短編集
御名前
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喪服
「紗栄子ー、紗栄子ー?」
普段は着ないワンピースを着てみたが背中のチャックの位置に苦戦して、諦めて大きな声で紗栄子を呼ぶ事にした。
「さっちゃんならいねーぞ?さっき一番と買い出しに出たぞ?」
私の声を聞いて難波さんがドアから顔を覗かせた。
「あっ……すまんっ。着替え中だったのかー。俺は見てないからな、安心してくれ。」
「じゃー難波さんでいいや。どうせ見られたし。背中のチャック上げるの手伝って?」
あまねはくすんだような青色……いやくすみぶるーの膝丈まである上品そうなスカート……いや、ワンピースか?足と腕を通して、背中が丸見えになっている状態で俺を見ていた。
「お、俺は無理だぞ?無理だからな?さっちゃん呼んで来るからちょっと」
「難波さん?ただチャックを上に上げるだけでしょ?見られたって減るもんじゃないし……背中寒いんだけど?」
あまねは細身の体つきで、背中まで滑らかな白い肌に黒いブラの紐はやけに目に刺さる。
「あ……後で訴えてくるなよー?チャック上げるだけだからな。」
「肉挟まないでよね?」
「当たり前だ!傷を付けちゃいけねーよ。」
これはチャックを上げるだけの作業だ、と意気込みあまねの後ろに回りチャックを摘んだがプルプルと手が震えた。
思ったよりチャックが小さい上に細く、心許ないくらい壊れそうな気がした。
「なんか……壊れないか、このチャック。いつものよりしっかりしてないというか……」
「んー?あーそれね。女性の服のチャックはできるだけ目立たないように作られてるから頑丈じゃないよ。頻繁に履くスカートとかのチャックってすぐ調子悪くなるんだよね。」
「そうなのか。」
「早くー、難波さん?」
あまねは俺を横目で見るとニヤリと微笑んだ。
その妖艶さにゴクリと生唾を飲んだ。
いかんいかん、よし早く上げよう。
服を摘みながら震える手でチャックを上げていく。
無意識に息を止め、慎重に……慎重に。そう、俺はただのチャックを上げる人だ。この白く透き通りそうな肌を傷付けちゃいけねえ、欲望を捨てろ、俺。処置中だと思え、俺。
しばらくの格闘の後なんとか首元までチャックを上げきる事が出来た。
「……ぷはあ、出来たぞ、あまね」
「ありがとー。じゃあついでにネックレスも付けて?はい。」
あまねはこれまた切れそうなほど細い鎖が付いたネックレスを俺の手に置いた。……いや、鎖じゃなくてチェーンか。指で摘みどこが端っこか探していると、強い視線を感じた。
「鎖じゃなくてチェーンだからね。」
「そのぐらい分かってるぞ?あれだろ?さっきみたいにあまり目立たないように……」
「違うよ。上品で繊細な私にしてくれるって訳?分かる?」
「……ああ、そうだな……。上品で繊細か……。女ってのはえらく大変そうなんだな。」
「センスも問われるし、キチンとするって大変なの。……まっ、別に分かってくれるならいいんだけどね。」
「待ってくれあまね!俺はこのパーツを掴むので手一杯だぞ?」
「……え。グイッて引いたら丸い穴に入れるだけなんだけど?」
「馬鹿言うな、摘むだけでこれ以上は指は動かせないぞー?こーいう細かい事は、ハンか趙か桐生さんに頼めー?……いや桐生さんも無理そうだな。」
「こうやってこうするだけなのに。」
あまねは難波の手からネックレスを掴むと、スっと首に付けた。
「…………。」
「…………なに?」
「なんだ、自分で付けれたのか?」
「今度ネックレス……上手に付けれるようになっててね。とりあえずありがとうね。」
「……え?」
数秒遅れて意味を理解する。
あまねは何事も無かったように、ポーチから化粧品を準備し始めた。
「なっ…………!?」
顔が一気に熱を持つ。
心臓が暴れ出した。
「な、なんで俺なんだよっ?あ、あと、あれだ。心臓に悪いだろ!」
