにしている中、堂々と道のど真ん中を歩いている男がいるようだ。
「うん、わかった。……ってボニーちゃん!?ちょっと待って」
『ボニー、ってジュエリーボニーか!?』
「話せば長いんだけど……あー…会ったら話す!あとでね!」
『おい、』
歩いていた男が天竜人の前に辿り着いていた。天竜人を知らないのだろうか。一触即発の状況に、思わずボニーが飛び出した。天竜人の撃った銃を避けた男は、刀を抜き、天竜人に斬りかかろうとした。それをギリギリの所でボニーが抱きついて離した。完全に避けていたはずだが、何故か赤い血が飛び散っている。
「えーーん、お兄ちゃんどうして死んじゃったのー!?天竜人に逆らったの!?それなら死んでも仕方ない!!うえーん!!」
わざとらしいボニーの泣き声。その姿はどう見ても子供だ。つい先程まで横にいた時は、同じくらいの歳の女性だったはずなのに。ボニーの能力だろうか。
天竜人は、その男が死んだと納得したのか、看護師の女性を連れて去っていった。シノは慌ててボニーに駆け寄る。
「ボニーちゃん、大丈夫!?」
駆け寄った時にはまた大人に戻っていた。能力に関しては聞いても答えないだろう。男の方は血を流していると思いきや、匂いからしてトマトジュースだ。いつの間に持っていたのか。
「お兄さんも大丈夫?」
よく見るとその男も賞金首だ。海賊狩りのゾロ。麦わらの一味の一人であり、億超ルーキーのうちの一人だ。今日は大物にばかり会う日だ。先ほどのピザ屋で貰ったウェットティッシュを手渡し、トマトジュースを拭かせる。
「てめェ一体どういうつもりだよ!!この島に大将呼び寄せる気か!?海賊なら海賊同士の暗黙の了解って部分があんだろ!?ウチらにまで迷惑かけんな!!」
「???」
「アタマ大丈夫か!?」
「まぁ怪我はしてねェ」
「バーカ!中身の話だよ!!!てめーアホだろ!!」
「まぁまぁボニーちゃん、落ち着いて」
ボニーが怒るのも無理はない。仮にここに海軍大将が来てしまったら、実際には何もしていない海賊達も捕まりかねない。この島は海賊も多いので、そこは何も言わずとも各々注意しているところである。
「あのね、天竜人……ってさっきの人らに危害を加えると、報復に海軍の大将が来るんだよ。特にここはマリンフォードにも近いからすぐ飛んでくるよ」
「あぁ?なんじゃそら」
本当に何も知らなかったのだろう。尤も、知っていたとて膝をつくような事はしないだろうが、本当にボニーが言う通りバカではないのであれば、関わらないよう隠れたはずだ。
「あ、そんなことよりさっきの人!」
急いで先ほど撃たれた男性に駆け寄る。まだ息はありそうだ。なんとかして目の前の病院に運び込まなければ。地元の人なら、病院にも知り合いがいるだろう。運び込みさえすればなんとかなるはずだ。スッと横から男が担がれた。ロロノアゾロが担いでくれたようだ。
「おい、病院どこにある」
「あ、目の前のこれ……」
すぐ横の建物を指差す。十字マークがあるので、病院で合っているだろう。
「は??放っとけそんな見ず知らずの男!!」
「でも撃たれてるし……」
最初に撃たれた男の方は、既に大怪我をしていたせいもあり、残念ながらもう息をしていなかった。まだ息のあるこちらの男性だけでも何とかしてあげたい。
「お前もかよ……呆れたぜ、海賊が人助け!?聞いた事ねェよ!!」
「人助けという程でもないけど……ってゾロくん、そっちじゃないって!!じゃあね、まだ天竜人近くにいるかもだし、ボニーちゃんも気をつけてね」
「あ、おい!」
目の前の病院と言ったのに、何故か違う方へ歩き出そうとしたゾロを追いかけ、病院へ案内した。入ってすぐのところで、出るに出られずいた医者がいたので、男を受け渡す。あとは病院内で何とかしてくれるだろう。
「運んでくれてありがとね、ゾロくん」
「……お前は?」
素直に案内されてくれた割には声色がこちらを警戒している。シノの腰に刀が下げられているから一般人ではないと気付いたのだろう。
「ハートの海賊団のシノと申します。そりゃボニーちゃんの事も知らなさそうだったし知らないよね」
シノを知っているはずはないのだが、そもそもボニーの事を知らないのであれば、同じく億超ルーキーのローのことも知らないだろう。正直に名乗りお辞儀をしたからか、刀にかけていた手は外された。こちらから何かしない限りは何もしてこないだろう。
二人揃って病院を出ると、まだボニーがいた。
「あれ、ボニーちゃん?」
「約束しただろ、これ、あたしの知り合いに見せればコーティングしてくれるはずだ」
「え、いいの?」
そういえば元々そんな話をしていたのだった。確かにピザを奢ったが、まさか本当に融通してくれるとは思わなかった。紙にはその知り合いの店の名前と島の場所と、ボニーのサインがされている。
「構わねェよ。……人を見る目くらいはあるつもりだ」
「ありがとー!あ、ついでに手配書にサインくれる?」
「はぁ!?」
そう言いつつ、素直にサインをしてくれるボニー。有名人のサインが手に入り満足するシノ。
「なんだ、てめェ、コーティング屋と知り合いなのか。俺らにも紹介してくれよ」
「しねェよ!?お前には迷惑かけられるところだったんだからな!?」
