LUCKYSTRIKE
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side 兄者
とある日の午後、2bro宅は突如舞い込んだ任務の用意でてんやわんやだった。
乙「2人ともこれ今日の資料!各自で目ぇ通しといて!」
銃の手入れをしている目の前にバサリと放られる分厚い束。手入れの手は動かしたまま、首だけ伸ばして覗き見る。
「ほぉ…こりゃまた大掛かりな」
弟「あーー!兄者ネクタイ絡まった!」
「へいへい」
散らばってた部品を手早く組み立てて、よろしく頼む、と愛銃に願をかけてからわたわたと慌てた弟者の方へ。どこをどうすればそんなに絡まるのか、聞いてみたいくらいに複雑にこんがらがった弟者を助けて、ついでにネクタイをつけてやる。
弟「はぁ…いきなり行けって、上もいきなり通達するのは反則だよ、ねぇ兄者」
「今回ばっかしはなかなか敵さんも尻尾出さなかったからなぁ。本部は今頃俺らより大慌てだろうよ」
弟「そっか。それはそうと、俺まだ資料読めてないんだけど、場所どこってなってた?」
「この間できたばっかりのカジノ。そこの裏で行われる核兵器データの取引に乗り込んで、阻止」
弟「へぇカジノ!俺ブラック・ジャックやってもいい?!」
「ほどほどになーっと、これでよし」
次に自分の身支度をしなくては。ちょうどクリーニングから帰ってきたばかりのスーツを身につける。ネクタイは、薄い青と紺のストライプ柄を。
乙「兄者くん気合い入ってんじゃん」
「ったりめーよ。久しぶりのカジノだ、ガッツリ稼ぐチャンスを逃すわけないだろ?」
乙「カジノはあくまでもついでだからね?!」
弟「兄者、おついちさーん!準備できたー!」
詳細は車内で打ち合わせる事にし、運転席に座ってハンドルを握る。少しだけ開けた窓から吹き付ける夜風が次第に自分を仕事モードに切り替えていく。後ろの席での打ち合わせに賛同や意見する自分がいつになく饒舌で、自分の気分が高揚している(主にカジノがやりたいため)のを抑えて前を見据える。夜の暗闇の中に一際煌びやかに輝る建物が近づいてきた。
「ほぉ、今日はトーナメントの日だったか」
弟「兄者、俺出たい」
「ダメに決まってんだろ」
弟「ブーブー」
車内の打ち合わせの結果、俺は珍しく後方支援に回り、俺の代わりにおついちがビシッと決まったスーツに身を包んでポーカーに興じている。弟者はブラック・ジャックを。てか、弟者のやつカウンティングしてんだろ、そこのカジノ出禁になっても知らねーぞ。せっかくいいスーツ着てきたのにも関わらず、俺は関係者用のお高いホテルの一室から眺めているだけ。腹いせに弟者にちょっとだけ、出禁になれ、と呪いをかけるマネをしてから改めて双眼鏡を覗く。
「…いた。階段の右前」
全身真っ白な小太りのターゲットが悠々と酒に手を伸ばしている。
「じゃ、作戦開始」
おっつんの一言で猟犬が獲物を静かに追い詰めるように、淀みなく事が滑り出す。
弟「っと、すみません」
まず仕掛けるのは弟者。ターゲットに、よろめいてさも偶然ぶつかってしまった風を装う。
「おっと、こちらこそすまない…これは上品なスーツだ。君、今日はどうしてここに?」
弟者を見て、明らかに態度を変えた。弟者を上から下まで余すことなく舐め回すその視線は、新しいおもちゃを見つけた子供のようにいかにも楽しそうに光っている。気持ちわりぃ…何も同性愛者が気持ち悪いのでは無い。そいつの、下心丸出しの目が気に食わないのだ。
弟「何でって、久しぶりにカジノに興じてみようと思いまして。それにほら、今日はあの有名なオーナーがいらっしゃるらしいので、一段と上等なのをオーダーメイドしてきたのです」
会いたい、と暗示するように弟者の口からペラペラと、そりゃもう滑らかに嘘がまろび出てくる。
「そうかそうか…実は私は彼と、オーナーと待ち合わせをしているのだがなかなか来なくてな。彼を待つ間にどうかね、私と一戦交えるのは?」
