いきなり押し倒された名前は、俺の顔を見て少しだけ視線を泳がせた。

どうやらメンヘラというものは分かっていないのに、俺が何かを企んでいることは察知したようだ。



「(だからって逃がすわけねェけどな。)」

「あ、あの…焦凍さんっ…？」

「ん？」

「ど、どうして私は焦凍さんに見下ろされているのかなぁって…。」

「そりゃあアレだろ…お仕置き。」

「へっ…？」



グイッ…と名前の両手を掴み、そのままソイツの頭の上で固定させる。

片手で簡単に拘束できてしまうのは男女差と、俺に対する名前の絶対的信頼の賜物だろう。



「名前、お前は最近無防備過ぎだ…。」

「そ、そんなことないよっ？ヴィランにいつ襲われても戦闘できるように日々訓練してるよっ？」

「そうじゃなくて…。」



“女として、な。” とソイツの耳元で囁けば、ビクリと跳ねる名前の身体。

その反応は今まで一度も見たことのない女の名前だった。



「しょ、しょーとっ…////？」

「(これはっ…止まれる自信がねェっ…。)」



上目遣いで不安げにコチラを見上げる名前に、ゾワゾワっと俺の中の何かが反応する。

もっと見たいと思う反面、ここで止めないとさすがに止まれないという理性が俺の動きを止めていた。



「っ…。」

「焦凍っ…？どこか痛いっ…？」

「！…あぁ、痛い。」

「えっ！？ど、どこ痛いっ！？」



自由を奪われているのに俺の心配をする名前。

それが可愛くて思わず上から抱き締めれば、名前の手は迷わず俺の背中へと回った。



「焦凍大丈夫っ？どこ痛いっ？」

「…心臓。」

「しっ、心臓！？」

「名前が離れると痛む、他の奴と仲良く話してても痛む、他の奴の名前をお前が呼ぶだけで痛む。」

「しょ、しょーとっ…？」



ギュッ…と名前を抱きしめながらそう囁けば明らかに動揺している名前。

さすがにやりすぎたかもしれないな…と名前から離れれば、名前が逆に俺を床へと押し倒した。



「焦凍死んじゃうっ！？」

「！…死なねぇよ、名前がいるなら。」

「本当に！？」

「あぁ…。」



“だから離れろ。” と言おうとしたらポタポタッ…と落ちてきた水滴。

それに驚いて見上げれば、そこには涙を目にいっぱい溜めた名前が俺を睨んでいた。



「焦凍死なないでっ…！私ずっと焦凍の隣にいるよ！他の人の所にも行かないよ！だから焦凍っ心臓発作で死なないでっ…！」

「！… 名前…。」



涙を流しながら訴える名前を、優しく抱きしめて起き上がる。

俺の腕の中でグスグス…と泣き続ける名前に、少しだけやり過ぎたなと自分で自分に言い聞かせた。



「… 名前、悪ぃ。…やり過ぎた。」

「！しょーとっ…？」

「でも、今のがメンヘラだ。…好きな人の事を好き過ぎて苦しくなって不安になって、もっと安心が欲しくなっていくんだ。」



“そのまま自由まで奪っちまう。” と俺が笑えば、もう一度ギュッと俺を抱きしめるソイツ。

どうしたのだと話しかければ、相手は俺の肩口に顔を埋めながら小さく囁いた。




「っ…焦凍にだったら奪われてもいいよっ…。」

「！……あぁ、俺もだ。」



本当に少しだけ…少しだけど、メンヘラって奴の気持ちが分かってしまった。