ゾロとボニーのやりとりに思わず笑う。普通に会話している分には、皆新聞で見ていた程凶悪な犯罪者とは思えない。自分も海賊なので人のことは言えないのだが。
「まぁいいか、ハチが何とかしてるだろ」
「ゾロくんどこ行くの?」
「1番GRってとこで仲間と待ち合わせなんだ」
1番GR、と言えばオークション会場のあるところだ。シノも仲間達と待ち合わせをしている。これは渡りに船だ。
「あ、私もそこ行くんだ!一緒に行っても良い?あそこら辺治安悪いらしいからさぁ」
「あぁ??自分で行けよ」
「でもそっち1番GRと逆だけど」
「……………」
どうやら方向音痴のようだ。それでよく単独行動を許されているものだ。強いから問題ないのだろうが、いざという時逸れていそうで少し心配だ。
「じゃあボニーちゃん、本当にありがとね」
「気をつけろよ、そいつまた問題起こすかもしれねェから」
「ちゃんと見とくよ、またね」
ボニーに手を振り別れ、なかば無理やりゾロについていく形で1番GRを目指す。危ない場所を一人で歩くより、道案内と称して用心棒を連れていた方が、ロー達も安心するだろう。
一緒に歩いていて気付いたことがある。ロロノアゾロは、あまり自分からは話さないようだ。見た目通りと言えば見た目通り。話しかければ返してはくれるが、フレンドリーというわけではない。少しローに似ているかもしれない。
「ボニーちゃんの知り合いに口聞こうか?」
「いや、俺らもコーティング屋には当てがあったようだから問題ねェよ」
「そっか。なんか知り合い多そうだよね、麦わらのルフィ」
「まぁそこら中で勝手に友達作ってやがるからな」
別に友達でも仲間でもないので、当たり障りない会話しかしたいないが、やはり新聞で読んで感じていたような海賊団とは思えない。海賊なのである程度悪事を働いているのは当然として、根は悪い人間ではないのだろう。ボニーじゃないがシノも人を見る目はあるつもりだ。……たまに騙されるが。
「それにしても1番GRに船止めるって普通ないよ?」
1番GRは所謂無法地帯だ。人間ショップ、オークション会場がある為、下手に出歩くと攫われて即売られてしまう。しかもすぐ横の区画が海軍の駐屯地だ。どうやってそこまで船を進めてきたのか。いくら方向音痴といえど、最初にいた場所の数字を間違えるとは思えない。
「そんな雰囲気なかったがなぁ」
「まぁこちらとしては凄く助かったけど」
「つーかお前も海賊なら自分の身くらい守れるんだろ?」
「でも少しでも安全な手を取った方がいいでしょ」
ちらりと刀を見られた。何が起こるかわからないのがこの世界だ。海賊にとって完全に安全な場所なんてものはない。自分の身を守るために取れる手段は出来るだけ取っておくべきだ。
「おーーーーーい、ゾローーーーー!!!!」
「「??」」
どこか遠くから声が聞こえる。2人揃って後ろを振り返ると、遠くから凄い勢いで何かが近づいてきている。かちゃりと刀に手をかけたが、ゾロによって静止された。
「いや、あれはルフィの声だ」
「あ、じゃあ仲間か」
ふぅと、手を話すシノ。シノの仲間ではないのだがまぁいいだろう。しかしどういう状況なのかはさっぱりわからない。
「ゾローーーー!!乗れーーーー!!」
「はぁ!?どういうことだ!?」
「そもそも、あれ、なに?」
目を凝らしてみると魚…のようにも見える。魚のような乗り物に2人何者かが乗っているのが見えた。
「いいからとにかく乗れーー!!!」
「おい、お前も1番GR行きてェんだよな?」
「え、うん。行きたい!」
「じゃあ、ちょっと持つぞ!!」
「え、持つって……うわぁ!?」
腰に右手を回され、荷物のように抱えられ、そのままよくわからない乗り物に飛び乗られた。魚は、魚のようだが、バイクのような手を置く場所がついている。ゾロに抱きかかえられたままのシノは、ゾロの方へ振り返ったルフィと目が合った。
「お前誰だ??」
「えーと……シノです」
「そうか、シノか」
正直説明するのが面倒くさい。とりあえず名乗るだけ名乗っておいた。ルフィも大して興味がないのか、考えるのが面倒くさかったのか、それどころではないのか、勝手に納得した。
「おい、ルフィ、トビウオにまで乗って、何をそんな急いでんだ?」
「とにかく急ぎなんだ!!」
「1番GRに向かってるんだよね?」
「おう!!」
どうやらこの魚はトビウオらしい。つい先ほどいたのが2番GRなので、このトビウオに乗っていけばすぐにつくだろう。
「よし!あそこに突っ込めー!!!!」
「突っ込む!?てかあそこって、オークション会場!?」
ルフィの指差す場所は、間違いなくシノの目的地であるオークション会場だ。彼らの船を目指していたのではないのか。どうやらゾロとルフィの中でも食い違いが発生しているようだ。そんなことを問いただす余裕はない。目の前にはオークション会場の屋根が迫っている。
「あああああああああああ!!!!」
「いやあああああああああ!!!!」
ゾロに抱えられたまま身動きも取れず、どうすることも出来ない。これは怪我も覚悟しなくてはいけない。心の中でローに謝罪しながら、シノは衝撃を覚悟して目を閉じた。
Tobe continued...
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