調子に乗ったターゲットが弟者の腰に手を伸ばす、とその手は鋭く弾かれた。
乙「私の連れに何か用ですか?」
人の良さそうな笑顔にちょーっと怒ってますよの雰囲気を醸し出し、弟者の肩を持ったのはおついち。思わぬ第三者の登場に、ターゲットは目を丸くするが、流石彼も組織のトップ。すぐに笑みを戻して、
「これは失礼した。彼とちょうど話していたところなんだが、君もどうだね?」
乙「いえ、私共は十分楽しませてもらいました。そのお誘いはまたの機会によろしくお願いします」
弟者を連れて立ち去ろうとすると、ターゲットは目に見えて動揺しだした。
「待て、待て。そうだな、"普通"の賭けで十分満喫して貰えたのなら…VIP室へお連れしよう」
作戦通り。2人はニヒルな笑みを浮かべて、振り返り、
乙「良いのですか?…では、お言葉に甘えて」
すると、ターゲットはまたも嬉しそうに使いに合図して、おっつんと弟者を階段を上った奥の奥。限られた者のみ入室できるVIP室へ通した。
あーあ、ご愁傷さま
おっつんのメガネの隠しカメラから逐一送られてくる映像を照らし合わせてみると、まぁ居るわ居るわ。データの取引先のボスに、その研究開発員。その他諸々も全て今回のターゲットに関与している者ばかりだ。
「そこにいるやつら全員黒。殺っちゃってOKだわ」
おっつんが予めハッキングしていた照明のスイッチに手を添える。
「消すぞ、3、2、1、GO」
自分の声と共に照明を一気に落とす。備えて目を閉じていた2人にとって、暗闇は敵ではない。数発の銃声と卓を蹴り飛ばす音がしただけで、それらもすぐに収まった。
「おつかれさん」
弟「あー緊張したぁ」
乙「…あったあった!データ確保!」
「俺もカジノやりたかった…後方は楽しかったけど、暇すぎ」
乙「兄者くんには酷だったか〜僕は好きだけどな」
弟「おついちさん歳だしね」
「……弟者、お前殺されんぞ」
弟「あ゛っ」
乙「…お前らだっていつかこうなるんだぞ!!いつか!!!」
弟「ごめん!ごめんておついちさん!!スマホの角で叩かないで!」
ここに長居する必要は無い。外のロータリーで待ち合わせする事にし、元から少ない荷物をまとめ終わり、自分はのんびりと夜景を楽しむことにした。
いい夜景には、いいタバコが必須
胸ポケットにあるLUCKYSTRIKEを取り出して火をつければ、すうっと馴染む匂いに全身から緊張が解ける。何気なく下を見た時、不自然な歩き方をする1人の女性に目がいった。明らかに周りを警戒している。
は、まさかな…
おっつんに電話を鳴らしながら、女を尾行すべくエレベーターに乗り込む。
「おいおっつん、そのデータ早くチェックしろ!」
乙「え、どうし」
「いいから早く!」
エントランスから出てみると女はまだ遠くの通りを足早に歩いていた所だった。
おっつんがパチパチとパソコンを操作する音、そして、息を飲む音がインカムの向こうで鳴った。
乙「兄者くん、やられた。こっちは偽装データだ!」
「やっぱりな。今本命を持ってると思しき女を追っている。おっつん達を案内したあのメイドだ」
乙「チッッ弟者くん、僕達も後を」
「大丈夫だ、俺が必ず確保する」
乙「じゃあ僕らは後ろで待機してる、兄者頼んだ」
頷いて通信を切る。女は古いレンガ調の大通りから左の路地にするりと滑り込んだ。感ずかれないよう、注意を払いながら自分も角を曲がる。視界が路地の向こうに向いた瞬間、眩しいヘッドライトが目をくらませた。
「うおっ?!」
すかさず避ければ、自分が立っていた場所へバイクが唸りをあげて突っ込んできた。あと数秒避けるのが遅かったら壁に押し込まれてゲームオーバー。全く、乱暴な運転しやがる。スローモーションみたいに動く景色の中、運転手は思った通りあの女で、フルフェイスのヘルメット越しに目がかち合う。これは渡さない。そう言っているように思えた。空間に時間が戻ってくる。女は俺の脇を通り過ぎて大通りへと消えていった。素早く辺りを見渡すと、ちょうどバイクを出そうとしている青年がいた。
