LUCKYSTRIKE
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side あき
後ろからバシバシと威圧していた殺気が嘘のように消えた。
後ろを見ても何もいない。
この道は随分前に封鎖されて、地図からも消えているはず。その上この暗闇だから、勝手に落ちて死んだか。このまましばらく道なりに行くと別のハイウェイと合流出来る。そこから本部までは目と鼻の先。このデータさえ届けてしまえばこんなイカれた世界ともおさらばできる。愛しい息子の顔が浮かんでホッとしたのもつかの間、
チュンと空気を切り裂く音。
途端に言うことを聞かなくなったバイクを制御出来ず、宙へ放り出され、強かに背中を打ちつけた。
「っ……!」
息が、できない。パニックに陥っても尚、手は無意識のうちに胸ポケットに入っているデータを、自由になるための鍵を握って離さなかった。
兄「長旅ごくろーさん」
よろめきながら上体を起こし、目の前に立つ男を睨む。こんなに激しい競り合いをしたのにも関わらず、パリッと着こなしたスーツはシワひとつなく、ムカつくほど悠々とタバコをくゆらせている。
「これは渡さないっ!」
兄「ほぉ…勇ましいね、拍手を送ってやりたいところ、だがこっちも仕事なんでね。ではひとつアンタに選ばせてやんよ」
偉そうに私の前にしゃがんだ色男は薄ら笑いながら手をかざして、
兄「1つ、データをこちらに渡す。その場合アンタの命は保証される。2つ、ここで任務を全うして死ぬ。俺は1をオススメするぜ?」
要するに、自分の命を優先するか、組織を優先するか…愚問だね。私は迷わず、
「あんたらに助けられるくらいなら死ぬ」
兄「……残念。いい女だったのにな」
わざとらしくため息をついて立ち上がると真っ直ぐ私の頭を狙う。
兄「最後に言い残すことは?」
「…私の息子にお母さんは遠くに仕事が入ったから数年会えない、と伝えて欲しい」
兄「……子供?」
色男の顔から薄ら笑いがなくなって、その目は少し寂しそうに細められた。
「何?これから死ぬ女のことなんか聞いても面白くないでしょう?」
兄「それもそうだ」
じゃあな。
トリガーに指がかかる。
諦めに似た気持ちにポッと息子との思い出が浮かんでは消えていく。これが走馬灯?あの子には大したこともしてやれなかった、せめて遊園地だけでも連れて行ってあげたかった…ごめんね、こんな親で、ごめん。
3発の銃声。来るであろう痛みに身を固くしても、一向にそれは来なかった。
「…………?」
なん、で
キツく瞑っていた目を恐る恐る開けて見れば、男の銃口からは確かに硝煙が細く立ち上っているけれど、その行先は私の背後。バイクに3つの穴が空いていた。
何故私を生かした?!死ぬ覚悟くらいできているのに!
