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御名前
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今日は友人から休みだからお茶をしようと誘われて、カフェのテラス席に腰を下ろした。
「そうそう、この前限定コスメ買えなかったんだよねー。ドラッグストア限定のー。」
「私はちゃんと休んで買いに行ったけど?あまねさんは計画性がないよ。あと馬鹿真面目過ぎー。」
「だってー、お仕事ズル休み出来ないよ。」
「今の時代転売ヤーばっかりだから残ってる所なんて無いと思った方がいいよ。……まあ?あまねさん化粧しなくて大丈夫でしょ?年確されるくらいだし。」
「年確は仕方ないじゃん。お店の人も見た方が安心だし、協力はするよ!」
「苦労が足りないんじゃない?」
「そうかなー。」
「ま、だからいつも甘い顔して男に擦り寄ってるんでしょ?常連はほとんど男でしょー。」
苦労していない事も無いけど……足りないのかなー。擦り寄ってるつもりも無いんだけど……。言葉は厳しく感じるけど、意見は言ってくれるだけありがたいと思わなきゃね。
店員さんが配膳してくれた甘いコーヒーに口をつけた。
「……あれー?あまねちゃん奇遇だねー。」
聞き慣れた声に振り向いた。
そこにはよくお店に来てくれる趙さんが居た。
「こんにちは!ニーハオ!」
「你好。お友達とカフェ中?」
「あっ……私あまねさんと同じ職場でー、あまねさんには仲良くしてもらっているお友達ですー。もし良かったら一緒にコーヒーでも飲みませんかー?」
「ちょっと用事があるからごめんねー?あまねちゃんまたお店に寄るよ。」
「お待ちしておりますー。お仕事頑張ってねー。」
「私は4階で働いてますからっ、良かったら寄ってくださいねー!」
趙さんは微笑み手を振りながら去って行った。
「……趙さん?あれ誰よ。めちゃくちゃかっこいいじゃない。」
「中国の方で日本語がすっごい上手でね、優しいんだー。」
「あんたの店に来たら私呼ぶか4階フロアに連れて来なさいよ、すっごいタイプ。協力してくれるよね?」
「うーん、趙さんお仕事が大変みたいでお店に5分いるかいないかだからねー。でも勿論協力はするよ。」
「ふーん、本当に忙しいみたいね。あんたの店にしばらく顔だすわ。……ふん、あんたの薄暗い店にあんなイケメンも通うなんて。……絶対連絡して。」
ビルの1番端っこに昔ながらの喫茶店を切り盛りしていて、常連さんとビルのオーナーがおじいちゃんの知り合いで破格で場所を貸してもらっている状態で何とか生活は出来ている。
最近はレトロブームでちょっぴり若者も来てくれるようになって新しい出会いに心ときめいている。
友人は同じビルの4階で化粧品売り場を担当していて、たまに私のお店にも来てくれて仲良くなったんだよね。
お茶会もそこそこに、私は自分のお店に戻った。
――――――――――――――――
「連絡無いんだけど。」
「趙さん、最近来てないからねー。連絡先も知らないしー。」
「あっそ。ちょっと待って?あまねさんと連絡先交換してないの?」
「?」
「それならそうと早く言いなさいよ。辛気臭いのが感染ったら商売に響くから戻るわ。必ず連絡よ。」
「ごめんねー、お疲れ様。」
呑気な声を出して手を振るあまねを横目に辛気臭い店を出た。
カツカツカツ
……仲良さげに見えたけどただの客だったのはラッキーよね。あんな子じゃ釣り合わないし……釣り合う訳無いじゃない。
なんか損した。エレベーターに乗ると続けて人が入ってきた。
「あ……。」
「あれ?あまねちゃんのお友達だよね?」
「嬉しいー、覚えてくれたんですかー?」
「まあね。今日空いてる?」
「空いてます、空いてます。」
女は目の色が変わり、急に腕にまとわりついてきた。そっと手の中にメモ用紙を渡した。
「じゃあ仕事終わったらここに来て?俺の名前言えば入れるから。」
