ただいま
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楽しい時間ほど早く終わってしまう。
自室のベッドで寝こけて、魚釣りをしたり街の子供と遊んで――2週間は飛ぶように過ぎていった。
まだ出発したくない気持ちをぐっと堪えて準備を進める。
なるはやで帰ってこようにも最低1年はかかっちゃうな、なんてぼんやりしていると
「おい、なーにぼさっとしてんだ」
『いてっ』
ゴチッと何かぶつけられた。訝しげに振り返ればニヤニヤと笑いながら酒瓶を掲げた兄だった。
「晩酌、付き合ってくれ」
そう言うと服が汚れることも気にせず地べたに座って、早速酒をあおり始める。
これは兄の癖だ。
面と向かって自分の気持ちを話すのが苦手な兄はよく晩酌を理由にしていたっけ。懐かしい。
『…んで、どうしたの?』
「ん、これは俺の独り言だと思って聞いてくれ」
私は、返事をする代わりに軽く頷く。
1口酒を含んでから、兄はうつむき加減に口を開いた。
「お前には昔から迷惑をかけた。親父から受け継ぐはずだった行商も、俺が怪我しちまったせいでお前に擦り付ける結果になっちまった」
私の顔色を伺うように、不安そうな目が揺れる。
「だからこそ、俺は兄として、お前の家族として、お前の夢を全力で助けたい」
つっても俺のできる範囲だけだがな。
ふっと笑って酌を置く。
「ここを発つ前に、お前の夢を聞かせてくれ。今お前が1番やりたいことはなんだ?」
聞いていれば、兄は私が遠慮していると思っているのか。自分の気持ちを押し殺してまで行商をやってると?
『ふっ…あはははっ!』
「おまっ!人が真剣に話してんだぞ!」
『いやーごめんごめん…ふっ…ひっさびさにこんな笑ったよ
自分の気持ちに嘘ついてやってると思われてるなんて、思いもしなかったからさ』
意識せず、低い声が出る。兄の喉がゴクリと上下する。
私は一息ついてから、兄の目を真っ直ぐ見据えた。
『私は、自分の仕事に誇りを持ってやってるよ。じゃなきゃこんな辺境の地にわざわざ来ないし、お父さんからお願いされた時点で断ってる。私が行商やりたいって言った理由、分かる?』
ふるふると首が横に振られる。
『私はね、世界中を見てみたかった。外の世界に憧れて、飛び出して見たかったの。海は青い。じゃあどんな青?カワセミのような輝く青?それとも晴天の空みたいな青?実際に見なきゃ分からなった海の青が行商になって知れた。そのほかにも、いっぱい。』
「……そうか」
気圧されたように言葉を詰まらせて兄は頷いて、顔を覆って深いため息をついた。
「"俺のせいで"なんて思ってなかったわけだ。これっぽっちも」
『あったりまえじゃん。お兄ちゃんの代わりに行商にならないかって言われた時、わたしすっごい嬉しかったんだからね!?』
「そうか…そうか!これで兄ちゃん安心して送り出せる」
『口調、昔に戻ってるよ』
からからと笑ってみせると兄も一緒に笑って、
「全く、お前には敵わん」
「旅の無事を祈って、乾杯!」
空高く、酌を掲げた。
自室のベッドで寝こけて、魚釣りをしたり街の子供と遊んで――2週間は飛ぶように過ぎていった。
まだ出発したくない気持ちをぐっと堪えて準備を進める。
なるはやで帰ってこようにも最低1年はかかっちゃうな、なんてぼんやりしていると
「おい、なーにぼさっとしてんだ」
『いてっ』
ゴチッと何かぶつけられた。訝しげに振り返ればニヤニヤと笑いながら酒瓶を掲げた兄だった。
「晩酌、付き合ってくれ」
そう言うと服が汚れることも気にせず地べたに座って、早速酒をあおり始める。
これは兄の癖だ。
面と向かって自分の気持ちを話すのが苦手な兄はよく晩酌を理由にしていたっけ。懐かしい。
『…んで、どうしたの?』
「ん、これは俺の独り言だと思って聞いてくれ」
私は、返事をする代わりに軽く頷く。
1口酒を含んでから、兄はうつむき加減に口を開いた。
「お前には昔から迷惑をかけた。親父から受け継ぐはずだった行商も、俺が怪我しちまったせいでお前に擦り付ける結果になっちまった」
私の顔色を伺うように、不安そうな目が揺れる。
「だからこそ、俺は兄として、お前の家族として、お前の夢を全力で助けたい」
つっても俺のできる範囲だけだがな。
ふっと笑って酌を置く。
「ここを発つ前に、お前の夢を聞かせてくれ。今お前が1番やりたいことはなんだ?」
聞いていれば、兄は私が遠慮していると思っているのか。自分の気持ちを押し殺してまで行商をやってると?
『ふっ…あはははっ!』
「おまっ!人が真剣に話してんだぞ!」
『いやーごめんごめん…ふっ…ひっさびさにこんな笑ったよ
自分の気持ちに嘘ついてやってると思われてるなんて、思いもしなかったからさ』
意識せず、低い声が出る。兄の喉がゴクリと上下する。
私は一息ついてから、兄の目を真っ直ぐ見据えた。
『私は、自分の仕事に誇りを持ってやってるよ。じゃなきゃこんな辺境の地にわざわざ来ないし、お父さんからお願いされた時点で断ってる。私が行商やりたいって言った理由、分かる?』
ふるふると首が横に振られる。
『私はね、世界中を見てみたかった。外の世界に憧れて、飛び出して見たかったの。海は青い。じゃあどんな青?カワセミのような輝く青?それとも晴天の空みたいな青?実際に見なきゃ分からなった海の青が行商になって知れた。そのほかにも、いっぱい。』
「……そうか」
気圧されたように言葉を詰まらせて兄は頷いて、顔を覆って深いため息をついた。
「"俺のせいで"なんて思ってなかったわけだ。これっぽっちも」
『あったりまえじゃん。お兄ちゃんの代わりに行商にならないかって言われた時、わたしすっごい嬉しかったんだからね!?』
「そうか…そうか!これで兄ちゃん安心して送り出せる」
『口調、昔に戻ってるよ』
からからと笑ってみせると兄も一緒に笑って、
「全く、お前には敵わん」
「旅の無事を祈って、乾杯!」
空高く、酌を掲げた。
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