「すまん!これ借りるぞ!」
言うやいなや跨り一気に発進させる。後ろで青年がなにか叫んでいたが…うん、また後で返す、すまん。予想外に、女にはすぐ追いついた。兄者に気がついたのか、まだ青になっていない道路へ、減速するどころか加速していき見事に車の間をすり抜ける。こんなところでもたもたしていられない。自分もアクセルをふかし、
弟「ちょっ!兄者マジでいくの?!」
弟者の心配を無視して大通りへ躍り出る。ほんの数メートル覚悟すりゃ行けんだろ。思惑通り、多少かすったものの大通りを抜け、さらに狭い路地の入り組んだ市街地も突き進む。そこを越えればハイウェイだ。深夜だから車の通りがほとんど無い。道路脇の頼りない街灯の下を2本の赤いテールランプがリボンのようにハイウェイを縫っていく。直線で気を抜いたら何が起こるか分からない。しかし、このカーチェイスが少々退屈になってきた。
「そろそろ揺さぶりますか」
腰のホルスターで大人しく出番を待っていた愛銃を手に取り、ゆっくりと照準を合わせる。相手がこちらに気づくように、ゆっくりと。ここで当てるのは勿体ない。なるべくいたぶってから頂くのが俺のやり方だ。おっつんと弟者にそれを言ったら、「性格悪っ」の一言だったが。
わざと右や左に外して打って、反撃を避けてこちらも殺さないようにやり返す。それをしばらく繰り返していると、白地で修正された看板が目についた。相手の右後ろについて再度発砲すれば、触発された女は振り向いて応戦する。すかさず加速して煽るように急接近。バイク同士ぶつかれば大事故になりかねない。勿論相手も俺も無傷では済まないはずだ。進路は自然と右にズレていき、道を塞いでいたコーンを跳ね除け分岐の左へ。その後を追ってライトひとつ無い暗闇にレースは続行された。懐かしい道路の感触がハンドル越しに伝わってくる。この道のかすかな窪みと風。相手には悪いが、ここらでこの追いかけっこも終了のようだ。
ひたり、と不敵に笑うと静かに暗闇に紛れた。
とある日の午後、2bro宅は突如舞い込んだ任務の用意でてんやわんやだった。
乙「2人ともこれ今日の資料!各自で目ぇ通しといて!」
銃の手入れをしている目の前にバサリと放られる分厚い束。手入れの手は動かしたまま、首だけ伸ばして覗き見る。
「ほぉ…こりゃまた大掛かりな」
弟「あーー!兄者ネクタイ絡まった!」
「へいへい」
散らばってた部品を手早く組み立てて、よろしく頼む、と愛銃に願をかけてからわたわたと慌てた弟者の方へ。どこをどうすればそんなに絡まるのか、聞いてみたいくらいに複雑にこんがらがった弟者を助けて、ついでにネクタイをつけてやる。
弟「はぁ…いきなり行けって、上もいきなり通達するのは反則だよ、ねぇ兄者」
「今回ばっかしはなかなか敵さんも尻尾出さなかったからなぁ。本部は今頃俺らより大慌てだろうよ」
弟「そっか。それはそうと、俺まだ資料読めてないんだけど、場所どこってなってた?」
「この間できたばっかりのカジノ。そこの裏で行われる核兵器データの取引に乗り込んで、阻止」
弟「へぇカジノ!俺ブラック・ジャックやってもいい?!」
「ほどほどになーっと、これでよし」
次に自分の身支度をしなくては。ちょうどクリーニングから帰ってきたばかりのスーツを身につける。ネクタイは、薄い青と紺のストライプ柄を。
乙「兄者くん気合い入ってんじゃん」
「ったりめーよ。久しぶりのカジノだ、ガッツリ稼ぐチャンスを逃すわけないだろ?」
乙「カジノはあくまでもついでだからね?!」
弟「兄者、おついちさーん!準備できたー!」
詳細は車内で打ち合わせる事にし、運転席に座ってハンドルを握る。少しだけ開けた窓から吹き付ける夜風が次第に自分を仕事モードに切り替えていく。後ろの席での打ち合わせに賛同や意見する自分がいつになく饒舌で、自分の気分が高揚している(主にカジノがやりたいため)のを抑えて前を見据える。夜の暗闇の中に一際煌びやかに輝る建物が近づいてきた。