あまねはくすっと笑った。
(終)
「紗栄子ー、紗栄子ー?」
普段は着ないワンピースを着てみたが背中のチャックの位置に苦戦して、諦めて大きな声で紗栄子を呼ぶ事にした。
「さっちゃんならいねーぞ?さっき一番と買い出しに出たぞ?」
私の声を聞いて難波さんがドアから顔を覗かせた。
「あっ……すまんっ。着替え中だったのかー。俺は見てないからな、安心してくれ。」
「じゃー難波さんでいいや。どうせ見られたし。背中のチャック上げるの手伝って?」
あまねはくすんだような青色……いやくすみぶるーの膝丈まである上品そうなスカート……いや、ワンピースか?足と腕を通して、背中が丸見えになっている状態で俺を見ていた。
「お、俺は無理だぞ?無理だからな?さっちゃん呼んで来るからちょっと」
「難波さん?ただチャックを上に上げるだけでしょ?見られたって減るもんじゃないし……背中寒いんだけど?」
あまねは細身の体つきで、背中まで滑らかな白い肌に黒いブラの紐はやけに目に刺さる。
「あ……後で訴えてくるなよー?チャック上げるだけだからな。」
「肉挟まないでよね?」
「当たり前だ!傷を付けちゃいけねーよ。」
これはチャックを上げるだけの作業だ、と意気込みあまねの後ろに回りチャックを摘んだがプルプルと手が震えた。
思ったよりチャックが小さい上に細く、心許ないくらい壊れそうな気がした。
「なんか……壊れないか、このチャック。いつものよりしっかりしてないというか……」
「んー?あーそれね。女性の服のチャックはできるだけ目立たないように作られてるから頑丈じゃないよ。頻繁に履くスカートとかのチャックってすぐ調子悪くなるんだよね。」
「そうなのか。」
「早くー、難波さん?」
あまねは俺を横目で見るとニヤリと微笑んだ。
その妖艶さにゴクリと生唾を飲んだ。
いかんいかん、よし早く上げよう。
服を摘みながら震える手でチャックを上げていく。
無意識に息を止め、慎重に……慎重に。そう、俺はただのチャックを上げる人だ。この白く透き通りそうな肌を傷付けちゃいけねえ、欲望を捨てろ、俺。処置中だと思え、俺。
しばらくの格闘の後なんとか首元までチャックを上げきる事が出来た。
「……ぷはあ、出来たぞ、あまね」
「ありがとー。じゃあついでにネックレスも付けて?はい。」
あまねはこれまた切れそうなほど細い鎖が付いたネックレスを俺の手に置いた。……いや、鎖じゃなくてチェーンか。指で摘みどこが端っこか探していると、強い視線を感じた。
「鎖じゃなくてチェーンだからね。」
「そのぐらい分かってるぞ?あれだろ?さっきみたいにあまり目立たないように……」
「違うよ。上品で繊細な私にしてくれるって訳?分かる?」
「……ああ、そうだな……。上品で繊細か……。女ってのはえらく大変そうなんだな。」
「センスも問われるし、キチンとするって大変なの。……まっ、別に分かってくれるならいいんだけどね。」
「待ってくれあまね!俺はこのパーツを掴むので手一杯だぞ?」
「……え。グイッて引いたら丸い穴に入れるだけなんだけど?」
「馬鹿言うな、摘むだけでこれ以上は指は動かせないぞー?こーいう細かい事は、ハンか趙か桐生さんに頼めー?……いや桐生さんも無理そうだな。」
「こうやってこうするだけなのに。」
あまねは難波の手からネックレスを掴むと、スっと首に付けた。
「…………。」
「…………なに?」
「なんだ、自分で付けれたのか?」
「今度ネックレス……上手に付けれるようになっててね。とりあえずありがとうね。」
「……え?」
数秒遅れて意味を理解する。
あまねは何事も無かったように、ポーチから化粧品を準備し始めた。
「なっ…………!?」
顔が一気に熱を持つ。
心臓が暴れ出した。
「な、なんで俺なんだよっ?あ、あと、あれだ。心臓に悪いだろ!」
あまねはくすっと笑った。
(終)
