短編集
御名前
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「……今日なんか盛れてる?何でだろ。」
直ぐにインカメを起動してポーズして何枚か撮影して、1番良い写真をメッセージアプリで送った。
直ぐに既読が付いて、可愛いじゃん、お出かけ?と返信が帰ってきた。
「ちょっとだけ出るよー。」
「帰る前にお店に来なよ。杏仁豆腐食べる?」
「嬉しい!昼過ぎ……多分夕方までには寄るよ。」
「分かった。待ってるよ。」
ついでに姿見で全身写真を撮って、スタンプで顔を隠してsnsに……。先程の写真はいつもより盛れてる……かも。
特に目元はバッチリメイクに光加減も……。目元だけなら……特定されないよね?バッチリメイクだし?
目だけ見えるように……いや、今日はすっごい全体的に盛れて……。
悩んだ挙句、ボカシ加工をして2枚の写真をアップロードして、今日すっごい盛れちゃった♡なんだかハッピー♡とコメントも残した。
イイネとコメント……くるといいな。
その後は予約してたネイルに行って、カフェでお昼ご飯食べている。その間もスマホにはたくさん通知が届いた。
「顔かわいい!もっと顔見たいよー」
「元気いっぱいだね。」
「お出かけかな?どこに行ったのかな?」
イイネがめっちゃ来てる。コメントも凄い。チラリと爪を見た。
カップを持ちその手の写真を撮った。
「今日はネイルに行ってきたよ。今回はピンクベースで所々にハートを散りばめてもらったよ。」
直ぐにコメントが集まり始めて返信を個別に返し、気が付けば3時を過ぎていた。
「あ……天佑君の所そろそろ行かなきゃ。杏仁豆腐楽しみなんだよね。」
杏仁豆腐を食べるからカフェに来たのに、デザートは我慢してたし。
そのままスマホを鞄にしまい込み、トレーを返却口へ持って行った。
――――――――――――――
「こんにちはー。ちょっと遅くなっちゃった。」
お店のドアを開けながら入ると、厨房に居た天佑君から、「まぁ座りなよ。」と返事が返ってきた
いつもとは違ったピリッとした空気に、何となく壁際の席に座った。
「……天佑君……なんか怒ってる?」
「んー?ぜーんぜん。怒ってないよ。」
「そう……かな。何か嫌な事、あったの……かなって思って……。」
「写真。」
「……写真?」
「朝の写真、俺だけに送ってくれたのかと思ってたから。……嬉しかったんだけどね。」
「……あ、珍しくナチュラルに盛れたから、見て欲しくなっちゃって。どうかなって評価とかも、気になって。」
「そう……。」
厨房から出て来た天佑君は、私の前に杏仁豆腐を置き隣に座った。
「……今回で分かったけど、あんまりsnsには写真はあげないで欲しい。」
「え?」
「可愛いから。」
怒っている訳じゃない。責めている訳でもない。
ただ、本当に嫌だったんだと分かる声音。
真っ直ぐと私をみつめた。
「……コメント欄、ずっと見てた。」
「っ……。」
「知らない男に、もっと見たいとか可愛いとか彼女になって……とか言われて。爪も俺が1番だと思ってた。知らない男達が1番だったね。」
「……それは……ごめん。」
「可愛いあまねちゃんを……俺だけが見たいって言ったら……信じてくれる?」
「……天佑君、それって。」
「俺と付き合ってよ……あまね。」
「…………っっ。」
「俺があまねの1番がいい。」
私は小さく頷き、スプーンを握り締め、甘い杏仁豆腐を喉に流し込んだ。
(終)