「ほぉ、今日はトーナメントの日だったか」
弟「兄者、俺出たい」
「ダメに決まってんだろ」
弟「ブーブー」
車内の打ち合わせの結果、俺は珍しく後方支援に回り、俺の代わりにおついちがビシッと決まったスーツに身を包んでポーカーに興じている。弟者はブラック・ジャックを。てか、弟者のやつカウンティングしてんだろ、そこのカジノ出禁になっても知らねーぞ。せっかくいいスーツ着てきたのにも関わらず、俺は関係者用のお高いホテルの一室から眺めているだけ。腹いせに弟者にちょっとだけ、出禁になれ、と呪いをかけるマネをしてから改めて双眼鏡を覗く。
「…いた。階段の右前」
全身真っ白な小太りのターゲットが悠々と酒に手を伸ばしている。
「じゃ、作戦開始」
おっつんの一言で猟犬が獲物を静かに追い詰めるように、淀みなく事が滑り出す。
弟「っと、すみません」
まず仕掛けるのは弟者。ターゲットに、よろめいてさも偶然ぶつかってしまった風を装う。
「おっと、こちらこそすまない…これは上品なスーツだ。君、今日はどうしてここに?」
弟者を見て、明らかに態度を変えた。弟者を上から下まで余すことなく舐め回すその視線は、新しいおもちゃを見つけた子供のようにいかにも楽しそうに光っている。気持ちわりぃ…何も同性愛者が気持ち悪いのでは無い。そいつの、下心丸出しの目が気に食わないのだ。
弟「何でって、久しぶりにカジノに興じてみようと思いまして。それにほら、今日はあの有名なオーナーがいらっしゃるらしいので、一段と上等なのをオーダーメイドしてきたのです」
会いたい、と暗示するように弟者の口からペラペラと、そりゃもう滑らかに嘘がまろび出てくる。
「そうかそうか…実は私は彼と、オーナーと待ち合わせをしているのだがなかなか来なくてな。彼を待つ間にどうかね、私と一戦交えるのは?」
調子に乗ったターゲットが弟者の腰に手を伸ばす、とその手は鋭く弾かれた。
乙「私の連れに何か用ですか?」
人の良さそうな笑顔にちょーっと怒ってますよの雰囲気を醸し出し、弟者の肩を持ったのはおついち。思わぬ第三者の登場に、ターゲットは目を丸くするが、流石彼も組織のトップ。すぐに笑みを戻して、
「これは失礼した。彼とちょうど話していたところなんだが、君もどうだね?」
乙「いえ、私共は十分楽しませてもらいました。そのお誘いはまたの機会によろしくお願いします」
弟者を連れて立ち去ろうとすると、ターゲットは目に見えて動揺しだした。
「待て、待て。そうだな、"普通"の賭けで十分満喫して貰えたのなら…VIP室へお連れしよう」
作戦通り。2人はニヒルな笑みを浮かべて、振り返り、
乙「良いのですか?…では、お言葉に甘えて」
すると、ターゲットはまたも嬉しそうに使いに合図して、おっつんと弟者を階段を上った奥の奥。限られた者のみ入室できるVIP室へ通した。
あーあ、ご愁傷さま
おっつんのメガネの隠しカメラから逐一送られてくる映像を照らし合わせてみると、まぁ居るわ居るわ。データの取引先のボスに、その研究開発員。その他諸々も全て今回のターゲットに関与している者ばかりだ。
「そこにいるやつら全員黒。殺っちゃってOKだわ」
おっつんが予めハッキングしていた照明のスイッチに手を添える。
「消すぞ、3、2、1、GO」
自分の声と共に照明を一気に落とす。備えて目を閉じていた2人にとって、暗闇は敵ではない。数発の銃声と卓を蹴り飛ばす音がしただけで、それらもすぐに収まった。
「おつかれさん」
弟「あー緊張したぁ」
乙「…あったあった!データ確保!」
「俺もカジノやりたかった…後方は楽しかったけど、暇すぎ」
乙「兄者くんには酷だったか〜僕は好きだけどな」
弟「おついちさん歳だしね」
「……弟者、お前殺されんぞ」
弟「あ゛っ」
乙「…お前らだっていつかこうなるんだぞ!!いつか!!!」
弟「ごめん!ごめんておついちさん!!スマホの角で叩かないで!」