素直に死なせてくれなかったことに怒りがふつふつと込み上げてくる。
叫ぼうとした。
怒りにまかせて、欲しいものが手に入らなくて泣き叫ぶそこらのガキのように。それを見透かしたのか、男は口に手を当て、黙れ、とジェスチャーで伝えてきた。この期に及んで従うものか。掴みかかろうとアスファルトに手をついたその時、
兄「あーおっつん?どうせこの会話録音してたんだろ」
乙「え、バレてた?」
兄「バレバレだっつーの。今回は助かった、が前回俺のプライベートを録音しまくってボコされたの忘れてねぇだろうな」
乙「……それはもうしないって、ねぇ弟者くん?」
弟「ええ?!なんで俺に振るの?!」
兄「とにかく!なんかするんだったら予め言え」
乙「ほーーい」
緊張がどっか行った。
さっきまでのやり取りが嘘のように吹き飛んで、何故かアットホームな会話が目の前で繰り広げられている。状況に追いつけなくてぽかんとしていると、男が紙と鍵を投げて寄越した。慌ててキャッチして見ればどこかのマンションの鍵と住所。
「これは?」
「運良く敵が俺たちで良かったな。数日、そこで過ごせ。そんで俺らはアンタの組織を数日以内に潰してくる。あそこのボスはとんだイカレ野郎で、なんでもかんでも自分のモンにする。違うか?」
「え、、、」
兄「やっぱりな、大方息子も人質なんだろ」
「………金が貰えるってだけですがりついた私が馬鹿だった…でもなんで私を生かす?そっちには、何の利益も無い」
兄「利益っつーか…じゃあ交換条件だ。俺たちはアンタの息子を取り返してくる。その代わりに、息子との思い出作りまくれ。それが条件だ。アンタはさっきの録音のおかげで今日から死んだ。クソ野郎の下で働くアンタはもう居ないからな」
「でも、」
兄「どうする?のむか、のまないか」
「……はぁ、分かった、のむからそんなに睨まないでくれ」
降参しましたとばかりに両手を上げてそう言うと、男は嬉しそうに
兄「バイクは俺が乗ってたのを使え」
さっさと私にハンドルを握らせてはよ行けと急かしてくる。最後に一つだけ、男の目を見て1番気になっていた疑問を口にする。
「あなた名前は?」
兄「俺?俺は兄者だ」
「兄者…私はあき。ひとつ大きい貸しを作ってしまったね。いつか必ず返すよ」
兄「おー待ってるぜ、あき」
ヒラヒラと手を振る兄者を背に指定された住所に向かう。
遠く、山の向こうが微かに白んで明るくなってきた。様々な影が朝靄に霞んで見える景色は誰が見ても壮観の一言だろう。女が完全に見えなくなった頃、兄者は1本のタバコを取り出して火をつけた。
いい景色には、いいタバコが必要
それが俺のモットーだ。
弟「ねぇ兄者?」
「あん?」
弟「ビシッと決めた所悪いんだけど、さっきのバイク借り物だよね……」
兄「……やべ」
後日、あの周辺をくまなく探し、無事借主に前のモデルと全く同じのを新品で返したらしい。
後ろからバシバシと威圧していた殺気が嘘のように消えた。
後ろを見ても何もいない。
この道は随分前に封鎖されて、地図からも消えているはず。その上この暗闇だから、勝手に落ちて死んだか。このまましばらく道なりに行くと別のハイウェイと合流出来る。そこから本部までは目と鼻の先。このデータさえ届けてしまえばこんなイカれた世界ともおさらばできる。愛しい息子の顔が浮かんでホッとしたのもつかの間、
チュンと空気を切り裂く音。
途端に言うことを聞かなくなったバイクを制御出来ず、宙へ放り出され、強かに背中を打ちつけた。
「っ……!」
息が、できない。パニックに陥っても尚、手は無意識のうちに胸ポケットに入っているデータを、自由になるための鍵を握って離さなかった。
兄「長旅ごくろーさん」
よろめきながら上体を起こし、目の前に立つ男を睨む。こんなに激しい競り合いをしたのにも関わらず、パリッと着こなしたスーツはシワひとつなく、ムカつくほど悠々とタバコをくゆらせている。
「これは渡さないっ!」
兄「ほぉ…勇ましいね、拍手を送ってやりたいところ、だがこっちも仕事なんでね。ではひとつアンタに選ばせてやんよ」
偉そうに私の前にしゃがんだ色男は薄ら笑いながら手をかざして、
兄「1つ、データをこちらに渡す。その場合アンタの命は保証される。2つ、ここで任務を全うして死ぬ。俺は1をオススメするぜ?」
要するに、自分の命を優先するか、組織を優先するか…愚問だね。私は迷わず、
「あんたらに助けられるくらいなら死ぬ」
兄「……残念。いい女だったのにな」
わざとらしくため息をついて立ち上がると真っ直ぐ私の頭を狙う。
兄「最後に言い残すことは?」
「…私の息子にお母さんは遠くに仕事が入ったから数年会えない、と伝えて欲しい」
兄「……子供?」
色男の顔から薄ら笑いがなくなって、その目は少し寂しそうに細められた。
「何?これから死ぬ女のことなんか聞いても面白くないでしょう?」
兄「それもそうだ」
じゃあな。
トリガーに指がかかる。
諦めに似た気持ちにポッと息子との思い出が浮かんでは消えていく。これが走馬灯?あの子には大したこともしてやれなかった、せめて遊園地だけでも連れて行ってあげたかった…ごめんね、こんな親で、ごめん。
3発の銃声。来るであろう痛みに身を固くしても、一向にそれは来なかった。
「…………?」
なん、で
キツく瞑っていた目を恐る恐る開けて見れば、男の銃口からは確かに硝煙が細く立ち上っているけれど、その行先は私の背後。バイクに3つの穴が空いていた。
何故私を生かした?!死ぬ覚悟くらいできているのに!
