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メンヘラ王子
おなまえは?
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薄暗い店内に流れる音楽。
小さな声で話す男女達がポツリポツリといる店内を進み、カウンター席に座る1人の男へと声をかけた。
「…隣、いいですか?」
「!…どうぞ。」
「ふふ、ありがとう。」
小さな椅子に腰を下ろして、上着を脱ぐ。
チラリとコチラを見た男の顔が僅かに緩んだのを確認したところで第一関門は突破したようだと心の中で息を吐いた。
「今夜は気分が良くてね、何でも好きなものを頼んでいいよ。僕が奢ろう。」
「じゃあ…お兄さんのオススメを。」
「いいのかい?それじゃあマスター、モーニンググローリーフィズを彼女に。」
「…かしこまりました。」
モーニンググローリーフィズ。
日本名では朝顔。
ウィスキーで作るカクテルの一つで、カクテル言葉は確か…『貴方と明日を迎えたい。』
「(下心丸出し…。)」
「…どうぞ。」
「ありがとう。」
「それじゃあ、乾杯でもしようか?」
「えぇ、ぜひ。」
控えめにグラスがぶつかり、そのままソレを口元へと近づける。
お酒はあまり得意じゃないが…そこら辺の男に飲み負けるような弱さではない。
私を酔わせて持ち帰りたい相手の思う通りの展開には決してならない訳だけど、多少酔ったフリもしないと仕事が進まない。
「(大体この私にハニートラップやらせるのなんてボスくらいだよ…。)」
ヴァリアーは暗殺部隊である。
つまり普段は夜の闇に紛れて行動し、誰にも気づかれることなくターゲットを殺す。
それが全てであるはずなのに、今回は違った。
目の前の男を口説き落として所属するマフィアが秘密裏に計画しているとある作戦について聞き出す。
その後は処理して良いらしいが、恐らく拷問などでは口を割らないだろう。
だからこそヴァリアーの中でも若くて有能な私が選ばれたのだろうけど…。
「(こういう仕事は嫌いなんだよなぁ…。)」
「じゃあこの街は初めて…?」
「えぇ…そうなんです。少しお酒を飲みたくて探し歩いてたらたまたまここを見つけて…。」
「そうか…ちなみに今夜泊まるところは?もう決まっているのかな?」
「ホテルはとってあるの。けど部屋が広くて…一人でいるのは寂しくて。」
男の鼻の下が伸びる。
顔面偏差値的には決して低い方ではないんだろうけど、なんだか品がない。
そう思うのはヴァリアーの幹部たちが意外と美形揃いだからなのか、今朝まで一緒だった恋人が品のあるタイプの男だからだろうか…。
「よければ今夜、一緒にいようか?」
「え…?」
「その広い部屋にお邪魔してもいいかな?君とはもっと色々なことを話してみたいんだ。」
「まぁ…嬉しい。私も貴方のことをもっと知りたいと思っていたから。」
「はは、それは光栄だな。」
“それじゃあ行こうか。”
腰に回された手に一瞬だけ身体が跳ねる。
相手はそれを見て驚いた顔も可愛いね、なんて言っているが普通に拒絶反応が出ただけだと殴りつけてやりたい。
そんなことを思いながら上着を羽織る。
ふと見えた携帯の画面には大量の着信履歴が映し出されていたが、これはもう無視だ無視。
今は余計なことを考えずに集中しよう。
お店を出てもなお腰に回され続けている手に自分の手を添えながら、頭の中でブチ切れて暴れ回る恋人を打ち消した。