短編集
御名前
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「………………。」
ちょっと時間出来たからお店に来たのに店には電気もついてない、当然ながらお目当てのあまねもいなかった。
立ち尽くしていると近くに居たビルの掃除の男が話しかけてきた。
「……ん?お兄さん、あまねちゃんならここのビルのお姉さんとお茶に行ったよ。……自分が休みだからって仕事がある人を連れて行くのかねぇ。」
「どこに行ったかわかるー?急用で聞いておかないと困る事があってねー。」
「薄暗いだか何だかで、外のカフェに行くとか言ってたなあ。」
「どうもー。」
早足で店を後にし、読み通りなら……とプラージュに向かった。
――――――――――――――――
着いて早々にあまねを見つける事が出来た。
……前に座っているのが引っ張り出してきたお姉さんね。流石に会話は聞こえないが、あまねの表情は微笑みからゆっくりと悲しそうな顔になっていった。
何回お人好しで苦労したらお人好しをやめるんだろうか。……まあ、そんな所も好きなんだけど。
近付くにつれて、会話が聞こえてくる。
「そうかなー。」
「ま、だからいつも甘い顔して男に擦り寄ってるんでしょ?常連はほとんど男でしょー。」
あまねは何か言いたげな顔をしてコーヒーに口をつけていた。……甘い顔なのは間違いないけど、お前みたいなクズが集ってくるんだよ。
「……あれー?あまねちゃん奇遇だねー。」
曇った表情から、嬉しそうな表情変わって振り向き元気に挨拶してきた。
「こんにちは!ニーハオ!」
日本語話せるよって言っても中国語も練習したいと会話に織り交ぜて言ってくる。……可愛いなー。
「你好。お友達とカフェ中?」
「あっ……私あまねさんと同じ職場でー、あまねさんには仲良くしてもらっているお友達ですー。もし良かったら一緒にコーヒーでも飲みませんかー?」
やっぱりあまねちゃんと居ると男が寄ってくるからね。いい餌だよね、君からしたら。
「ちょっと用事があるからごめんねー?あまねちゃんまたお店に寄るよ。」
「お待ちしておりますー。お仕事頑張ってねー。」
「私は4階で働いてますからっ、良かったら寄ってくださいねー!」
俺はバイバイっと手を振りゆっくりと去ることにした。案の定、俺の事に探りを入れている声が聞こえた。……まあ、好都合だよね、俺からしたら。
――――――――――――――――
大きな仕事が終わり、やっと取り掛かれる。潜り込ませてる部下からは女は頻繁に店に来て、文句を言って帰る事を繰り返していると聞いてる。
どの曜日もランダムで訪れるらしいけど、木曜日の休み時間に必ず来る……てね。
俺に執着してて顔の良い男にも引っかからなかったし……。
………………ビンゴだねー。
店の中からキンキンした声が聞こえてくる。
隅に隠れ、出てくるのを待った。
「それならそうと早く言いなさいよ。辛気臭いのが感染ったら商売に響くから戻るわ。必ず連絡よ。」
「ごめんねー、お疲れ様。」
ドアを閉めてイライラした気分も隠さずにヒールの音を響かせてエレベーターに向かっていたので、ゆっくりと後を追い、閉じるボタンを押される前にエレベーターに乗り込んだ。
「あ……。」
剣幕は一瞬で消え、まるで獲物を見つけたような顔になっていた。
「あれ?あまねちゃんのお友達だよね?」
「嬉しいー、覚えてくれたんですかー?」
「まあね。……今日空いてる?」
「空いてます、空いてます。」
女は目の色が変わり、急に腕にまとわりついてきた。剥がしながらそっと手の中にメモ用紙を渡した。
「じゃあ仕事終わったらここに来て?俺の名前言えば入れるから。」
そう言って俺は適当にボタンを押して先にエレベーターを出た。
「……俺は行かないけど、楽しめると思うよ。お友達さん。」
――――――――――――――――――――
「……総帥、女は今我々とお楽しみ中です。」
「そっかー、楽しんでもらえて良かったよ。しばらく遊んであげてよ、男に飢えてるみたいだったし。」
スマホの電源を切るとこのビルのオーナーが店から出てきた。……ちょうど店じまいかな?