そう言って趙さんは先にエレベーターを出て行った。
やっぱり私じゃない。辛気臭い女なんて目に無かったのよ。自慢したい気持ちを抑えて後日談として語ってあげよう。
あんたが懐いていた男は私の彼氏になりましたってね。
――――――――――――――――――――
「これからも頑張ってね、あまねちゃん。」
「ありがとうございましたー。また来てねー。」
オーナーさんが出て行ったので、ドアノブに引っ掛けてあるプレートをcloseにひっくり返していたら、後ろから声を掛けられた。
「ちょうど良かったよ、あまねちゃん。」
「っっ!?び、びっくりしたー。趙さん、こんな時間に珍しいですね。」
「差し入れ持ってきただけだからー。」
「それで丁度いいなんですね?ちょっと片付けながらですけど中にどうぞー。」
趙さんをお店に招き入れると、趙さんは机に置いてあったカップやお皿をキッチンの方へ運び始めた。
「あ……ダメですよ。趙さんはお座り下さい!」
「洗い物得意だよ?冷蔵庫にコレ入れといてね。」
そう言うと私に保冷バッグを渡してきたので、開けて確認した。
「わあああああ!杏仁豆腐だあ!わあああああ!」
「そ、だから冷やしといてね。そこまで喜んでくれると作りがいがあるねぇ。」
「趙さんのすっごい美味しいから他のお店で食べても満足出来なくて、食べるの勿体ないって葛藤するんだよ、いつも。」
あまねは丁寧に冷蔵庫にしまうと保冷バッグを畳んで返してくれた。
「容器はいつも通りでいいです?」
「うん、取りに行くから置いてて。」
趙さんには食器を下げてもらい、机を拭いてもらう事にした。洗い物は私がと譲らなかった。
「あ、そうだ。この前のお友達が落として行ったんだけど渡してて貰える?」
1枚のハンカチが机の上に置かれた。
「分かりました!……そう言えば最近顔出してくれてないですね……あ、それと趙さんとお話ししたいって言ってましたよ。」
「俺とー?」
「ちょっと連絡してもいいですか?」
「お客さんに机拭かせてるの知ったら怒るんじゃない?彼女。」
「はっ、そうかも。趙さん、座ってて下さいよ。」
「そう?お腹空いたかなって思って俺の店に案内しようと思ってたんだけどねぇ。」
「……え?お店に案内して頂けるんですか!!嬉しい!」
「そー言う事。俺と一緒に行かないと治安悪いから、ひとりで来るのは危ないし。」
「わあああああ、じゃあすぐ洗います。明日は店休日だから明日まとめてやろ。嬉しいなー。趙さんあの、お店に友達も呼んでもいいですか?」
「勿論だよ。連絡してあげて?」
洗い物を終え、スマホからメッセージを送った。
【趙さん来てるよ。今からお店にご飯に行くよ。来てもいいって。今時間ある?】
「電話じゃないの?」
「えっと、私の連絡は大した事ないから電話じゃなくてメッセージでって。私と違って忙しいですから。」
直ぐにスマホが光り手に取った。
【行かない。新しい男出来たから連絡して来ないで。二度と、】
「あ……、あの。」
「もしかして用事?まっいいじゃん。行こうかあまねちゃん?」
「ごめんなさい、変な事言って。」
「友達思いなあまねちゃんのせいじゃないよ。偶然が重なっただけだよ。」
「……そうですね。」
あまねの顔はかなり曇っていたが、そっと頭を撫でてあげた。
「お酒も飲む?」
「お酒は……いえ、飲みたいです。暗い気分の時ほどお酒は染みますからね!」
「俺はあまねちゃんに元気でいて欲しいだけだからね。」
「行きましょう!さー飲むぞー!!趙さん、まずはお腹空きました!」
あまねはパタパタと荷物を取りに奥に行った。
……だってあの日から彼女は俺の部下とよろしくヤッてるから忙しいんだよ。抱き潰されて薬漬けになった頃には出荷されるだろうし。
本当にあまねちゃんには相応しくない女だったね。
これからもこの店に保管されるであろうハンカチを掴み忘れ物ボックスと書かれている箱に捨てた。
(終)
