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嵌められた兎
おなまえは?
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「…で、そのまま1ヶ月ずっと通い妻してる訳?」
「通い妻っていうか…お茶入れて、仕事終わるの待って、部屋まで送られるだけです。」
「なにそれ、なんの時間?」
「私が聞きたいです…。」
そう言って肩を落とせば、先輩である松本副隊長が呆れたように息を吐く。
久しぶりに誘われた飲み会なのに話題は私とマユリ隊長の事ばかりで、正直胃が痛い。
大体この話は私とマユリ隊長、涅副隊長位しか知らないはずなのに…。
そう思って尋ねてみれば、涅副隊長が松本副隊長の口車に乗せられて漏らしてしまったらしい。
「まさかあの涅隊長が結婚なんてって思ってたけど相手がアンタだって聞いてビックリしたわよぉ。」
「騙されたんです…お見合いの日だっていつもと見た目違ったから気づかなくて…。」
「どんな顔だったの?」
「え?」
「涅隊長の素顔。あの人ずっとあの顔だから素顔とか想像出来ないのよねぇ。」
「素顔…ですか。」
そう言われてあの日のことを思い出す。
青い髪と、綺麗な筋の通った鼻。
あとは…金色の目と、肉付きの良い唇。
「…普通に、美形でしたね。」
「美形ッ…!?あの化粧の下が!?」
「は、はい…。」
“信じられない…!!” と叫ぶ松本副隊長を横目に新しく運ばれてきたお酒に口をつける。
確かに、信じられない。
私だって未だに信じられないのだから。
あの変な化粧の下にあんな美形が隠れているなんて普通は考えられないし、考えたくもない。
「(けどそれが現実なんだよなぁ…。)」
「で、これからどうすんのよ?」
「え…?」
「結婚…本当にするの?」
「!…それは、する…んですかね…?」
「…好きなの?」
「す、すき…ではない、と思いますけど…。」
「…なら止めておいた方がいいんじゃないの?アンタならもっと他に想ってくれる人いるわよ。」
私の手からお猪口を奪い取って中身を飲み干す松本副隊長から視線をそらす。
好きか嫌いかで言ったら、嫌いだ。
怖いし、マッドサイエンティストだし、何考えてるか全く分からないし…。
「…それに…。」
「!…それに?」
「…私の事、どう思ってるか分かんないし…。」
「……。」
久しぶりに飲んだお酒のせいで頭がふわふわする。
上手く考えがまとまらないのに、あの人に対する不満だけはしっかりとそこにあって。
なんで私がこんな事で悩まなきゃいけないのかとよく分からない怒りも込み上げてきた。
「…なら、本人に聞いてみたら?」
「は…?」
「涅隊長に聞いてみなさいよ。私のこと、どう思ってるんですかって。」
「…松本副隊長、それは死刑宣告ですか?」
「さぁね。けど、何も聞かないでモヤモヤするよりもきっと楽よ?」
当たって砕けてみなさいよ、と笑う松本副隊長はきっと他人事だからそんな簡単に言えるのだろう。
そう思いながらも私は立ち上がり、ふわふわする頭のまま店の扉へと手をかける。
「…あれ、苗字四席はどちらに?」
「あら勇音、アンタん所の四席ねー…もう帰ってこないかもね。」
「え、えぇ!?ちょ、どういう意味ですか!?」
私が出ていった後にそんな会話がされているなんて微塵も気付かずに。