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楼主様の苦悩。
おなまえは?
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あの日、私は遊女としての初めての夜だった。
もちろん妓楼で育ってきた私はそういう経験もなく、姉様達に聞いた話を元に客を楽しませるという無理難題に頭を悩ませていた。
普通の妓楼では、客を取らせる前にそういう事を勉強する機会があるらしいが…ウチはない。
むしろ新入りの初体験という物珍しい機会を、客達は大金を払って狙っていた。
「名前、お相手は護廷十三隊の隊長様だ。アンタは運が良いね。」
「…た、いちょう…さま…。」
「お行儀よくするんだよ。」
そう言って通された座敷にいたのが、あの更木剣八様だった。
身体は大きく、傷も多い。
新入りだった私は、その姿に身体を強ばらせた。
「…なるほどな、初物っつうのはそういう意味か。」
「っ…あ、のっ…ほっ本日はっーーー。」
「余計なことは喋んな。」
ドスドスと近づいてきた剣八様は私の手を取り、布団の上へと横たわらせる。
あぁ、私は本当にこの人に抱かれるのか…。
そう覚悟を決めて目を閉じれば、唇に優しい口付けが降ってきた。
「!えっ…?」
「…なんだ。」
「あ…いえっ…。」
「テメェも災難だな…。」
「!…いえ…その、初めてのお相手が剣八様で良かったと…今は思っていますっ…。」
スルリと剣八様の大きな手に自分の手を絡めてギュッと握れば、剣八様は驚いたように目を見開く。
そんな剣八様の温かい体温は、不安だった私を安心させるには充分すぎるものだった。
「…剣八様にお会いできて、幸せです…。」
「ハッ…良い声で啼けや、女。」
ふと目を覚ませば、障子の隙間からは既に太陽の光が差し込んでいた。
隣では私の身体を抱えるようにして眠る剣八様がいて、その姿があまりに無防備で思わずクスクスと笑ってしまった。
「…るせぇ…。」
「!…剣八様、起きましたか…?」
「……起きてねぇ。」
「それは無理がありますね。」
モゾモゾと布団に入り直す剣八様に呆れつつ、自分の羽織に手を伸ばす。
楼主なのに仕事を放棄したなんて…。
南に怒られること確実だ。
そう思って布団から出れば、隣で寝ていた剣八様が後ろから私を優しく包み込んだ。
「…相変わらず、良い女だ。」
「!…次はありませんよ。」
「…聞こえねぇ…。」
「(この人、なんでこんな自己中心的なんだろう。)」
「名前…。」
首筋に落ちてくる口付けに少しだけ頬が緩む。
けど、これ以上ここにはいられない。
そう考えて剣八様の腕の中から抜け出せば、その手は思ったよりも簡単に解くことが出来た。
「…この晩のことはご内密に。お金も要りません。」
「もう行くのか。」
「楼主ですから。…それでは。」
ペコリと頭を下げて、部屋から出る。
とりあえず妓楼に戻って南に怒られよう。
そんなことを考えながら歩く私の足取りは、いつもよりも少しだけ軽かった。