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秋雨前線
おなまえは?
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名前も知らないあの人と私の間にはきっと見えない白線が引かれている。
決して交わらない視線。
必ず空けられる1m以上の距離。
まるで住む世界が違うのだと言われているかのようなソレらが酷くもどかしい。
「あー…降ってきちゃったね。」
「夜、結構強くなるみたいですよ。」
「えぇ、電車止まったりしないよね?」
そんな会話が聞こえるオフィスで、ポタポタと窓に当たる雨粒を見送る。
彼と話すようになってから初めての雨。
朝コンビニで買ってきたチョコレートにチラリと視線を流し、息を吐く。
まるで初恋に悩む乙女の気分だ。
「苗字、会議始まるよ。」
「あ、はい。今行きます。」
「ボーッと外なんて見ちゃって…どうしたの?」
「あー…いえ、なんか雨久しぶりだなぁって。」
「確かにね。でもここから雨続きみたいだよ。なんて言うんだっけ、えっと…。」
「秋雨、ですか?」
「それそれ。秋雨前線。本当に嫌になるよね。」
わざわざ秋雨前線と調べたスマホ画面を見せてくれる先輩に小さく苦笑いを漏らす。
日本の間を突き抜けるその秋雨前線は、まるで私とあの人の間に引かれている見えない白線のようだ。
そんなことを考えながら私は隣にいる先輩よりも先に会議室の扉に手をかけた。
長引いた会議の議事録を打ち終わり会社を出る。
昼間のオフィスで聞いた通り、降ってくる雨量は昼間よりも多くなっていた。
「(さすがにいないよね…。)」
頭の中ではそう考えつつも電車から降りて足早にいつもの公園へと向かう。
そして公園に入ってすぐ見えたいつもの黒い影に急いで駆け寄った。
「何してるんですかッ…!」
「…寒い。」
「当たり前です!傘はどうしたんですか!?」
「ねェ。」
「ッ……私の家近いので来てください!」
いつもは空いている距離をつめて、その腕を掴む。
今日に限って帰りが遅くなった自分に心底嫌気がさした。
こんなことなら早めに帰ればよかった。
私に引っ張られ立ち上がったその人の腕を掴んだまま足早に公園を出る。
「なァ、チョコレートは?」
「お風呂に入ったらいくらでもあげます!」
「…なんでキレてんの?」
「キレてないです!!」
「……なァ、寒ィ。」
「!…もう少しで家着きますから。」
“遅くなってすみませんでした。”
そう呟いた私に、相手は何を言うわけでもなく黙ってついてきた。