ここに長居する必要は無い。外のロータリーで待ち合わせする事にし、元から少ない荷物をまとめ終わり、自分はのんびりと夜景を楽しむことにした。
いい夜景には、いいタバコが必須
胸ポケットにあるLUCKYSTRIKEを取り出して火をつければ、すうっと馴染む匂いに全身から緊張が解ける。何気なく下を見た時、不自然な歩き方をする1人の女性に目がいった。明らかに周りを警戒している。
は、まさかな…
おっつんに電話を鳴らしながら、女を尾行すべくエレベーターに乗り込む。
「おいおっつん、そのデータ早くチェックしろ!」
乙「え、どうし」
「いいから早く!」
エントランスから出てみると女はまだ遠くの通りを足早に歩いていた所だった。
おっつんがパチパチとパソコンを操作する音、そして、息を飲む音がインカムの向こうで鳴った。
乙「兄者くん、やられた。こっちは偽装データだ!」
「やっぱりな。今本命を持ってると思しき女を追っている。おっつん達を案内したあのメイドだ」
乙「チッッ弟者くん、僕達も後を」
「大丈夫だ、俺が必ず確保する」
乙「じゃあ僕らは後ろで待機してる、兄者頼んだ」
頷いて通信を切る。女は古いレンガ調の大通りから左の路地にするりと滑り込んだ。感ずかれないよう、注意を払いながら自分も角を曲がる。視界が路地の向こうに向いた瞬間、眩しいヘッドライトが目をくらませた。
「うおっ?!」
すかさず避ければ、自分が立っていた場所へバイクが唸りをあげて突っ込んできた。あと数秒避けるのが遅かったら壁に押し込まれてゲームオーバー。全く、乱暴な運転しやがる。スローモーションみたいに動く景色の中、運転手は思った通りあの女で、フルフェイスのヘルメット越しに目がかち合う。これは渡さない。そう言っているように思えた。空間に時間が戻ってくる。女は俺の脇を通り過ぎて大通りへと消えていった。素早く辺りを見渡すと、ちょうどバイクを出そうとしている青年がいた。
「すまん!これ借りるぞ!」
言うやいなや跨り一気に発進させる。後ろで青年がなにか叫んでいたが…うん、また後で返す、すまん。予想外に、女にはすぐ追いついた。兄者に気がついたのか、まだ青になっていない道路へ、減速するどころか加速していき見事に車の間をすり抜ける。こんなところでもたもたしていられない。自分もアクセルをふかし、
弟「ちょっ!兄者マジでいくの?!」
弟者の心配を無視して大通りへ躍り出る。ほんの数メートル覚悟すりゃ行けんだろ。思惑通り、多少かすったものの大通りを抜け、さらに狭い路地の入り組んだ市街地も突き進む。そこを越えればハイウェイだ。深夜だから車の通りがほとんど無い。道路脇の頼りない街灯の下を2本の赤いテールランプがリボンのようにハイウェイを縫っていく。直線で気を抜いたら何が起こるか分からない。しかし、このカーチェイスが少々退屈になってきた。
「そろそろ揺さぶりますか」
腰のホルスターで大人しく出番を待っていた愛銃を手に取り、ゆっくりと照準を合わせる。相手がこちらに気づくように、ゆっくりと。ここで当てるのは勿体ない。なるべくいたぶってから頂くのが俺のやり方だ。おっつんと弟者にそれを言ったら、「性格悪っ」の一言だったが。
わざと右や左に外して打って、反撃を避けてこちらも殺さないようにやり返す。それをしばらく繰り返していると、白地で修正された看板が目についた。相手の右後ろについて再度発砲すれば、触発された女は振り向いて応戦する。すかさず加速して煽るように急接近。バイク同士ぶつかれば大事故になりかねない。勿論相手も俺も無傷では済まないはずだ。進路は自然と右にズレていき、道を塞いでいたコーンを跳ね除け分岐の左へ。その後を追ってライトひとつ無い暗闇にレースは続行された。懐かしい道路の感触がハンドル越しに伝わってくる。この道のかすかな窪みと風。相手には悪いが、ここらでこの追いかけっこも終了のようだ。
ひたり、と不敵に笑うと静かに暗闇に紛れた。