あまねが店から出て来て、ドアノブのプレートを触っていたので、後ろから声をかけた。
「ちょうど良かったよ、あまねちゃん。」
「っっ!?び、びっくりしたー。趙さん、こんな時間に珍しいですね。」
あまねはびっくりして飛び上がっていた。両手をパタパタさせていた。
「差し入れ持ってきただけだからー。」
「それで丁度いいなんですね?ちょっと片付けながらですけど中にどうぞー。」
屈託の無い笑顔でむかえてくれる。
本当なら営業時間は終わりましたと断らないといけないし、差し入れだけドア前でもらってバイバイしないと危ないんだけど……。
店内は今から片付けの様で、机にお皿やカップが残っていたので、手早く集めてキッチンに運んだ。
「あ……ダメですよ。趙さんはお座り下さい!」
「洗い物得意だよ?冷蔵庫にコレ入れといてね。」
あまねのための差し入れは今日は杏仁豆腐にした。
保冷バッグをあまねに渡すとお礼を言いながら開けてみていた。
「わあああああ!杏仁豆腐だあ!わあああああ!」
パアアアアと音が聞こえてくるほど喜んでいた。
……可愛いなぁ、あまねちゃん。どす黒い気分さえも洗い流してくれる。
「そ、だから冷やしといてね。そこまで喜んでくれると作りがいがあるねぇ。」
「趙さんのすっごい美味しいから他のお店で食べても満足出来なくて、食べるの勿体ないって葛藤するんだよ、いつも。」
あまねは丁寧に冷蔵庫にしまうと保冷バッグを畳んで返してくれた。
「容器はいつも通りでいいです?」
「うん、取りに行くから置いててね。」
律儀にお返しに行きますと言ってくれるけど、俺が居ないと危ないからね。高価で既製品よりも、あまねちゃんが慌てて手作りしてくれるクッキーの方が価値があるし?
あまねがら洗い物に集中しているのを確認して、ポケットからハンカチを取り出した。
「あ、そうだ。この前のお友達が落として行ったんだけど渡してて貰える?」
机の上に置くとあまねはじっと見ていたが直ぐに頷いた。……その後に思い出したのか目が泳いでいた。
「分かりました!……そう言えば最近顔出してくれてないですね……あ、それと趙さんとお話ししたいって言ってましたよ。」
「俺とー?」
知ってるよ。俺から誘ったし。
「ちょっと連絡してもいいですか?」
「お客さんに机拭かせてるの知ったら怒るんじゃない?彼女。」
食器を下げ終わり、机やカウンターを台拭きで拭きながら言うとあまねは俺の顔をじっと見た。
「はっ、そうかも。趙さん、座ってて下さいよ。」
「そう?お腹空いたかなって思って俺の店に案内しようと思ってたんだけどねぇ。」
「……え?お店に案内して頂けるんですか!!嬉しい!」
「そー言う事。俺と一緒に行かないと治安悪いから、ひとりで来るのは危ないし。」
「わあああああ、じゃあすぐ洗います。明日は店休日だから明日まとめてやろ。嬉しいなー。趙さんあの、お店に友達も呼んでもいいですか?」
「勿論だよ。連絡してあげて?」
あまねは洗い物を終え、スマホからメッセージを送ろうとしていたので、すぐさま自分のスマホを開き【女のスマホから断りのメッセージ返せ】と部下に送った。
「電話じゃないの?」
「えっと、私の連絡は大した事ないから電話じゃなくてメッセージでって。私と違って忙しいですから。」
あまねのスマホがすぐに光り、あまねから喜びの顔が消えた。……もっとこう、柔らかく断れって……誰が送ったか確認しないとねぇ。
「あ……、あの。」
「もしかして用事?まっいいじゃん。行こうかあまねちゃん?」
「ごめんなさい、変な事言って。」
「友達思いなあまねちゃんのせいじゃないよ。偶然が重なっただけだよ。」
「……そうですね。」
あまねの顔はかなり曇っていたが、そっと頭を撫でてあげた。
「お酒も飲む?」
「お酒は……いえ、飲みたいです。暗い気分の時ほどお酒は染みますからね!」
「俺はあまねちゃんに元気でいて欲しいだけだからね。」
「行きましょう!さー飲むぞー!!趙さん、まずはお腹空きました!」
あまねはパタパタと荷物を取りに奥に行った。
……だってあの日から彼女は俺の部下とよろしくヤッてるから忙しいんだよ。抱き潰されて薬漬けになった頃には出荷されるだろうし。
本当にあまねちゃんには相応しくない女だったね。
これからもこの店に保管されるであろうハンカチを掴み忘れ物ボックスと書かれている箱に捨てた。
……このゴミ箱も結構溜まってきたね……あまねちゃん。
(終)