素直に死なせてくれなかったことに怒りがふつふつと込み上げてくる。
叫ぼうとした。
怒りにまかせて、欲しいものが手に入らなくて泣き叫ぶそこらのガキのように。それを見透かしたのか、男は口に手を当て、黙れ、とジェスチャーで伝えてきた。この期に及んで従うものか。掴みかかろうとアスファルトに手をついたその時、
兄「あーおっつん?どうせこの会話録音してたんだろ」
乙「え、バレてた?」
兄「バレバレだっつーの。今回は助かった、が前回俺のプライベートを録音しまくってボコされたの忘れてねぇだろうな」
乙「……それはもうしないって、ねぇ弟者くん?」
弟「ええ?!なんで俺に振るの?!」
兄「とにかく!なんかするんだったら予め言え」
乙「ほーーい」
緊張がどっか行った。
さっきまでのやり取りが嘘のように吹き飛んで、何故かアットホームな会話が目の前で繰り広げられている。状況に追いつけなくてぽかんとしていると、男が紙と鍵を投げて寄越した。慌ててキャッチして見ればどこかのマンションの鍵と住所。
「これは?」
「運良く敵が俺たちで良かったな。数日、そこで過ごせ。そんで俺らはアンタの組織を数日以内に潰してくる。あそこのボスはとんだイカレ野郎で、なんでもかんでも自分のモンにする。違うか?」
「え、、、」
兄「やっぱりな、大方息子も人質なんだろ」
「………金が貰えるってだけですがりついた私が馬鹿だった…でもなんで私を生かす?そっちには、何の利益も無い」
兄「利益っつーか…じゃあ交換条件だ。俺たちはアンタの息子を取り返してくる。その代わりに、息子との思い出作りまくれ。それが条件だ。アンタはさっきの録音のおかげで今日から死んだ。クソ野郎の下で働くアンタはもう居ないからな」
「でも、」
兄「どうする?のむか、のまないか」
「……はぁ、分かった、のむからそんなに睨まないでくれ」
降参しましたとばかりに両手を上げてそう言うと、男は嬉しそうに
兄「バイクは俺が乗ってたのを使え」
さっさと私にハンドルを握らせてはよ行けと急かしてくる。最後に一つだけ、男の目を見て1番気になっていた疑問を口にする。
「あなた名前は?」
兄「俺?俺は兄者だ」
「兄者…私はあき。ひとつ大きい貸しを作ってしまったね。いつか必ず返すよ」
兄「おー待ってるぜ、あき」
ヒラヒラと手を振る兄者を背に指定された住所に向かう。
遠く、山の向こうが微かに白んで明るくなってきた。様々な影が朝靄に霞んで見える景色は誰が見ても壮観の一言だろう。女が完全に見えなくなった頃、兄者は1本のタバコを取り出して火をつけた。
いい景色には、いいタバコが必要
それが俺のモットーだ。
弟「ねぇ兄者?」
「あん?」
弟「ビシッと決めた所悪いんだけど、さっきのバイク借り物だよね……」
兄「……やべ」
後日、あの周辺をくまなく探し、無事借主に前のモデルと全く同じのを新品で返したらしい。